99、団子を三日食べると
俺達は、温泉街から砂漠へ、マルルの転移のおもちゃを使って移動した。シルルとクゥだけを連れて来たが、配下のひとりがついてきた。
「あれ? プリンちゃんも来たよん」
「プリンちゃん?」
ついて来たのは、諜報部員として使っていた緑魔導士だ。補助魔法に優れている反面、戦闘はサッパリできない。だが、マルルがよく連れ回している若い男だ。
「マルル様から、カールちゃんを見張っていなさいと言われまして」
「なぜ、プリンちゃんなのだ?」
「わかりません……ある日、突然、そう呼ばれるようになりまして。実名を知られなくて良いのですけど」
「プリンに似てるからだって言ってたよん。髪がプリンのカラメル色で、肌がプリン色だもん」
「あはは、そうですかねー」
「ふぅん、じゃあ、僕も、プリンちゃんって呼ぼうかな」
「カルバドス様、そ、それは……」
「おい、名前には気をつけろよ。僕は、カールだから」
「そうでした。気をつけます」
コイツの名は? 普段、俺のまわりには居ない奴だから、すぐにはでてこない。いや、知らないな。名は聞いたことがなかったように思う。
ジッと見ると、サーチをしなくてもいろいろ流れ込んでくるが、コイツは見えない。そうか、緑魔導士の頭を覗くには、強いサーチ魔法を使わないと無理だな。
「ねぇ、カール、新しい街はどこ?」
「この辺かと思ったんだけどな。もう少し東みたいだね。シルル、見えない? 緑色の草原」
「えっ? 見えるけど、砂漠なのに草原?」
「シルルさん、精霊が街の周辺を、昔のような草原にしてくれたらしいですよ」
「すごい〜。砂漠なのに砂漠じゃないんだ」
マルルは、いくつかの精霊を働かせているらしいな。今も、砂漠の緑化は進行中だ。あちこちに精霊の気配を感じる。
シルルは、自然と草原へ向かって歩き始めた。クゥも、珍しくテンションが上がっているらしい。そういえば、クゥは森の中で生まれたのだったな。やはり、街より草原の方が好きなのかもしれん。
「カール、もっと速く歩いてよん」
「シルル、そんなに急ぐと転ぶよ? 砂漠なんだからさ」
クゥは、ドラゴンの姿に戻りたいらしい。ウズウズしているのが伝わってくる。だが、以前の忠告を忘れてはいないようだ。
この場所は、旧勇者の街と、砂漠のオアシスのほぼ中間地点にある。旧勇者の街に近い場所で、クゥが珍しいドラゴンに姿を変えると、俺達の素性がバレるからな。
シルルは、砂に足をとられながらも、楽しそうだ。そんなシルルを見て、クゥはさらに楽しそうに笑っている。ふむ、いい笑顔だ。
「カールさん、随分と雰囲気が変わられましたね」
「そうかな? 人間の姿だからじゃない?」
「いえ、その姿はずっと見ておりました。マルル様から、常にカールさんの居場所を把握しておくようにと命じられていましたので」
「そう。気づかなかったよ」
俺がそう言うと、彼は少し嬉しそうな顔をしてしいた。諜報部員が、気づかれたら終わりだからな。
「僕、カールさんの団子で、簡単な攻撃魔法を使えるようになったんですよ」
「ん? どういうこと? 緑魔導士だよね?」
「はい。あの団子は、三日連続で食べると、新たな魔法を取得できるんですよ。僕は、黒い団子を食べて、火魔法と水魔法を使えるようになりました」
「えっ!? そうなの?」
「はい。と言っても、黒魔法力は弱いので、たきぎに火をつけるとか、飲み水を出すくらいしかできないので、マルル様には料理魔法と呼ばれているのですが」
「料理をするわけではないだろう」
「外で、料理をするときに使うから、料理魔法だそうです」
「はぁ、プリンちゃんも苦労するね。マルルのことなんて、適当にあしらっておけばいいのに」
「あはは、でも、マルル様は、いい人ですから」
ふむ、いつもこき使われているが、信頼関係はキチンとできているようだな。まぁ、マルルのことだから、その点の抜かりはないだろうが。
(三日で、初級魔法を取得か)
これは、使える。団子にはいろいろな効果が隠れているようだ。まぁ、確かに、魔力を分け与えても、それが使えなければ意味がない。上手くできている、いや、当たり前のことか。
「カール! 街が見えてきたよん!」
砂漠が終わり草原に入ると、シルルは草原に寝転んでいた。クゥも草原は楽しいらしく、人化したまま転がっている。
「皆さん、ちょっと休憩にしませんか?」
そう言うと、彼は魔法袋から、飲み物を取り出していた。マルルがいつも飲んでいる甘いフルーツジュースだ。
「わっ、ミックスジュースだ。くださいな〜」
「えー、ミックスジュース、甘いもん」
「あれ? クゥちゃんは嫌いだっけ?」
「嫌いじゃないもん」
彼は、シルルとクゥにフルーツジュースを渡していた。そして、俺にはリンゴ酒を差し出した。
「久しぶりだな、これ。ありがとう」
草原に座って、俺は、アプル村のリンゴで作ったリンゴ酒を飲んだ。あ〜生き返る! やっぱり美味いな。
一気に飲み干した空き瓶を軽く洗い、俺は水魔法で水を入れた。そして、蓋をして、クゥのそばへ放り投げた。
「クゥ、リンゴ酒の香りつきの水だ」
すると、クゥは、瓶を拾ってすぐさま飲んでいた。口の中が甘かったのだろう。やっと、ホッとした表情を浮かべている。
「えー、カール、ダメだよん。クゥちゃんは、まだ子供なんだからお酒なんてー」
「ママ、普通の水の味しかしなかったよ」
「そうなの?」
「うん、そうなの」
(何か違和感を感じる……)
空を見上げると、妙な雲が浮かんでいることに気づいた。配下もそれに気づいているらしいが、あえて知らぬフリをしているようだ。
雲は、俺達を追っているわけではなさそうだ。東へゆっくりと流れている。あれは、シードルの神殿だな。新しい街を観察しているというわけか。
ある程度、雲が離れると、彼が口を開いた。
「毎日、何度か偵察しているようです」
「新しい街の偵察?」
「はい」
「それで、ここで休憩しようと言い出したのか」
彼はコクリと頷いた。
「巨大な雲は、旧勇者の街の上空で、いつもしばらく止まります。そして、フッと消えます」
「なるほど、ウロウロするのではないんだな」
「東から西に雲が動くと、違和感がありますからね。戻るときは、一気に神都へ転移するようです」
「そうか」
完全に機動力が備わっているのだな。神殿ごと転移までできるようになっているとは……。
「僕が同行するのも、カールさん達だとバレないようにするためです。カールさんが生きているなら、勇者と一緒にいると思われているようですから」
「赤い髪の勇者と一緒にいたのが印象に残っているのか」
「いえ、カールさんは、勇者を集めていたと思われているみたいです。旧勇者の街から逃げ出した勇者が、あちこちにいますから」
「革命軍に入らなかった勇者か……。集める意味などないだろう?」
「ありますよ。魔王軍を潰すには、勇者の数が必要だそうです。それを阻止するために、マルル様は、各地で勇者の家系の人達を見つけたら保護するようにと言われています」
「マルルの作戦を、俺の策だと思っているのか、アイツは」
彼はコクリと頷いた。そして僅かに感情が揺れたようにみえた。なるほど、そのように噂をばら撒いているようだな。
おそらく彼は、魔王軍の中で、一二を争うほど諜報能力が高いのだろう。マルルが扱う配下は、俺はあまりよくわからない。だが、俺の護衛に付けたということからも、そう考えて間違いはないだろう。
(気づかぬフリをしておいてやるか)
彼は、俺が、そう誘導したのかと指摘しないことから、やはり少し感情が動いているようだ。ふっ、嬉しそうだな。
シルル達の方を見ると、二人で、花を摘んでいるようだ。小さな花束が出来上がっている。
シードルの神殿は、新しい街からだいぶ離れていった。神殿から、俺達の姿は見えただろう。旅人が草原を見つけてはしゃいでいる……そんな姿として映ったはずだ。
彼も、それを演出しようとして、街まですぐのこの場所で、あえて飲み物を出したのだ。もしかすると、シルルが花を摘み始めることまで、予想していたのかもしれんな。
「カール、見て〜。たくさん、お花を摘んだよん。これ、腐らないようにできるかなー?」
「うん、できるよ」
シルルは、満面の笑みで、小さな花束を俺に託した。
「ドライフラワーにする? それともプリザードフラワーにする?」
「うん? わかんない」
「この色のままがいいの? 何に使う?」
「かわいいお花のまま枯れないようにしたいの。耳飾りにしたら、きっとかわいいの」
なるほど、やはり、洗脳解除の魔道具を飾るのか。チラッと、配下の顔を見てみたが、やはり予想していたらしい。
「わかったよ。じゃあ、プリザードフラワーだね」
俺は、花から水分を抜き、さらに保存魔法をかけた。そして、シルルに渡した。
「ありがとう、カール。あっ、頭につけようかな」
「じゃあ、貸して」
俺はなぜこんな世話をしてやらねばならないんだ? 知らないフリをすると面倒だからと、世話をする癖がついてしまったようだ。
花束から、花を一本抜き、茎の部分をくるっと丸めて物質変化魔法をかけ、ゴム状にした。
「はい、どうぞ。輪っかがゴムになってるから、それを使って、髪を束ねればいい」
「わっ! カールありがとう。かわいい〜」
シルルは、髪を束ね、そしてその姿を確認しようとキョロキョロし始めた。こんなとこに、湖も池もないぞ。
「ママ、かわいい!」
「そう? クゥちゃん、ママじゃなくて、お姉ちゃんでしょ」
「お姉ちゃん、かわいい」
シルルは、クゥにそう言わせて満足したらしい。キョロキョロするのをやめたようだ。
「さて、皆さん、そろそろ、街へ行きましょう」
「はーい!」
「はーい」
俺達は、新しい街へと、歩き始めた。
最近、更新時間遅いですね。すみません。




