俺の大事な王女殿下
弱虫騎士見習いは
俺はフォルス・トラディシオン。騎士団長、魔法剣術の天才、レオン・トラディシオンの息子。でも、俺は魔法の適性が全くない。親父はそれでも、俺を騎士にと望んでくれているが、俺じゃ親父の期待に応えられない。それどころか、騎士団の息子仲間にもいじめられる始末。こんなんじゃ騎士になんてとてもなれない。
そんな中で、ある日リンネアル王女殿下の護衛騎士を選ぶことになり、俺も呼ばれた。
「リンネ。気に入った奴はいるか?」
「そんなこと言われても…うーん…」
『騎士団長の息子』の俺に声がかかることはない。やっぱり、騎士団長の息子でも弱かったら意味ないよな。
「…まあ、何も今すぐ決める必要もないか」
国王陛下がすごく優しい顔でリンネアル王女殿下の頭を撫でている。…仲がいいんだな。
「お前達。リンネの心が決まるまでしばらく好きに過ごしていいぞ」
「はい!」
ということで、一時休憩になった。俺はいつものいじめっ子達に呼ばれてホールを抜け出す。
ー…
「弱虫め!」
ああ、そうだとも。
「何か言い返してみろよ!」
魔法が使えるお前達にそんなこと出来るわけないだろ。
「なんでお前がこんなところにいるんだよ!」
俺が聞きたいくらいだよ。
「お前なんかが王女殿下の護衛に選ばれるわけないだろ!」
知ってるよ!
「さっさと帰れよ!」
俺は…俺だって本当は!
「…っ!」
思わず剣に手を掛けようとした時だった。
「何をしているの!」
「…っ!王女殿下!」
「…?」
なんでこんな高貴な人が、俺のために怒っているんだ?
「誇り高きエルドラドの騎士の息子が弱い者いじめなんてみっともない!」
「…っ!」
思い上がりだった。俺のためにではなく、誇り高きエルドラドの騎士団のためにだった。しかもはっきりと弱い者って言われた…。
「も、申し訳ありません!」
「このことはティラン兄様に報告します!」
「そんな!」
いじめっ子達は何か言っているが、リンネアル王女殿下は聞いていない。
「それから、貴方」
俺の方に近づいてくる。なんだ?
「は、はい…」
「貴方を私の護衛騎士に任命します」
「えっ」
後ろでいじめっ子達がなんでそんな奴がとか言っているがそれどころじゃない。
「ほら、任命されたらどうするの?」
「あっ…はい、忠誠を誓います!」
跪き、王女殿下の手を取りキスをする。どうしてこんなことに…?俺なんかが、いいのか?
「貴方、名前は?」
「フォルス・トラディシオンです。リンネアル王女殿下」
「そう。フォルス。これからよろしくね」
トラディシオンと聞いても、反応しない?…王女殿下は、俺個人を見て俺を選んでくださったのか?こんな幸せなことがあっていいのか!?
「は、はい。俺…これから王女殿下のために尽くします!」
「じゃあ、ティラン兄様に報告しに行こう」
「はい!」
こうして俺は、王女殿下の専属の護衛騎士になった。…でも、本当にいいのか?
「でも、王女殿下。俺なんかで本当にいいんでしょうか?」
「どうしてそう思うの?」
「だって俺…親父みたいに魔法剣術の才能がなくて…」
「どうして?」
「えっと…魔法が使えないんです、俺」
…親父の息子として、恥ずかしい。
「あら。平民なら珍しいことでもないでしょう?」
なんのこともないように言う王女殿下。でも!
「でも!俺は親父みたいに強くはなれない!」
「別にお父さんみたいになる必要ないじゃない」
「は?」
何を言ってるんだ、この人は。
「貴方のお父さんがどれだけ立派な方かは知らないけれども」
さっきまで前を向いていた王女殿下と目が合う。
「貴方は私の護衛騎士。私のために、強くなればいい」
…。嘘、だろ。この人は。こんな俺のために、そこまで言ってくれるのか。貴女のために強くなっていいと。そう言ってくれるのか。
「…っ!」
思わず目が潤む。
「魔法が使えないなら、その分剣技を磨けばいいのよ。私が選んだ貴方なら、それが出来るわ」
「…はい!」
そうだ。魔法の適性がないなんてただの逃げだったんだ。強くなろうと思えば、いくらだって強くなれる。親父もそう言ってくれてたのに!俺は!
「だからまずは、いじめられないようにシャキッとなさい!」
「はい!」
…決めた。俺は一生を賭けて、この人に尽くす。そして、強くなってこの人に認めてもらう!『俺』という騎士を!
「私のために、強くなってね。フォルス」
「頑張ります!」
ー…
俺が王女殿下の護衛騎士に選ばれたことを伝えると、母は飛び上がって喜び、父は泣いて喜んだ。
「やっぱり貴方には才能があったのね!信じていたわ!」
「フォルスが…護衛騎士に…!」
…俺、こんなに愛されて、こんなに心配かけてたんだな。
「なあ、親父」
「おう!」
「俺は親父のような騎士にはなれない」
場が凍りつく。でも、言わなきゃいけない。
「でも、俺、王女殿下のための騎士になるよ」
「え?」
「王女殿下のために強くなって、王女殿下に一生尽くす。そして、親父とは違う、俺らしい騎士になる!」
俺の言葉に、今度は母が泣いて喜び、父が飛び上がって喜んだ。
王女殿下に与えられた機会。絶対に、無駄にしない。
そして、出来れば。
俺なんかに手を差し出してくれた貴女の幸せを、一番近くで見ていたい。
王女殿下の護衛騎士に