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112、魔王城の再建

「レーフィンか」


「ハッ!」


「こんな扉の壊れた宝物庫を守っていたのか」


「それが、私の仕事ですので」


 城の跡地に転移すると、不自然に残った宝物庫の前に、かつての勇者がいた。シードルによって魔族に変えられたその姿は、神が力を失っても変わりはないようだった。


「ふっ、そうか。城を再建する。状況の把握はできているか?」


「はい、マルル様が予知された通り、地下はほとんどそのまま残っています。南部の未開拓地の方は全く被害はありません」


「南部? 森林に何かあるのか」


 俺はそう問いかけたが、その答えはわかっている。


「はい、城に置いていた私物は、南部に皆それぞれ隠しています」


 次々と転移してきた配下達が頷く気配があった。マルルの未来予知か。城が焼かれてしまうことまで、見えていたのか。


「そうか。マルルの功績は大きいな」


 俺がそう言うと、皆、悔しそうな顔をしていた。シルルは、辛そうだ。もう、今日限りでマルルの話はやめておこう。


 すべては、俺の責任だ。もっと早く行動に移す決断をしていれば、マルルを死なせることはなかったかもしれない。これから先、永遠に、俺は……。


 皆、それぞれが、マルルのことを想っていることが伝わってきた。せめて、マルルの地下の私室は、そのまま保存しておいてやろう。



「では、始める。皆、浮遊していろ。誰か、シルルを頼む」


 すると、シルルがふわっと浮き上がった。ほう、クゥか。クゥはシルルの腕の中にいる。いつの間にか浮遊魔法を覚えたらしいな。


 シルルは、クゥのチカラだとわかり、偉いと褒めている。相変わらずの光景に、俺は救われた気がした。



 俺は、本来の姿に戻った。そして両手を広げ、大気から巨大なマナを集めた。ふむ、シードルの魔力が大気中に放出されたことで、マナが濃いようだ。


 俺は、城の跡地へ、造形創造魔法を放った。


 マルルの私室の上は塞がないように配慮し、そして、皆が集まる謁見の間には、塔で見たいろいろな色のガラスを採用した。それ以外は、細かな設定はしていない。だから、これまでの城に近いものになるだろう。


「おおぉ〜、石造りで白っぽい城になりましたな」


 魔法の光がおさまると、魔王城の再建が完了していた。以前の城は、俺の闇の力が強かったためか、漆黒の城だった。

 だが今回は、自然なありふれた城になったな。シードルのマナを利用したためかもしれない。


「皆の部屋はどうなっているかわからん。早い者勝ちで、好きな部屋を選べばよい」


 そう言うと、配下達は、城に駆け込んでいった。ふっ、子供のようだな。おそらく、わざとそうしているのだろう。マルルがいれば、真っ先に走り出しただろうからな。俺への気遣いか……。


(誰も俺を責めないのだな……)



 俺は、城の宝物庫へと向かった。あちこちで、配下達が騒いでいる声が聞こえてきた。謁見の間に続く廊下にも、色とりどりのガラスが使われている。それを見て、配下達は騒いでいたようだ。


 宝物庫へたどり着くと、レーフィンが居た。複雑な表情をしている。俺は、柔らかく微笑んでやった。彼は、頭を下げ、そのままの姿勢を保っている。泣いているのか……。


「私室を確認したら、マルルの私室も見に行く。おまえも来るか?」


「……はい」


「ここで待っておれ。俺は、記憶の鏡に仕事をさせねばならん」


「かしこまりました」


 彼は、うつむいたままだ。コイツも随分、マルルに振り回されていたからな。



 俺は、宝物庫奥の私室の扉を開けた。


『カルバドス、終わったようだな』


「あぁ、ここに攻め込んできたシードルは消滅した。だが、今の思念体のシードルは、その詳細を知らぬようだ」


『そうだろうな。神は、ある種の完璧主義だ。理想的な世界にならないと見切りをつけると完全に興味を失う』


「だが、シードルは、俺を生み出したときから、こうなることを狙っていたのではないか? ケラケラと笑っていたぞ。それに、魔力のカプセルがあんなに簡単に壊れるのも、おかしなことだ。あれほどもろいなら、次元の嵐に耐えられない」


『俺にはわからない。だが、神は疲れたと言っていた。それに同じ繰り返しには飽きたと……。あー、仕組まれたことなのかもしれんな』


「俺は、アイツを許さない。働かせる」


『思念体なのだろう? 何もできないぞ』


「神殿の奴らは蘇らせてやった。奴らはシードルと念話での会話ができる。おまえもできるだろう?」


『対の鏡は、壊されたのだ。お、おい、カルバドス!』


 俺は、記憶の鏡に手を突っ込み、魔力を流した。ふん、やはりな。シードルの私室と繋がっているではないか。コイツの保身か。鏡のくせに、大切なことを隠す悪癖がある。


「再生せよ!」


 シードルの私室の様子が見えた。対の鏡は、書棚の横に立て掛けていたのか。鏡を通じて眺めると、椅子に座って外を眺めるシードルがまる見えだ。ふっ、奴は鏡の復活に驚いているようだな。


「なるほど、今度はこちらから、アイツの監視ができるようだな」


『カルバドス、無茶なことをするな。記憶の損傷が生じたら、どうする気だ!』


「鏡のくせにうるさいぞ。おまえは、シードルの監視をしていろ。神都の信者の世話は、アイツにやらせろよ」


『おまえが神になったのではないのか?』


「まさか。俺はあくまでも、魔王だ。神の仕事は、一部を代行してやるだけだ。思念体でも、神の仕事はできるだろう。アイツに休息など与えてやるものか」


『……おまえ、残酷だな』


「魔王だからな」


 俺がそう言うと、鏡が笑った。ふっ、鏡は楽しそうだな。シードルへの仕返しでも考えているのか。





 俺は、私室を出て、宝物庫の入り口に戻った。


「私も、見に行くから」


 シルルが珍しく、強い口調だ。俺が本来のカルバドスの姿のときは、カールとは呼ばないのだな。


「あぁ、わかったよ」


 俺は、マルルの私室へと歩いて行った。マルルは、私室の出入り口を城のあちこちに作っていた。俺が知る範囲は、だいたい再現したつもりだったが、レーフィンが立ち止まった場所は、俺の知らない出入り口のようだ。


「そんなところにも出入り口があったのか」


「あ、はい。よくここから飛び出して来られることがありました」


「じゃあ、そこにも作っておくか」


 俺は、食品庫の壁に手をかざし、そこからマルルの私室への通路を作った。


 そして、新たに作った出入り口から、俺は通路へと入った。食品庫の壁にも出入り口を作るとは、アイツはネズミか?


 シルルは無言だった。俺のあとをついてくる。レーフィンは、その後ろを歩いている。


「あー、ここと繋がったか。しかし、足の踏み場もないほど散らかり放題だな」


「城が攻撃されたときの衝撃じゃない?」


「シルルさん、これでもキレイに片付いています。マルル様が部屋を散らかさないようにと、二人の監視役がいましたから」


 爺と西の翁は、一応、仕事をしていたのだな。西の翁イストには、新たな仕事を考えてやらねばならぬか。


「そうなんだ。じゃあ、ここには物が多いんだね。どの秘密基地よりも、たくさん……」


 そう話しながら、シルルはうつむいた。そして、突然、何かを思い出したらしく、カバンをゴソゴソし始めた。


「忘れてた。カルルンが辛そうにしていたら、これを渡してって言われてたんだった」


 シルルは、星の形をした黄色いガラス玉を取り出した。なんだ? 見たこともないが、あめ玉か?


「何? それ。見たことないけど」


「わかんないけど……カルルンが泣き止むって言ってた」


「ふっ、いつ預かったの?」


「えっと、だいぶ前。あ、砂漠でカールが寝てたときだったかな?」


 それなら、もう2ヵ月以上前か。何のおもちゃか知らんが、シルルはそれをギュッと握っている。シルルが持っている方がいいだろう。


「シルルが持っていていいよ。何かのおもちゃじゃないかな。マルルの思い出として、持っていてやって」


「うん、あ、でも……やっぱり、マルルさんに頼まれた物だから、受け取って」


 シルルは、俺に、黄色いガラス玉を差し出した。ふっ、こういうところは、頑固だ。まぁ、今は持っていることも辛いのかもしれんな。


「わかったよ」


 俺は手のひらを出し、ガラス玉を受け取った。


(ん? なんだ?)


 ガラス玉は俺の手のひらに乗ると、魔力を吸って、淡い光を放ち始めた。そして細い一本の光が、ガラス玉からツツツと、のびていった。


「あれ? 私が持っていたときは、光らなかったのに」


 俺は、光がのびていった方を見ると、マルルのゴミの山があった。光はその先を示している。


「何を照らしているのだろうな」


「カルバドス様、おそらく、それは、マルル様の持ち物の一部です。マルル様は、物の在り処を知るために、大切なものは、その一部を持ち歩いておられたので」


「そんなことをするくらいなら、片付ければよいものを……」


 シルルは、光を追っている。だが、ゴミの山の前で立ち尽くしていた。


「この中にあるのかな?」


「シルル、その山の先に、光はのびているよ」


 俺は、シルルをその先へとワープさせた。そして、俺は透過魔法を使って、ゴミの山をすり抜けた。


 この付近は、衣装部屋か? たくさんの服が散らかっていた。そして、光は、棚の引き出しを照らしている。


 シルルは、その引き出しをソッと開けた。


「カール、じゃなくてえっと……」


「カールでいいよ。何か見つけた?」


「うん、可愛い手鏡があったよん。持ち手のところが、星の形に穴があいてる」


(は? 手鏡?)


 確かに、俺の手のひらに乗せた星形のガラス玉が、ピタリとはまりそうな穴があるようだ。


 俺は、ガラス玉をその穴に、はめこんでみた。


 すると、手鏡から、真っ白な強い光が放たれた。光属性の魔法か? 別に苦しくはないが……あたりは真っ白に染まった。



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