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11、魔王、人間の服と剣を買う

 マシューと一緒に町の大通りを歩いた。けっこう遠い店を目指しているようだ。

 この町は、目つきの悪い連中がウロウロしている。近寄ってきた奴も、マシューの顔を見ると、フンと鼻を鳴らして遠ざかっていった。


(確かに、襲われないな)


 そして、ようやくマシューが目指していた武器屋に到着した。中に入ると、武器屋というより服屋のように見えた。

 


「あら、マシュー、また新しい子を拾ったのぉ?」


「うん、そうなんだ。この子に似合う服を見繕ってくれる? それから、剣も欲しいんだ」


「マシューが剣? 何の冗談なのぉ?」


「俺じゃなくて、この子のだよ。魔物に追いかけられて剣を失くしたみたいなんだ」


「あら、魔物に? 怖かったでしょう」


 そう言うと、この派手な女は、俺の頭を撫でた。


(俺はバカにされているのか?)


「ちょっと、ダメだよ、姉さん、嫌がってるじゃないか」


「姉さん?」


「あー、レイシーの姉さんなんだ。若く見えるのは、母さんの血だね」


「あの、元気なお婆さんとレイシーさんって、実の親子なんですか? お婆さんはすごく長く生きてるって……」


「そうみたいだね。俺がレイシーと結婚したときは、レイシーよりも若く見えたんだけど、どの姿が本当の姿かわからないんだよな」

 


 俺は派手な女に、まるで人形のように扱われながら、あれこれと服を決められていった。全く俺の意見は聞く気がないようだ。


 まぁ、俺としても、人間の服はわからないから、されるがままになっていた。



「母さんは、たぶん不死なのよぉ。幼い頃の記憶がないから、両親の種族がわからないんだって〜。若い姿は化けてるのよぉ。若い姿のときは、今でも子供を作れるみたいよぉ。びっくり婆さんよねぇ」


 幼少期の記憶がなくて不死、か。やはり、アイツの人形の可能性が高いな。まぁ、魔族の変異種かもしれんが。


「うん、これで完璧よぉ。食べちゃいたいくらい可愛いわよ。坊や、どうかしら?」


(は? 人間を食う気か?)



 俺は、鏡を見せられた。そういえば、この人間の姿は初めて見たな。これで12歳か? もっと子供に見えるのは、少女のように細く色白だからか。背も低いな。


 なにより驚いたのは、鏡の中のガキの俺は、紫色の髪だったことだ。まさかの髪色だ。いや、待てよ。あの勇者も紫色の髪だったな。


 この変身の呪具を作ったのは、勇者に攻め込まれた少し後だったような気がする。俺は無意識のうちに、あの勇者の姿を記憶し、それを呪具の設定時にイメージしたのかもしれない。


 これは、マズイのではないか? あの勇者を覚えている者がいたら、俺があの勇者になりすましていると思うのではないか。もしくは……。


「ねぇ、坊やって、勇者の家系でしょ?」


「違います」


「ダメよぉ。お姉さん、覚えているんだもの。昔、魔王城に攻め込んだ勇者がいたのは知ってるでしょう? あの勇者が魔王に撃退された後、この町に隠れ住んでいたのよぉ」


「えっ? それを覚えているって?」


「あら、やだわぁ。女性に年齢の話をしちゃダメよぉ。あの勇者の息子が、坊やにそっくりなのよぉ。私の夫だった人なんだけど〜。もし、彼との間に子供が生まれていたら、坊やみたいな可愛い子だったと思うわぁ」


(……あの勇者の子孫だと思い込んだか)


「でも大昔のことですよね? 覚えているんですか」


「コラッ、私は永遠のお姉さんよぉ」


 そう言うと、なぜか、彼女はうっとりとした顔で、俺を見つめていた。ん? 俺を見ているのか? 焦点が合っていないようにも見える。


 俺は、なんとも言えない気味の悪さを感じた。あの勇者が今も、この町を彷徨っているのではあるまいな。まぁ、それならそれで面白い。もし遭遇したら、奴は俺を見てどんな顔をするだろうか。



「姉さん、剣を忘れてない?」


「あら、ごめんなさい。忘れていたわぁ」


 そう言うと、派手な女は、店の奥へと入っていった。


「カール、大丈夫かい? ちょっと強烈すぎたかな。姉さんは、レイシーの一番上の姉なんだ。レイシーには兄弟姉妹が、何十人もいるらしい。会ったことがあるのは十人もいないんだけどね」


「何十人ですか……」


「うん、俺も驚いたよ。兄弟姉妹は下にいくほど、母さんの特殊な血は薄くなっていくみたい。レイシーは下から3番目だから、ほとんど普通の人間と変わらないんだ」


「そうですか。不思議ですね、お婆さんって、何者なのかな」


「それは誰にもわからないよ。俺は、突然変異の魔族かなと思ってるんだけど。人間と魔物のハーフってことになってるのは、あれは、母さんの予想らしいんだ」


「予想、ですか」


「なんだか嘘をついたみたいになってごめんよ。でも、不死だとかって言うと、子供はみんな怖がるからさ」


「そうですね」



 ガチャガチャと大きな音を立てて、派手な女がたくさんの剣が入った壺を抱えてきた。かなり重いだろう。さすが、あの婆さんの娘だな。


「さぁて、坊やに合う剣はあるかなぁ?」


 俺は、壺に近づいた。ガラクタが多そうだが、せっかくだ、一応すべて見てみるとするか。


 一本一本、鞘から抜いて持ってみた。そして、要る要らないを振り分けていった。ほとんどが要らない方になったが、マシな剣が3本あった。


「あら、さすがねぇ、坊や、よくわかってるわぁ。その3本は、騎士や勇者が選ぶものばかりよぉ」


「高いですか?」


「そうねぇ、坊やの年齢では厳しいかしら。あ、でも、お金は持っているでしょ? 装備品を買うための費用は、勇者の街では旅に出るときに渡されるって聞いたわよぉ」


「僕は、あの街ではなくて……」


「でしょうねぇ。あの街には、坊やみたいな可愛い子は居ないもの。分割払いでいいわよぉ。5年くらい経って、お姉さんと仲良くなると……うふっ、払わなくてよくなるかもよぉ」


(こいつ、淫乱なサキュバスの血が混ざっているのか?)


「姉さん、子供に何を言ってるんだい」


「今じゃないわ、5年後って言ったじゃない〜。今はまだ10歳くらいでしょう?」


「この子は、12歳だよ。でも純粋で素直な子だから、そんな話はしちゃダメですからね」


「じゃあ、3年後ねぇ」


(全然、かみ合ってないな)


 俺は意味がわからないという顔をして、剣選びに戻った。いっそ、3本とも買おうかと思ったが、どれも、たいした剣ではない。1本でいいか。いや、2本で、二刀流というのも面白そうだな。


 だが、戦乱が終結した今となっては、魔物狩りにしか使わぬか……。でも一応、2本にしておこうか。


 俺は3本をそれぞれ、振ってみた。そのうち1本は、長すぎてこの身長では使いにくいことがわかった。


「この2本をください。服の分と合わせていくらになりますか」


「あら、ほんとに? 分割払いは大歓迎よぉ。剣2本と、服があれこれ3セットで、ちょうど金貨2枚でいいわよ」


(やはり、安物だな)


「ちょっと姉さん、そんなに高いの? 家が買えるじゃない」


「金貨2枚じゃ、ロクな家は買えないわよ。あー、アプル村なら買えそうね」


(家は、そんなに安いのか)


「じゃあ、これで」


 俺が金貨を2枚渡すと、派手な女は少し驚いた顔をしていた。だが、すぐにニヤリと笑った。


「勇者の家系というだけではないようね。大丈夫よ、秘密は守るわ〜」


(この展開にも飽きたな)


 俺は曖昧な笑顔を浮かべておいた。



「あっ、ベルトに装着してねぇ。魔法袋も、お腹に巻かなくてもベルトで大丈夫よぉ」


「はい」


「うふっ、やっぱり可愛いわねぇ。はい、だって〜」


「姉さん! 怖がらせないでよ」


「いいじゃない〜、別に怖がってないわよぉ」


 俺は、くだらない会話は無視して、剣を装備した。うむ、まぁ、子供が持つ物だから、こんなもんか。


 そういえば、マシューは、ここでは俺の名を口にしないな。この女は、妙な能力があるのかもしれん。俺はサーチ魔法を使いたい衝動を抑えた。


(なんだか、我慢強くなりそうだな)



「じゃあ、馬鳥車のところに戻ろうか」


「はい」


 俺は、マシューについて、店から出た。派手な女は、手を振って、また来てねと叫んでいた。




「カール、大丈夫かい? 疲れた顔をしているが……。そうだ、ご飯を食べてから帰ろうか」


「疲れました、変わった人ですね。ご飯は、大丈夫です」


 この町は治安が悪い。レイシーも心配していたから、早く戻る方がよいだろう。


 キュルキュルル〜


 だが、俺の腹は、俺の意思を無視した。


「あはは、カール、遠慮はいらないよ」


「……はい」



 少し歩いていくと、広場に出た。店に入るのかと思ったら違った。マシューは、広場をぐるりと囲むように並んでいる屋台のような店の一つを目指しているようだった。


「ホットサンドでいいかい? 飲み物は、ここにはリンゴジュースはないから紅茶になるけど」


「はい、大丈夫です」


 マシューは、ホットサンドというものを買ってくれた。バーガーのようなものかと思っていたが、パンが違う。中に卵や野菜が入っている。サンドイッチを焼いたような感じか。


 それを、広場で立って食べるのが、この町の食べ方のようだ。人間の町と村では、風習が異なるようだ。


(やはり、人間は難しいな)


 ホットサンドを食べ、紅茶を飲んだ。この紅茶は不味いな。甘みも香りもない。ただ渋いだけだが、マシューは普通の顔をしている。


「よし、じゃあ、今度こそ、戻ろうか」


「はい」


 マシューは、店に、コップや皿を返却した。



 パリン!


 そのとき、広場で何かが割れる音がした。


(なんだ?)


 俺は振り返り、目を疑った。広場はザワザワし始めた。


(何をしているんだ? アイツら)


 俺の視線の先に居たのは、俺の配下達だった。



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