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6、白い『魔力だんご』の効力

 俺がスープを飲み終えたとき、外がガヤガヤと騒がしくなった。窓から外を見ると、人だかりができている。俺にスープをくれた女性が慌てて、その人だかりの中に飛び込んでいった。


(何があった?)


 俺は、遠視魔法を使った。人だかりの中には、数人のうずくまる人間がいた。かすかに血の臭いがする、怪我人か。


 スープをくれた女性が泣き叫んでいる。怪我人はあの女性の知り合いか。人間にスープの施しを受けたままでは、俺のプライドが許さない。ちょっと助けてやるか。


 俺は魔法袋を腰に巻き、ベッドから立ち上がった。


(チッ、身体が重いな)



 俺は、自分が作った呪具の性能の良さにイラつきながら、ヨロヨロと、寝かされていた部屋から居間のような部屋へと移動した。その先に、この家の出入り口の扉がある。


 すると、俺の姿に気づいた老婆が、慌てて駆け寄ってきた。さっきの女性と似ている。あの女性の母親か。


「坊や、裸足で! それにまだ動いちゃいけないよ。生死をさまよったんだからね」


「でも、外で、俺に……僕に、スープをくれた女性が泣いています」


「あぁ、運が悪かったんだよ。娘の婿だ。戦乱で負けて苛立っている魔族にやられたんだよ」


「魔族? 魔王軍の?」


「いや、違うよ。魔王軍が勝ったんだ。魔王軍に敵対していた魔族が、腹いせに弱い者いじめをしているんだよ」


(なんだと? まだ完全に制圧できていないのか)


「じゃあ助けないと」


「坊やの気持ちは嬉しいけど、呪毒を受けているんだ。もう助からない。呪毒を受けた者が死ぬとアンデッドに変化してしまう。だから、死ぬ前に、生きたまま焼くしかないんだよ」


(は? 人間は、呪毒くらいで死ぬのか?)


「僕が、診てみます。呪毒ならたぶん治せますから。僕は、この家の人に助けられたんですよね?」


「坊やが? やはり、坊やは……いや、今はそんなことを言っている場合じゃないね」


 老婆は、俺を抱きかかえた。


(なぬ?)


 そして、そのまま、人だかりの方へと駆け出した。



「レイシー、この坊やが診てくれるって言ってるよ」


 あの女性は、レイシーという名なのか。パッとこちらを見た目は、泣きはらして真っ赤だった。だが俺を見て、頭を横に振っている。


「だめよ、その坊やは、彼が連れてきたんだから。坊やを無事に親元に返そうって彼が……うっうっ」


「でも、診てくれるってさ」


「母さん、坊やは、さっき目覚めたばかりなんだよ? まだ動いちゃいけない。無理させないで。母さんが抱えないと歩けないくらいでしょ」


 確かに、ヨロヨロだが、これは呪具のせいだ。俺は完全に復活している。意識を失う前よりも元気なくらいだ。


「僕は、大丈夫です。あの、降ろしてもらえますか」


「あぁ、そうだったね。坊やは軽いから気づかなかったよ」


(老婆のくせに、元気な女だな)



 俺は、うずくまる人間に近寄っていった。そこには三人の男がいた。皆、手足が変色し、ブルブルと震えていた。呪毒の爪でひっかかれたのか、流血が止まらない……。わりと強い毒のようだ。


 傷口を塞ぐと、さらに毒がまわってしまう。俺は、毒消し魔法を唱えた。だが、その効力は低い。やはり、魔力がショボすぎるのだ。


「おお〜、すごい! 効いているぞ!」


 この程度で、取り囲んだ人間達は大騒ぎをしていた。確かに、彼らの手足の変色は無くなったが、まだ毒は消えていない。


 俺は次に、呪いを消すために、細心の注意を払って、極々弱い闇魔法を放った。呪いは闇属性だ。だから同じ程度の闇魔法をぶつければ相殺されて消すことができる。


「す、すごい! 呪いの霧が消えた!」


 確かに彼らを包んでいた弱い呪いの霧は消えた。だが、俺の闇魔法を浴びた彼らの生命エネルギーが、ガツンと下がったようだ。


(げっ、マズイな……あ、団子を食わせるか)


 俺は、手早く『魔力だんご』をこねた。これは人間の姿でも、特に制限なく作ることができるようだ。ということは、やり方を知れば、人間にでもできることなのか?


「あの、これ、食べてください。ポーションのような効果があります」


 俺がそう言って、手のひらを差し出した。手のひらには白く輝く団子が乗っている。


 男達は、見慣れないものに、一瞬戸惑っていたようだが、老婆が俺の手から『魔力だんご』を受け取り、彼らの口に放り込んでいった。


「なんだ? 団子か? ちょっと甘いな。あれ? 身体の中を何かが駆け巡ったぞ」


 白い『魔力だんご』を食べた彼らは、俺の闇魔法でダメージを受けた生命エネルギーも回復し、毒も消え、怪我も完全に治ったようだ。


 これなら、初めから『魔力だんご』を食わせれば、よかったんじゃないか? 俺は、試してみたい衝動を必死に抑えた。


(いま、俺が呪毒を使ったら、人間じゃないことがバレる)



「ありがとう! あれ? こんな子、この村にいたか?」


 元気になった男に、肩をバシバシと叩かれて、俺はよろめいた。


「ちょっと、何してるんだい! 坊やは、三日三晩、生死をさまよって、さっきやっと目覚めたばかりなんだよ。それなのに、あんた達を助けようと、ヨロヨロと起き上がってきてくれたんだ」


 元気な老婆が、俺の肩を叩いた男を怒鳴りつけていた。


「あ、もしかして俺が拾ってきた坊やかい? ありがとう、命の恩人だ」


 レイシーに抱きつかれていた男が、俺の方へ近寄ってきた。そうか、俺はこの人間に助けられたのだな。まぁ、そのまま放っておいてくれても、別に問題はなかったのだが。


「いえ、僕の方こそ、助けてもらってありがとうございました」


 俺がそう言うと、俺を拾った男だけでなく、元気な老婆やレイシーも、うんうんとにこやかに頷いていた。


(ふむ、礼を言って正解だったようだな)


 俺は、別に人間に媚びる気はないが、この姿で各地を調査するには、完璧に人間の言動を身につけねばならない。


 言葉遣いも、これでよいのか? もう少しくだけた話し方の方がこの年齢らしく見えるのだろうか。



「坊や、かなり魔力を使わせてしまったね。大丈夫かい?」


 俺を拾った男は、心配性なようだ。


「はい、たくさん寝ましたから大丈夫です」


「母さん、ほんとに坊やの魔力値は大丈夫なのか?」


(とことん、心配性だな)


「大丈夫じゃないね、半分もないよ。だけど、回復はとても速いようだよ」


 この老婆は何者だ? 俺はサーチ魔法を使おうかと思ったが、サーチ能力がある者は至近距離でサーチされると気づく。そもそも普通の人間のガキが、サーチ魔法を使うかがわからない。


(うーむ、口を使うか)


「あの、お婆さんは、何者なんですか? 僕の魔力値が見えるんですか」


「あー、怖がらせちまったかい? 半魔なんだよ」


「半魔? 人間と魔族のハーフなんですか」


「あはは、いや、人間と魔物のハーフだね。この辺りには、人に化ける魔物がいるんさ。この村は、人間の村だけど、あたしみたいに望まれずに生まれた者も多いんだよ」


(人間を孕ませる魔物がいるのか?)


「じゃあ、魔物の能力で、僕の魔力値が見えるんですね」


「ゲージにどれくらい溜まっているかがわかるんだ。よく言われる能力値の数値はわからないね」


(あぁ、それなら魔物の多くが持つ能力だな)


 だが、そのことを人間のガキが知っているのだろうか。俺は、不用意な返事をしてしまわないように、気をつけねばならない。


「ところで、坊やの名前は?」


「俺……僕は、カ、ルバド……」


(し、しまった!)


 俺は慌てて両手で口を塞いだ。俺の言葉を聞いたみんなの表情が驚きに染まったのがわかった。だが、待て。俺の名前は……魔王の名前は、こんな田舎の人間にまで知れ渡っているのか?


(まさか名を聞かれるとは)


 そうだ、人間は名前を呼ぶ。当然、聞かれることを想定して、適当な名前を考えておくべきだった。まぁ、仕方ない。ここを去るか。


「坊や、まさか、ドール家の子か。だからか……驚いたが、納得したよ。あ、家の名は伏せているんだな」


「いえ、あの……僕は……」


(バレていない? ドール家ってなんだ?)


「もう! カールを困らせちゃいけないよ。しかし驚いたね。長く生きているが、勇者の家系の子に会ったのは二度目だよ」


「えっと……」


(勇者だと? 俺は魔王だ! あっ、あの、ドールか)


 ドールという名は、一度聞いたことがある。魔王城に攻め込んできた勇者一行が、俺と対峙したとき、なぜか名乗っていたな。


 あの後、俺はその名を調べたのだ。ドールは、神の人形という意味を持つ名前だった。勇者の家系に使われている。

 確か、勇者の家系は多く、それぞれが、自分達こそが正統な家系だと主張し合っているのだったか。


 だから、勇者の街は、神シードルが俺を討つために築いたのかと勘ぐった。結局は、わからなかったのだったか。


「大丈夫だよ。家の名前のことは聞かなかったことにするさ。カールも、名を聞かれたときは気をつけるんだよ」


 俺はコクリと頷いた。


(カールって、俺のことか?)


「でも、名前の響きが良いじゃないか。カール・バ・ドールって、騎士のような名前だな」


 俺を拾った男が、思いっきり聞き間違えている。なるほど、悪くない。その名前でいくか。


「アンタ、騎士じゃなくて、勇者だよ。まぁ、もう勇者も不要だから、カールもこれから大変さね」


 元気な老婆が、俺を哀れむような目で見ていた。何が大変なのか、さっぱりわからない。勇者の街は、人間にとって英雄の街であることに、何ら変わりはないはずだ。


「僕が大変、ですか?」


「まだ知らないのかい?」


(だめだ、全くわからない)



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