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86、優れた狩りの手法

「神が理想とした考え自体を信仰するのですか!?」


 里の住人だけでなく、洗脳が解けた襲撃者も興味を示した。襲撃者は革命軍に所属する魔族だが、革命軍の総長がシードルだからか……神を信仰しているようだな。


 革命軍の奴らは、総長が神シードルだとは知らないようだ。だが、魔王を討伐しようという奴らだ。シードルを信仰しているのも自然なことか。


「そのようですよ。いま、その新しい宗教の信者が、砂漠に新たな街を作り始めています。おそらく、新しい宗教の聖都になるのでしょう」


「な、なんと!? そのような大事業を? 魔王軍ですか」


「いえ、魔王軍は各地の復興に忙しいですから。戦乱で仕事や住む場所を失った者達が集まってきているようです。彼らが、自分達の手で街を作り上げるつもりなんだと思いますよ」


「そこに行くにはどうすれば? その新しい宗教に改宗すればいいのでしょうか」


「うーん、そんな堅苦しいことはないんじゃないかな? 今は、移住する人や、とにかく街を作るための人手が必要だと思うので、そのような条件は聞いたことがないですよ」


「街づくりの資金を出しているのは、信者なのですね」


「はい、神の理想とする世界に憧れている者なのでしょうね」


 そこまで話すと、彼らは黙った。ふむ、まぁ、こんな感じで良いだろう。


 資金を出すのは俺だ。アイツが作り上げた教典は、最も神らしい頃のアイツの理想だ。


 そして、分身の俺は……ふっ、神の理想とする世界に憧れているのかもしれんな。


(あぁ……そういうことか)


 自分の口から出た言葉に、俺は戸惑っている。言葉にして初めて、俺が、自分自身の感情に気づくとはな。




「カール、眠いよん」


「あぁ、そうだな。まだ夜明け前だから、寝なきゃね」


 シルルは、クゥと共に、丸太小屋へ戻っていった。だが、クゥが扉を壊してしまっている。


「じゃあ、僕達は戻ります。おやすみなさい」


 俺は子供らしくペコリと頭を下げた。里長は、俺の態度に慌てていたが、何かを納得したようだ。


 ふむ、狙いどおりか。革命軍の奴らも、洗脳が解けたとはいえ、どこで何を言うかわからんからな。


 魔王はチカラを失って普通の人間の子供になったと、思わせておく方がよい。でなければ、またシードルは狙ってくる。


 だが、黒い髮の勇者と間違われたか……普通の人間の子供ではないな。魔王の波動を使ったことは、革命軍の奴らは気づいていない。洗脳が解けたときに、直近の記憶は、砕け散ったのだからな。


(しかし、左耳か……)


 洗脳の道具は、左耳に装着する魔道具ということか。直接関わらなくても、道具を使えば、教会へ出向いたことのない者でも洗脳できるだろう。


 シードルは、魔道具を大量に作り、それを他の誰かが、左耳に仕込ませているのだな。


 魔道具を使った洗脳は、その魔道具を破壊すれば解除できる。革命軍は、魔王軍の数倍の人数がいるのだったか。その数の洗脳を解いて回るのは、物理的に不可能か。


 それが必要になったときには、兵器製造の呪具に作らせるか……。左耳の魔道具だけを破壊する武器をな。




「カール、扉が〜」


「直すからちょっと待って」


 俺は、クゥが叩き壊した扉を復元した。なぜこんな下男のような仕事を……。クゥを睨んだが、もうすっかり忘れたかのように、シルルにぺっちゃりとくっついている。


 広場では、まだみんな、こちらの様子をうかがっているようだ。さっさと散ればよいのに、襲撃者も、里の住人と何かを話している。


 やがて、ポツポツと去っていった。




 夜が明けた。


 だが、やはり、シルルもクゥも爆睡中だ。つついてみたが、起きる気配はない。まぁ、こうなるだろうとは予想していたがな。


 外に出ると、里の住人が狩りの準備を始めていた。だが、昨夜の襲撃者の対応をしていなかった者達だ。つまり、俺の正体を知らない者達だ。



「おはようございます。もう準備ですか」


「あぁ、カールちゃんも早起きじゃないか」


「はい、あの、シルルは爆睡してまして……」


「そりゃそうだろう。里長から、今朝の狩りの手伝いはなしだと聞いているよ」


「えっ?」


「あはは、驚いたかい? カールちゃん、いえ、魔王カルバドス様」


 そう言うと、住人は彼らなりの敬礼をした。


「なぜそれを?」


「この里が、ただの倉庫なのはご存知ですよね。だが、その先の詮索はいっさいされないのは……」


 なるほど……。確か、襲撃者は、里長の命が鍵となっていると言っていたか。里長が死ぬと、隠された里が現れるとも言っていた。


 ふむ。ということは、里はこの場所にあるのだ。そう、この場所に、別の次元のこの場所に。


「心配ですか? それから、言葉は今までどおりでいいですよ。今の僕は、子供ですから」


 そう言うと、彼らの緊張がやわらいだような気がした。ポーカーフェイスが上手いようだな。


「いや、里長は心配はいらないと言っていたし、それに、俺達も……あ、いや……」


「ふふ、聞いていたのですね。いや、実際に見ていたのでしょう。昨夜は、助けに来る道をを里長が封じていたんですね」


「えっ……まさか、気づいていたのか」


 俺はあいまいな笑みを浮かべた。


 どこにシードルの耳があるかわからんからな。言葉にすべきことではない。



「とりあえず、狩りに行きましょう。クゥは起きると、すぐに腹が減ったと騒ぐんですよ」


「そうか、ふっ、しかし、本当に魔王なのか? あ、いや、変な意味ではないのだが」


「僕よりも、もう一人の方が、魔王っぽいですよ」


「魔王マルル様のことかな?」


「へぇ、知ってるんですね」


「魔王が討たれたと聞いたのに、魔王軍は着々と復興作業を続けていたから、魔王は二人いるんじゃないかと噂されていたからね。名前を知ったのは、昨日だったかな」


「なるほど、マルルの知名度が上がったんだ」



 俺は、数人の住人と共に、森の中へ入っていった。


 歩きながら雑談をしていたが、しばらく歩くと、魔物に取り囲まれていることに気づいた。


「上手く囲まれるように仕組んだんですね」


 そう言うと、里の住人は、ランタンのような道具を見せた。


「これで呼び寄せているんだよ。この光に照らされていると、俺達はザコな獲物に見えるようだよ」


「へぇ、狩りには便利な道具ですね」



 ザザッ



「来るぞ!」


 彼らは、剣を抜いた。


「カールちゃん、あまり血を出さないように急所狙いでよろしくお願いします」


「了解です」



 魔物は、一気に襲ってきた。なるほど、この場所で襲わせるように、場所も仕組んだようだ。


 この辺りは、全体を見渡しやすい。そして岩が多く、道が細くなっているため、魔物は岩に阻まれ、俺達の元へは、数体ずつしか通れない。


 あちこちに罠を張り、次々と仕留めていく単純作業だ。かなり、考え抜かれた狩りの手法だな。



「とても上手くできてますね。単純作業で、危険も少ない」


「あぁ、ずっと同じことを繰り返しているからな。だが、今朝はこっちの人数が少ないから、狩った獲物の収納ができない。ちょっと嫌な予感もするんだが」


「うん?」


「だったら、魔物を足止めして、魔法袋にさっさと入れればいいだろう。わざとおびき寄せようとしているくせに」


「あはは、バレたか。少数精鋭のときには、チャンスだからな」


 何か、いつもとは別の種類が現れるのを待っているようだな。ふむ、血の臭いが風にのって北に流れているが。


 俺は北の方を遠視してみた。沼地が広がっている。


「風下には、沼地がありますが?」


「へぇ、遠視か。カールちゃん、強大なチカラは失っても、いろいろとできるんだな」


「あはは、えーっと、遠視って特殊な術でしたっけ?」


「いや、俺もできる」


「へ?」


「あはは、その顔って〜」


 なぜか、俺を見て彼らは笑っていた。ふむ、間抜けな顔を見せたかもしれんな。まぁ、構わぬが。


 この里の住人は、笑いを忘れてはいない。里長の功績だな。仕事も、自ら積極的にやっている。イヤイヤやっているわけではない。活気があるよい里だ。



 ふっと風が変わった。


 住人達も即座にそれに気づいたようだ。突然、暗くなった。ふむ、ワープか。


「ゲッ? ダイルが来ちまった」



 ダダーン!!



 ものすごい地響きだ。奴が、空から降ってきたような状態か。巨大なワニだ。この地のヌシかもしれんな。


「ヌシですか?」


「あぁ、まずいな」


「狩るとマズイんですね」


「いや、下手すりゃ、こっちが狩られる」



 俺は、準備をすませてあった絶対防御を発動した。俺と、そして他の住人達にも、バリアを張った。


「えっ? カールちゃん?」


「防御バリアですよ。これで狩られることはありません。追い返しますね」


「いや、できれば倒したい。コイツがいることで、生態系が崩れてきたんだ」


「ヌシじゃないんですか」


「今はヌシになっているが、ある日突然現れたんだよ」


 ふむ、隠れ里を探そうとして、いや、潰そうとして妙な魔物をこの地に放ったのか。


 ワープができる魔物か。アイツが作り出したのかもしれんな。その地に長く住み続けることで空間把握に長けるようになる魔物もいるが、最近現れたのなら違う。もともと持っている能力だ。


 俺は、巨大なワニに、シードルの痕跡がないか、慎重に探った。だが、特に、何かの魔道具が埋め込まれているわけでもなさそうだ。


 魔王軍が見つけたときに、自分に繋がることを危惧したのだろうな。ふむ、気にせず倒せばいいか。



「ダメだ、やはり全く効かない」


 住人達の攻撃は、ワニの硬い表皮に弾かれていた。そして大きな口で、人間を丸呑みしようとしている。まさしく、害獣だな。


「じゃあ、僕がやってみてもいいですか」


「カールちゃん、頼む」


「了解です」


 俺は、剣に風魔法を付与した。そして奴に向かって、剣を振った。



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