魔法使いのお友達が出来ました!
宮廷魔術師
ご機嫌よう。リンネアル・サント・エルドラドです。今日から私の魔法学の先生、シャルム・オロスコープ先生のお子さんが宮廷魔術師としてティラン兄様の宮に上がることになりました!同い年なので仲良くしてくれたらいいなと思います。
シャルム先生は公爵家の三男で、三男なので爵位を与えられないため家庭教師を務めています。特に魔法学に長けていて、非常に優秀な講師として有名です。その息子さんも、当然のように優秀で、魔法学の天才とされています。魔力も、王族の私ほどではありませんが他の貴族やそれに連なる高貴な人と比べてずば抜けて高いそうです。そのため異例の出世で六歳にして宮廷魔術師になりました。すごいなぁ。
こんこん、と部屋のドアがノックさせます。そろそろシャルム先生との授業の時間です!
「どうぞ」
「失礼します」
部屋に入ってきたのはシャルム先生と、男の子。
「シャルム先生、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、王女殿下。今日から息子が宮廷魔術師になりましたので、ご挨拶に上がりました」
「はい。初めまして、リンネアル・サント・エルドラドです。よろしくね」
「俺はレーグル・オロスコープ。よろしくお願いします…じゃなくて、リンネアル・サント・エルドラド王女殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
ちょっとだけぎこちない挨拶を返してくれたレーグル君。仲良く出来たら嬉しいな。
「レーグル君は宮廷魔術師なんだから、そんなに畏まらなくても誰も文句は言わないよ」
「いや…親父がいるんで」
ちらっとシャルム先生をみるレーグル君。お父さんに怒られるのが嫌だなんて、年相応で可愛いなぁ。私の周りの人はみんな大人だから新鮮。
「あと…レーグルでいい」
「じゃあ、レーグルって呼ぶね」
「王女殿下は、なんて呼べばいいっすか」
「リンネでいいよ」
「じゃあ、リンネ」
「あと敬語もなしで」
「いや、それは…」
またちらっとシャルム先生をみるレーグル君。シャルム先生は王女殿下のお言葉に甘えたらどうだと言ってくれます。
「親父がいいなら…じゃあ、リンネ。よろしく」
「うん、よろしくね」
「今日の授業は実技を行うつもりなので、息子も見学させていただきたいのですが」
「もちろんいいですよ」
ということで私の宮の魔法実験室に移動します。
「では、とりあえず前回の復習ということでライトニングからやりましょうか」
「はい!」
「えっ…リンネ、光属性なの!?」
「うん、その代わりというか、他の属性は使えないけど…」
この世界の魔法は、光、闇、火、水、土、風の属性に分かれます。正確には社会基盤として使われる簡単な魔法は無属性だけど。その中で、光と闇は貴重な属性で、あまり使える人はいません。ただ、普通の人は火と水とか、土と風と水とか、複数の属性を扱えますが私は光属性しか使えません。
「いやいや、光属性が使えるなら充分でしょ!?すごいね君!」
「あ、ありがとう…宮廷魔術師に褒められると、照れちゃうな」
「さっそくライトニング見せて!」
「うん」
きらきらした目で見つめてくるレーグルのために、頑張って無詠唱でライトニング…稲妻を落とします。
「しかも無詠唱!?わぁ、すごい、すごいよ君!リンネって親父に聞いてた通り魔法学の才能あるね!?」
「え、えへへ…」
「では、次はヒーリングをやってみましょう」
シャルム先生は傷だらけの花を差し出してきます。
「この花を綺麗な状態に治してあげて下さい」
「はい!」
またもきらきらした目で見つめてくるレーグル。頑張って無詠唱で花を癒します。
「ちょっと!無詠唱であれだけズタボロにされた花を一瞬でここまで綺麗にするってどういうこと!?君本当に六歳!?」
「しかも、王女殿下が魔法学を習い始めたのは最近だよ」
「それはもう知ってる!すごい、すごいよリンネ!」
「えへへ」
照れちゃうな…。
「レーグルはどんな魔法が使えるの?」
「え、俺?光と闇以外なら使えるけど…」
「え、それこそすごいね!?」
さすが宮廷魔術師です。
「みてみたいな!」
「王女殿下の勉強にもなるでしょう。レーグル、見せて差し上げなさい」
「わかった」
そうしてレーグルは、次々と火、水、土、風の属性の魔法を繰り出します。わぁ、すごいすごい!
「風の魔法で木を薙ぎ倒せるんだね!すごい威力!」
「ま、まあね。一応宮廷魔術師だし」
「レーグル憧れるなぁ」
「リンネこそ、すごいじゃん。光属性だし、無詠唱で魔法使えるし、シャパリュと契約してるんでしょ?」
「え、えへへ。レーグルは契約した使い魔はいるの?」
「俺はとりあえずフィルギャと契約してる」
フィルギャかぁ。確か動物の姿で現れるんだよね。
「見てみたいな」
「いいよ。じゃあ、はい」
レーグルはフィルギャを呼び出してくれます。可愛い大型犬です!
「わあ、シベリアンハスキー!可愛い!」
「でしょ。でも結構強いんだよ、こいつ」
フィルギャは私にじゃれついてきます。こんなに可愛いのに強いなんて、すごい!
「レーグル、こんな子と契約できるなんてすごいね!」
「ま、まあね…リンネは、俺のこと怖がらないんだね」
え?
「なんで怖がる必要があるの?」
「まあ、そうだよね。リンネは王族で、俺より魔力も持ってるし、俺より強い使い魔もいるし、ヒーリングも出来るし…」
「レーグル?」
なんか、レーグルの様子がおかしい。
「ああ、いつものことですので放っておいて下さい。宮廷魔術師になった以上、この子が自分で乗り越えるべき問題ですので」
「でも…」
明らかに、様子がおかしい。顔色も悪い。
「レーグル、レーグル!」
片手でレーグルの手を強く握りしめ、片手でレーグルの頬を撫でる。
「…リンネ」
「レーグル、あのね、例えレーグルが私より強くても、私はレーグルのこと怖くないよ」
「え」
「だってレーグルは、こんなに可愛いし、こんなにいい子だもん!」
「…可愛いって、俺、男だし」
よかった。なんだか調子が戻ったみたい。
「でも…ありがとう」
それだけ言うと、レーグルは魔法実験室を飛び出して行きました。
「えっ…レーグル!?」
「王女殿下。レーグルは大丈夫です。勉強の続きをしましょう」
「でも…」
「あとで私も、話をしてみますので」
「ありがとう…」
ー…
あれから一日。ずっとレーグルのことが心配です。ノブル君もそんな私の様子を見て心配してくれます。
「…っ!リンネ!」
レーグル君がいきなり、ノックもせずに部屋に入ってきます。
「…君がレーグルかい?ノックもせずにいきなりレディーの部屋に入ってくるなんて、どんな教育を受けているのかな」
ノブル君が怒ります。
「まあまあ。どうしたの?レーグル。心配してたのよ」
レーグルはなにか警戒するような目でノブル君を見ます。
「…リンネ。こいつがヴァイスハイト?」
「違うよ?あと、ヴァイス様にはそんな態度とっちゃダメだよ?」
「ふーん、違うんだ?じゃあ誰?」
「リンネ様のお友達の、ノブル・ターブルロンドだ。よろしく」
「…ふーん、よろしく」
二人は握手をしていますが、なんだか険悪なムードです。
「…どうせ、叶わないんだ。はやく諦めた方がいい」
「そんなのわかんないでしょ。君こそ、その程度の思いならさっさと身を引きなよ」
にこにこし合いながら何かを牽制しあっている二人。ど、どうしちゃったのでしょう?
「と、とりあえず二人とも、お茶にしましょう?」
「ええ、リンネ様」
「俺、アプリコットティーね!」
「…君は厚かましいね」
「君は女々しいね」
「ああ、もう!二人とも喧嘩しないの!」
とりあえず、レーグルはもう大丈夫そうです。良かった。
天才少年
 




