表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/113

39、魔王、革命軍にスカウトされる

「その団子は、シルルが食べる分として渡してあるんだからね」


「やっぱり、カールは団子のことで怒ってるー」


「ふふ、シルルちゃん、カールの照れ隠しだよ。この年頃は、素直になれない子が多いんだよ」


(この勇者、邪魔だな)


「アークさん、そんなんじゃないです。シルルには団子を食べて魔力を増やしてもらわないと困るので」


「ん? やはり、団子には魔力増加効果があるんだな。俺も、カールの団子を食べた後、わずかに魔力量が増えたような気がしたんだ。いつもなら、3回程度しか出来ない全回復が4回できるようになったからな。量も力も上がるのか?」


(やはり勇者は……回復魔法は、しょぼいな)


「たぶん、そうだと思います。上がらないときもあるから、詳細はわかりません」


「そうか、シルルちゃんの魔力値が低いから、カールは心配してるんだな」


「いえ、そんなんじゃないです。魔法袋を俺が持たなきゃならないのは嫌なんで」


「あはは、かわいい理由だな。いや、失礼。確かにいま3つか。カールは背が低いから、動くときに邪魔になりそうだな」


 背は高くても邪魔な物は邪魔だろう。俺がなぜ荷物を持たねばならんのだ? いや、人間のガキは荷物を持たされるものかもしれんが……。


「ふふっ、カールが拗ねた〜」


 シルルは、たまに妙なことを言う。俺が拗ねるわけないだろう。チラッとシルルの方を見ると、小さく舌を出した後、ケタケタと笑った。


(まぁ、楽しそうだからよいか)




 シルルが団子を与えた奴らが、こちらに近づいてきた。まだ懲りないのか。だが、なんだか様子が違う。俺のことを警戒しつつも、媚びるような笑みを張り付けている。


 そして、俺が睨むと、なぜか俺の前にひざまずいた。


「か、カール様、数々の無礼、申し訳ない」


(は? 謝ったのか?)


「俺は、革命軍第18大将のテンプだ。俺の第18部隊は、今、新たな人材のスカウトを担当している。ぜひ、革命軍の総長に会っていただきたい」


「どういう意味? まだ懲りてないわけ?」


「い、いや、もうわかった。十分だ。彼女への非礼も詫びる。この付近の仕事がうまくいかなくて、町の滞在が長くなったから、その気晴らしをしていた」


「カスだね。そんなんだから、餓鬼を呼び寄せるんだよ。まだ半分以上体力が残っていたよね? 餓鬼は死ぬ寸前の者に取り憑くんだ」


「カール様の炎は、経験したことのない恐怖を感じたんだ。確かに、俺の恐怖心が餓鬼を呼び寄せてしまった。餓鬼は死神を呼ぶから、死が近いんじゃないかと焦ったんだ」


「無様だったね、魔族のくせに」


「だろうな。だが、あんなに大量の餓鬼を一瞬で消し去る強烈な光魔法は、初めて見た。カール様なら、魔王を討てるのではないか?」


(嫌味が通じないのか? この男はバカか?)


「は? 僕が魔王だと言っているだろう」


「ふっ、それは通用しないぜ。あんなチカラを見せられたんだからな。勇者だろうが勇者の家系だろうが、そんなことは総長は気にしない」


「革命軍って何?」


「知らないだと? あ、そうだったな……。革命軍は、魔族を中心とした一大勢力だ。魔族はすべて魔王軍だと考えているなら、それは誤解だ。人間にはあまり知られていないが、魔王軍に属する魔族は、魔族全体の数パーセントしかいない」


「そんなことは、知っている。だから何?」


(俺の配下は、優秀な者を厳選しているんだからな)


「革命軍は、魔王軍の三倍以上いるんだぜ。それも、魔族だけじゃない。総長の理念に賛同する人間もたくさんいるんだ。勇者も、勇者の家系の者もいる。あ、勇者は、家ごとに仲が悪いのはわかっている。同じ部隊に所属させることはないから、安心していい」


「何のための軍? もう戦乱は終わっただろ」


「終わっていない。始まったばかりだ」


(コイツは、頭がおかしいのか)


 どうやら、俺は革命軍にスカウトされているらしい。魔王だと言っているのに、スカウトするとはどういうつもりだ? それに、始まっただと? やはり、何かを企んでいるのか。



「革命軍が、魔王を討つのか?」


「それは、総長に聞いてくれ。この世界に必要なことを成し遂げる軍だ。カール様も、チカラで制圧した魔王軍に、このまま従う気には、なれないだろう?」


「総長というのは、魔族なのか?」


「カール様は……勇者は人間だから、魔族には従えないと言うんだろう? 安心していい。総長は、おそらく人間に近い存在だ。魔族ではない。だが、弱い人間でもない」


「総長は、勇者なのか?」


「いや、わからん。俺は下っ端だからな」


「部隊の大将なのに?」


「だからだよ。俺は部隊の大将にすぎない。上には幹部がいる。総長の側近なら知っているかもしれんが、総長の種族など重要ではないからな」


「ふぅん、まぁ、せいぜい頑張ればいいんじゃない。僕は、そういうことには興味はない」


 俺がそう言うと、彼は信じられないという顔をした。


「俺の話し方が悪かったのだな。申し訳ない。カール様には、革命軍に参加していただきたい」


「嫌だね」


「えっ!? 勇者の家系の者は、皆、快く賛同してくれたのだが。赤の勇者は、どうだ?」


 俺が断ったことで、赤い髪の勇者アークにも、スカウトの声がかかった。


 まわりでは、町の人々が、勇者の返事を聞こうと、シーンと静まり返って耳を傾けている。



「俺は、何度も断ったはずだ。俺はこの町の治安を守ると決めている。それに、しばらく、俺は町を離れる用事ができた。その間は魔王軍が、この町の巡回をしてくれることになったのだ。だから、魔王軍と敵対するつもりはない」


(は? なんだと?)


「なぜ、魔王軍なんかに巡回を……町の警備を任せるのだ? おまえ、勇者だろう?」


「役所の決定だからな。それに、魔王軍の指揮官らしき女性は、とても親しみやすい。この町のカシャンコを気に入ったと言ってくれたそうだ。人間を理解しようとしてくれているようだ。この町には、また立ち寄るつもりだったらしく、巡回を快く引き受けてくれたそうだ」


(マルルが頻繁に来るのか?)


「なんだ? カシャンコとは?」


「町の中の宿、7軒に設置してある遊技台だ。この町の復興をかけた事業だ。破壊するような真似は許さないからな」


 アレを、こんな男が、破壊できるわけがない。兵器製造の呪具で、俺が作ったんだからな。

 しかし、妙にマルルの評価が高いな。やはり、あの小娘は、人の扱いが上手い。俺よりも魔王の才能があるのではないか?


 いや、そんなことよりも、『魔力だんご』のガチャガチャをマルルに見られたら、俺がカシャンコに関わっていると……カールが魔王カルバドスだとバレてしまうじゃないか。


(早く町を出る方が、良さそうだ)




「シルル、いつまでも話していても無駄だから、もう行くよ」


 俺は、シルルの手を握り、町の門へと歩き出した。


「えっ? カール、突然、何?」


「シルルは空を飛べないでしょ。遅くなる前に安全な所まで行かなきゃ」


「えっ、あっ、そうだね」


 シルルは、ペコリと後ろの人達に会釈していた。


「ちょ、ちょっと、カール、待てよ。俺も行くから」


「僕、護衛はいらないです」


「いやいや、つれないことを言わないでくれよ。これだけ準備をしたのに、俺がここに留まるわけにもいかないからさ」


 俺は、勇者と共に旅をする気はない。


「カール、勇者さんが困ってるよん」


「そんなこと、放っておけばいいよ」


「おいおい、そんな風に言うなよ」


 町の門を出た所で、革命軍の魔族達も追いついてきた。


「カール様、考え直していただけませんか」


「は? だいたい、おまえら、シルルに酷いことして、俺を殺そうとしただろ。もう忘れたのか?」


「い、いえ。数々の無礼は謝りますから」


「何、突然、スカウトする気になってるの? 意味不明なんだけど!」


「お怒りはごもっとも……俺も急に気が変わったというか」


「シルルに回復してもらって惚れた?」


「いや、別にシルルさんがどうというわけでも……。体力が戻ってきたら、カール様が光魔法で助けてくれたのだと気づいて、そうしたら、無性にスカウトしなければと……」


「僕の気まぐれだよ。これ以上しつこいなら、殺すよ?」


「おいおい、カール。シルルちゃんのことが絡むと、冷静さを欠くようだな。革命軍のテンプさんだったっけ? 諦めな。本当に殺されても知らないからな」


 俺が無視して歩いていると、ようやく諦めたのか、奴らは足を止めたようだ。


「カール様! 俺は諦めないからな」


 革命軍の大将は、そんな叫び声をあげ、町に引き返して行った。もう二度と会うこともないだろうが、おかしな奴だったな。



「諦めの悪い奴だな」


(その言葉、そっくりおまえに返すぞ)


 赤い髪の勇者は、やれやれという表情で、俺達に笑いかけた。是が非でもついて来るつもりらしい。


「勇者さん、本当に私達の護衛してくれるの?」


「シルルちゃん、俺の名はアークだ。名前で呼んでくれるかい? そう長い旅でもないが、よろしくな」


「はい! カール、よかったねー」


「僕は、護衛はいらない」


「またカール、何か拗ねてるんでしょ」


「拗ねるわけないでしょ、子供じゃないんだから」


「ふふっ、私がついててあげないとダメなんだからぁ」


「へ?」


「あはは、二人は仲良しなんだな。おじさんは邪魔者かなー?」


「アークさん、そんなことないよん。ね? カール」


「はぁ……」


「やっぱりカールってば、何か拗ねてる〜」


「拗ねてないよ」


「うふふっ」


(勇者と共に旅だなんて、ありえないのだが……)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ