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18、兵器製造の呪具は、オネエキャラ

『こんな感じかしらぁ?』


 兵器製造の呪具が、パチンちゃんの試作品を作った。なぜか、Y字状の枝の部分が、金属製になっていた。


「なぜ、金属なんだ? 木材で作れないのか」


『だぁってぇ、預かってる素材は、すべて金属に変えちゃってるもの〜。木材の状態で百年放置してると、さすがに腐っちゃうわぁ』


(なるほどな)


「じゃあ、その荷車を素材にして作れば、木の枝に似せられるな?」


『うーん、できるけどぉ〜、でも金属の方が丈夫だものぉ』


「やはり、おまえは欠陥品だな」


『いやーん、作るわよぉ〜。壊さないで〜』


 俺は、すり寄ってくる呪具を、荷車の方へ蹴り飛ばした。蹴り飛ばされて、呪具は喜んでいるようだ。


(うっとおしい奴だな)


 兵器製造の呪具は、俺が不機嫌なことを察したのか、そそくさと仕事を始めた。呪具が光るとフッと荷車が消えた。呪具が荷車を飲み込んだようだ。



 しばらくすると呪具は、ぺっぺと吐き出すように、パチンちゃんを地面に放り出し始めた。


 その一つを手に取ってみると、木の枝を模しているが、簡単には折れないように、針金状の何かを巻きつけてある。あの呪具の中に眠らせてあった金属を使ったのか。


(ふむ、悪くない)


 これなら、子供でも扱いやすい。武器にもなりそうだ。ゴムの部分もしっかりしている。小石をセットしやすいように真ん中は大きめにしてあるのだな。安定するから、魔力も込めやすいだろう。


「もう、それくらいで良い」


 俺がそう言うと、兵器製造の呪具は、パチンちゃんを吐き出すのをやめた。いや、完成品を吐き出すのをやめただけか。それをくわえたまま、すり寄ってきた。


『作りかけのがあるのぉ』


「じゃあ、それも出せ」


『はぁ〜い』


 また数個のパチンちゃんを吐き出して、呪具の黒い光は消えた。製造完了ということだ。


 俺は、呪具に封印を施し、マシューに見られないように気をつけながら、ペンダント型のアイテムボックスに収納した。

 コイツは、人間でも何でも飲み込む癖がある。用が済んだら、さっさと封印をしなければ危険だ。


 さらに、最初の金属製の試作品は、俺の魔法袋に入れておいた。こんな田舎にあるとおかしいような、レア金属で出来ている。これは、子供達に渡せない。もし、これが外部に出ると、誰が作ったのかと問題になる。



 マシューは、かなり遠くから、こちらの様子を見ている。この道具が魔力を吸い取ると言ったことで、過剰に怖がらせてしまったようだ。


「マシューさん、飛び道具パチンちゃんができました。もう、魔道具は収納したから大丈夫ですよ」


「えっ? もうできたのかい』


 マシューは、こちらに駆け寄ってきた。そして、荷車があった場所に無造作に積み上げられている大量のパチンちゃんを見て、驚いた顔をしていた。


「とりあえず、これくらいあれば、みんなで遊べますよね」


「あぁ、すごい量だね。村の人、全員に配っても余りそうだよ。カール、ありがとう」


「いえ、材料は荷車ですから」


「魔道具なんて、俺達には扱えないから、びっくりしたよ。便利なんだね。それに、さっさ、カールが手作りしてくれたものよりも武器っぽいね」


「そうですね。折れにくいように補強してあるようです」


「そっか。カールの手作りのパチンちゃんと見比べてみたいけど、誰かが持って行っちゃったね」


「僕が手作りした物よりも、きっと丈夫にできてますから」


 マシューは、うんうんと頷き、大量のパチンちゃんをリンゴ収穫用のカゴに移していた。



 通りかかった村人に、マシューはパチンちゃんを見せ、説明を始めた。マシューと同じく他の人達も、パチンちゃんを鳥の撃退に使えると喜んでいた。


「村長に話して、パチンちゃん置き場を作ってもらおうか。必要な人が自由に使えるように」


「いや、これは子供達にと、カールが魔道具で作ってくれたものだから、子供達に管理させないかい? 大人が管理すると、町に売りに行こうとする人もいるかもしれない」


「あぁ、マシューの言う通りだな。村長の息子は、売ろうと考えるかもしれない」


「いや、誰がという意味で言ったんじゃないよ」


「あぁ、わかってるよ。ウチには子供が3人いるんだ。3つもらってもいいかな」


 通りかかった村人が、俺にそうたずねた。俺は、コクリと頷いた。



「子供達には、2つずつ渡せばいいよ。すぐに失くしてしまう子もいるかもしれないからね。後で、ビーツに子供達みんなに配るよう頼んでおくよ」


「あぁ、ビーツはリンゴ園かい?」


「いや、パチンちゃんを使って飛ばす小石を、他の子達と一緒に集めていると思うよ」


「じゃあ、小石置き場が必要だな。リンゴ園の休憩所付近に作るか」


「そうだね。でも、収穫作業中には、人がいる方向には小石を飛ばさないように、気をつけさせなきゃいけないね」




 小石を拾いに行った子供達が戻ってきた。そして、パチンちゃんの山を見て、歓声をあげている。だが、その中に、ビーツの姿はなかった。


「あれ? ビーツは一緒じゃなかったのかい?」


「ビーツなら、洞穴の方に行ったよん。普通の小石よりも、洞窟の岩石の方がいいって〜」


「えっ? ビーツがひとりでかい?」


「うん、危ないって言ったんだけど、パチンちゃんがあるから大丈夫って」


(ビーツが持っているのか、おや?)


 シルルの手には、派手なすり傷ができていた。


「シルル、手の怪我はどうしたんだ?」


「あー、私はたいしたことないんだけど、あの子が大きな虫に追いかけられて、下の道に滑り落ちちゃったから〜」


 シルルの視線の先には、土で服が汚れた無口な子がいた。影の薄い子だが、礼儀正しい子だ。


 他の子供達にも、かすり傷があるようだ。小石を集めに行ったくらいで怪我をするのか?


 だが、俺が拾いに行けと言った以上、俺に責任があるか。


(仕方ないな)


 俺は、白い『魔力だんご』を手早くこねた。そして、子供達に、団子が乗った手のひらを差し出した。


「みんな、一つずつ食べて。怪我が治るから」


 すると、子供達はパッと俺の手から団子を取り、パクっと食べた。マシューの怪我が治ったことを知っているから、何の戸惑いもないな。


「これ、食べてみたいと思ってた〜」


「甘〜い! 美味しい〜」


「あれ? カール、なんだか、私、魔力が上がったかもしれないよん。ぶわっと少し熱いなんかが染み込んだみたい」


「シルルちゃん、なんか変なこと言ってる。私は何も感じないけど、怪我はすぐに治ったね」


(シルルだけは、魔力を分け与えたと気づいたか)



 そう、『魔力だんご』は、弱体化魔法が生み出す産物だ。俺がわずかに弱体化し、団子を食った者の能力が増える。


 ということは、シルルには、サーチ能力が備わっているのかもしれんな。確か、白狐と巨人族のハーフだったか。白狐は、神シードルに仕える回復魔法が得意な魔物だ。その血ということか。


 そういえば、あの赤い髪の勇者アークは、白い『魔力だんご』を食べても魔力が増えたとは言わなかったな。毒や怪我の程度が大きいと、気づかないのだろうか。いや、人間は気づかないのかもしれないな。


 あのとき、瀕死の状態で、白い『魔力だんご』を食べたレングルートは、何も言わなかった。だが、妙に俺に媚びるような態度に変わった。アイツは気付いていたが何も言わなかった、ということなのだろうな。



(何だ?)


 ふと、俺は、パチンちゃんに集まっていた人達が、こちらをジッと見ているのが気になった。別に欲しければ、いま、持って帰っても構わないが。


「飛び道具が必要なら、大人でも持っていってもらって構いませんよ?」


「えっ? あ、あぁ、ありがとう」


 パチンちゃんを手にしながらも、人々の反応は鈍かった。何か、言いたげだが……あー、団子か。


「もしかして、団子を食べてみたいと思ってますか」


「おっ、あぁ、だけど別に怪我をしているわけでもないからな。怪我をしたときに頼むよ」


 シルルが、魔力が増えたと言ったためかもしれないな。食べてみたいけど、そうとは言えないのは、人間のプライドなのだろうか。


(人間は、よくわからん)



 ドン!


 突然、低い音が辺りに響いた。何か大きな重い物が地面に落下したかのような音だ。


「あっ! 洞穴の方だ!」


 子供達の視線の先には、山があるだけだった。俺は、遠視魔法を唱えた。すぐに、洞窟の入り口らしい大きな穴が見つかった。さらにその奥を探ると、ビーツらしき剣を持つ人間がいた。何かと対峙している。いや、囲まれているのか。


「どうしよう、きっと、洞窟のヌシが怒ったんだ」


 また、ドスンと、低い音が響いた。彼の周りにはそんな大きな生き物はいないが……。


「洞窟のヌシって、なんだ?」


「ビーツが、ヌシの抜け殻を集めるって言ってたから怒らせたんだ」


(抜け殻?)


「大変だ! すぐに助けに行かないと」


 マシューが急に慌て始めた。だが、ビーツらしき人間は、小さな何かに囲まれているだけだ。

 危険なら逃げ出せるはずだ。洞窟の規模はわからぬが、彼がいるのは入り口と同じ階層だし、それほど奥には入っていない。


 でも、ビーツらしき人間は、微動だにしない。まさかビビって動けないのか?


「ヌシは、大きな岩蛇なんだ。睨まれると麻痺して動けなくなる。邪眼持ちなんだよ」


(邪眼持ちのヘビか)


 微動だにしないということは、麻痺しているのか。あまり、猶予はないか。


(仕方ないな)


「僕が、行ってきます」


 俺は、転移魔法を唱えた。



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