45、土色の新種ドラゴン、クゥちゃん
「ええ〜っ!? 弟なのー?」
「性別は……」
「あー、変えられないんだ。じゃあ、弟でもいいよん。でもリボンつけて可愛くしたいな」
(いや、確認を忘れただけだが……)
シルルは、赤ん坊ドラゴンをひょいと抱き上げていた。赤ん坊ドラゴンは、シルルに頭をすりつけている。すると、シルルは、嬉しそうな顔で、ヤツの頭を撫でてやっていた。
これは、どう見ても、シルルを母親だと思い込んでいるな。まぁ、ドラゴンは、子供のうちは人化はできないし、放っておくか。ドラゴンが大人になる前に、シルルの寿命は尽きる。
「クゥちゃん、お腹空いてるよね? 何を食べるのかな」
「昨日狩った肉を食わせればいいよ。生肉しか食べないと思うよ」
「わかった! じゃあ、カールがたくさん狩った魔物を出して」
「あぁ、なんなら、トカゲを食わせても大丈夫だ」
「ダメよ! この子に親を食べろなんて言えないもん」
「魔物の世界では、親を食う種は少なくないよ」
「嫌っ! クゥちゃんはそんな酷いことしないもん」
シルルは、キュッと赤ん坊ドラゴンを抱きしめた。ふむ、圧死しなければいいがな。シルルは、意地になると力加減がわからなくなるようだ。
クッ、クゥ〜、クェッ
赤ん坊ドラゴンは、シルルの腕の中で、もがいているようだ。ふっ、まぁよい。いいしつけになる。シルルには逆らえないと、本能に刻み込まれるだろう。
クッ、クッ!
「ん? クゥちゃん、お腹減ったって言ってるの?」
「自分で歩きたいんじゃないの?」
一応、助けておいてやるか。赤ん坊ドラゴンを圧死させたら、またシルルは騒ぐだろうからな。
俺が、そう言うと、シルルは赤ん坊ドラゴンを地面に降ろした。すると、ヤツはすぐにシルルから距離を取った。やはり、怖れたらしいな、ふっふっ、面白い。
「カール、早く出してよん」
「あぁ、わかった」
俺は、魔法袋から、昨日狩った魔物の一体を取り出した。トカゲが好んで食べる鳥型の魔物だ。そして、凍らせていた頭部をヒート魔法で解凍した。
「じゃあ、食べやすいようにしなきゃね」
シルルは、肩にさげた布袋からナイフを取り出し、魔物の腹をスーッと裂いた。血が苦手なんじゃないのか? シルルは平気なかおをしている。
血の臭いに、赤ん坊ドラゴンは鼻をヒクヒクさせ始めた。だが、シルルを怖れているため、近寄ってこない。
シルルは、食べやすくさばいた肉の塊を、赤ん坊ドラゴンの方へと放り投げた。
「クゥちゃん、食べなさい。こっちに来ちゃダメだよ。血がついちゃうからね」
赤ん坊ドラゴンは、恐る恐る肉の塊に近づくと、その臭いを嗅いでいる。そして、シルルの顔と俺の顔を見た。ふむ、どうすればいいかわからないようだな。
『シルルが食べていいって言ってるよ』
俺は念話を使った。すると、赤ん坊ドラゴンはビクッとして俺の顔を見た。
『これは念話だよ。シルルは使えないんだ。食べなさい』
クゥ〜〜、クゥ、クゥッ!
赤ん坊ドラゴンは、まだ生えていない翼を広げるように手をバタバタさせた。ふむ、喜んでいるようだな。
そして、目の前の肉にかぶりついた。赤ん坊ドラゴンの体長ほどの大きな肉だが、ものすごい勢いですぐに食べ切った。腹がポッコリと膨らんでいる。
細く未成熟な尾では、まだバランスが保てないようだ。立ち上がって何かしようとしているが、すぐに転がる。よく、ここまで食うな……おまえ、バカだろ。
「キャハハ、クゥちゃんのお腹、パンパンだよん」
「シルルが与えすぎなんだよ。あれでは歩けないよ」
「大丈夫、私が抱っこするもん」
シルルは、ガバッと赤ん坊ドラゴンを抱き上げた。ヤツは焦ってもがいたが、すぐに諦めたようだ。おそらく、落とさないようにとシルルが力を入れたのだろう。
「シルル、その子、腹パンパンだから、あまり強く抱きしめてると、食べた物を吐くかもしれないよ」
「えっ? 強くしてないよ?」
「でも、苦しそうだけど」
「それは食べ過ぎて苦しいんだよん。食いしん坊なんだからー」
(シルルにそっくりだな)
だが、シルルは、赤ん坊ドラゴンの腹を押さえないようにと、抱き方を変えたようだ。すると、安心したのかすぐに眠りに落ちたようだ。食ったらすぐに寝るのか。
(シルルにそっくりだな)
「どうだい? 卵は孵化したのか?」
しばらく、洞穴から出て行っていた赤い髪の勇者が戻ってきた。手には野イチゴのような物を持っている。
「うん、クゥちゃんだよん。餌を食べさせたら寝ちゃったけど」
「へぇ、ドラゴンにしては小さいな。それに、そんな土色のドラゴンはあまり見たことがないが。緑色から色素が抜けたのか」
「さぁ、どうでしょう。適当にいじったから、新種になったんじゃないかと思うけど」
「ん? カール、新種というよりは変異種だろ。新たな種を創造するのは、神のチカラだよ」
俺はあいまいな笑顔を浮かべた。言葉には気をつけねばならないな。
「シルルちゃん、赤ん坊だけど、そのドラゴンは、すでにシルルちゃんを越える戦闘力があるようだよ。抱いていて大丈夫かい?」
「ん? クゥちゃんは、そんな悪いことしないから大丈夫だもん。それに、寝ちゃったし」
「じゃあ、そろそろ出発しよう。なんだか遅くなったし」
「あ、野イチゴを摘んできたんだ。シルルちゃん、後でデザートに食べよう」
「えー、野イチゴは、すっぱいよん」
シルルは野イチゴには興味を示さなかった。赤い髪の勇者が、地味に落ち込んでいるのがわかったが、あえて俺はスルーした。はげましてやる必要も義理もないからな。
「カール、残りの肉、魔法袋にしまっておいてよん」
「えー、解凍したのをまた凍らせるの? これは放置でいいよ。小動物が食べるよ」
「シルルちゃん、再冷凍した肉は臭くなるから、ドラゴンは食べないと思うよ」
「そう、じゃあ、おいておく。もったいないけど……」
シルルは、自分が食べると言いだしそうな目で、残りの肉を見ていたが、小さなため息をついて、洞穴の出入り口へと歩き始めた。
俺達は、森の中を北に向かって進んでいた。すると、高い木の近くに白い石碑が見えた。あれは、光の柱の……。
「そこの旅人、止まれ!」
突然、十数人の人間が現れた。みな、同じ服を着ている。鎧ではないが、どこかの兵か? いや、あのマークはシードルの印だ。教会の関係者か。
「カール、まずい。教会の検問だ。あの旗は、勇者狩りだ。教会に集まらない勇者を捕まえているらしい」
赤い髪の勇者が示した旗は、俺は見たことのない旗だった。だが、この人間達はそれなりに戦闘力が高そうだ。
「どうしよう? カール」
「シルル、気にしなくていいよ。堂々としていればいい。僕は、勇者じゃないし、アークさんは僕達の護衛任務中だから」
「カール、奴らに石碑を使われたら、いい逃れできないぞ」
「白い石碑?」
「あぁ、あれは神シードル様が作られた神具だ。各地に設置されている」
「何に使う物なの?」
「いろいろなことだ。石碑を通して、神シードル様はこの世界のことを見守ってくださっているんだよ」
(なんだと? 諜報道具か?)
「魔王軍が制圧したのに、神までがこの世界に直接関わっているの?」
「そのあたりはよくわからない。だが……」
そんな話をしていると、人間達が声の聞こえる範囲まで近づいてきた。赤い髪の勇者は、話をやめた。
「おい、おまえ達はどこへ向かっている?」
人間が、赤い髪の勇者に問いかけた。
「俺達は、神都に向かっている。これは何の検問だ?」
赤い髪の勇者がそう言うと、彼らはヒソヒソと話し、別の人間が口を開いた。
「神都には、何をしに行くのですか。アナタは、その髪色そしてその戦闘力、赤の家系の勇者ですよね。そして同行者パーティが……うん? 妙ですね」
その男の目が、シルルの抱く赤ん坊ドラゴンに釘付けになった。そして、俺の頭を見て首を傾げている。
「そちらの少年が、勇者ですかね? 戦闘力も子供にしては異常に高い。でも、紫の家系……? それに、トカゲなんかを連れて……」
「この子は、トカゲじゃないもん! 私の弟だもん!」
シルルが、なぜか反論している。そのときに、彼女の尻尾が動いた。ふむ、トカゲだと言われて怒ったのか?
「弟? 獣人か。大人かと思ったら幼い顔立ちだな。どちらも白い尾か……。なぜ、神都に向かっている?」
その男は、俺に目を向けた。こんな近距離でサーチ魔法か。俺の胸元に目を止め、首を傾げている。このペンダントが、偽物だとバレたか。
蹴散らしても構わぬが、シルルは、人間を殺すと嫌がるか。この数だと、けっこうな血が流れる。いや、雷魔法を使って感電死させるという手もあるな。
チラッと、赤い髪の勇者を見ると、諦めた顔をしている。シルルは、赤ん坊ドラゴンを抱きしめて、男達を睨んでいる。このままでは、ラチがあかない。
「僕達が神都へ何をしに行くかなんて、おじさん達には関係ないだろ。邪魔しないでくれる?」
「そうはいかない、検問の意味がないからな」
「誰を探しているの? 魔王? それとも勇者?」
「魔王は魔王城に居るだろう。この旗がわからないなら、おまえには用はない。赤い髪の男に聞きたいことがある」
「彼は、町長がつけてくれた僕達の護衛なんだけど。護衛任務中に連れて行くの? そのせいで僕達が、命を落とすことになったら、おじさん達を呪うよ!」
「えっ……呪術士なのか」
俺は返事の代わりに、闇を出した。すると、男達は慌て始めた。
「す、すまなかった。勇者が獣人なんかと旅をするわけがない。通ってくれ。呪いはかけないでくれ。呪われると職を失う」
男達は、慌てて俺達から離れて行った。
(なぜ、そんなことで職を失う?)




