表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/113

4、平面世界の違和感、謎の光の柱

「大変だぁ〜〜! カルバドスさまが、家出したよーっ」


 片付け始めていた祝宴会場は、マルルの叫び声で大騒ぎになった。酔い潰れていた者達も、一気に酔いがさめたようだ。


「なぜ、魔王様は城を出て行かれたのだ?」


「何か、あの方とトラブルか? そういえば、祝宴に招待したはずが、いらっしゃらなかったよな」


「あの方に追放されたのか? まさか、そんな……カルバドス様がおられたからこそ、この世界は制圧できたのに」


 魔王カルバドスの配下達から、口々に不安そうな声が上がった。さっきまでの気楽な雰囲気は一変し、動揺や緊張感でピリピリし始めていた。



「粗末な魔法袋しか持っておられなかったぞ。もしかすると、魔王様は、あの方に処分されるのではないか」


「確かに、魔王様がいない方が、あの方にとっては、この世界を治めやすくなる。チカラでこの世界を制圧した魔王様を滅ぼし、名実共に神になるおつもりなのでは?」


「そんなことになると、魔族も処分されるのではないか」


「いや待てよ。カルバドス様を簡単に処分できるわけがないだろう」


「もしかしたら、あの方の兵に、この魔王城が攻め込まれるのを防ぐために、出て行かれたのではないか」


「そうだな、何か特殊な事情があるのだろう。お一人にしておくのは危険ではないか。もし、あの方が自ら手を下すつもりなら、魔王様は逃げ切れないのではないか」



 主要な配下達は、魔王カルバドスから、時期が来れば魔王は退き、代わりに神シードルがこの世界を治めることになると聞かされていた。


 そして、魔王カルバドスが、もともとは神シードルと同一人物であったことも知らされていた。

 時期が来れば、神が魔王を吸収して元の姿に戻るか、もしくは、このまま静かに退くことになると、カルバドスは語っていた。


 また、マルルも、もともとは神の元にいた天使だった。神は、天使も分離したのだ。悪しき心、イタズラ心を別の個体として分離し、魔王とともにこの世界へと落としたのだ。


 この事情も、神と魔王の関係を知る者には、教えられていた。マルルは、魔王カルバドスのただの配下という位置付けだが、事情を知る者達の中では、最も地位の高い、魔王に準ずる者として扱われていた。



「もう行ってしまわれたのか。何かお言葉を残されたか?」


 宝物庫の番人が、この場に戻ってきた。


「なぜ、魔王様が城を出られたと知っているのだ?」


「先程、宝物庫でお会いした。城を出るまでは、他言無用だと言われていたが、もう構わないだろう」


「カルバドス様は、宝物庫で何をなされていたのだ?」


「わからない。だが、宝物庫の奥の小部屋から出てこられてから、魔王様の様子がおかしい。俺に人間が持つものを用意するように命じられた。粗末な魔法袋に、ほんのひと握りの金貨と小さな皮袋の財布、そして布のカバンだ」


「ここのテーブルクロスも数枚持っていかれたぞ。腰に巻きつけて、頷いておられたような気がするが」


「宝物庫の奥の小部屋には、確か、あの方との連絡用の鏡があるのではなかったか」


「何かを話されたのだろうか。まさか、あの方を討ちに行かれたのではないか?」


「いや、魔王様は、剣も鎧も、持ち出されていない。俺が団子の話をすると、わざわざ俺のために作ってくださった。それに、話をしている途中から、いつものまがまがしさを感じなくなった。まるで、これが最後かのような……死期を予感されているように感じた」



 宝物庫の番人の言葉で、シーンと静まり返った。



「ちょっとちょっと、みんなーっ。暗いよーっ! カルバドスさまに言われたことを忘れたの〜? 明日から、戦後処理でしょーっ」


「そうだ、我々に任せてくださったんだ。期待に応えなければ……うっうっ……」


「ちょっとぉ〜、カルバドスさまが簡単に死ぬわけないでしょーっ。みんなに仕事させて、自分だけ家出して、遊ぶ気だよーっ」


 マルルが、重苦しい雰囲気をなんとかしようとしても、どうにもならなかった。


 これが魔王の主要な配下達なのか? 何か洗脳でもされたのではないかと疑いたくなるくらい、彼らは、メソメソしていた。


「なんでそんなに、暗いのよーっ。みんな、捨てられた子のような顔してるぞっ。魔族のくせにメソメソするんじゃありませんーっ」


「マルル様のおっしゃる通りだ。みんな、魔王様の命令を忘れたか。明日からは、戦後処理だ。荒れた地を整え、豊かな世界になるよう、力を尽くさなければ」


「今夜はもう解散っ! しっかり寝て、明日からしっかり仕事だよーっ」


 マルルの解散の声で、みな暗い表情をしながらも、祝宴会場となっていた大広間から出ていった。


「カルバドスさまだけ家出するなんて、ズルイっ」


 何かを決意したような表情を浮かべたマルルも、自分の部屋へと戻っていった。






 その頃、城を出た魔王カルバドスは、飛竜に姿を変え、この世界の状況を把握するため、高速で飛行していた。



 この世界は平面世界だ。北部、中央部、南部と呼び、各地域に共通の特徴がある。そして、東西にも特徴がある。


 魔王が住む魔王城は中央部の東端にある。北部の西端には、神が住む天空神殿へと繋がる高い塔があり、その塔のある街は神都と呼ばれている。


 その影響で、東には魔族が多く、西には人間、すなわち人族が多い。


 この世界の戦乱は北部から始まり、だんだん南下していった。北部はすでに千年以上前に魔王軍が制圧し、その地の住人を統治していたため、文化レベルが高く都会的な街もある。


 南部は魔物だらけの未開地だったが、魔王が開拓し、今では、山あいに多くの農村が広がっている。


 長く戦乱が続いていたが、この世界のほとんどの食料を生み出す南部は、戦乱には巻き込まれなかったため、この世界は食料難に苦しむことはなかった。


 都会的な北部と農村の多い南部との間の、平野が広がる中央部が、長年の戦乱の地となっていた。中央部の少し西には勇者の街がある。そのため中央部は抵抗が強く、魔王軍はなかなか制圧できなかったのだ。




(何だ? 何かおかしい)


 俺は、空高く、かなりの高度を飛行していた。神殿のある天空とほぼ同じ高さだ。この高さまで上昇できるのは、俺が化けている飛竜くらいしかいない。


(国境か? なぜ、空に?)


 俺は、北部を東から西へと、様々なサーチ魔法をくぐり抜けるために、音速を超えるスピードで飛んでいた。


 地表付近から空へ、光の柱が何本ものびているように見えた。さすがにこの高さまでは届いていないが、光の柱の上を通ると、嫌な何かを感じた。


(あまり西に行き過ぎると、アイツに気づかれるな)


 俺は、進路を南に変えた。そして、今度は中央部を西から東へと飛行した。

 中央部は、戦乱が激化して砂漠化している場所もあった。激しい抵抗のあった大平原では、まだ生々しい戦乱の跡が残っていた。

 そして中央部も、西の方には光の柱が立てられているように見えた。東へ行くほど、その数は減っていった。


(戦乱の地にも……一体なんだ?)


 中央部の東の端、魔王城が見えてきた。その近くには光の柱はないようだ。俺はさらに進路を南に変え、今度は、南部を、東から西へと飛行した。

 南部は、山岳地帯だ。小さな湖も多い。東の端はまだほとんど未開地だが、東の端以外の南部は、山あいには無数の小さな農村や集落がある。


(南部には光の柱はないか。いや、あるな)


 北部や中央部に比べると圧倒的に少ないが、魔王城のある東から西へ行くほど光の柱は増えていった。南部では、光の柱は、高い大木の近くにだけあるようだ。


 俺は、高度を下げた。通常の翼を持つものが飛ぶ高さまで下り、飛行を続けた。


(この高さだと見えぬか)


 高度を下げると、光の柱は見えなくなった。だが飛んでいると、時折、何かの結界の中に入ったような違和感を感じた。光の柱付近を通過したということだな。


(降りて地上を調べるか)




 俺は適当な場所に降り立った。老人の姿に戻ると、付近の魔物が逃げていく気配を感じた。


(やはりこの姿ではマズイな)


 俺は、ペンダント型のアイテムボックスから、例の物を取り出した。そして、周りに誰もいないことを確認し、それを左足首にはめた。


 すると、その呪具は、俺の魔力を吸収し準備を始めた。


『設定どおりでいいのか?』


 準備が終わると、呪具が話しだした。


「設定なんて忘れた。どういう設定にしてあるんだ?」


『忘れるからオレを話せるようにしたのか。人間、男、12歳、能力は人間の限界値の半分からスタートし、人間の限界値を少し上回るところまで成長。発動魔法は人間が使えるものだけに対応する』


「12歳だと? なぜそんな子供に設定したんだ」


『知るかよ。あ、大人だと警戒され、子供だと非力だとかぶつくさ言っていたじゃねぇか』


「そうだったか? まぁ確かにそうだな」


『体力値や魔力値は使うと減る。休むと回復する。人間が使えない魔法を使うと対応できない……見せかけの魔力値は減らないから気をつけろ。正体がバレるぜ。それから、あれはどうするんだ? まだ準備はしていないが』


「あれってなんだ?」


『やっぱり覚えてないか。完全変化とか言ってなかったか? どんなものにサーチされても破られない呪いだ。付与するのか?』


「あー、ある方がいいな。代償は何だ?」


『何かの欲を封じる。睡眠欲を封じることにしてあるぜ。だが、三回眠るとオレは外れ、変身が解けるぞ』


「俺は、そもそも眠らないから問題はない」


『気絶しても、眠ったことになるぜ?』


「誰が俺を気絶させるんだ?」


『それなら、その条件で発動するぞ』


「あぁ」


 そう返事をすると、足首の呪具が黒く光った。そして呪具から吹き出した黒い霧が、俺を完全に覆った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ