51、砂漠のオアシスの惨状
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よろしくお願いします。
魔族の男達は、炎に包まれてその場に倒れた。
せっかく楽しめると思っていたのに、邪魔しやがって。俺は、幻影魔法を解いた。
「クゥちゃん! もう!」
ついでに、シルルと赤い髪の勇者の幻影魔法も解いた。
クゥッ、クゥッ、クゥ〜ッ
赤ん坊ドラゴンは、シルルに抱き上げられ、ご機嫌だ。
「シルル、ちゃんとおとなしくさせておくんじゃなかったの?」
「だって、クゥちゃんが腕から飛び降りちゃって。そしたらどこにいるか、わからないんだもん。捕まえられなかったの」
「カールの隠匿魔法は、個体ひとつずつにかけていたんだな。少し離れると、俺にもクゥちゃんの居場所がわからなくなったよ」
「アークさん、サーチすればいいでしょ。一番ゆるい生態サーチなら、能力値は見えないけど居場所がわかる」
「えっ? あ、そうか、気付かなかったよ」
(ポンコツ勇者だな)
倒れた魔族は、赤ん坊ドラゴンや赤い髪の勇者の幻影魔法を解いたことで、慌てたようだ。だが、赤ん坊ドラゴンの炎をまともに吸い込んだらしく、声が出ない。呼吸さえ厳しそうだ。
俺は、倒れている男達に剣を向けた。すると、奴らはスッと消えた。まだ転移する力が残っていたか。
「もう、大丈夫ですよ。僕達以外には誰もいません」
俺がそう叫ぶと、ガタンと大きな音がして、シェルターへの出入り口が開いた。
「また、助けられてしまいましたわ。皆さん、ありがとうございます」
シェルターの中から、今朝、丘で別れた女性達が出てきた。
「あっ! テントに泊まってたお姉さん達だー」
「ふふ、シルルさん、でしたかしら。クゥちゃんは、やはり強いドラゴンなのね」
「うん、クゥちゃんはすごいの。でも、カールが拗ねちゃった。カールがお姉さん達を助けたかったみたいだよん」
(いや、そんな意図はないが)
「あらあら、ふふっ、カールさん、ありがとうございます」
「いや、別に」
「ほ〜ら、カールってば、すぐ拗ねるんだからー」
「拗ねてないから。僕は、魔族と戦いたかっただけだよ。ちょっと強そうだったから楽しくなりそうだったのに」
「ふぅん」
そう言いつつ、シルルはニヤニヤしている。いや、そもそも、なぜ俺は言い訳なんてしているのだ? はぁ、もう、コイツらには、なぜかペースを乱される。
「あら、ふふ、仲良しさんですね」
「うん、カールは私が居てあげないとダメなのー」
なぜかシルルは得意げだ。女性達は、そんなシルルを微笑ましそうに見ている。シルルが楽しそうにしているから、まぁいいか。
シェルターの中からは、ぞろぞろとたくさんの人が出てきた。俺達のことは女性から聞いていたのだろう。ドラゴンがいても、平気な顔をしている。
そして、テントで泊まった女性達は、赤ん坊ドラゴンを見てニコッと笑った。微笑まれたのが嬉しかったのか、奴はシルルの腕の中に頭を埋めた。いや、恥ずかしかったのか? よくわからん行動だ。
そうか、赤ん坊ドラゴンがこの廃墟で鼻をヒクヒクさせていたのは、この女性達のニオイが残っていたのか。魔犬並みだな、いや、それ以上か。
「クゥちゃんは、お姉さん達に囲まれて照れちゃったみたいだよん。おませさんなんだからぁ」
「シルルさん、クゥちゃんは男の子だったかしら」
「うん、そうだよ。私の弟なの」
「へぇ、尾の色が同じね。真っ白で綺麗だわ」
「うん! でもクゥちゃんは、砂の上を転がったりしてどろんこになっちゃったの。いたずらっこなの」
「ふふ、赤ん坊は遊びの中で、いろいろなことを学習するのだそうよ。おとなしすぎるより、やんちゃな方がいいわよ」
「そっかー。じゃあ、やんちゃにさせるね」
(ちょっと待て、ドラゴンだぞ)
俺は反論しようとしたが、やめた。また、拗ねているだとか言われるだけだ。放っておくか。
シェルターから、出てきた爺さんが、赤い髪の勇者に挨拶に行った。どうやら、6人の女性は、この場所から野盗に連れ去られたらしい。
爺さんはここの長のようだ。ひたすらペコペコと、勇者に礼を言っている。あの勇者は、何もしていないがな。まぁよい。こんな爺さんの相手は疲れる。
他の住人達は、どこかへ向かって行った。
「他の人達は、どこへ行ったんですか?」
俺は、近くにいた女性にたずねた。
「建物の修理よ。もともと20軒くらいの小さな集落だったんだけど、戦乱が終結してから頻繁に襲われるようになってね……もうどの家も住めないのよ」
「戦乱で壊されたわけではないんですか」
「もちろん、戦乱中も、魔法や弾が飛んできて一部が吹き飛ばされるようなことはあったわ。でも、ここには小さいけど湖があるから、戦乱中は逆に守られていたのよ」
「そうなんだ」
「でも、戦乱が終結すると、宿場町と神都を行き来する人が水を求めて立ち寄るようになったから、その旅人を狙う野盗が増えたの」
「それでこんなに壊されたんですか?」
「うん、何度もあちこちで、頻繁に衝突するからね」
「建物の防御魔法……は、無理ですよね」
「そうね、この集落は人間だけだから。前は守ってくれる魔族もいたんだけど、襲撃で殺されてしまったわ」
「皆さんで、他の町へ引っ越しなんて考えていないですよね。転居する気なら、地中にシェルターまで作ってとどまるわけないか」
「あのシェルターは、砂嵐が来たときのために、ここに住んでいた魔族が作ってくれたのよ」
そう言うと、彼女はその頃のことを思い出したようで、目にうっすらと涙を浮かべた。
「カール、なんとかしよう!」
「へ?」
いつのまにか、シルルも話を聞いていたらしい。
「カールなら、なんとかできるでしょ。勇者なんだから」
「違うよ、僕は勇者じゃない」
「ええ〜、また、ごっこ遊び? こんなときは、真面目に返事しなきゃダメだよ」
(は? なぜ叱られたんだ?)
「シルルさん、ありがとう。勇者さんでも、さすがにどうにもならないわ」
だが、シルルは諦めていないようだ。
「カール、魔王なら集落くらい作り直せるよね」
ギクッ
俺は一瞬、息が止まるほど驚いた。やはり、シルルは見抜いていたのか。だから、無茶なことを平気で要求するのか。
「うん? 魔王ごっこじゃないの? じゃあ、高名な呪術士なら、集落くらい作り直せるよね」
(な、なんだ……驚かせやがって)
俺が安堵した以上に、周りもホッとしたようだ。ふむ、やはり、魔王と聞くと破壊の象徴か。まぁ、事実だから仕方ない。
「どうして僕がそんなこと……」
「えっ? まさか、カールにはできないの?」
ちょっと待て。その言い方は、殺意を抱くぞ。ほんとにこの娘は危機感がない。
「シルルさん、無茶ですわ。集落を作り直すなんて、神の所業。少しずつ、ゆっくり直していきます。お気遣いありがとう」
(神だと? シードルは何もせんぞ)
「えー、でも、廃墟みたいになってるから、余計に野盗が来るんだよ。だから、アプル村でも、野盗に壊されたら、まずその修理からやるんだよん」
アプル村も、野盗に襲われることがあるのか。確かに、整備されている町を破壊しようとはしないだろう。整備維持するチカラがある町には、どんな実力者がいるかわからんからな。
この場所には、多くの人々が利用する湖がある。さらに砂漠化が広がってしまったら、利用者ももっと増えるだろう。そんな場所を廃墟にしておくのは、この世界の復興の妨げになる、か。ふむ、仕方ないな。
(ふっ、俺の好きなように、直してやるか)
俺は、面白いことを思いついた。きっと、俺の配下達がこの集落を、勝手に守ることになるだろう。
「わかりました。でも、元には戻せないです。見た目も好みじゃないと言われるかもしれませんが、この集落の人達の好みを叶えられません。それでもいいなら、集落の再建をします」
俺がそう言うと、女性は驚いた顔をした。そして、赤い髪の勇者と話している長を呼んだ。
「長老様、集落の再建をしてくれるって、かわいい勇者さんが言ってくれてます」
(いや、勇者じゃないが……)
そして、俺の話をしている。長老と呼ばれた爺さんは、疑いの目で俺を見ている。
「じゃが、こんな子供に、集落を再建するほどの莫大な魔力はないだろう」
「でも、カールさんはいい加減なことは言わないわ」
「あ、迷惑なら辞めますから」
俺も、無理にここを整備しようというつもりはない。だが、そう言うと、爺さんは逆に慌て始めた。
「い、いや、ぜひ、ぜひお願いしたい。にわかには信じられなかっただけだ」
「じゃあ、家に残っている大切なものは、シェルターへ移動させてください。砂に埋もれて無くなってしまうかもしれません」
「もう、すでに大切なものはシェルターに移してある。毎日何度も襲撃を受けるのでな。ほとんどの者が大切なものを奪われた。もう、何も残っていないよ」
「そうですか、わかりました。じゃあ、皆さんはシェルターに入っていてください。シルルもその子を連れて、アークさんも」
「えー、何をするか、見たいもん」
「シルルさん、シェルターの中から外の様子は見えますよ」
「それなら、入っておく。カールの邪魔になるんでしょ」
「あぁ、その子を離すなよ」
「うん、ちゃんと尻尾を捕まえておくから大丈夫!」
(いや、尻尾はやめてやれ……)
家屋の修理に行っていた人も、シェルターへと入った。サーチをしてみたが、もう、誰もいないな。
俺は、ペンダント型のアイテムボックスから、呪具をひとつ選んだ。あっ、住人に見られているんだったな。
俺は、魔法袋から出したように見せかけるため、その場にしゃがんで、その呪具を取り出した。そして、魔力を注いで起動させた。
『お呼びですか? ご主人様』




