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24、聖水となる小さな滝

 目の前にあるアンデッドの燃えかす、そして燃えずに残った数本の剣……どう、説明すべきだ? 神を信じている人間に、光の柱の話をするわけにもいかない。


 俺が言葉選びに迷っていると、何人もの人が起きてきた。まだ夜明け前なのに、すでに作業着姿の者もいる。こんな早くから、リンゴ園に行くのだろうか。


「あれ? カールだったね。いったい何があったんだい?」


 話したことのない男だったが、ニーナ婆さんの家で毒の治療をしたから、名前も知られてしまっているようだ。


「突然、この人達に雷が落ちました」


「えっ? た、大変じゃないか……いや、人かい?」


 燃えかすになったアンデッドは、人どころか、何だかわからない物体になっていた。少し腐敗臭は残っているが、人間では気づかないか。


「はい、人の形をしていました」



 じわじわと夜が明けてきた。太陽の光が射すと、足元にあった燃えかすは、太陽の光を受けて溶けるように消えていった。


「もしかして、アンデッドじゃないか。戦乱で死んだ奴らが大量にアンデッド化した町があると、宿場町で聞いたことがある。彷徨って、この村に入ってきたのかもしれないな」


「だとしたら、毒針ネズミや、奇妙な肉は、アンデッドの仕業かもしれんな。生きている者を呪って襲撃する話は、あちこちでよく聞くぞ」


(いや、操る者がいないと、襲撃などせぬ)



 人間のアンデッドに対する認識が、随分とズレている。アンデッド化したなら、それは下級ではあるが魔族だ。


 ただの亡霊なら、生きる者を呪って何かをするかもしれない。だが、アンデッドは、そんなことはしない。

 彼らは、あわよくば進化して、より上位のアンデッドになろうとする者が多い。アンデッドは、死者ではない。アンデッドとして、生きているんだからな。



「カール? どうしたのー? 早起きだね」


 声のした方を見ると、シルルとレイシーがいた。


「カールは、アンデッドが村に入り込んでいたのを見つけて、対処してくれたみたいだよ」


「いや、僕は……」


「見回りしてくれてたんだろう? なんか、そんな声が聞こえたよ。侵入者は、神罰に当たったんだね」


(聞かれたのか……神罰だと?)


「剣が4本、落ちている。侵入したアンデッドは、4体だったんだな」


「はい、薄暗くてよくわからなかったけど、数人でした。神罰というのは落雷のことですか?」


「そうだよ。村を荒らそうとした荒くれ者にも、以前、雷が落ちたことがあったんだ。神様は、見てくださっているんだよ」


(それもアンデッドじゃないのか?)


「そうですか」


「俺達も、時間をズラして、早目にリンゴ園に行こうと話し合ったんだ。カールも同じことを考えてくれたんだな。俺達も、おかしいと思ったんだ。毒針ネズミだけならわかるが、シチューを作ると、毒の湯気が出るなんて、おかしいからな」


 他の人達も、頷いていた。そして、侵入者が残した剣に、聖水をかけると言って、小瓶に入った何かを振りかけていた。


 剣にかかると、ジュワッと音を立てて白い煙が出た。なるほど、浄化か。剣は、ボロボロになって崩れていった。


「やっぱり、アンデッドの持ち物だな。うっかり触れると呪われるところだった」


(ふむ、少し違うがな)


 アンデッドは、持ち物を残して消えた場合、だいたいその持ち物に隠れている。それに触れた者の、生気を吸い取ることができる個体が多い。そして再び夜になると、持ち物から這い出し、復活するのだ。


 持ち物を浄化すると、それはアンデッドを完全に殺したということだ。まぁ、そんなことは、人間は知らない方がいいか。


 村でも異変に気付いて、キチンと対応しようとしているんだな。人間は俺が考えている以上に自立している。自衛をしようという意識も備わっているようだ。



「さぁさぁ、カール、朝ごはんにするよ。シルルは、カールにリンゴを絞ってあげて。カールは、アンデッドと関わったなら、水浴びしてきてくれるかい」


「水浴び?」


「あぁ、俺が連れて行こうか。村の北に小さな滝があるんだ。魔物が寄り付かない聖なる滝だ。さっきの聖水は、その滝の水から作るんだよ」


(げっ! 聖水の滝だと?)


「い、いや、僕は、滝なんて……」


「あはは、大丈夫だ。流れもゆるいからな。それに、不思議と、その滝の水をかぶっても、すぐに乾くから風邪をひく心配もないんだぜ」


(ますますヤバそうじゃないか)


 まさかとは思うが、呪具が浄化されないだろうか。この村の北ということは、あの宿場町とを繋ぐトンネルの方だ。大量の死体があった場所、そして、白い石碑があった場所だ。


「北って、あの宿場町と繋ぐトンネルがある方ですよね」


「あんな所までは行かないよ。村のすぐ外だ」


「大量の死体があった場所ですよね」


「おいおい、まさか怖いんじゃないだろうな。大丈夫だよ、カールが死体を葬ってくれたんだろう?」


(何か勘違いをしているな)


「いや、でも……」


「カールは、たぶん水が嫌いなんだよん。顔を洗いなさいって言われて、いつも嫌そうな顔をしてるんだよん」


 シルルがまた妙なことを言い出した。あれは、顔を洗う意味がわからないだけだ。


「あはは、なんだ、そうなのか。カールにも苦手なことがあるんだな。大丈夫だ、井戸の水は冷たいが、滝の水はそんなに冷たくはないから」


(はぁ、こうなると無理か)


 この村の人間は、なかなか意見を変えない頑固な者が多い。ここで暮らす子供は大変だろうな。




 俺は、人懐っこい笑顔の男に連れられて、小さな滝のある小川にやってきた。やはり、あの白い石碑のある背の高い木の近くだ。


「さぁ、カール、俺も一緒に水浴びをするから」


 そう言って、男は服を着たまま、小川の中へ入っていった。仕方ない。


 俺は、一応、ゆるいバリアを纏い、彼について行った。シードルの光の魔法には、何をしてもほぼ役に立たない。俺の強力なバリアは、逆に反転して大きなダメージを受けることにもなりかねないのだ。


 魔王だと言ってあるから、もし呪具が浄化されて変身が解けてしまっても、まぁ、いいか。だが、ペンダントのアイテムボックスが壊れるとマズイな。危険な呪具が放出されてしまう。


 俺は、ペンダントの呪具に手を当て、守りながら滝に近づいた。実に不快だ。シードルの高笑いが聞こえてきそうでイライラした。だが、変身は解けなかった。ただ不快なだけだ。


(なんだ、たいしたことはないじゃないか)


 そして、川から出ると、服はさっと乾いた。男はスッキリしたと言っているが、俺は逆に汚された気分だ。


 俺は、男の視線が逸れた隙に、水魔法を自分に浴びせ、弱い熱風で乾かした。うむ、これでスッキリした。


「うん? 熱風? カール、寒かったのかい? あはは、ほんとに水が嫌いなんだね。神様にすがらなくても、神様の力を帯びた滝だから大丈夫だよ、ふふっ」


「別に、すがっていません」


「そうかい? 神の印をぎゅっと握っていたように見えたけど」


(いや、呪具を守っていただけだ)


「僕は、魔王ですから、神にすがるわけありません」


「あはは、そうだったね、あははは」


 この男も、なぜか信じていない。訳がわからない。



 だが、あの白い石碑の役割が、さらにわからなくなった。光の柱は、あの白い石碑から出ている。空に結界を張ったり、近くに死体を集めたり、アンデッドを燃やす雷を生み出したり、浄化する滝を生み出したり……。いったい、何がしたいのだ?


 住人を、踊らせているのか? 怯えさせ、手を差し伸べることで、信仰心を高めようなどと、くだらないことを考えているのではあるまいな。


 地上に生きる者は、おもちゃじゃないんだ。俺は、アイツの道具だ。そもそも、アイツ自身だからな。

 だが、俺以外の生きる者は、みな、それぞれ知恵をしぼり力を合わせ、なにより助け合いながら暮らしている。それをもてあそぶような、そんな愚かなことを…………考えていそうだな。


(もっと情報が必要だな)




 マシューの家に戻ってくると、さっきの男も一緒についてきた。どうやら、一緒に朝食を食べる気らしい。


 俺は自分の席に座り、置いてあったリンゴジュースを一気に飲み干した。うむ、美味い!


「カールったら、ほんとにリンゴジュース好きだねー」


 呆れたように、そう言いながらも、シルルは嬉しそうにリンゴジュースを注いでいた。別におかわりを要求したわけではないが。


「早起きしてお腹空いただろう?」


 レイシーは、俺の前に、焼きたてパンと、野菜炒めを置いた。朝食は、だいたいこれなんだな。



 食事中、人懐っこい男は、ずっと話をしていた。どうやら、婆さんの息子らしい。話の内容から、レイシーの兄貴なのだとわかった。


 そして、俺の話になった。俺が、川に入るときに神の印を握りしめていたとか、川から出ると、すぐに熱風の魔法を使っていたと、暴露していた。熱風の前の水魔法には気付いていなかったのか。


(なぜ、楽しそうなんだ? こんなくだらない話が)


「それでさー、カールは、魔王だから神にすがるわけないって言ったんだよ。かわいいだろ? 俺、思わずキュンとさせられてしまったよ」


「きゃはは、何それ、かわいい〜」


「ちょ、何がかわいいんですか」


 俺が反論しても、この家の人間は、思い込んだら人の話を聞かない。なぜか、レイシーや、他の子供まで笑っている。


(全く訳がわからない)



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