82、変装して新たな旅に出る
「じゃあ、シルル、楽しい旅をしようか」
「ん? 何なに?」
「新しい街の噂話をふりまく旅はどう?」
「えー、つまんない。難しい話だもん」
「じゃあ、変装して探偵ごっこでもする?」
「わぁ〜面白そう。何をするの?」
「そうだな、困りごとを解決しますってどう? ほとんどが魔物討伐だろうけど」
「すご〜い! 勇者パーティみたいだよん。あ、ちょっと違うかな」
「何でも屋みたいな感じで、報酬をもらう商売としてやろう。タダだと警戒されるから、お金を取る方が怪しまれないと思うよ」
シルルは、目を輝かせた。なんだか1ヵ月ほど俺が眠っている間に、随分とマルルに似てきたような気もするが……。
まぁ、遊びを知らなかった子供が、こんな風にキラキラと楽しそうな顔をするようになったことは、喜ばしいことだがな。
クゥ〜ッ!
赤ん坊ドラゴンが、何か言いたげだな。だが、おまえを連れて歩くと、変装しても、教会の連中にすぐにバレてしまうじゃないか。
「クゥは、留守番だ。いくら変装しても、おまえがいるとバレる。そんな珍しいドラゴンを抱いているのは、シルルしかいないからな」
「うーん、そうだね。クゥちゃん、旅先ではクゥちゃんを食べようとする種族もいるかもしれないから、お留守番だよ。いい子で待っててね」
クゥ〜、クゥーッ!!
怒っても知らん。シルルに甘えるだけのために、俺が与えた成長エネルギーを、すべて人化に使うおまえが悪いんだ。普通に成長していれば、今頃は、普通に人化ができる大人になっているはずだがな。
(うん?)
赤ん坊ドラゴンは、シルルの腕から飛び降りて、光り始めた。いつもの人化よりは時間が長い。ふむ、溜め込んでいた成長エネルギーがあったのか。
ドラゴンとしてのサイズは変わらないが、何かの成長を促しているようだ。コイツ、シルルの腕の中で甘えることが最優先なのか。
そして、人化を始めた。いままでの2歳児ではない。4〜5歳児に見える。服も身体に合わせてサイズが変わった。服屋の婆さんの腕の良さがよくわかる。
「わっ、クゥちゃんがおっきくなった」
「ママ、これなら、クゥも一緒にいけるよね?」
「話し方も、大人っぽくなってる。クゥちゃん、えらいね! すご〜い。あっ、ママじゃなくてお姉ちゃんでしょ」
「はーい、お姉ちゃん」
赤ん坊ドラゴン……いや、チビっ子ドラゴンは、デレデレしながら、シルルにまとわりついた。
行動は何も変わっていないじゃないか。シルルに頭を撫でられて、嬉しそうだ。
見た目は、サイズだけではなく、随分と変わったな。シルルに似せている。髪もシルルと同じ白くツヤのある肩までの髪だ。2歳児の姿では髪はほとんど生えていなかったが、シルルの真似をしたのだろう。
髪質を真似たから、姉弟に見える。この髪型は、シルルが妹が欲しいと言っていたからだな。中性的な顔立ちになっている。服装によっては、女の子にも見えるだろう。
「カール、これなら大丈夫だね」
「うーん……クゥ、その姿を人前でずっと維持できるのか?」
「できるもん!」
「赤ん坊ドラゴンだとバレたら、シルルを危険にさらすことになるんだぞ」
「ぼくが守るもんっ!」
ふむ、必死だな。まぁ、それくらいの覚悟があるなら良いか。シルルも、コイツと離れると不安だろう。
「何かやらかしたら、すぐに留守番だぞ」
「やらかさないもん!」
「カール、クゥちゃんも一緒がいいよん。あ、アークさんは?」
「アークさんは護衛だっただろ? それに、やはり目立つから、別行動の方がいいよ」
赤い髪の勇者も、頷いていた。新たな街に人を集めるには、手分けする方がいいからな。
「カール、俺は、勇者の家系を回ってみるよ。とりあえず赤からだが、他の家系も行ってみる。きっと、俺が体験したことを知れば、他の家系も協力してくれるはずだ」
「洗脳されていなければ、ですけどね」
「その点は上手くやる。任せてくれ」
すると、マシューが口を開いた。
「アークさん、宿場町から広めてください。あの町には、仕事のないゴロツキが多すぎます。仕事があれば、彼らだって、立ち直ると思うんです」
「あぁ、わかった。マシューも手伝ってくれ。あの町で生まれ育ったんだから、知り合いも多いだろう」
二人は互いに頷き合っていた。
「じゃあ、僕達は、変装して出発だね。あー、制服にしようか」
「うん? 制服?」
「そう、探偵らしい感じでさ」
「クゥちゃんの分もある?」
「あぁ、みんなお揃いにしよう。僕も髪を隠す方がいいから、フードつきにしようかな」
俺は、部屋に転がっていたマルルのおもちゃを拾った。これは、着せ替えロボと言っていたか。材料は……。
「シルル、ここのガラクタの山は何?」
「それは、マルルちゃんの宝物だから、ガラクタじゃないよん」
「うーん、このロボに材料を入れたいんだけど、ゴミはないのかな」
「それなら、こっちにきて」
シルルに連れられて、地下の秘密基地を移動した。
「ここが材料置き場だよん」
彼女は、ガランと広い部屋を指差した。何もないじゃないか。だが、中に入って、少し目眩がした。壁に見えたものは壁じゃない。すべてがゴミだ。生ゴミが発酵した臭いがする。
「その着せ替えロボの材料は、これかな?」
「あぁ、しかし、臭いな、この部屋は……」
「うん、カールが寝てた、お花栽培ロボに与える肥料を作ってるみたい。カールが起きたらお花を栽培するって言ってたよん」
「そう……」
俺は刺激臭に耐えながら、木の皮が積み上げてある場所から適当に材料を集めた。
マルルの着せ替えロボは、魔王軍の祭で使っていたおもちゃだ。確か、祭用の衣装が欲しいと騒ぐから、適当に作ったのだったか。
ただ、使い勝手はよい。デザインを念写すれば、あとは着せ替えたい人に向けて、スイッチを押すだけだ。
「わぁ! クゥちゃん、かわいい」
「ママもかわいいよ」
「ママじゃないでしょ」
「お姉ちゃんもかわいいよ」
クゥは、わざとシルルをママと呼んでいるのか? まぁ、気にするだけ損か。
俺達は、ダークグレーのフードつきのパーカーと、黒ズボンで統一した。シルルは尻尾の隠れる、ふわっとした黒スカートにした。そして、黒のショートブーツだ。
人間がよく着ているような感じだが、お揃いにしたことで、きっと目立つだろう。
「さぁ、行こう。移動は、これを使うか」
「それは、マルルちゃんのパラソルロボ。勝手に使うと叱られるよん」
「足元に落ちていたんだから、構わないだろう」
ペンのような小さなパラソルを、シルルとクゥのベルトにつけた。俺は不用だが、一緒の方がいいか。
これは、ワープの魔道具だ。と言っても、たいした距離は移動できない。だが、外にはシードルの光の柱がある。だから、魔道具を使う方が、移動は安全だ。
俺達は、砂漠の集落へと、階段を上がった。時間の感覚がなかったが、外は真っ暗だった。
「シルルちゃん、気をつけるんだよ。クゥちゃん、良い子にするんだよ。カールとケンカしないようにな」
俺達は、マシューや赤い髪の勇者に見送られて、旅に出発した。パラソルロボは、安全のため、俺にしか作動できないようにした。
そして、南部の猟師町へと移動した。
この辺りは、まだ夕方か。
「わぁ、すっごく緑が濃い森だねー」
「ママ、ここ、美味しそうな魔物がいっぱいいるよ」
「クゥちゃん、ママじゃなくてお姉ちゃんでしょ」
「はーい、お姉ちゃん」
「カール、なぜここなの?」
「ちょうど、ここが新しい街の真南なんだ。近い場所の方が行きやすいでしょ」
「そうだね、うん」
「それに、食いしん坊の二人には、嬉しいんじゃないかな。猟師町だから、肉はたくさんあるよ」
「わぁぉ! いいねー」
シルルは、クゥとハイタッチをしていた。やはり肉が好きだな。
ここ、猟師町では、勇者の家系の勇者になれない者が、多く隠れ住んでいると噂されている。
俺は、随分前からその噂を確かめたいと思っていた。なぜ、こんな貧しい町にいるのか……。そして、何より、神の捜索から逃れることに成功しているのか、その秘密を知りたいと思っていた。
緑の濃い森を進むと、ほんの十ほどの小屋が集まる場所を見つけた。こんなにも少ないとは思わなかった。
「カール、すごい、丸太ばかりで作った小屋だよ」
「そうだね、丸太小屋だね」
勝手に町に入ったためか、敵意を向けた数人に、一瞬で囲まれた。ほう、優秀だな。
「おまえら、何者だ? なんだ? 戦乱の孤児か」
シルルは、意味がわからないようだ。孤児がわからないのか?
「こんばんは。僕達は、探偵を始めたんです。お困りのことがありましたら、有料ですが解決しますよ」
「へぇ、面白い商売だな。何でも屋か」
「まぁ、そんな感じです」
「ふぅん」
彼らは、俺達が子供だからか、警戒を解いた。いや、クゥが警戒を解かせたのか。生まれながらの特技だな。
クゥは、彼らをジッと見つめていた。サーチをしているのだろうが、見た目には、不安げに見える。シルルに構ってほしいときに見せる顔だ。
「そのチビもか?」
「この子は、私の弟なの」
フードをかぶっているが、シルルに似せた髪色は、説得力がある。彼は、俺の方を向いた。俺もフードをかぶっているが、髪色は黒く変えてある。普通の人間に見えるだろう。
俺はフードを外した。
「坊やは兄弟じゃなさそうだな」
「はい、このチビは、たまに僕のことをパパと呼ぶけど、友達です」
「親は?」
「僕とチビにはいません。彼女には、母親はいるはずだけど行方不明です」
「なるほどな。探しているんだな」
「いえ、神都付近にいるのはわかってます。今は旅をしているだけです」
「そうかい。まぁ、もう夜になる。今夜はここに泊まればいい。頼みたい仕事がある奴もいるかもしれん」




