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5、変身の呪具、完全変化の呪いを付与する

 黒い霧が消えると、俺は身体に違和感を感じた。見た目を変えるだけの呪具なはずが、すべてのチカラがほぼ無くなったように感じる。


「おい、なんだか、窮屈な入れ物に封じ込められたような違和感を感じるぞ。おまえ、しくじったな」


『完全変化の呪いを付与したからだ。おまえが作ったくせに忘れたのか。不具合があると困るとかで、三回の制限をやぶると勝手にオレが外れるようになってるぜ。三回眠れば外れるから、嫌なら寝ろよ』


「何も覚えていないと言っただろう? 先に説明しろよ」


『そんなこと知るかよ。オレにそこまでの知能を与えていないじゃねぇか』


「はぁ、俺のチカラを封じたのか?」


『隠しただけだ。だが、ついカッとなって、デカイ魔法をドカンと撃つとバレるから、リミッターをかけておこうとか言ってたじゃねぇか』


「なんだ? それは」


『見せかけの体力や魔力を超えるようなことは、準備なしではできないってことだ。人間は体力が尽きると死ぬし、魔力が尽きると倒れる。その疑似体験ができるような呪いだ。じゃないと、バレると言っていただろう』


「心配性か……」


『知らん、おまえが作ったんだろうが』


「俺の服はどうした? 見た目を変えているだけなはずだが、寒いぞ」


『身につけていたものは、そこに落ちている魔法袋以外はすべて預かっている。オレの中に封じているから、元の姿に戻るときには、服も元に戻す。あー、おまえに貼り付いている呪具は外れないから、当然そのままだがな』


「呪具? ペンダントか。なぜ服を封じる? あー、服から魔力の痕跡がたどられるからか。はぁ……俺は素っ裸じゃないか」


『人間の服を持っていないのか』


「あぁ、テーブルクロスはあるから、これで作るか」


『魔法で服の形に作り変えるなよ? 布を変化させるなんて、普通の人間にできない魔法を使われたら、オレはその痕跡を消すことなんて……』


「わかっている。おまえが痕跡を消せるなら、俺の服を封じる必要がない。はぁ、人間の服を早目に手に入れないとな」


 俺は、魔法袋を装着した。本来ならベルトに付けるべきだが、ベルトがないから仕方ない。巾着型の袋の紐を、そのまま腰に巻いた。


 魔法袋からテーブルクロスを取り出し、風魔法を使って裁断した。小さな方を腰巻きにして、大きな方を肩にかけた。


(まだ寒いな)


 もう一枚テーブルクロスを取り出し、真ん中に穴を開けて、すっぽりとかぶった。寒さはマシになったが、ひどい格好だ。


 ふと足元をみると、左足首の呪具は、三本の輪になっていた。靴もないか。


「おまえ、なぜ三本の輪に変化したんだ?」


『回数がわからないからって、このように作ったのは誰だ? 本当に何も覚えていないのだな。制限をやぶる度に、輪の数は減る』


「ふぅん、どれだけチマチマと設定しているんだ。心配性か……」


『知るか。昔のおまえの精神状態がおかしかったんじゃないか』


「はぁ、そんな千年以上前のことを言われても、知らん」


『あ、そうだった。言葉からバレるから気をつけろと、過去のおまえからの伝言だ。そんな年寄りくさい話し方ではダメだ。見た目どおりの言葉遣いをしろ』


「は? そんなこと、おまえに配慮する気はない」


『違う、伝言だと言っただろう。その姿でいるときの注意事項だ』


「あー、他には?」


『えーっと……何かあったはずだが、起動時の注意事項は、以上だ』


「覚えていないのか? やはり欠陥品じゃないか」


『オレの知能は低いんだ。聞かれたことに答える程度にしか作ってねぇだろうが』


「ふむ。呪具に高い知能を与えるのは危険だからな。仕方ない、疑問に思ったときに聞けばいいか」




 俺は、光の柱を調べるために、地上に降りたことを思い出した。空を見上げると、太陽が真上に昇っていた。


(呪具と遊んでいると、夜になってしまうな)


 城を出たのが夜明け前だったが、この世界を端から端へと飛行している間に、随分、時間が経ってしまった。

 いや人間に変化するために、時間がかかったのか。できの悪い呪具と遊びすぎたな。


 俺は辺りを歩きながら、サーチ魔法を使った。


 人の姿に化けたことで、さっき逃げた魔物達は、逆に俺を狙うかのように近寄ってきている。

 ちょうど腹も減っているから、狩りをしてもよいが……。ただ、今のこのガキの身体では、どの程度戦えるかがわからない。


(この数を相手にするのは、厳しいか)


 今の俺は、剣を持っていない。ペンダントの中には、厄介な剣があるが、まさか今の人間の状態で強烈な呪具を使うわけにもいかない。

 剣どころか、俺は鎧も、いや、まともな服さえ着ていない。テーブルクロスをかぶっていては、戦うにも支障がありそうだ。


(仕方ない、逃げるか)




 俺はふわっと空に浮かび上がった。飛翔魔法は普通に使えるようだ。昔、魔王城を襲ってきた勇者一行も、空を飛んでいたからな。


 俺は辺りを見渡し、高い大木を探した。見つけた! あの高い大木の近くにも光の柱があるはずだ。人間の姿だと、飛行スピードが遅い。鳥系の下等な魔物レベルだな。


 それにこの姿では、どの程度戦えるのか、全く感覚がわからない。半減した程度ならだいたい予想できるが、ここまで下がると、どの魔物を倒せるかの見当もつかない。


(まずは、この身体に慣れねば)



 大木を目指して飛んでいるが、この高度では光の柱は目に見えない。まぁ、もし通り過ぎれば、あの違和感で気づくだろう。



 ギャォ〜


 ふと振り返ると、下等な鳥系の魔物が俺の後ろをついて来ていた。弱いが群れる奴らだ。俺は無視して飛び続けた。


 すると、後方から火の玉が飛んできた。俺は即座に避けたが、この身体は反応が鈍い。テーブルクロスに火の玉が、かすった。すると、ボッと火がついた。


(俺の服代わりの布が……)


 俺は水魔法で、テーブルクロスの火を消した。その隙に奴らは俺に追いついてきた。俺を獲物だと思っているのか。


(面倒くさいな)


 仕方なく、俺は奴らすべてを焼き払おうと、極炎魔法を唱えた。だが、魔法は発動しない。そうだった……普通の人間が使えない魔法は準備時間が必要だったか。


 襲いかかってくる奴らの攻撃を避けながら、俺は一体ずつ仕留めることにした。炎魔法をひとつひとつチマチマと放った。


(人間は面倒だな)


 炎玉が当たった奴は落下していったが、他の奴らは諦めない。俺は西へ飛行しながら、魔物を減らしていった。


「うぉっ!? な、なんだ……くっ、くそ」


 俺は突然、背後から強い電撃を食らった。いや、違う、これは光の柱か。動きを止めた俺に、奴らは一斉に火の玉をぶつけてきた。光の柱に気を取られていた俺は、不覚にもそれをまともに食らった。


 炎に包まれたまま体勢を立て直そうとしたときに、再び強烈な電撃を受けた。また、光の柱に触れたのか。


「ガハッ……」


 俺は、地上に落下した。そして、変身の呪具の呪いが作動したのだろう。人間は体力がゼロになると死ぬ。その擬似体験だ……。


(くそっ)


 俺は、地面に激突した衝撃で、意識を失った。






「シルル、起こしちゃだめよ」


「大丈夫〜、見てるだけだもん」


(くっ、俺は一体……?)


 俺は、うっすらと目を開けた。目の前には、俺をジッと見ている白い髪の少女がいた。俺が目を開けると少女は驚いた顔をした。


「ママ〜! 坊やが目を開けたよー」


(坊やだと? あぁ、そうか、変身の呪具で……)


 少女は大声で叫び、どこかへ走り去った。



 俺は起き上がろうとしたが身体が重い。なるほど、呪具の完全変化の呪いか。上体を起こすだけでも苦労した。だが体調は悪くない。逆に眠ったことで、頭もスッキリしている。


 俺はハッとして左足首の呪具を見た。三本あった輪が、二本になっていた。あと二回眠ると変身が解けてしまう。


(チッ、慣れる前に変身が解けてしまいそうだな)


 その呪具には、魔法袋の紐が絡み付いていた。


「おまえが魔法袋を守ったのか」


『あぁ、感謝しろよ。しかし、こんな簡単に意識を失うなら、オレが外れる制限回数は百回にしておけばよかったんじゃねぇか? 一旦外れると、オレはしばらく眠るぜ?』


「うるさい、もうこんなヘマはせぬ」


『さぁ、どうだかな。わかってると思うが、今のおまえは、12歳の人間のガキだ。言葉に気をつけろよ』


「わかっている」


 俺は、布の服を着ている。この家の者に助けられたということか。あのテーブルクロスは、燃えかすになったのだろう。



 俺が寝かされていたベッドは窓際にあった。外では子供達が何かケンカをしているようだ。僕が僕がと主張し合っている。


(子供は自分のことを、僕と呼ぶのが普通なのか)


 さっき、俺の顔を見ていた白い髪の少女が、子供達のケンカの仲裁を始めた。子供達の中に入ると少女は背が高い。少女ではなく大人なのかもしれない。



 ふいに、いい匂いがしてきた。部屋の中に視線を戻すと、俺に近づいてくる女性が目に入った。


「やっと目が覚めたね、よかったよ。野菜のスープを持ってきたけど、食べられそうかい?」


 俺はコクリと頷いた。まさか人間に、施しを受けることになるなんて……。俺は、どんな言葉を使えばいいのか迷った。あまりにも、俺は人間を知らなすぎる。


「ふふ、怖がらなくていいからね。ゆっくり食べるんだよ。三日も眠っていたんだ、急に食べると胃がびっくりするからね」


(は? 三日もか?)


 俺はまたコクリと頷いた。女性は、俺に大きなマグカップを手渡し、やわらかな笑みを浮かべて部屋から出ていった。


(人間と、どう接すればよいのか、全くわからぬ……)


 俺は、スープを一口すすった。胃に染み渡る優しい味がした。



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