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54、魔王、いったん戻る

「アークさん、クゥちゃんの目の前に、それは出しちゃダメだよっ」


「あっ……すっかり忘れていた」


 赤ん坊ドラゴンは、鼻をヒクヒクさせている。ふむ、どう行動するかな。俺は少し興味がわいた。


 トカゲなら、自分の親だろうが気にせず食う。だが、ドラゴンはふたつに分かれる。


 それによって、コイツのこれからの育ち方が変わるだろう。親を殺されたと怯えて肉を避けるか、もしくは親を殺した相手を食い殺そうとするか。


 赤い髪の勇者が、魔法袋から出したから、勇者が殺したと判断するだろう。


(くっくっ、面白くなってきた)



 クゥ〜ッ!


 だが、赤ん坊ドラゴンは、俺の予想を裏切った。


 ボゥオッ


 とっさに、俺は水魔法を放った。



「クゥちゃんが怒った!」


「ひゃ〜、カール、なんとかしてくれよ」


「もう、なんとかしましたよ。危うく、肉が炭にされるところでしたね」


 赤ん坊ドラゴンは、自分の親の肉を消し炭にしようとしやがった。敵だと感じたのか? 懐かしいニオイがしたはずだがな。


「いや、クゥちゃんをなんとかしてくれよ」


「そんなの知りませんよ。でも、別にアークさんを攻撃したわけじゃないですよ。その肉を焼いてやろうとしたんじゃないですか。火力調整は失敗したようですけど」


「へっ? そ、そうなのか?」


 赤ん坊ドラゴンは、炎でニオイが消えたのか、炎で焼けた肉には興味を示さなくなった。


 シルルにすり寄って、自分の腹をペチペチ叩いて、腹が減ったアピールをしている。ドラゴンとしてのプライドはないのか?


 コイツの行動はよくわからない。いや、なるほど、そうか。嫉妬かもしれんな。シルルを母親だと思い込んでいるから、自分の親のニオイの肉は、自分の兄弟だと勘違いでもしたか。



「クゥちゃん、お腹ペタンコだね。お腹減ったんだね」


 クゥ〜、クゥ〜


「カール、クゥちゃんのごはん出して〜」


「はいはい」


 見ていた集落の人達は、呆気にとられている。俺は、鳥系魔物を魔法袋から出し、解凍してシルルに渡した。


「じゃあ、皆さんは、湖の方へ」




 そして、小さな湖のほとりで、集落の住人を集めてバーベキューが始まった。


 みんな最初は遠慮していたが、肉の焼ける匂いに我慢できなくなったようだ。赤ん坊ドラゴンが生焼けにしていたトカゲの肉は、きれいになくなった。


 集落にわずかにあった野菜も提供された。集落の住人達は、笑顔だった。おそらく、腹いっぱいに食べることなどないのだろう。胃が小さくなっているのか、あまり量を食べられないようだ。



「家ができて、美味いものを腹いっぱい食べられて、こんな幸せなことはない」


「起きたらすべて夢だったなんてことになるんじゃないか」


「あはは、夢でもいいさ。楽しい時間なんだから」


 住人達のこんな声を聞いていると、俺は自分の甘さを痛感した。野盗も生きるために仕方なく盗んでいるのかもしれない。根本的に、仕組みを変えなければならないな。



「夢じゃないよ、現実だよん。でも、これからのごはんをどうするか、考えなきゃだねー」


「それなら、僕にいい考えがあるよ」


「ん? カールに? ごはんを出せる神具があるの?」


「あはは、シルル、それはさすがに無理だけどさ。魔王軍を利用すればいいんだよ」


「うん? 意味わかんない」


「食料事情が悪い所への配給は、彼らの仕事でしょ。野盗に奪われたことを知らないんだよ。だから、知らせればいいんだ」


「どうやって?」


「まぁ、任せてよ」


「ふぅん。うん、いいけど、危ないことはしちゃダメだよ」


「はいはい」




 俺は、まわりを見渡した。ふむ、まだ終わりそうにないな。だが、コイツがいればこの集落は安全だ。


『おい、いつまで遊んでいるつもりだ?』


 俺は呪具に念話を飛ばした。すると、近くにいたペラペラな1体がふわふわとやってきた。


『まだ、未完ですわ。朝くらいまではかかりそうですわ』


『そうか、この集落の住人には愛想を振りまいておけよ? 彼らがおまえの作品を維持管理するんだからな』


『あら、まぁそうですわね』


 そう言うと、数体がふわふわとやってきた。そして、オブジェのまわりを舞っている。


「わっ、妖精さんが来た!」


 集落にいた子供が呪具に気づき、手を振っている。呪具も、ニコニコしながら手を振り、ふわふわと舞ったあと、どこかへ飛んで行った。


 住人達は、好意的だな。かわいい、きれいと、褒めている。だが、呪具は自分の姿を褒められても何とも思わないようだ。作品を褒められると大騒ぎするがな。


『俺は、ちょっと出掛ける。その間は、おまえが集落を守れ』


『えー、どうして私がそんなことを?』


『野盗がおまえの作品を壊しに来るぞ。俺は不在時にはどうにもできん』


『まぁっ! そんなことは絶対にさせませんわ』


『殺すなよ。血で汚れるぞ』


『かしこまりました』


(これでよし)



「アークさん、僕、ちょっと出掛けるので、シルルとクゥのこと、お願いできますか?」


「どこに行くんだい? もう夜だよ?」


「今夜はここに泊まりますよね? 魔道具が作業している間はこの集落は安全なので、ちょっと魔王軍にここの状況を説明してきます」


「あー、宿場町にはたぶん常駐してると思うけど、かなりの距離があるが……転移か」


「はい。魔王軍の人と会って話したら戻ってきますから」


「まさか、捕まったりしないよね? カール」


「大丈夫だよ。僕より弱い人のとこに行くから」


「そっか、じゃあ、安心だね。ここで待ってるよん」


(一応、先にあっちに行くか)


 もしかすると、赤い髪の勇者は俺の転移先を追うかもしれんからな。


「じゃ、行ってきます」




 俺は、転移魔法を唱え、宿場町の奥へと移動した。目の前には、ゴミの山だ。兵器製造の呪具を取り出した。


『あらぁ〜、なんだか、あらぁ〜』


「さっさと廃材を食え。時間がない」


 俺が、イライラしていると感じたのか、呪具は、口だけのバケモノに姿を変え、廃材を吸収し始めた。


 ほんの数日で、また新たに運び込まれた壊れた兵器が増えていた。まだ、各地には大量のゴミの山がありそうだな。


「そろそろ行くぞ」


 俺がそう言うと、元の姿に戻ってすり寄ってきた。俺は封印をしてアイテムボックスに収納した。命令にすぐに従う点だけでいえば、コイツの方がマシだな。


(ふむ、どうやら、バレているらしいな)



 俺は長い詠唱を始めた。長距離の転移魔法には、準備時間がかかる。幻影魔法で身を包んだ。これで、転移の軌跡が追えなくなる。俺がこの町から離れたとは気づかぬだろう。


 準備完了。俺は転移魔法を唱えた。





「ふぎゃ〜っ!」


「何が、ふぎゃ〜だ。相変わらずだな、おまえ」


「カルルン! やっぱり、カールちゃんがカルルンだったのよねーっ。もうっ、明日には捕まえに行こうと思ってたのにーっ」


(やはりバレていたか)


「カルルンだと?」


 マルルは、すっかり俺の名を忘れているらしい。配下達は、突然、城の娯楽室に現れた俺に、声も出ないほど驚いていた。いや、違うか。ガキの姿だからだな。


「紫の勇者!?」


「ふん、みな同じことばかり、言いやがって」


 俺は、変身魔法を使った。妙な話だ。自分の本来の姿に戻るために変身魔法を使うとはな。まぁ、変身の呪具は、外せないのだから仕方ない。



「か、カルバドス様っ! 生きておられた! よかった」


「おかえりなさいませ!」


「うむ。ただ、すぐにまた出て行くがな」


「えーっ! カルバドスさま、ずるいっ。あたしに押し付けて自分だけ遊んでるんだからーっ」


「おまえだって、カシャンコで遊んでるじゃないか。毎日、宿場町に通っているようだが?」


「なっ!? 覗いてたのー? 気づかなかった。嘘、あたしよりサーチ能力が……」


「冗談だ。なんだ、ほんとに毎日通っているのか」


「むき〜っ、カルバドスさまがいけないんですよっ」


「キャンキャンわめくな、マルル、うるさいぞ。時間がないから要点だけ伝える」


 そう言うと、配下達は少しキリッとした。ふむ、なんだか懐かしいな、この緊張感は。


「前にも報告を受けていた件だが、野盗の被害が深刻だ。立ち寄った集落は餓死寸前だったぞ」


「はっ! 申し訳ありません。ただ、食料支援をしても、野盗が多くてなかなか効果が……」


「だろうな。飢えている民を放置せぬよう、物資の配給の量を減らして回数を増やせ。今は、月に1〜2回だな?」


「はい、そのはずです」


「毎日とは言わんが週に2回以上は配給せよ。その仕事は、野盗を捕まえてやらせろ」


「えっ? 盗賊が配るかなぁ?」


「配給の仕事をするか、生命を捧げるか、その二択を突きつければよい。最低限の賃金も払ってやれ。おそらく、野盗でしか生活できぬ者もいるだろうからな」


「ふーむ、なるほろろん。かもねー」


「それから、マルル」


「はいな?」


「俺の素性は明かすなよ。城の中にもアイツの手先が紛れ込んでいるからな。そして、だいたいわかっているだろうが、俺の目的も言葉にするなよ」


「お仲間も知らないのー?」


「あぁ、言っても信じないからな。それに、バレると動きにくくなる」


 マルルは、ジーッと俺の顔を見ていた。おそらく思考を読んでいるのだろう。


「ふーん。でも、次はあたしが家出する番だよっ」


「は? そんな順番制ではない」


「やだっ! カルバドスさまばっかり、ずるいっ!」


(面倒くさくなってきた)


「あとは任せる。マルル、鬼ごっこは終わりだ。じゃあな」


 俺は変身魔法を解き、ガキの姿に戻った。そして準備した転移魔法を唱えた。


 そして、俺は、宿場町の近くの森林に転移した。


 マルルの叫び声が聞こえたような気もするが、まぁ、もう追いかけては来ないだろう。


(よし、朝飯を狩って戻るとするか)



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― 新着の感想 ―
[一言] いずれマルルも付いてきそうだな…|д゜)ジー
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