俺の可愛いお姫様②
孤独な国王は
リンネとのお茶会。リンネは可愛らしいお願いをしてきた。
「ねえねえ、ティラン兄様!」
「どうした?」
「私もティラン兄様とおんなじのが飲みたいなあ」
俺と同じものを飲みたいなんて、可愛すぎてどうしようか。でも、流石にリンネには早すぎるだろう。
「だめだ。我が愚妹には早すぎる。苦くて吐くぞ」
「えー、ティラン兄様のケチー」
ふくれっ面まで可愛らしいなんて、俺も末期だな。
「っ…ははっ!なんて顔してるんだよ、ブスが余計にブスになるだろ」
可愛らしいリンネに意地悪をいいつつ、頬をつんつんする。
「私ブスじゃないもん。私ティラン兄様に似てるから、私がブスならティラン兄様もブスだもん」
「は?お前が俺に似てるって?どこが。お前白銀の髪もアメジストの瞳も持ってないだろ」
俺はお前みたいに可愛くないしな。
「色は全然違うけど形は似てるの!」
「ふーん…形が似てる、ねぇ」
なおも頬をつんつんする。…異母妹とはいえ、こんなに可愛い子に俺が似ている?本当にそうだろうか?…いや、今はそれよりも。
「ところでお前、魔力の方はどうなの」
「うーん…王族としては少ないんだって。でも、平民や貴族よりは多いって!」
「ふーん、やっぱり貧弱なんだな」
「貴族よりは多いの!」
魔力の少ないこの子は、俺が守ってあげないと。この子にも自分が弱いことを自覚させないとな。
「王族が貴族より魔力が多いのは当たり前だろ。内乱が起こった時に対処出来なきゃ困るし」
可愛いリンネの頬をむにむにと摘んだり伸ばしたりしながら、言う。
「何かあっても俺は守ってやらないから、護身術代わりに魔術はきっちりと身につけておけよ」
「はーい!」
…本当は、何に代えても守るつもりだけど。自衛手段はある方が良い。
それにしても。本当にこの可愛い子に、俺は似てるんだろうか?
「どうしたの?ティラン兄様」
「…いや、確かに割と似てんのかなって思って」
ふむ。と一度頷くと、リンネの頭を軽く撫でる。
「愚妹でも、やっぱり俺の妹なんだな」
可愛すぎて、つい意地悪を言ってしまう。
…そうだ、リンネとの時間をそろそろ持たないと。ずっと一人でいたんだ。寂しいかもしれない。
「…よし。これから毎日晩餐とティータイムは一緒にとるぞ、いいな?」
「わあい!ティラン兄様とお食事、嬉しい!」
俺はにっと笑い、お前は俺の気紛れで生かされていることを忘れるなよ、と言う。…そう、リンネは暴君の俺に家族を奪われて王城で閉じ込められている可哀想なお姫様。それでいいんだ。
「じゃあ俺そろそろ公務に戻るわ。また晩餐でな」
「はーい、楽しみにしてるね」
にこにこ笑顔で見送るリンネが可愛くて、俺はリンネの頭を軽く撫でてから帰った。
ー…
「良い子にしてたか?」
リンネの頭を軽く撫でてから椅子の上に乗せる。
「うん!今日もお勉強頑張ったよ!」
「お前、理科と数学だけはマジで天才的らしいな。この国の基礎理化学を変えるレベルらしいぞ」
そのせいで貴族どもから是非とも百合姫の称号を!と熱く押されているけれども。
「えへへ、私、ティラン兄様の役に立った?」
「ん。魔法学の方が重要だけど、魔力の少ない平民達には理化学の知識も必要不可欠だからな」
リンネが必死になって俺のご機嫌を伺うのが可愛い。
「我が愚妹は思ったよりも役に立つらしいな。これからもこの調子で頑張れよ」
「はーい!」
「でも、理科と数学と国語はともかく、社会と帝王学は年相応みたいだな」
余りにも優秀過ぎると利用価値が出来てしまう。それでなくとも百合姫に押し上げられそうなのに。苦手な分野があって良かった。
「社会は苦手か?」
「知らないことばっかりで難しいよ!でも頑張るね!」
「そうか。まあ無理はするなよ。今は理科と数学と魔法学の方に力を入れろ」
「はーい!」
それでいい。無理して頑張る必要はない。汚い周りの大人たちに、利用させてたまるか。
「今日はハンバーグを用意させた。子供は好きだろ?」
リンネが好きそうな物を用意させてみたが、どうだろうか。
「うん、私、ハンバーグだーいすき!」
「…ふうん、そうか。よかったな」
なんとなく面白くない。ハンバーグにリンネを取られたみたいだ。
「…ティラン兄様?」
「なんだよ」
「ティラン兄様もだーいすきだよ?」
俺は自然といい笑顔になり、愚妹のくせに生意気だとリンネの頬をむにむにと摘んだり伸ばしたりする。本当に可愛い妹だ。
「じゃあいただきまーす!」
「いただきます」
「ねえねえ、ティラン兄様。私は公務はしなくていいの?」
「六歳の子供にそんなこと求めるわけないだろ」
今は大人しく王城で過ごしていれば良い、と言う。リンネを守るためには、その方が都合が良い。
「でもティラン兄様も十九歳だよ?」
「ばか。この国では十八歳で成人だろ」
「でも、六年前は十三歳でしょう?」
「俺は天才だからいいの」
「私も天才だよ?」
…面倒臭い。俺は自分の髪をかきあげると、リンネの頭を撫でる。
「方向が違うだろ。俺は魔法学の天才なの。自分の身は自分で守れる。一応、エルドラドの騎士もついてるし。お前は違うだろ」
「じゃあ私に護衛騎士さんつけたら?」
「そんなことしたら俺がお前を可愛がってるみたいだろ」
「…かわいがっちゃダメなの?」
「…お前は、暴君の兄に家族を奪われて王城で閉じ込められてる可哀想なお姫様なの。わかったら良い子にしてろ」
それ以上は話す気がない。
「…でも、私にはティラン兄様がいるよ」
ごほっ、ごほっと噎せる。なんでそんなに可愛いんだ!
「お前なぁ。…まあ、いいや。そのうちお前も、俺がお前にしたことを理解するだろうし」
「ティラン兄様がなにをしても、私はティラン兄様が大好きだよ?」
「…あー、もう!いいから食え!」
照れ隠しにリンネの頬をつんつんしてからハンバーグに集中する。我が妹が可愛すぎて困る。
妹を溺愛する




