36、革命軍の第18大将テンプ
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「何を暴れている!?」
店に、何人かの男が駆け込んできた。町の警備兵といったところか。だが、タイミングが悪い。まるで俺が暴れているようじゃないか。
男達は、予想通り、俺に向かって歩いてきた。彼らの動線の床には、血溜まりができている。そして俺の近くには、雷撃でピクピクしている魔族が倒れている。
(ふむ、どうしようか)
俺としては、人間がどう誤解しようが、別に気にもならない。ただ、マシューに迷惑がかかることは避けねばならんな。
「何を暴れているかと聞いている!」
男達は、俺を取り囲んだ。ふむ、うん? まだ、アイツ、生きているな。血溜まりを作った買い物客は、まだ生存反応がある。
シルルは、顔色が真っ青だ。俺を怖れたか。それならまぁよい。まだ宿場町を出ていなくてよかった。シルルの視線は、血溜まりに向いている。もしかすると、血溜まりにトラウマがあるのかもしれんな。
そういえば、なぜマシューの家に来たのか、詳しいことは聞いていない。シルルの父親が死んだということも、なぜどういう状況で死んだのかはわからない。
(ふむ、シルルは、死が怖いのか)
シルルの思考を軽くサーチした。やはり、血溜まりを怖れている。もっと深いサーチをすれば理由もわかるだろうが、俺はその先には興味はなかった。
「おい! 俺達は自警団だ! 何があったか言えないのか」
(うるさいな)
俺は、自警団だと言われても人間の組織は、よくわからない。いや、どうでもいい。警備兵と同じようなものだろう。
俺は、無視して血溜まりを作った買い物客の方へと、移動しようとしたが、彼らは俺の行く手を阻もうとする。
「どいてください。貴方達は邪魔です」
「なんだと? 店を破壊する行為は、地下牢行きだ!」
「それなら、そこに転がってる魔族に言ってください。時間がない」
「な、何を? 逃げるのか!」
俺は、邪魔な自警団を名乗る男達を振り払った。
「僕しか、あの買い物客を治せないんじゃないの? 僕の邪魔をするってことは、貴方達は、あの買い物客を殺したいの?」
そう言うと、自警団を名乗る男達は、俺を掴んでいた手を離した。ふん、小心者だな。
彼らの間をすり抜け、俺は倒れている買い物客に近寄った。かなりの出血だが、ただの人間じゃないようだ。無駄に体力があるせいで、なかなか死ねなかったようだ。
俺は、回復魔法を唱えた。だが、勇者は回復魔法が得意ではないイメージが、頭から離れない。いつまで勇者ごっこをするのかと、我ながら呆れるが……俺は、弱い回復魔法を使った。
一応の止血はできたし、体力が少し回復したことで意識も戻ったようだ。彼は、ゆっくり上体を起こした。かなり具合は悪そうだが、ここから先は自分で治せばよい。
(ふむ、まぁ、こんなものか)
すると、遠巻きに見ていた店の店員達から、ワッと歓声が上がった。この程度ですごいと拍手をする者もいた。人間は、大げさな奴が多すぎる。
防御魔法を解除するついでに、血溜まりを水魔法と風魔法を使って消し去った。これで、シルルも少しは落ち着くだろう。
「カール!」
後ろから、シルルが飛びついてきた。あやうく、俺は倒れそうになりながら、踏ん張った。シルルは俺を怖がっていたんじゃないのか?
「ちょ、シルル、重いよ」
「あ、ごめんごめん。安心したら、ぎゅっとしたくなったんだよん」
振り返ると、シルルの顔はいつもどおりだった。そうか、血が苦手なのだな。いや、だが、肉料理は血がしたたるような物でも、気にしていないようだった。死が怖いのか。
「シルル、大丈夫? 顔色が悪かったよ」
「あー、うん、なぜだかわかんないけど、血が広がると怖いみたい。忘れた記憶の中に何かトラウマがあるのかもしれないの」
「忘れた記憶?」
「うん、私、マシューさんに拾われる前の記憶が、全然ないみたい。言葉がわからなかったから覚えてないの」
「えっ? でも両親のことは……」
「パパのことは知らないの。ママは顔はわかるけど」
「そうか」
シルルは、自分の実際の年齢もわからないのだったな。マシューに拾われて5年だから、10歳ぐらいだという推測をしているのだったか。
母親の顔を覚えているなら、まぁよいか。神都で捜すときに顔がわからないと、手間がかかるからな。
ガコン!
後ろから、大きな打撃音が聞こえた。振り返ると、自警団だと名乗っていた一人が、持っていたハンマーのような武器を奪われ殴られたようだ。
転がっていた獣系魔族に近寄って、逆にやられたらしい。それで警備兵か? 無様なやつらだ。
「カール、あの人……」
シルルは、少し震えていた。あの男がこちらを見たためだ。俺を睨んだのだと思うが、シルルは自分に怒りが向いていると感じたらしい。
「大丈夫だよ。シルルのことじゃなくて、僕を睨んでるから。魔族のくせに、一度負けても懲りないなんてバカだな」
「えっ……」
「魔族は、基本、チカラのある者には逆らわないんだ。逆らわないフリをしているだけの奴もいるけど」
「カール、大丈夫? あの人、力がすごく強くて……」
「大丈夫だよ。僕を誰だと思ってんの」
「そっか、勇者だよね」
「違うよ、僕は魔王だよ」
俺がそう言うと、シルルは笑った。いや、俺は本当に魔王なんだがな。まぁよい、シルルは笑っている方がいい。
俺は、再び、いくつかの魔法の準備を始めた。まず、絶対防御、そして……俺の闇魔法も混ぜるか。近くに配下がいないかをサーチした。うむ、大丈夫だな。
「おい、クソガキ! さっきは不意打ちを食らったが、所詮はガキだ。俺に傷をつけることもできねぇようだな」
(当たり前だ、店が壊れないようにしたんだからな)
自警団を名乗る男達は、すっかり怖気づいている。二人ほど床に転がっているから、自分達との戦力差にやっと気づいたらしいな。
「まだ懲りないんですか。頭おかしいんじゃない? 魔族なら、一度負けた相手に再び挑むような愚かなことはしないんじゃないの?」
「なんだと? おまえこそ、頭おかしいだろ! 俺に刃向かうとはな。俺が誰だか知らないのか」
「知りませんね、ザコ魔族なんて」
「俺は、革命軍の第18大将テンプ様だぞ!!」
(革命軍? なんだ、それは?)
だが、それを聞いて、自警団を名乗る男達が、後ずさった。シルルも、引きつった顔をしている。
この町に影響を与える魔族の軍だということか。革命軍ということは、せっかく制圧した世界を再び戦火にさらすつもりか?
「何をする軍なんだよ。魔王軍に敵対する気?」
「人間は知る必要のないことだ。ガキ、俺の前で這いつくばれ。おまえの女はもらう。二度と俺に逆らおうという気は起こさないことだ」
「は? おっさん、何言ってんの。さっきの電撃で逝っちまったらしいな。店の中では動けない。外に出てくれる?」
「逃げる気だな。気が変わった。やっぱ、おまえ殺すわ」
男は、自分の剣と、自警団から奪ったハンマーを握っている。妙な二刀流だな。俺に向かって突進してきた。
俺は、準備していた魔法を二つ発動した。絶対防御と強制転移だ。男を強制的に店の外へ転移させた。そして、俺もそれと同時に外へ駆け出した。
男は、店の外で転がっていた。ふん、無様だな。
「おまえ、転移なんかを使うとは、何者だ! ただの人間じゃないな」
通行人や、野次馬が集まってきた。荒くれ者が多いこの町は、ケンカを見ることが娯楽のようになっている。
そして、確かにこの男は、荒くれ者には有名なようだ。革命軍だとか、大将だという囁き声が聞こえてきた。
「おっさん、こんなガキに、また負けるところを大勢に見られてもいいわけ?」
「何をほざいている。もういまさら、言い逃れはできないぞ。俺はおまえを殺すと決めたんだからな」
「そう、じゃあ、逆に、おっさんが死んでも責任取らないからね」
「クソガキがぁ!」
男は、俺に向かって突進してきた。まるで魔物だな。俺は、男が振る剣もハンマーも、ひょいひょいと避けた。力はあるが、スピードはたいしたことがない。
俺を殺してシルルを奪うつもりらしいが、どうしてくれようか。やはり魔族にとっての一番の屈辱は、敗北だ。殺すより、人間のガキに負けた大将として、生恥をさらす方が罰になるだろう。
だが、中途半端なことでは、また狙ってくるかもしれない。俺ではなく、シルルを狙うかもしれない。
「ちょこまかしやがって!」
「おっさん、最後に聞く。僕とシルルに謝って、店の修理代を出す気はあるか?」
「ふざけるな! クソガキ!」
剣やハンマーは、俺には当たらない。特に身体強化はしていないが、コイツの動きが鈍いのだ。
男の動きが止まった。肩で息をしている。やみくもに振り回して疲れたのか。カスだな。そろそろ終わらせるか。
(町の中で、火だと? バカか)
男は、ハンマーを捨て、剣に炎を纏わせた。そしてニヤリと笑った。
「これで終わりだ! クソガキ!」
(仕方ないか)
俺は準備していた魔法の中で一番使いたくなかったものを使うことにした。俺が人間でないと知られてしまう。だが、あの炎から町を守る水バリアの発動準備はしていない。
(炎には炎だ)
俺は両手を広げ、青白い炎を出した。すべてを焼き尽くす冥界魔法だ。
男が、俺に向けて剣を振った。剣からは激しい炎が放たれた。俺は、青白い炎を操り、奴が放った炎すべてに青白い炎をぶつけた。
空中で、奴の赤い炎と、俺の青白い炎が激突した。
次回の更新は、2月3日(月)夕方頃の予定です。




