お茶の国、グナーデ
お茶の国
ご機嫌よう。リンネアル・サント・エルドラドです。今日はグナーデの闇の沼地を浄化しに行きます!
グナーデは別名お茶の国ともいわれる、ティータイムのおもてなしに特化した国です。世界的に有名なパティシエは、ほとんどグナーデ出身だったりします。しかしこの二十五年、闇の沼地が主要都市ナーハティッシュに突如現れたため、ナーハティッシュは閉鎖され、今やティータイムも満足に取れないとのことです。
今回もみんなと協力して、ナーハティッシュを救いグナーデにティータイムを取り戻してみせます!頑張ります!
「リンネ。怖くないか?」
本当は、この間のフォルスのことがあってすごく怖いけど。
「うん。ティラン兄様、ありがとう。大丈夫だよ。行ってきます!」
「いってこい。もう泣くなよ」
転移魔法で、グナーデ国王陛下の元へ行きます。
「…聖女様!」
私達を見た途端、グナーデ国王陛下はすぐに私の元へ駆け寄ります。そして私の手を取り、両手で握りしめます。
「同盟国エルドラドの百合姫様が我々を救いに来てくださるなんて!こんなに有り難いことはない!これで益々、我らが同盟は特別なものとなるでしょう!」
グナーデ国王陛下に続いて、臣下の皆さん達が跪きます。
「聖女様!どうかグナーデをお救いください!」
「はい、任せてください」
本当はちょっと怖いけど。
「なんと頼もしい…。皆様も我らがグナーデを助けに来てくださったのでしょうか?ヴァイス王太子殿下も来てくださったのですね、ありがとうございます」
「いえいえ、同盟国、グナーデのためですから」
二人は固い握手をします。
「失礼ですが、他の皆様は…?」
みんなを紹介します。
「こちらは我がエルドラドのターブルロンド辺境伯令息の、ノブルです」
「グナーデ国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「これはご丁寧に。我らがグナーデを助けに来てくださって、感謝申し上げます」
「こちらは我がエルドラドのファータ男爵令嬢の、ミレアです」
「グナーデ国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「ご機嫌よう。お嬢さん、我らがグナーデを助けに来てくださってありがとう」
「こちらは我がエルドラドの宮廷魔術師のレーグルです」
「グナーデ国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「宮廷魔術師殿が!?本当に何から何までありがとうございます!」
「こちらは私の護衛騎士のフォルスです」
「おお、魔獣どもから聖女様をお守りくださるのですね。これは心強い」
「とりあえず本気で頑張ります」
「では、我らがナーハティッシュをよろしくお願いします」
「任せて下さい!」
私達はナーハティッシュへ転移魔法で移動します。…すると、そこは二十五年前まで栄えていたとは思えないほど朽ち果てていました。魔獣はいつもと同じで物陰に隠れています。…そして、いつもと同じで私達を獲物だと思ったのかじりじりと迫ってきます。
「じゃあ、始めるよ!」
「魔力供給行くよ!」
「リンネ様、シャパリュへ魔力を回してください!」
「フォルス、今日はしくじるなよ」
「フォルスさん、信じてますからね!」
「なんでいちいちプレッシャーかけるんですか!」
みんなと声をかけあい、魔力を私に回してもらいます。私はシュパリュへ魔力を回しつつ、シャパリュに命令をします。
「怪猫シャパリュ。妖精の王。…すべての妖精の力を束ね、魔獣どもを殺しなさい。…屠れ」
シャパリュは私の命令に、間髪いれずににゃおーんと返します。そして、今度はナーハティッシュ全体に響くようににゃおーんと大声を出します。すると、妖精が僅かに生息するナーハティッシュは、闇の沼地から出た瘴気を癒すように暖かな光で満たされます。…シャパリュの妖精召喚です!
「…元々いた妖精もいるようだが、やはりシャパリュの妖精召喚には目を見張るな」
「まあ、シャパリュは使い魔としては規格外ですから」
「そんなシャパリュは実は俺に懐いてるの、知ってる?」
「そんなシャパリュの主人が僕の婚約者なのは知ってるかな?」
「レーグル、どうせ負けるだけなんだから喧嘩を売るな」
「もう、ヴァイス王太子殿下、さすがにレーグルさんが可哀想です」
「ちょっとミレアそれどういう意味!?」
「今回はなんとかなりそうですねっ!」
迫り来る魔獣を斬り殺しつつ雑談に混じるフォルス。でも前回のことがあったから心配。
シャパリュはそのまま、四方八方に駆けていきます。そして、ナーハティッシュ全体から魔獣たちの悲鳴、絶叫が聞こえ、シャパリュとフォルスのおかげで魔獣が粗方片付いた頃には、妖精達の光は眩いほどのものになります。そして…。
「…闇の沼地が消えたな」
「今回のお仕事も終了ですね。リンネ様、おつかれ様でした」
朽ち果てていた街並みもすっかり綺麗になっています!
「フォルス、大丈夫?」
「ええ、おかげさまで」
「リンネ、心配しなくてもフォルスは充分強いよ」
「そうですわ!フォルスさんを信じてあげてください!」
「…そうだよね、フォルス。無事でいてくれてありがとう」
「…こちらこそありがとうございます」
「まあ、これからはリンネ様に心配をかけないように頑張れ」
「そうだな。次に僕のリンネを泣かせたら絶対許さないからな」
「肝に銘じます」
「さて、ルリジオンの教皇様に報告に行かなきゃね。…でもその前に、先にグナーデ国王陛下のところに行っちゃう?」
「あら、ヴァイス王太子殿下!さすがですわ!」
「今度はお茶の国だし、美味しい紅茶とデザート、期待できるんじゃない?」
「俺は、王女殿下とご一緒できるならそれでいいです」
「リンネ様とかの有名なお茶の国を楽しめるなら、私は文句はありません」
「じゃあ、グナーデ国王陛下のところに行っちゃおうか」
転移魔法で、グナーデ国王陛下の元へ行きます。
「…聖女様!」
私達を見た途端、グナーデ国王陛下はすぐに私の元へ跪きます。
「え!?グナーデ国王陛下!?」
「先程闇の沼地が消えたと報告がありました!」
グナーデ国王陛下に続いて、臣下の皆さんも跪きます。
「聖女様!ナーハティッシュを、グナーデをお救いくださりありがとうございました!」
「聖女様万歳!」
「万歳!」
「グナーデ万歳!」
「万歳!」
「ナーハティッシュ万歳!」
「万歳!」
みんな大盛り上がりです。
「聖女様…本当に、本当にありがとうございます!」
グナーデ国王陛下は跪いたまま私の手を両手で握りしめ、涙を流して喜びます。…役に立てて良かった。
「みんなが手伝ってくれたからこそですので」
「皆様も、本当にありがとうございます」
グナーデ国王陛下は、みんなと固い握手を交わします。
「そうだ、もしよろしければ、ぜひ我がグナーデの宮廷パティシエのデザートを食べていっていただけませんか?」
「えっと…いいんでしょうか?」
「聖女様がよろしければ、是非!」
宮廷パティシエさん達も熱い視線を送ってくれます。
「…じゃあ、お願いします」
「はい!お前たち、よろしく頼む!」
グナーデ国王陛下に命じられた宮廷パティシエさん達は、急いで準備をしに行きます。
「では、我々は中庭に移動しましょう」
「はい、ありがとうございます」
「リンネ、エルドラド以外のデザートなんてラーイ以来でしょ?きっと気にいるんじゃない?」
「そうだね!」
「リンネには色々教えることがありそうで今から結婚が楽しみだな」
「ヴァイス様…は、恥ずかしいです…」
「ふふ、リンネ可愛い」
ヴァイス様が私の頭を撫でます。
「ちょっと、べたべた触るの禁止って言ったでしょ!」
「ヴァイス様、節度を持ってくださいと申し上げたはずです」
「ヴァイス様ばっかりずるいですわ!いつもいつもヴァイス様ばっかり!」
「ミレア様、ヴァイス様は王女殿下の婚約者ですから」
「でもずるいです!」
「皆様、仲がよろしいのですな」
「ふふ、はい!」
「さて、そろそろ我がグナーデの宮廷パティシエ達の準備が整ったようです。存分に『最高の茶会』をお楽しみください」
そう言って、グナーデ国王陛下は静かに用意されたテーブルに着きます。私達も同じようにテーブルに着きます。
まずは侍女さんから美味しい紅茶を振舞われます。
「お茶の銘柄はいかがいたしますか?アインホルン、ルーガル、リーゼ、サントールをご用意しております。皆様ばらばらでも大丈夫です」
「そ、そんなに用意してるんだ?」
「では私はアインホルンで」
「悪いが、俺はルーガルで」
「私は、サントールをお願いしますわ」
「俺はなんでも…おすすめで」
「僕はリーゼで」
「私はヴァイス様と同じリーゼでお願いします!」
「かしこまりました」
正直、用意された銘柄は全て一級品。下手をすると大枚を叩いても手に入れられない可能性すらあるものばかりです。
「ミルクやジャムはいかが致しましょう?」
「僕はストレートで」
「私はアプリコットのジャムを」
「俺は…おすすめで」
「俺はミルクいれて。ミルクが先ね」
「私はストレートで」
「私は…うーん。お任せします」
「はい。お任せください」
侍女さんは素晴らしい手際の良さで茶葉をポットに移し、紅茶に詳しくないものでも分かるほどの手際の良さで湯を注ぎ入れ、ティーポットに覆い被せる布製のカバーをかぶせました。蒸らす間も、たまに話題を提供して暇を感じさせない、完璧な対応でした。そうして紅茶を蒸らし終えると、侍女さんはティーポットを掲げ、ティーカップへと紅茶を注ぎたす。
それはまるで『芸術』でした。前に、食の国ラーイで食とは『芸術』であり『娯楽』であると学んだはずですが、お茶すらそうであるなんて。注ぎ方ひとつとっても美しいです。
「お待たせ致しました。どうぞ」
そうして差し出された紅茶は、完璧としか表現出来ないものでした。その気高い香りが、鼻腔をくすぐります。
ひと口飲むだけで、丁度いい温度の紅茶の、繊細な味わいが広がり、最高の香りが口に広がります。
「…侍女さん!一体どこでこんな完璧なお茶淹れを!?すごいです!凄すぎます」
「ふふふ。我らがグナーデでは、このくらい出来て当然なのです」
私達は思わず拍手喝采を送ります。
「素晴らしいです!ごめんなさい、グナーデのお茶は想像以上です!」
「私はこの味を覚えて帰りたいです。これはすばらしい」
「ふふ。本番はここからですよ」
「え?」
「スイーツがまだですので」
「…!」
紅茶だけでこの衝撃です。スイーツはどれほどのものでしょうか?
「こちら、スイーツになります」
侍女さんが完璧な所作で、スイーツを運んでくれます。…見た目、香り、共に最高。では、味はどれほどのものでしょう。
「…美味しい!」
口に広がるのは上品な甘さ。まさに至福。
「なにこれ、美味すぎるんだけど!」
「なぜ…こんなものが作れるんだ…?」
「我が領にも取り入れたい…!」
「美味しい!美味しいです!」
「完璧過ぎて怖いな…」
「満足…幸せ…」
「上質なティータイムとは、人を幸せにするのです」
「勉強になります。ありがとうございました」
「いえいえ、いつかまたご一緒にティータイムを過ごしましょう」
そうして私達は、幸せな気分なまま、ルリジオンの教皇様の元へ転移魔法で移動します。
「教皇猊下!グナーデの闇の沼地、浄化出来ました!」
「さすがは百合姫様。ありがとうございました。では、今週いっぱい休んでいただいて、来週にはアドヴェントの闇の沼地を浄化してください。…忙しくて、申し訳ない。これも全ては世界中の民のため。よろしくお願い致します」
「はい!頑張ります!」
そうして報告も終えた私達は、転移魔法でエルドラドに戻りました。
「…戻ったか」
「ティラン兄様!あのね、すごいの!」
「ああ、はいはい。詳しくはティータイムにな。…俺はこれからリンネとティータイムだから、お前たちは好きにしろ」
「いや、ティータイムは堪能してきてて…」
「別腹だ、別腹」
そんなこんなで、今日もなんとかなりました!…また、グナーデのティータイムを堪能したいな。
甘いものは正義




