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30、上機嫌なシルル

皆様、いつも読んでいただきありがとうございます♪

今週で、だいたいの設定紹介が完了します。

これまで毎日更新していましたが、2月からは日曜日は更新をお休みさせていただこうと思っています。

月曜から土曜までの週6回更新予定です。

どうぞ、よろしくお願いします。

「あはは、やはり、そうですよね」


 奥から、さっきシルルと一緒に買い物に行っていた宿の従業員が、笑いながらこちらへ近づいてきた。


(まさか、この獣人の女は……)


「もう! カール、なんでわからないのよん」


 その言葉遣いでわかった、シルルだ。なんだ、化けたのか?


「全然雰囲気が違うから」


「うふふ、すっごくお姉さんに見えるでしょ。宿の人にいろいろ選んでもらったんだよん」


「それに、口紅も買いましたからね。少しお化粧すると、女の子はガラリと印象が変わるでしょう?」


「えっ? 変身の魔道具じゃないの?」


「カールってば〜。そんな神具を私が持ってるわけないでしょ。カールじゃないんだから」


 ギクッ


(まさか、俺が呪具で姿を変えていると気づいたのか)


「シルル、それほど可愛いってカールは言いたかったんだよ。それに、変身する神具なんて聞いたことないよ? 姿を変える魔法は魔物でも使うじゃないか。神具は、普通できないことを叶えてくれるものだよ」


 マシューがそう言うと、シルルは少し照れたようだ。


「そっか、ふふっ。神具のことなんて私わからないもん。でも、カールは不思議な魔道具を持ってるから〜。確かに変身なら魔法でできるよね。たぶん私のこの姿も変身してるもの」


「えっ? シルル、変身魔法を使ってるの?」


「うーん、わかんない。ママがかけた魔法だと思う。私、人の姿に変化する魔法は知らないから」


(そうか、そういうことか)


 シルルが異常に魔力値が低いのは、この姿を維持するために、シルルの魔力が使われているのか。

 白狐と悪魔族、シルルの両親が協力して術をかけたのだろう。だから、俺には変身の痕跡が見えない。きっと神シードルにも見えない。


 だが、なぜそんなことをするのだ?


 まるで、神からも魔王からも隠そうとしているようだ。シルルの何を隠そうとしているのだ?


 ただ、人の姿に変化できないなら、ありのままの姿で暮らせばいい。ありのままの姿が見せられないということか? それほど醜いのか? いや、それなら人の姿に変わっても、こんな綺麗な顔はしていないだろう。ということは……。




「ねぇ、カール、これ何?」


 俺が考えごとをしていると、シルルはカシャンコ台に近寄っていた。ペタペタとガラス板を触っている。ガラス板の奥の画面を触りたいのか?


「カシャンコだよ。銀玉を使って遊ぶおもちゃ」


「へぇ、パチンちゃんとは全然違う〜。これは、どんな修行に使うの?」


(遊ぶ、は通用しないか)


「うーん、銀玉を打ち出すと、そのうち大当たりするんだ。そうだな、忍耐力の修行かな? なかなか大当たりしなくても我慢して打ち続ける根性が鍛えられる」


「へぇ、我慢する修行道具なんだねー」


「うーん……よくわからない」


「カールも知らないの? 使ったことないの?」


「さっき使ってみて慌てたよ。大当たりして銀玉があふれそうになって……」


「なにそれ〜、キャハハ。カールってば、やっぱり私が手伝ってあげないとダメねー」


(なぜそうなる?)


 シルルは、なぜか満足そうな顔をして頷いている。人間どころか、魔族でも、子供の考えはよくわからないな。シルルは、人間に育てられたようだから、感性は人間か。




「カール、カシャンコの景品なんだけどね……」


「はい」


 なぜか、マシューは少しためらっているようだ。言い出しにくいことなのだろうか。


「あの様子だと、あちこちにこのカシャンコ台を置くことになりそうだから、換金の条件はみんな揃える決まりをつくると思うんだ。じゃないと、変な競争で逆に損をすることになると困るからね」


「はい、換金の条件は統一する方がいいと思います」


「だから、町でカシャンコをしたい人は、どこの宿でやるかと考えたときに、等価交換の景品で選ぶんじゃないかと思うんだ」


「なるほど、差別化ですね」


「うん、町の中の宿の主人は、ほとんどみんな有力な商店で働いているから、その商店から景品を仕入れると思うんだ。でも、ウチは、この宿は父さんがまだ現役でやっていて、後を継ぐはずの兄さんは戦乱で死んだから、景品の仕入れが難しいんだ」


「宿の収入だけでやりくりしているのですか」


「まさか、それだと従業員を雇えないよ。姉さんが他の街に嫁いでいて、そこからの仕送りがあるんだよ。俺も、リンゴを売った一部を渡しているけどね」


「大変なんですね」


(なるほど、団子か)



 だが、マシューは言いにくそうにしている。まぁ、そうだろうな。ふむ、団子を景品にすると喜ぶのか? 魔力が増えるとわかっている魔族は来るか。だが、そうすると、カシャンコで遊ばず、団子を強奪されるだけじゃないのか?


「団子を景品にしたいんですか?」


「えっ、カール、いいのかい? いや、俺がそう言わせてしまったんだね、ごめんよ。そうなんだけど、でもそんなことをお願いするのも悪いかと思って……」


 なるほど、パチンちゃんを渡せば料理を持ってきた村の人間だ。団子を景品に渡すと、何を対価にすれば良いのかと悩んでいるのか。


(ふむ……)




 すると、そこに、見知らぬ人間がやってきた。気の弱そうな男だ。何か病気でも患っているかのように痩せた細すぎる身体は、吹けば飛んでいきそうだ。


「あっ、町長さん! わざわざ来てくれたんですか」


「こんにちは、役所から連絡をもらってね。自分で見てみたくなったんですよ」


 町長か。この町のようにボロボロな感じだな。軽くサーチをしてみたが、特に大きな異常はない。心労か……。


 マシューは、慌てて椅子を持って来た。町長は足腰が悪いのか? 特に異常はないようだが。


 そして、マシューが、カシャンコの説明をした。町長はカシャンコを珍しそうに見ながら頷いていた。ひととおりの説明を聞いた後、町長は俺の方を向いた。


「カールさん、素晴らしい魔道具を持っているのですね。そんな魔道具を操る能力も素晴らしい。普通の人間にはできないことです」


「いえ、魔力が高ければ普通の人でも使えますよ」


 すると、彼は頭をふるふると振った。何か思いつめたような表情をしている。俺の返事がおかしかったのか?


「カールさんにはお世辞は通用しないようですね。いえ、お世辞ではなく本心なのですが」


「はぁ……」


「ぜひ、この町にお力を貸してください。町の外のゴミが減るばかりか、そのゴミからこのようなものを作り出すなんて、神具なのでしょう。貧しい町ですが、昔は豊かだったようです。町を預かる長として、少しでも活気を取り戻したいのです」


(必死だな。まぁ、これで戦後復興ができるなら……)


「わかりました。ですが、あまりたくさんは作れません。魔力もかなり使いますから」


「あぁ〜、ありがとうございます! もちろん、無理をさせるつもりはありません。どれくらいなら可能でしょうか」


「この町には宿は何軒あるのですか」


「街道沿いには20軒ほどあります。町の中は休業している宿が多いので、営業しているのは30軒ほどです」


(そんなにあるのか)


「じゃあ、その中で、収入が少なくて困っていて、ここのように広いロビーがある宿、5軒以内でいいですか。もちろん、カシャンコ台の説明を理解できる人じゃないと、困りますけど」


「わかりました。ある程度の知能が必要ですね。置いてもらう宿を選んだら、誰かにお迎えに来させます。よろしくお願いします」


 そう言うと、町長は、椅子から立ち上がり、出口へと向かった。出口には、数人の世話係のような男がいる。本当に、身体が悪いのかもしれないな。




「ねぇ、カール、お腹空かない?」


「確かに減ったね、昼ごはん食べてないし」


「じゃあ、二人でご飯食べに行っておいで」


 そう言って、マシューは、俺に銀貨1枚を渡した。この町の食堂は、そんなに高いのか?


「マシューさん、金なら持ってるから大丈夫です」


「カール、そんな水くさいこと言わないでおくれ。こんなすごい道具を作ってくれて、何もお礼ができないしね。せめてご飯代くらいは出させておくれよ」


「カール、遠慮はいらないよん。断ると逆に大人は困るよん」


(人間は面倒だな。まぁ、マシューはこういうタイプだ)


「じゃあ、もらいます。シルル、行こう」


「うん!」


 マシューは、何かやることがあるのだろう。俺達を見送ると、奥へとすぐに引っ込んだ。




「なんだか、楽しいねー」


「そう?」


「うん!」


 外に出ると、シルルは上機嫌だった。来たときと違って、すれ違う人からチラチラと見られる。シルルが、大人に見えるからだろうか。それとも、獣人だとわかる服装だからだろうか。


「なんか、シルル、見られてるね。その服のせいかな」


「えっ? なんか変?」


「いや、大人っぽく見えるよ。シルルの尻尾、初めて見たかも」


「この方が、カールが狙われにくいって言われたから。カールが嫌なら隠れるワンピースにするよん」


「別に嫌じゃないよ。白くてモフモフで綺麗だし」


「そう? 獣人用の服屋に行ったから、いろいろ買ったの」


「そっか」


「尻尾は出している方が歩きやすいなー」


「ぴこぴこと動いてるね。尻尾でバランスを取るの?」


「うん、そんな感じー。あっ、ここに入ろう! 肉の絵が大きいよん」


 看板の絵に惹かれて、シルルが指差したのは、ステーキ屋のような店だった。ふむ、悪くない。


 俺達は、その店に入った。席に案内されると、シルルがすぐに看板に出ていたオススメセットを注文した。


「なんだか楽しいー」


(ふっ、いい笑顔だな)



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