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104、姿の変化

「わかった。だが、それは、俺ひとりでやる」


「カルバドス様! お言葉ですが!」


 配下達は、マルルを失った責任を感じているようだ。まるで、死に場所を探していた、かつての俺のようじゃないか。



 俺は、カールの姿に化けていた変身魔法を解いた。子供の姿のままでは、配下達も聞き分けぬだろうからな。


 カルバドスの姿に戻ると、配下達は目を見開いた。


 シルルは、いつも見ていたと言っていたが、離れた場所でやはり驚いた顔をしている。怖がらせたか。眠っていたときとは、与える印象が違うのかもしれんな。



「カルバドス様……です、か?」


「何を言っている? あー、以前よりも少し若くなったかもしれんな。身体が活性化し、成長を続けたからな」


 弱体化魔法で魔力を失った分、俺は成長できる。


 俺は、タイムチェンジャーの中で、長い時間『魔力だんご』を作り続けた。俺は長い時間をかけて、弱体化と成長を繰り返したのだ。

 そして眠ることで、失った魔力は、分け与えた団子の分も含めて全回復したはずだ。


 魔力を隠す結界は外していない。俺の魔力が増えて怯えているわけでもないだろう。配下達は、何を呆けた顔をしている?


「あの、ご自分の姿をご覧になりましたか」


「シードルに似ているというのか? 俺はもともとアイツと同じ姿だったらしいがな」


「似ているというか……」


(なんだ?)


 配下達は、さっきまではマルルのカタキを! と、シードルに対する恨みに取り憑かれていたのに、なぜか、それさえ忘れたかのように呆然としている。



 俺は、魔法で鏡を出し、自分の姿を映した。


(な、なんだ?)


 鏡に映し出された自分の姿に驚いた。思い描いていたものとは異なる姿に、一瞬、思考が停止した。


 髪は黒い。シードルは茶髪だ。これは以前の俺と変わらない。俺の髪は、だんだんと黒くなっていったのだ。


 顔は、シードルよりカールに近いか。


 シードルは、冷たい彫刻のような美しい顔をしている。だが、鏡に映った姿は、少年っぽさの残る人間と魔族の間のような顔だ。人懐っこい感じの童顔じゃないか。


 年齢的には、20歳前後に見える。弱体化しすぎたのか……若返った後の成長が、まだ終わっていないようだな。

 シードルは、繋がれた記憶の中では30代前半に見えた。今の姿もおそらく変わっていないだろう。



「かなり若返ったな」


「はい、神に似ていますが、神とは別の姿になっておられる。神よりも、随分と若いです」


「そうか。若返ったから身体も軽く、そして、この鎧もキツくなったのだな」


「なんだか、全く別人のようで……」


「見た目など、どうでもよい。ここから先は、俺の仕事だ。おまえ達は動くな」


「ですが……」


「おまえ達、マルルの意思を踏みにじる気か? マルルは何のために犠牲になった? おまえ達が動くということは、マルルを悲しませることになるぞ」


 そう叱りつけると配下達は、黙った。


 彼らはわかっている。マルルが彼らを逃がそうとしたのは、カタキ討ちのためではない。生かそうとしたのだ。


 だが、頭ではわかっていても、感情が抑えられないのだろう。魔族は、ただでさえ血の気が多い。


 配下達の思念が伝わってくるためか、俺は意外にも冷静だった。マルルが殺された現実から逃げているのかもしれない。だが、俺は、マルルが用意した舞台に上がろうと、それだけを考えた。




「カール、あ、えっと、カルバドス、さま……」


 シルルが、何かに引き寄せられるように、フラフラと近寄ってきた。だが、話し方に困っているようだな。この見慣れぬ姿が、怖いのかもしれん。


 俺は、変身魔法を使って、カールの姿に化けた。すると、シルルは少しホッとしたようだ。


「シルル、カールでいいよ」


「うん、カール……あの……カールまで居なくならないよね?」


 シルルの不安げな言葉に、配下達が一気に賛同したかのように、気持ちが動いた様子が伝わってきた。


「シルル、僕を誰だと思ってるの? 魔王カルバドスだよ」


「あっ……うん、魔王ごっこじゃなくて、本当に魔王さまだったよん」


 シルルの表情が少し柔らかくなった。キチンと話をしておくべきだな。


 クゥは、何かを察知したらしく、目を覚ました。俺が目覚めていることに気づくと、あたりの様子を窺っている。頭の中を覗いているようだな。



「シルル、僕を殺すことができるのは、神シードルだけだよ。それほど、僕のチカラは強大なんだ」


「えっ……」


「そして、神シードルを殺すことができるのは、僕だけだ。だから、神は、魔王にこだわるんだ」


「マルルさんも?」


「いや、マルルは弱い。だからマルルが魔王を名乗ることは、神にとっては好都合だったはずなんだ。魔王を……魔王軍を、意のままに操れる。それなのに、なぜ公開処刑をしたのか、その理由がわからない」


「カールにもわからないんだ……」


「あぁ、だから、その理由も喋らせる。シルルは、僕の配下達が抜け出そうとしないか、見張っていて。マルルは、みんなを守りたかったんだ」


「うん……でも……」


 シルルは不安そうな顔をしている。そして、クゥをギュッと抱きしめていた。クゥは、自分の役目がわかっているようだ。文句も言わず、シルルにされるがままになっている。


 俺は、シルルを安心させようと、やわらかな笑みを浮かべた。だが、シルルはうつむいてしまった。あー、やはり俺には、マルルのようにはできないな。


(くそっ、おのれ……シードル!)


 いや、ダメだ。怒りは判断を鈍らせる。前を向かねば、マルルに……。くそっ!!


「シルル、行ってくるね。見張りをよろしく」


 シルルは、小さく頷いた。俺の方は、見ないのだな。




「カルバドス様、我々をお連れください!」


 マルルの直臣達か……。


「プリンちゃん、マルルはそんなことは望んでいないぞ」


「ですが、我々は諜報部隊です。神に見つからない自信があります。それに、カルバドス様のそのお姿は、いま、この場にいた者達でさえ、目を疑いました。だから……」


 必死だな。確かに単独行動では、配下達にカルバドスだと説明する手間がかかるか。考えたな。


「ふむ、マルルに似て、こずるい奴らだな。絶対に断らせないつもりか……はぁ。まず、城の奪還に行く。奪還後の後始末と隠密行動ができる者だけを連れていく」


 俺がそう言うと、配下達の表情は、わずかに明るくなった。マルルのカタキを討つ手伝いをしたいのだ。何かせずにはいられないのだろう。


 俺としては、不要だ。逆に邪魔になる。だが、彼らの心を少しでも軽くしてやらねばならない。


 マルルの直臣が数人、言葉短く話し合っている。そして、ついてくる者が決まったらしい。



「カルバドス様、我々をお使いください」


「あぁ、わかった。他の者は、城を奪還するまでは動くな。俺が、光の剣を持つ勇者達を無力化した後に、おまえ達は、この街を取り戻せ」


「ハッ!」


 仕事を与えると、配下達の目が輝いた。


 街を占領しているのは、革命軍のようだ。教会関係者もいるようだな。革命軍とは争わずに、避難することをマルルが指示したのだな。


 おそらく配下達が抵抗すれば、占領はされなかったはずだ。だが多大な被害と、そして何より、魔王軍が再び戦乱を起こしたということにされかねない。


 マルルは、シードルの策にハマらず、配下達をうまく立ち回らせたようだ。


(くそっ! マルル……) 



 ダメだ、今は前を向け!

 機会を逃してはならない!



 城を取り戻したら、そこから先は、俺ひとりでシードルの神殿に乗り込む。配下を連れていけば、俺の行動が制限されてしまう。それは厳しい。あまりにもリスクが高い。


 そういえば、砂漠の集落で長から、神殿へ繋がる塔の鍵を貰っていたな。あれを使えば、神殿へ入り込みやすいか。



「ここから地上への出口は?」


 俺だけなら跡を残さず転移できるが、配下達が下手に魔法を使うと、この場所がシードルに知られてしまう。マルルは必ず、何か仕掛けを用意しているはずだ。


 返答がくる前に、わかった。あの砂漠の地下シェルターの転移魔法陣に、細工をしたのだな。


「地下シェルターの何ヶ所かに、転移魔法陣を設置しています。魔道具を使っている魔法陣なので、サーチには引っかかりません」


「わかった。じゃあ、そこから、城へ転移できるな」


「はい」


「ふむ、では、おまえ達に印を付けておこうか」


 俺は、ついてくると申し出た5人に、魔力のロープをかけた。いわゆるマーキングだ。別次元に隠れられては、緊急時に対応が遅れる。


「えっ!?」


「腰紐を勝手に外すなよ。居場所の把握のためだ」


「かしこまりました」


「では、行くとするか」


「ハッ!」


 俺はチラッとシルルの方を見たが、彼女はずっとうつむいている。俺は、かけてやる言葉が見つからなかった。




 部屋を出た地下道のすぐ先に、転移魔法陣が見えた。


「おまえ達は、奴らの前で姿を見せるなよ」


「はい、完全に気配も消していきます」


 そう言うと、彼らは全員気配を消した。魔力の漏れも全くない。自信を持っているだけのことはある。



 転移魔法陣にたどり着いた。俺は、魔法陣を起動させた。そしてリストから城を探すと、いくつかの箇所が浮かんだ。俺はその中から、マルルの私室を選んだ。




 俺達は、魔王城のマルルの私室に転移した。到着した瞬間、配下達は姿を隠した。


(なっ? なぜ、俺の剣が置いてあるのだ?)


 マルルの私室の出入り口に、俺の剣が立てかけられていた。ここに来ることも予知していたか。



 ドーン! ズドドドドーン

 バキバキバキバキ!



 上の方で何かを壊す派手な音がした。宝物庫だ。


「チッ! シェルターを破ったか。行くぞ」


「ハッ!」



(マルル……)


 俺は、用意されていた剣をつかみ、音のした方へと転移した。



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