12、赤い髪の勇者と魔族レングルートの衝突
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俺は不覚にも、自分の配下達が町にいることに気づかなかった。魔力の痕跡を残さぬよう気をつけていたため、このエリアのサーチさえしていなかったからだ。
だが、何のサーチをしていなくても、普通なら同じ町に強力な魔族がいればわかるはずだ。これも、呪具の完全変化の呪いのせいか。
(やはり欠陥品じゃないか)
いや、違うか。俺は、人間に化けたことで、ここまで様々な能力が下がるとは考えたこともなかった。俺の人間に対する理解が低すぎたせいか。
(くそっ、この呪具は危険すぎる)
危機探知のできるアイテムでも買うことにしようか。まぁ、その方が人間らしいからな。
「カール、まずいことになったよ。巻き込まれないように、じっとしていて。下手に逃げるのも危ない」
「はい?」
「魔族と、この町の勇者が遭遇してしまったんだ」
カールは、俺とは別の方を見ている。その視線の先には、さっきのレングルートがいた。何人かの魔族を連れているのが見えた。
そのすぐ近くには、見知らぬ赤い髪の青年がいた。腰には何本かの剣をさしている。そのうちの1本から嫌な印象を受けた。なるほど、聖剣持ちか。
彼の足元にはキラリと光る物があった。これが、さっきの割れた音の正体だな。
そして、俺の配下達は、赤い髪の青年をジッと見ている。まさか、勇者狩りをする気じゃないだろうな。
「マシューさん、あの……」
俺が理由を聞こうとすると、シ〜ッと人差し指を口に当てた。黙っていろということか。
広場にいた人達も、静まり返った。そして、みんな同じ方向を見ている。怖がっている者もいた。ふむ、逆に俺は楽しくなってきたが。
だが、何も気にせず動く者達がいた。俺の配下達だ。しかし、なぜか誰も彼らが魔族だと気づかないのか、配下達のことは全く気にしていないようだ。レングルートでさえ、気づいていないようにみえる。
(まさか、マルルか?)
俺は、子供らしくキョロキョロするふりをして、配下達の様子を観察した。もし、あの小娘が近くにいるなら、サーチ魔法を使うと俺だとバレる。
すると、配下達がこちらに近づいてきた。まさか、呪具を使っているのに俺だと気付いたのか?
(意外とやるじゃないか、褒めてやろう)
だが、配下達は、俺の横を通り過ぎた。なんだ、俺のすぐ後ろの屋台に用事があったのか。俺は気づかれなかったことにホッとした。やはり、完全変化の呪いは優秀だ。
「ん〜? カルルンは居たの〜?」
(なっ!?)
俺は、後ろから聞こえた声に、危うく叫びそうになった。カルルンだと? なんだ? 変なあだ名をつけやがって。
すぐ後ろから聞こえてきたのは、まぎれもなくマルルのお気楽な声だ。だが、俺が振り向くわけにもいかない。いま、この広場にいる人間は、レングルートと勇者に釘づけだ。
「ちょっと、マルル様、名前を出すなとおっしゃってたじゃないですか。だから、我らの主君と呼ぶことにしようと……」
「だって、言いにくいじゃない。カルルンの方がかわいいし、バレないよーっ。で、居たの?」
「いえ、やはり姿を変えられているのでしょう。でもほんとに、この町におられるのでしょうか」
「うん、たぶんこの辺だよーっ。昨夜、カルルンがお城を覗いてたの。魔力の痕跡探索を始めたら、サーチが途切れちゃったけど〜。もうちょっとでわかったんだけどなぁ」
(げっ、あれだけで、ここまで来たのか)
「じゃあ、やはり、あの赤い髪の青年ですかね? 人間にしては戦闘力が高すぎるし、妙な剣を持っていますし」
「ん? あのお兄さんは、ただの勇者じゃないのー? あれは聖剣だよ。カルルンは聖剣なんて持たないでしょ」
「だからですよ。ある程度の戦闘力があっても怪しまれないのは、人間なら勇者くらいでしょうから」
「ほーん、なるほど。あたしの目をあざむくために、聖剣でさえ持っちゃう感じー? ぜーったい、捕まえるんだからっ」
なぜか、マルルが異常なやる気を出している。面倒だな。捕まえるだと? 鬼ごっこでもしているつもりか?
(こんな近くに居るんだがな、ふっふっ)
キィン!
レングルート達と赤い髪の勇者は、町の広場なのに剣を抜いていた。まぁ、魔族が勇者に皿を投げつけて挑発したのだろうが……屋台に被害が出るんじゃないか。
レングルートは、こちらを見て、好戦的にニヤッと笑った。それにつられるようにして赤い髪の勇者もこちらを向いた。彼は俺を見て……いや、俺の頭を見て、少し驚いた顔をしている。
(何を考えているかサーチしたいが……マルルが邪魔だな)
おそらく、レングルートは馬鳥車を停めた店で、俺のサーチをしたのだろう。頭の中の思考は読まれない。だが、見せかけの戦闘力は見える。
アイツはずる賢い男だ。それに、サーチ能力には絶対的な自信を持っているだろう。俺の頭の中を覗けないということは、俺が思考を読ませないための道具を使っていると考えたはずだ。アイツの性格からすると、そんな道具を持つ人間のガキが、自分より上か下かが気になるに違いない。
(きっと、俺の力を試したがる)
もし、俺の予想が当たっているなら、あの赤い髪の勇者は……。
「マルル様、赤い髪の青年がこちらを見て驚いた顔をしましたよ」
「カルルンには見えちゃうか。でも、本当にカルルンかなぁ? ただの魔力の高い勇者じゃないの?」
「でも、この辺にいる人間で一番強いのは、あの青年ですよ。この町におられるんですよね?」
「この辺だったけど……ん? あれ〜?」
突然音もなく目の前にマルルの、どアップの顔が現れた。
「うわっ!」
俺は不覚にも声をあげてしまった。マルルは、ジーっと俺の目を見ている。これはマズイ。俺が焦っていると、マシューが声をかけてきた。
「お嬢さん、どうしたの? カールの知り合いかい?」
「えっ? この子、おじさんの子供なのー?」
「ウチで預かっている子だよ。カール、知り合いかい?」
俺は頭を横にふるふると振った。
「僕、こんな可愛い知り合いはいないです。そんな近くで見られると、僕……」
可愛いと言うと、マルルは、ニヘラニヘラと笑った。
「あはは、カールは女の子に免疫がないんだね。お嬢さん、誰かと人違いじゃないかい?」
「この子の頭の中を覗けないから、あたしが探している人かもしれないと思ったのー。でも、こんな小さな子には化けないかな。だいたい彼は素直じゃないから、あたしが可愛いって言えないもの」
(ふむ、普段言わないことを言えばよいのか)
マルルは、何かに気づいたようだ。そして俺の胸元を掴もうと手を出した。ペンダント型の呪具に気づいたか。だが呪具は、マルルの手にバチっと電撃を食らわせた。
「いった〜い! やっぱり神具ね。シードル様なんて大っ嫌いっ! それを使って隠してるんだぁ。カールちゃんは、勇者のたまごなのね〜」
(マルルまでが、俺を勇者扱いか……)
俺は、目を逸らした。だがマルルは、俺の向いた方向に移動してくる。まだ疑っているのか、ジッと俺の顔を見て、首を傾げている。
「な〜んか、見たことあるような顔なのよねぇ」
マズイ。そういえば、マルルは城に攻め込んできたあの勇者を、イケメンだと気に入っていた。今の俺はガキだから、あの勇者とは違うはずだが。
「マルル様、あの赤い髪の青年が……」
「ん? あれ? どうしてやられてるのーっ。あっ! あの魔族って、裏切り者のなんちゃらじゃない?」
「あーっ! レングルートだ! 我らの主君は、見破られないように防戦しかしていないのでは?」
「わざと魔法を使わないようにしてるのねーっ。ドカンとぶっ放せば、あたしにもアイツにもバレるから」
「我らの主君をお助けしましょう。そして、城に戻ってもらいましょう」
「そうねっ。今度はあたしが家出する番なんだからーっ」
なんだか訳のわからないことを言いながら、俺の配下達はこの場からスッと消えた。そして、赤い髪の青年を守るように、レングルート達と対峙した。
レングルートは、俺の配下達が現れたことに驚いていた。やはり、気づいていなかったんだな。
(アイツら、レングルートを殺すだろうな)
「カール、大丈夫かい? あの人達も魔族のようだね。なんだか因縁がありそうだ……。町が壊されなきゃいいけど」
「マシューさん、ちょっと、僕、行ってきます」
「えっ? ダメだよ、この数の魔族を相手にするには、まだ早すぎやしないかい」
「さっきの女の子達を、説得するだけですから」
「でも……」
奴が殺されるのを見ているのも悪くないが、それでは、これまでマシューが我慢して築いてきた安心が崩れる。
そう話している間に、俺の配下達は、レングルートを追い詰めた。どう考えても奴には逃げ場がない。マルルが奴の逃げ道を封じているのだ。
そして、わずかな時間で、レングルートが連れていた連中は倒され、相手の動きを読めるはずのレングルートにも、浅くない傷が増えていった。
(俺の配下達は、優秀だな)
アイツらは、わざと致命傷を避けて攻撃しているようだ。じわじわと恐怖をうえつけるような戦い方だ。裏切り者は許さない、そんな怒りが伝わってくるようだ。
レングルートが膝をついた。配下達と何か話しているが、マルルがいるせいで、俺はサーチ魔法を使うわけにもいかない。
(そろそろ終わりが近そうだな)
「僕、行ってきます」
人間のガキは、転移魔法は使えるのだろうか? うーむ、俺は人間のことを何も知らないな。
心配そうなマシューに微笑みかけ、俺は走り出した。