52、彫刻の呪具で、砂漠のオアシスを再建する
「あぁ、この場所に家屋を20ほど作りたい。この地の砂を素材に使え。湖の付近は、砂漠のオアシスにふさわしい施設も作れ」
『デザインなどについてのご指示は……』
「ない。すべておまえのセンスに任せる。付近を通る大勢の者の目に触れる集落だ」
『大勢のお客様が、私の作品をご覧になるのですね』
「あぁ、ここはこれからも通行人が増えるぞ」
『あぁぁ、なんという幸せ。かしこまりました』
呪具は、そう言うと、ふわりと上空に浮かび上がった。全体の把握からしているのか。そして、竜巻のごとく、今ある建物を砂ごと上空へと吸い寄せた。
俺も危うく飛ばされそうになり、慌ててバリアを張った。
素材を上空にとどめたまま、呪具は上空を舞うように家屋を作り始めた。そして、ふわりふわりと上空から土の家が降りてきた。もともとの家屋の位置も記憶していたのだろう。
呪具は、作った家屋を地面に固定し、道の整備も始めた。また、集落を囲む塀も、砂漠の砂嵐がひどい西側は頑丈に作っているようだ。そして、神都と宿場町を行き来する人々が通る東側は、集落の境を示すだけの低い塀になっている。
小さな湖も、石造りの何かで湖岸を整備したようだ。湖の近くには石のオブジェが飾られている。
湖の見える場所には、少し大きな建物ができていた。砂漠なのに三階建てか。まぁ、奴の仕事なら間違いはないだろう。
『おおまかに、ほんの一部だけ完成いたしました』
「うむ、あとは補強だけだな」
『えええぇ〜、そんな、これからですわ。まだ、粘土をこねただけですもの』
(はぁ、こいつの病気が始まった……)
「機能優先だ。家屋は使い勝手が良いことを機能美というらしいぞ」
『まぁ! 素晴らしい言葉ですわ。機能美、はぁ〜なんて官能的な響きなのでしょう』
「住人の要望を聞いてやれ。人間の家屋だ。ひとりひとり好みが異なるはずだ」
『繊細な生き物なのですわね。統一感のある美しさではなく、いろいろな個性を光らせつつ、集落の一体化を演出する……あぁ、難しい課題だわ』
いつの間にか、呪具は人の姿に化けていた。そして、恍惚とした表情を浮かべている。厄介だな。
コイツは人間と会話はできない。だが、意思を読み取ることはできる。喋らせると収拾がつかないからな。ほとんどの呪具は、言葉を発することができないように作ってあるのだ。
俺は、シェルターへと移動した。呪具は、俺の後ろをついてきてはいるが、あちこちに手を加えながら歩いている。
「カール、終わったのー?」
「いや、まだ、それぞれの微調整が必要だがな」
「前のとは違う神具だね。女の人の姿に見えるよ。ちょっと透き通ってるけど」
「これは、彫刻の道具だ。土や砂などを使って、造形ができるんだ」
「へぇ、面白いねー」
「ただ、ちょっと凝り性というか、芸術家精神が強すぎて、扱いが難しいんだよね」
「ふぅん」
シルルは、呪具をキラキラした目で見つめている。変なことを考えてなきゃいいが。
シェルターの中から出てきた人達は、歓声を上げた。
「すごい! 石造りの立派な家ができている」
「わしの家のあった場所のは、わしのものか?」
「カールさん、すごいわ。こんな魔法を使えるなんて!」
「お姉さん、カールの魔法じゃないよ。カールの持ってる神具だよ」
(いや、呪具だがな)
「す、すごい。そんな魔道具は聞いたことない。カールさんは、やはりそうか、紫の勇者」
「シーっ! カールの素性は内緒だよん。たぶん神具を使うとバレるから使いたくないんだよ」
「それなのに、その神具を使ってくださったのですね、ありがとうございます」
俺は、こういうのは苦手だ。あいまいな笑みを浮かべた。
「皆さん、細部はまだ完成していません。あの女性の姿に化けているのが、魔道具です。話せませんが、話は理解します。扉の不具合などがあれば、アイツに言ってください」
「そこまでしてくれるのか。じゃあ、皆、自分の家、いや新しい自分の家に行って、確認するのじゃ」
長老と呼ばれる長がそう言うと、みな、わっと一斉にあちこちに散って行った。そして、自分の新しい家を見て楽しそうにしている。
『人間の家屋は、機能美だぞ、わかったな』
俺は呪具に念話で、念押しをした。ヤツは、ひらひらと手を振っている。いつの間にか、何分割もしているようだ。分割するたびに、見た目が薄っぺらく透き通っていくようだ。なんだか、もはや幽霊のようにしか見えないが……。
「すごい、分身の術だねー」
「そうだね、幽霊みたいに薄っぺらくなってるけど」
「うん、でも綺麗〜。妖精さんみたいだね」
「そうかな?」
シルルは、さらに目を輝かせている。赤ん坊ドラゴンは、全く興味がないらしい。シルルの腕の中でうたた寝を始めた。
赤い髪の勇者は、やはり想像どおり、落ち込んでいる。自分にはこんな神具は伝わっていないと言いそうだ。近づかないようにしよう。
俺は、集落の中を歩いて回った。すると、シルルが少し離れてついてきた。だが、キョロキョロしてあちこちで立ち止まっている。そのうち、シルルの姿は見えなくなった。
(ふむ、何かしでかすと困るな)
俺は、ときおり遠視魔法も使いながら、シルルと赤ん坊ドラゴンの様子を確認しながら、集落をまわった。
シンプルな石造りだが、なかなか良い出来だ。このままで終わればよいが……。呪具は、それぞれの住人の意見を聞いて、微調整をしてやっているらしい。
湖が見えてきた。これは、ちょっと……まぁ、仕方ないか。小さな湖の周りに、遊歩道のようなものを作ってある。そして、遊歩道の周りには、大量の石のオブジェがある。こんなものまで作れとは言っていない。まぁ、湖のまわりに生えている雑草の中の白いオブジェは、見た目としては悪くないが。
そして、湖のすぐ近くには、三階建ての大きな建物がある。住人の集会所にも使えそうだ。
だが、場所的には宿泊施設にするのも良いかもしれんな。そんなに多くの宿泊はないだろう。怪我人や急病人が泊まれるようにすれば、この集落の収入にもなるだろう。
(うむ、ここの1階に作ることにしようか)
俺は、ペンダント型のアイテムボックスから、呪具を取り出した。兵器製造の呪具だ。
『あっら〜ん、素敵な場所ねぇ』
まだ、何も仕事をさせていないが、俺は再び封印したくなった。湖に蹴り飛ばしてやろうか。
「これは、彫刻の呪具の作品だ。絡むなよ? こんな場所でケンカすると壊すからな」
『いや〜ん、やめてぇー。何を作ればいいのかしらぁ?』
「ここに、カシャンコセットだ。そうだな、奥の壁沿いに10台と、こちらに背中合わせで10台ずつ、合計30台くらいは置けそうだな」
『詰めれば、300台くらい置けるわぁ』
「貸玉機や、計数機、それに団子のガチャガチャも置く。それに300台も作る素材はないだろ」
『あーん、素材は100台分もないわぁ。じゃあ、それでやってみるぅ。うふっ』
俺が、兵器製造の呪具にカシャンコを作らせている間に、シルルが追いついてきた。
「わぁ! カール、この湖のまわり、すっごく綺麗!」
「そうかな? 魔道具が勝手に飾ってるんだよ。こんなこと命じてないのに」
「あちこちの家も、すごく素敵になってるんだよ」
「えっ……アイツ、余計なことを」
「この建物は大きいね。あっ、カシャンコを作ってるの?」
「あぁ、カシャンコがあれば、魔王軍の人達が遊びに来るからね。この集落の治安維持ができると思って」
「なるほど〜、カール、賢い。護衛を雇わなくても、魔王軍の人が出入りするなら、野盗は来ないね」
「あ、シルル、暇なら、ガチャガチャに入れる団子をセロファン袋に入れてくれない? 俺、あんな器用なことできないし」
俺がそう言うと、シルルは目を輝かせた。そして大きく何度も頷いている。
俺達は、ガチャガチャの前で、景品の袋詰めを始めた。床に座ると、ひんやりとして気持ちいい。俺がこねた『魔力だんご』をシルルはテキパキと袋に詰めていった。
そして、ガチャガチャにザザッと投入して完成だな。
兵器製造の呪具は、椅子をペッペと吐き出していた。ふむ、カシャンコも完成だな。
俺は、呪具をサッと封印して、アイテムボックスに収納した。これ以上コイツの野太い声を聞いていると、本気で壊したくなる。
(ふっ、不意打ちで収納してやったぞ)
そこへ、丘で助けた女性ふたりがやってきた。
「まぁ! これは何ですか?」
「カシャンコという遊び道具です。宿場町で、魔王軍の人が気に入っていたから、これを置いておけば、遊びにくると思います。魔王軍が出入りする場所に、野盗は来ないですから」
「素晴らしいわ! せっかく建てていただいた家が、また壊されるのではないかと心配していましたの」
そして、彼女達に、試し打ちをさせながら、扱い方を説明した。大当たりを引き当てた女性は、目の色が変わった。マルルと同じ目だ。こいつはカシャンコにハマるだろうな。
「楽しいわ! これをうまく使えば、この集落が豊かになりますわ。長老も、やっとホッとされるわ〜」
「2階や3階は、宿泊施設や、食堂にしてもいいわね。そうすれば、ここに人が集まりますわ」
「あの景品のガチャガチャは、不思議な団子なの。でも、誰が作ったかは内緒ね」
「わかりました。もしかして、勇者の家系の秘伝を使っているのですか」
「お姉さん、鋭いね。バレるとカールは叱られるの」
「わかりました! 仕入先は不明ってことにしておきます。でも、かなり高価な景品ですね」
「あれでも、安いって言ってる人がいたよん」
「まぁ! ちょっと興味がでてきました」
(こら、シルル、煽るなよ……ギャンブルだぞ)




