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92、まさかのガンコ爺に捕まった魔王

 おつかいミッションを終えた俺は、とりあえず戻ろうと、来た道をゆっくり歩いていた。ガラス玉の色を確認したかったが、教会関係者がウロウロしている。見つかるとマズイかもしれんな。


 俺は、マルルの私室のある、巨大な雪だるまを目指していた。しかし、デカすぎるだろう。雪だるまは、悪目立ちしている。

 しかも、魔王軍の店だとバレているようだが、密かに営む予定ではなかったのか?


 しばらく歩いて、人通りが減ったところで、ガラス玉を確認した。無色透明に戻っていた。ふむ、ミッションは成功のようだな。



 この温泉街は、小さな街だが、普通に暮らす住人も、それなりに多いようだ。それに、教会もある。神都と旧勇者の街との行き来に利用されるためか、小さな街には不釣り合いに教会は大きい。


 教会の近くを通ると、たくさんの人間がいた。みな、シードルの教えを純粋に信仰しているならよいが……。教会での序列がどうのと、くだらない差別を生み出すことになっているなら、潰すべきだな。


 洗脳された信者達の数は、どれくらいいるのだろうか。シードルを討ったあと、狂って暴徒化する者は、俺は、魔王として、すべて……。


 誰かにやらせるわけにはいかない。俺は、汚れ役だ。俺の手で多くの命を奪う。ふっ、自分で自分に言い聞かせているようだな。


(俺は、人間のフリをしていて、弱くなったか)




 土産物屋に戻ってきた。


(チッ!)


 さっきの男がいたら報告をしようと思ったが、やめた。俺に闇ギルドを教えた男は、店員と話をしていた。店内は暖かいから、居座っているようだ。それはいい。だが……。


「あっ、カルルン様!」


 俺は、すぐに離れたが、店にいた配下に気づかれた。俺の名は、いつからカルルンになったのだ?


 聞こえないフリをして、雪だるまの店に入ろうとしたが、捕まった。チッ!


「捜しましたぞ。よくぞ、ご無事で」


「人違いじゃないですか? 僕はカールですけど」


「ワシには通用しませんよ。どれだけ心配したことか……」


 おおげさな奴だな。行き交う人々が、面白そうに眺めていく。配下は完全に人間の姿をしている。


 いや、コイツは人間だったか。


 ただ、普通の人間ではない。なぜか70歳くらいで老化が止まったのだ。もう、数千年、いやそれ以上、俺と同じくらいの長い時を生きている。


「人に見られてるけど」


「そんなことを気にされるようになったのですか!?」


「家出少年が、ガンコ爺さんに捕まったと思われてるんじゃない?」


「フォッホッホッホ、それは楽しい解釈ですな」


「どうでもいいけど、手を離してくれない?」


「死んでも離しませんぞ。お戻りください」


「嫌だね。旅の連れもいるんだ」


「今は、お一人のようですが?」


「別の場所にいるから」


「預けているのですね。そんなことより、カルルン様に、重要な会談の依頼がきております」


「誰?」


「ワシと同じ役目を持つ者です」


 コイツの役目? 城では新入りの教育係をしているが、他の教育係が俺に会いたいのか?


「立ち話をしていられるようなこと?」


「抜かりはございません。ゆるい認識阻害のバリアを張っていますから、話の内容は聞こえても、聞き流すでしょう」


 だろうな。人間のガキの姿では感知できない様々な何かが発動された。コイツは……妙な人間だとは思っていたが、なぜ、ずっと魔王城にいるのだ?


 あまりにも長く居すぎて、気にしなくなっていたが、もしかすると、シードルの人形か? もしくはシードルの配下か?


「そんな役目は聞いたこともない。俺は……いや、僕には何のことかわかりません。離してください」


「カルバドス様、爺の目を見てください! もう猶予はないのですぞ」


 目を見ろということは、頭を覗けということか。下手に覗くと、引くに引けなくなりそうだ。


「何を、そんなに必死になってるんだよ」


「子供のふりは結構です。ふざけている場合ではありません」


 死んでも離さないと言っていたように、コイツは俺の腕をしっかりと握っていた。振り解けなくはないがな。



「会いたいとは、何の話だ?」


「ワシらの使命を果たす時が来ました」


「おまえは、何者だ?」


 俺が冷たく言い放ったが、配下は、逆にホッとしたような安堵の表情を浮かべた。


「ワシらは、カルバドス様と同じです。神シードル様の分身ですよ。カルバドス様風に言えば、神が切り捨てたゴミですね」


(は? コイツもか?)


「マルルが、そんなことを言っていたが……。裏ギルドで酒臭い男に会ったが、それが会談の依頼人か」


 俺がそう言うと、配下は大げさに驚いていた。ふむ、これは知っていたな。


「お会いいただけますか」


「おまえらは、シードルの分身だと言ったな? そんなことは知らんぞ」


「ワシらは、失敗しましたからな。シードル様の記憶からも過去のこととして消えてしまっていたのでしょう」


「俺よりも先に切り捨てられたのか」


「はい、シードル様の、神らしくない平凡な部分を削ぎ落とし、神はより尊い輝きを得られました。ワシらは、西と東に領地を与えられ、地上を制圧する使命を与えられました」


「平凡な人間に、制圧できるわけがない」


「はい、ワシらは古代の西国、東国の、それぞれの王となりましたが、魔物が増え、進化し、魔族が増えてきたことで、どうにもならなくなりました」


「だろうな。それで、次は俺とマルルか」


「はい、神は、地上が荒れたことから悪しき心を抱くようになり、その悪しき部分を切り捨てられました。そして地上を制圧するために必要なチカラとして、自らの能力の半分を与えられたようです。ご存知でしょうが」


「あぁ、当時の記憶はないがな。俺は生まれたときは、あまりにも荒れていたようだからな」


 なるほど、俺の前に、シードルは二人の人間を作り出したか。強い魔力も持たないから、そのまま放置しているのか。


「お会いいただけますか?」


「何の話だ?」


「ワシらの役目なのです」


「おまえが知っているなら、おまえが話せばいいだろう」


「ワシは、東のこと、そしてカルバドス様のことを支えてきました。彼は西のこと、そしてシードル様を支えていたのです」


「役割分担があるということか。俺の担当がおまえなら、もう一人に会う必要もないだろう」


「それが、あるのです。ワシらが、地上の制圧に失敗したとシードル様が判断されたとき、新たな使命を与えられました。ある状況になったら、もう一方へ知らせ、指示をあおぐようにと」


「それが今の状況か?」


「はい、彼の方の非常事態です。ワシの方には異変はありません。ですから、彼の話を聞いてやってください。そして、ワシらに指示を!」



 何だかよくわからんが、コイツが必死だということはわかった。マルルが念話で言っていた話とも一致する。


 それにコイツは、本当に死んで離さないつもりのようだな。ガンコ爺め。


(はぁ、仕方ないか)


 話を聞いても、俺の決意は変えるつもりはない。どういう話か、だいたいの見当はつくが……俺は、シードルを許すつもりはないからな。


 このまま、アイツが堕ちていけば、この世界の住人が犠牲になる。笑いを忘れ、妙な階級制の差別意識と厳しい規律の中で暮らすなんて、生きているとは言えぬ。


 それに、すべての魔族を殺したとしても、魔物は食料として残すのだろう。そうすればそこから、再び魔族へと進化する者が現れる。


 人間だけになった世界で、魔族が暴れればどうなるか……。まぁ、シードルは、妙な光の柱を使って魔族も潰していくつもりかもしれんが、そうはいかない。


 再び、混沌とした世界に戻るだけだ。


 アイツは、同じことをずっと繰り返しているのではないか? なんだか、そんな気がしてきた。どこかで変えなければ、同じ歴史を永遠に繰り返し……平穏な世界には何億年かけても、たどり着けないのではないか。



「カルバドス様!」


「はぁ、しつこいね、ほんと。僕はカールなんだけど」


「カルバドス様!!」


「もう、わかったよ、ガンコ爺」


「善は急げです。参りましょうぞ」


「えー、でも、連れが……」


「今確認しました。マルル様が世話をされるとのことですよ。全く、マルル様にも困ったものです。いくら呼んでも、全く戻って来られない」


 そりゃそうだろう。マルルは、爺を避けているからな。俺の動向も、知らせていなかったのだろう。俺の動向を知らせると、自分の行動範囲が狭くなるからだろうな。

 自己中と書いてマルルと読む、そんなことを確か誰かが言っていたか。ククッ。




 俺は、爺に中央広場へと引っ張って行かれた。もうすっかり夜になっている。


 念話か何かで知らせていたのか? 中央広場の屋台の前に、さっきの酒臭い男、イストがいた。ふむ、その屋台を貸し切ったようだな。幻影魔法のようなものまでかけてある。


「西の翁、やっと捕まえましたよ」


 爺は、酒臭い男にそう言った。彼はそんなに年寄りには見えないが?


「えっ、東の翁、その坊やのことを言っているのかい?」


 ふむ、東を担当する爺は、東の翁か。そういえば爺の名前は知らんな。若い頃から、爺と呼んでいたからな。


「そうですよ。とりあえず、この中に」


 俺は、まだ腕をつかまれている。いまさら逃げるわけないが……そうは言っても、信用しないだろう。



 爺に促されて、俺は、屋台を覆う透明な、のれんのようなものの中に入った。屋台には、4人掛けのテーブル席が二つと、10席程度のカウンター席があった。


 カウンターの奥には、二人の性別不明の者がいた。俺達以外に客はいない。


 俺がテーブル席の椅子に座ると、爺はやっと腕から手を離して俺の隣に座った。そして、俺の前には、酒臭い男イストが座った。


「まさか、坊やが……」


「ワシの主人、魔王カルバドス様ですよ」



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