表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/113

14、宿場町とアプル村をつなぐトンネル

「カール、キミはいったい……さっきの団子のようなものは、上質なポーションなのか? 見たことがないよ」


 赤い髪の勇者アークは、驚いた顔をしていた。まぁ、そうだろうな。俺が偶然発明してしまった弱体化魔法だ。見たことがあると言われると、俺が驚く。


「ポーションのような効果があります」


「いったいどうやって? 治癒魔法を物質化したのか?」


「さぁ、よくわからないです」


「どうやって……あ、いや、悪い。紫の家系の秘伝なのだな。やはり、紫が正統派か。赤の家系には、こんな不思議な魔法は伝わっていない」


 俺は、あいまいな笑みを浮かべた。否定するのも面倒だ。


「俺は、勇者の家系が、家同士で争うことには反対なんだ。だけど、特に青の家系は数も多いから、自分達こそが正統な勇者の家系であり主流派なのだと主張している」


(くだらぬことで争っているのだな)


「そう、ですか。他の家系はどうなんですか?」


「そうだな。黄の家系は、あまり争う気は無さそうだ。緑の家系は、交流がないからわからない。桃の家系と、白の家系、そして黒の家系は、青の家系が勇者の街で幅をきかせていることや、その主張を許さないと言っている」


(赤、紫、青、黄、緑、桃、白、黒……8つもあるのか)


「そうですか」


「紫の家系はどうなんだ? と言っても、カールにはわからないか」


 俺は、あいまいに笑った。うむ、やはり子供は便利だな。




「カール、そろそろ戻らないと、晩ごはんまでに帰れないよ」


 マシューが、空を見上げて言った。確かに、遅くなるとレイシーが心配するだろう。


「はい」


「勇者様、我々はそろそろ村に戻ります」


「あぁ、時間をとらせて悪かったな。それに今日は最悪の日だと思っていたが、最高の日になったよ。また会おう」


 そう言うと、赤い髪の勇者は、広場から出て行った。


 レングルート達は、怪我が治るとすぐにその場から消えていた。礼も言わないなんて、いい根性をしている。だが、店で待っているような気がするな。




 俺達は、馬鳥車を停めているレングルートの店まで戻ってきた。すると、案の定、彼はそこで待ち構えていた。


「マシュー、これも持って行ってくれ」


 そう言って、レングルートは肉の塊を渡してきた。


「えっと、これは?」


「さっき、手に入ったばかりのレッドベアの肉だ」


「ええ? そんな高い肉をなぜ……」


「いつも美味いリンゴを仕入れさせてもらってる礼だよ。勇者の家系の子には、たくさん肉を食わせてやらないとな」


「レングルートさん、ありがとうございます。みんな、喜びます」


 レングルートは、なぜか俺を見て、媚びるようにニコニコしている。気持ち悪いな。だが、まぁ、この肉は、助けた礼のつもりなんだろう。だが、店だからか、助けられたとは言わないんだな。


「それから、カールといったか。服を買ったんだな。見違えるようにオシャレになったじゃないか」


「はぁ」


「さっきの団子のような物は、紫の家系に伝わる固形ポーションなのか? ありえないくらいの効果だ。まさかの古傷までが消えたよ」


「それは教えられません。でも怪我が治ってよかったです」


「そうか、まぁそうだよな。カールのような有望な子と知り合えて嬉しいよ。剣の技術も高そうだ。これからの成長が楽しみだな」


(ほめ殺しか? 気持ち悪い)


 俺は、あいまいな笑みを浮かべた。


「では、レングルートさん、レッドベアをありがとうございました」


 そう言って、マシューは、馬鳥車を出した。




 マシューは、来たときとは違う道を使うようだ。町の中を突っ切り、そして山道に入った。すると、あちこちに大量のゴミが積み上げられている光景が目に飛び込んできた。


(戦乱のゴミか)


 人間が使う武器や大砲などの残骸が積み上げられている。毒を含む兵器も無造作に放置されている。そして、この大量のゴミのせいで、この辺りには草花が育たないようだ。


 このまま放置をすると、この山からは緑が消えるだろう。下手をすると、毒が町に流れ込むかもしれない。誰も片付けないのか?


 そして、マシューは、ゴミの中を突き進み、トンネルに入った。トンネル内は、光ゴケで明るかった。



「行きと帰りでは、道が違うんですね」


「あぁ、街道を通るにはもう外は暗いからね。この馬鳥車には灯りは積んでいないから、トンネルを通る方が近いし、明るいんだよ。ただ、景色は最悪だけどね」


「ゴミがすごかったですね」


「うん、それに、このトンネル内は明るくていいんだけど、出口は、埋葬されていない死体だらけなんだ。怖かったら、目をつぶっているといいよ。あ、カールは大丈夫か」


 俺は、愛想笑いをしておいた。



 マシューには見えていないのだろう。このトンネル内のひどい状況が……。もし見えていたら通れないだろうな。


 光ゴケで明るいから、人間の目には見えないのかもしれない。トンネルを入った瞬間から、俺は少々驚いた。トンネル内が、死霊で埋まっているのだ……。さらに先に行くにつれて、その密度が増していった。


 だが、なぜこんなにも溜まっているのだ? 死んだら天に召され、新たな命を授かるはずだ。一部にはこの世界に怨みを残して彷徨う者もいる。だが、この長いトンネル内を埋め尽くす大量の死霊は、いくら戦乱が長く続いたからといっても不自然だ。


 俺はたまらず、途中で、馬鳥車ごとバリアを張った。危害は加えられないが、払っても払っても顔に纏わり付く死霊に耐えられなくなったのだ。



「ん? カール、いま、何をしたんだい?」


「えっと、バリアを張りました」


「うん? あー、光ゴケの臭いが嫌だったのかい? 確かにカビ臭いにおいも少しするね」


「はい」


「ここを通ると、カビがついてしまうみたいで、リンゴが腐りやすくなるんだ。だから、荷車にリンゴを積んでいるときには通れなくてね」


「そうですか」


 そりゃそうだろう。こんな死霊だらけの中をかき分けるようにして進むんだ。こんな死霊達にねっとり纏わりつかれたリンゴなんて、食べる気もしない。



 バリアを張った後も、死霊はバリアに張り付いてくる。鬱陶しい。だが、妙だな。最近この付近では戦乱はなかったはずだ。


 確か、五百年ほど前には、ちょっと衝突はあったように思う。だが、五百年前に死んで、まだこんな大量に死霊のままでいるなんてことはあるのだろうか。


 強い怨みを抱いているなら、五百年も経てば、強力なアンデッドに成長しているはずだ。ここにいる死霊は、すべて人間だった者達だ。人間の方が魔族よりも、個々が抱える闇は深い。なぜもっと上位のアンデッドに進化していないのだ?



「カール、出口だよ。右は見ちゃだめだよ」


「死体の山ですか」


「うん、出口の右側には、大木があるからね。昔から亡くなった身元のわからない人の遺体は、その木の周りに置くんだよ」


「なぜですか?」


「ほんとなら火葬や土葬をしてあげるべきなんだけど、死体を灰にするには、かなりの火力が必要だからね。それができるような高位の魔術士は、こんな田舎にはいないんだ。土葬をすると、このすぐ先は、ウチのリンゴ園だから、土の環境が変わってしまうと困るしね」


「大木の近くに? 大木は死体を置く目印なんですか?」


「それもあるね。でも大木の近くには、教会の石碑があるから、神様の力が宿っているんだ。だから、死体は腐敗しないんだよ。だから、昔から大木の近くに死体を置くんだ」


「えっ!?」


(シードルの石碑だと? 大木の近く? まさか……)


 光の柱の正体は、その石碑なのか? だが、何のための石碑だ? 死体が腐敗しない? もしかするとトンネル内の大量の死霊は、その死体の山のせいか?




 馬鳥車がトンネルから出ると、左側にはリンゴ園が広がっているのが見えた。リンゴ園は、暗い時間でも作業をしている。ポツポツと、灯りがともっていた。


 俺は右側を見た。少し離れたところに、高い大木が見えた。マシューが言っていたように、死体が積み上げられていた。しかもかなりの広範囲だ。数万体はありそうだ。そして、この辺りにも大量の死霊がふわふわと漂っている。


(ちょ、リンゴ園の方まで広がっているではないか!)


「マシューさん、ちょっと停めてください」


「ん? どうしたんだい? もうすぐ家だよ」


「僕、この死体の火葬をします」


「ええっ? こんな大量のかい?」


「はい、詠唱時間がかかるけど、なんとかなると思います。この辺のリンゴは、収穫量が少なくないですか?」


「あぁ、この辺は土が悪くて、良質なリンゴは採れないよ。この辺のリンゴは、ジャムにしているんだ」


(ジャムか、食えねぇな)


「たぶん、ここにたくさん死体があるから、影響を受けているんだと思います」


「そうか、じゃあ、カール、頼めるかい? 無理はしないでおくれ。山火事になっても困るからね」


「はい、死者しか燃えない魔法を使います。マシューさんは、ここでじっとしててください」


 俺はそう言うと、馬鳥車を飛び降りた。念のため、マシューに弱い幻影魔法をかけておいた。俺がどんな魔法を使うか、見られるわけにはいかないからな。


「カール、今のは?」


「念のため、耐火バリアです」


「そうか、ありがとう。無理してはいけないよ?」


 俺は頷き、死体の山へ近づいて行った。


(まずは、シードルの石碑を探すか)


 俺は、周りに誰もいないことを確認し、狭域のサーチ魔法を使った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ