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81、作戦開始!

 マルルは、兵器製造の呪具量産版を抱えて、転移魔法陣からどこかへ消え去った。念話で指示したのだろう、何人かの配下もその後に続いた。


 温泉街に向かう前に、キチンと廃材を拾いに行っていればよいが……まぁ、任せておけば大丈夫だな。



「カルバドス様、ご指示を」


「なんだ? ゲイン、俺の指示が必要か?」


「はい、マルル様は家出するとおっしゃって……後のことは、カルバドス様に指示を仰ぐようにと」


「は? マルルが家出だと?」


「まぁ、城には戻らないということだと思いますが」


「さっき、兵器製造の呪具を取りに行っていたではないか」


 すると、魔導士ゲインは、困惑したような表情を浮かべた。ふむ、俺が眠っていた間に何かあったようだな。


「おまえの記憶を見るぞ」


「はっ!」


 俺は、配下の頭の中を覗いた。あらかじめ断りを入れねば、コイツのサーチは面倒だ。



(なるほど、シードルか……)



 シードルは、俺の死体をこの1ヵ月近くずっと探しているようだ。俺が何者かに化けていることも想定し、転移魔法を使うと、転移先では必ず光のサーチが降り注ぐようだ。


 だから、マルルは、地下に転移魔法陣を作ったのか。



 この地下の転移魔法陣からの移動先は、それぞれの地下のようだ。そして階段を使って地上に上がっているのだな。


 アプル村は、マシューの家の地下の貯蔵庫に、転移魔法陣を繋げたようだ。魔王城は、マルルの地下倉庫か。宿場町はマシューの宿屋の地下の酒の貯蔵庫ということか。


 砂漠の集落は、この場所と直接繋がっている。階段を上がれば湖の近くに出るようだな。


 そして、大胆にも、神都にも繋いでいるようだ。スラム街かと思ったら違う。まさかの教会の礼拝堂だと? シードルがいつも覗いている場所じゃないか。



「礼拝堂は、大丈夫なのか?」


「私も驚きましたが、マルル様は一番見つからない場所だとおっしゃって……。ここから神都へ転移すると、礼拝堂の地下の泉の広場に着きます」


「は? 広場?」


「はい、信者が礼拝堂に集まるときに、休憩所としても利用する水場です。聖水の泉があります。ここで、けがれを落としてから、礼拝堂に入るようです」


 そんな場所に……マルルは、石像を置いているようだ。その石像で、転移魔法陣の起動をしているのか。


 しかも、誰の目にも見え、多くの人々が触れている。だが、確かに、木を隠すなら森の中、か。


 その石像は、マルルが作った小さな天使像だ。堕天使像というべきか。泉の広場には、いくつもの天使像が飾ってある。そこに、紛れ込ませたということか。


 転移魔法陣が起動すると同時に、幻影魔法でも発動するようにしてあるのだろう。確かに、俺がありえないと思ったということは、シードルも気づかぬだろう。



「シードルは、魔王軍に対しては直接何も言ってきていないのだな」


「はい、不気味なほど、以前のままです。戦後復興の片付けも、後は中央部の一部を残すのみです」


「それが終わると、排除するのだろな」


「マルル様の未来予知によれば、神はカルバドス様の死体回収にこだわりがあるようで、それを諦めるのが、約1ヵ月だろうとのことでした」


「そろそろその期限か」


「はい。ですが今もまだ、徹底的にカルバドス様の魔力の痕跡を探しているようです。我々が外に出ると、あの光の柱を使ってサーチ魔法が追ってきます。あの白い石碑は、城の付近はすべて排除しましたが、それ以外は、あえて放置してあります」


「そうだな、石碑を排除すると、その付近に俺がいると教えるようなものだからな」


「カルバドス様は、ずっと眠っておられたから当然ですが、神は、魔王の痕跡を見つけることができないようです。そして、魔王軍は相変わらず、魔王が家出したと捜しています」


「ふむ、そうか。教会の信者はどうだ? 俺の行方不明は知られているか?」


「かなり暴走していますね。はい、彼らは、革命軍が魔王を討ったと主張しています」


「まぁ、事実だからな。勇者の街は、今は革命軍の拠点だ。そして、その総長がシードル。だが、総長が神だとはわかっていないようだ。そのあたりを崩すと面白いことになる」


 魔導士ゲインは、首を傾げた。


 シードルを殺せば次に何が起こるかを想定して、事前に潰しておく必要がある。シードルなきあと、この世界が再び崩れないように、完璧な準備を整えることにしよう。



「神父はどうしている?」


「神殿教会の神父なら、『教典教』の教祖となり、砂漠の集落で、毎日旅人の安全を祈っているようです」


「そうか。配給の仕事をさせていた野盗は、今も仕事をさせているな?」


「えっ? あ、はい。そのはずです」


「シードルを引きずり下ろし、あの神父を神格化させようか。民の心を、シードルから引き剥がす」


「は、はっ」


 俺の意図を理解しようと、配下は必死のようだ。魔導士ゲインだけでなく、まわりで聞いている側近も俺の話に集中しているのがわかった。



「魔王カルバドスが命ずる。砂漠に神都よりも巨大な街をつくれ。新たな神を迎える街だ。精霊どもを捕まえて、砂漠を昔のような緑豊かな土地にする」


「はっ!」


「ただし、街づくりは、基本的には野盗達にやらせる。戦乱で何かを失った者達を集めよ。住むところがない者、仕事のない者が、新しい街へ集まりだすと、あとは放って置いても、勝手に増える」


「貧民の街ですか」


「あぁ、新たな希望の街だ。街づくりの資金は、『教典教』の信者が出していると噂を広めよ。ついでに魔王マルルの名前もな」


「なるほど、面白いですな。金があり人が集まる所には、さらに金と人は集まります。マルル様もいっそのこと、本当に魔王でよろしいかと、ふっふっ」


「あぁ、魔王は実は二人居たということでも構わない。面白そうな話の方が噂は急速に広まるからな。さぁ、砂漠化した地の復興だ。この世界で最も活気のある街にするぞ」


「はっ!」


 魔導士ゲインは、ニヤリと楽しげに笑った。配下達に指示を与え、それぞれ、この場から消えていった。





「あれ? カールしかいないの?」


 シルル達が戻ってきた。俺の配下の何人かは残っているが、マルルのことを言っているのか。


「うん、みんな仕事に戻ったよ」


「カール、靴を見つけたんだが、ちょっと大きすぎたかもしれない」


「マシューさん、ありがとう。サイズは魔法で調整できますから大丈夫ですよ」


「あれ? なんだか、カールの雰囲気が変わったな。何をしたんだ?」


 さすがに勇者は鋭いか。


「アークさん、体内のマナを整えました。以前よりだいぶ良くなりましたよ」


「強くなった、のか?」


 俺はあやふやな笑みを浮かべた。


 マシューから受け取った靴をはくと、確かに少し大きい。だが、まぁこの程度なら構わないか。



「なんか、カールがニヤニヤしてるよん。悪いこと考えたんでしょ」


 シルルも鋭くなったな。まぁ、あえて気づかれるように表情を作っていたが。


「うん、考えた。ちょっと面白いこと」


「何なに?」


「新たな神をつくったらどうかなって」


「へ? 神様をつくるの?」


「そう、あの神父さんを神格化したら面白くない? 大きな『教典教』の教会もつくれば、いま、神シードルのやり方に困っている人の受け皿になる」


「なんか、難しい話?」


「カール、確かにあの神父さんは素晴らしい人だけど、そんなことができるのかい?」


「マシューさん、できるのか、じゃなくてやるんですよ。新しい始まりってワクワクしませんか?」


「いや、でも、簡単なことじゃないよ?」


 俺は、ぐるりと見回した。赤い髪の勇者は好意的にとらえている。マシューも、今の神は異常だと言っていた。シルルは無関心か。


「カール、何かをするにはお金がかかるしさ。砂漠の集落は、教会を作るには小さすぎるよ」


「アークさん、あの集落ではなく、別の場所に作るんですよ」


「大きな教会を作るほどの空きがあるのは、南部だよな。だが、南部は田舎だから、教会を作っても人が集まるにはどうだろう」


「マシューさん、南部じゃなくて、中央部に作ります」


「中央部? 勇者の街は今はよくわからない連中の街になっているし、戦乱でいろいろなものが消えたから、大きな街はないんじゃないかい? まさか、魔王城に?」


「あはは、まさか魔王城こそ、人が寄り付けない地形になってますよ。この広大な砂漠に作るんです。もともとたくさんの街があったが戦火に焼かれた。だから、ここをよみがえらせることが、本当の意味での復興になります」


「ええっ? そんなこと……」


「精霊に力を借りれば、草木を生やすことができます。そして、街づくりは、仕事や住む場所のない人を中心にやってもらいます」


「そんなお金を、カールが、いや、魔王様が?」


「ええ、『教典教』の信者が出しますよ。そう、広めてもらいたいんです。こういう噂話は、人間の方が得意ですよね」


 赤い髪の勇者が、ニヤリと笑った。


「なるほど、新しい街に行けば仕事も住む所もある。そして、それを作らせているのが、『教典教』の熱心な信者ということか。それなら、神父を招くために大きな教会を建てることも、頭のおかしな金持ちの道楽に見えるな」


「アークさん、ただの金持ちでお願いします」


「あはは、わかった。だが、頭のおかしな狂信的な信者の方が、噂話としては広がるんじゃないか」


「そうですね。カール、その方が、噂話になりやすいんじゃないかい?」


「じゃあ、お任せします」


「責任重大だな」


 マシューは、神妙な顔をして頷いた。



「ねぇ、カール、私はー? まだママに会えてないよん」


「シルル、それはまだ無理なんだ」


「えー、私、アプル村で待ってるの? 嫌だよん」


 シルルは、また捨てられる恐怖か……。


(ふむ、それなら……ふっふっ)



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