黄金郷の百合姫
百合姫の称号
ご機嫌よう。リンネアル・サント・エルドラドです。今日はティラン兄様が朝から私のお部屋に来ています。
「おはよう、リンネ」
「おはよう、ティラン兄様!」
こんなに朝早くからどうしたのでしょうか?
「リンネ、百合姫の称号はもう習ったか?」
「はい。王族の中でも特に優れた才能を持つ姫に贈られる称号ですよね。他国に嫁ぐ際にも、『黄金郷の百合姫』の名は役に立つとか」
私の憧れです。もし百合姫になれたら、もっとヴァイス様に相応しいお姫様になれます。
「そうだ。…お前を、百合姫にすることが決定した」
「…え」
えええええええええ!?嘘ぉ!?なんで急に!?
「リンネは理科と数学が得意だろう。リンネの才能を知った貴族どもが是非とも百合姫にとうるさくてな」
「え、で、でも、私なんかがいいのかな?」
なんというか、恐れ多い…。
「ばか。お前だからいいんだよ。優秀なのは本当だしな」
「…!」
兄様が!ティラン兄様がデレた!
「どうした?」
「いや、なんというか…感動して…」
ついにティラン兄様を攻略できた!やったー!これで将来安泰です!
「そうだな。百合姫の名はリンネの人生で大いに役立つはずだ。上手く使えよ?」
「はい!」
感動しているのはそのことじゃないけど!
「それで、称号の授与式だが都合が中々つかなくてな」
「うん」
別にすぐにじゃなくてもいいよー。
「急遽明日行うことになった」
「え」
「貴族どもを招いて大々的に行う。だがまあ、そんなに緊張することもない。初めての公務で戸惑うこともあるかもしれないが、俺がついてる。失敗してもいい。お前のための授与式だ。楽しめ」
いやいやいや、明日は流石に早すぎませんか!?緊張するなとか無理ですけど!?初めての公務が授与式とか失敗出来ないよ!?楽しめとか無茶振りやめて!緊張でそれどころじゃないから!
「そんな顔するなよ。大丈夫だから。お前はまだ幼いし、失敗も許される歳なんだ」
お前は優秀過ぎるからわからないかもしれないけれど、普通の子供は失敗ばかりだよ。そう言って私の頭を軽く撫でてくれるティラン兄様。
「でも私、やっぱり不安だよ」
「…じゃあ、落ち着くまで執務をこなしながらだけど一緒にいてやるよ。な?」
ティラン兄様はそういうと、私を自分の宮に連れて行ってくれます。王宮、意外とシンプル。
「とりあえず、俺の部屋で寛いでおけ」
ティラン兄様の部屋はベッドとソファーと机と椅子と肖像画以外何もない。
「ティラン兄様のお部屋ってシンプルだね」
「まあ、食って寝て執務をこなすだけだからな」
「寂しくない?」
「リンネがいるから平気だ」
なんだろう、ティラン兄様がかなり甘い。なんならヴァイス様並みに甘い。
「俺は執務をこなすから、好きに遊んでいていいぞ」
ティラン兄様はそういうと執務に集中します。
「じゃあ、お絵描きしてるね」
「わかった」
私は持参した紙とクレヨンでお絵描きをする。描くのはティラン兄様。ティラン兄様の白銀の髪とアメジストの瞳はキラキラしていて描くのが楽しい。これでも前世は中学生。それなりの絵は描けます。
ー…
かなり時間が経ちました。お昼です。ティラン兄様の絵がいっぱい描けました。
「…そろそろ昼か。待たせたな、リンネ」
ティラン兄様が私の頭を軽く撫でます。
「…?その絵、もしかして全部俺か?」
「うん!そうだよ!上手く描けた?」
「ん。上手だな。額縁に入れて飾っておこう」
ティラン兄様は、魔法で額縁を作って私の絵を飾ってくれました。
「…ちょっと照れちゃうな」
「こんなに上手なんだ。大丈夫だ」
ティラン兄様はにこりと微笑みます。
「さて、そろそろ落ち着いたか?」
「うん、ありがとう」
無心でティラン兄様を描いていたら、いつの間にか不安も吹き飛びました。
「じゃあ、お昼を食べたらリンネの宮に送っていくな」
「はーい」
ー…
さて、今日はいよいよ百合姫の称号授与式です。緊張します。称号授与式は王城のホールで行われます。ティラン兄様が称号授与式が始まるまで手を握ってくれます。
「心配するな。失敗しても大丈夫だから」
「う、うん」
そして称号授与式は始まりました。といっても、いきなり称号を授与されるのではなく、国王…ティラン兄様の長い話や宰相さんの長い話があってからようやく授与されます。その間ずっと緊張しきりでした。
「…では、称号授与です」
ひっ。緊張し過ぎて息がつまりそう。
「リンネ、こっちにこい」
「はい」
「我が愛すべき妹よ。お前に百合姫の称号を与える」
「はい、ティラン兄様!」
ギチギチと音がしそうなほどガチガチに固まりつつもなんとかティラン兄様の前に立ち、返事をする。だ、大丈夫かな。
「黄金郷の百合姫よ。これからは更に王族として励め。以上だ」
「は、はい。百合姫の名に恥じぬよう、研鑽を積み重ねていきます」
礼をとり、ティラン兄様の前から離れる。…あー、緊張したー!
その後は沢山の貴族さんから祝辞を受け、お礼の言葉を返し、忙しい中で緊張する間もなく時間が過ぎました。そしていつの間にか私の部屋でいつも通りティラン兄様と晩餐を取っていました。
「ティラン兄様、私ちゃんと上手く出来てた?」
「ああ、上出来だったぞ」
私の頭を軽く撫でてくれるティラン兄様。
「よかったぁ」
「な、緊張することなかっただろう?」
ティラン兄様は軽くそう言いますが、私にとってはすごく緊張しました!
「いやいや、緊張するよー」
「そうか?」
「うん。でも上手くいってよかったー」
ティラン兄様はそんな私に柔らかく微笑みます。
「リンネ。これからは黄金郷の百合姫として貴族どもから色んな意味で狙われるから気をつけろよ」
「…!わ、わかった!」
「大丈夫。俺が守るから。ただ、用心するに越したことはないからな」
「うん、気をつけるね!」
こうして無事に百合姫の称号を手に入れました!ただ、ティラン兄様の言う通り、周りの貴族さんからは利用価値があるからと狙われるでしょう。頑張って自衛しなければなりません!頑張るぞー!
名誉なことではあるけれども足枷にもなる