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100、砂漠の新しい街

「わぁっ! 川があるよん」


「お水がいっぱい」


「ふふっ、クゥちゃん、初めて見たよね」


「うんっ」


 俺達は、シードルの偵察が過ぎ去るのを待って、砂漠に作っている新しい街へと向かっていた。


 まだ、草原が続くだけだが、川が現れたことで、シルルのテンションが上がっていた。さっき作って渡してやった花の髪飾りを確認しようとしているらしい。だが、流れが速いから、姿は映らないようだ。


 川にかかる橋を渡ると、左側に何か妙な丸いものが見えた。ここからでは、かなり距離がある。監視塔か何かを造っている途中なのだろうか。



「あれは、お花畑かな?」


「お花がいっぱい」


「さっきも摘んだけど、あっちもあとで見に行きたいねー」


「うんっ」


 シルルは右側を指差していた。確かに草原に花がたくさん咲いている。わざと花畑にしているかは不明だが。


 さっき渡った川は、花畑の付近を流れているようだ。なるほど、川は、街を取り囲むように流れているらしい。気をつけて見てみると、左右両方に川が流れている。街の仕切りに使っているのかもしれんな。



「道があるよん」


「道? 石がいっぱい」


「クゥちゃん、石畳だよん。カール、石畳の道を歩くよん」


「うんっ」


 シルルは、石畳を見つけて、そちらへと走っていった。俺と配下は、ずっとシルル達の後ろを歩いていた。

 ふむ、ここ辺りから整備しているのか。石畳の道は、幅が広い。おそらく大型のドラゴンでも余裕で通れるだろう。


 石畳は、ずっと一直線に続いている。東西の行き来に使う主要な道のようだ。



 しばらく歩いていると、人の姿をチラホラ見かけるようになった。自由に草原で寝転んでいるようだ。石畳の道以外は、ただの草原だからな。


 なんだか平衡感覚がおかしい。石畳のせいかと思っていたが、建物が見え始めて、その理由がわかった。右側を流れている川の先はは土地が低く、逆に左側を流れている川の向こうは土地が高いようだ。


 なるほど、川の流れを作るためか。街全体に、傾斜がかかっているようだ。



「草原じゃなくなったよん」


「草がないよ」


「クゥちゃん、草原の方が好き?」


「うんっ」


 石畳の周りは、土になっている。だが、砂漠の砂ではない。普通にしっかりとした土が敷き詰められている。


(しかし、遠いな)


 街らしき雰囲気に変わってからも、ずっと歩き続けている。案内人の配下は、まだまだ先を見ているようだ。



「プリンちゃん、街はまだ先なの?」


 俺がそう問いかけると、彼は楽しそうな笑みを浮かべた。まるで、俺がその質問をするのを待ち構えていたかのようだ。


「もう、とっくに、街に入ってますよ」


「へ? どこから街なの?」


「草原に入ったあたりですよ」


「えっ? 休憩していた場所? 随分と遠いけど」


「はい、街は、かなり広いのですよ」


「じゃあ、この先は、どこまで続いてるの?」


「確か、旧勇者の街のすぐ近くまでです。ギリギリ、弓の射程圏から外れる程度だったと思います」


 俺は驚いた。その顔を見て、配下は嬉しそうな顔をしている。確かに神都よりは大きな街にしろとは言った。だが、砂漠をほとんど……。


「南北は?」


「ご想像の通りですよ。何もなかった場所を、ほぼ街に作り変えています。砂漠化していなかった部分にも、すべて手を加えたようです」


「こんな短期間で? ということは、もともとマルルは、街づくりを考えていたということか」


「いえ、カルルンに言われたから〜と、秘密兵器を出されましてね」


「マルルのおもちゃに、こんな巨大な街を造るような道具があったか?」


 俺は、どう考えても思い浮かばない。そのような創造力がマルルにはあるというのか。マルルのおもちゃで、地形に関わるものは……。


 配下は、ニヤニヤしている。ここで、尋ねるのは、なんだか悔しいが……。俺は、付近のサーチをした。そして、街の全体像を頭の中で描いていくと、なぜか既視感があった。


(うん? これは……)


 川に囲まれている部分は、全体の三分の一だ。俺達が歩いてきた道だ。チラホラと小屋が建っている。


 北側は、土地が少し高く、西側には大きな建設中の何かがある。この付近やさらに東側には、テントが並んでいるようだ。行商人が集まってきているのか。


 南側は、土地が少し低く、先程は花畑が見えていたが、この付近は、野菜などの畑が広がっている。



「これは、箱庭か?」


「さすがですね。やはり気づかれましたか。この世界の、ほぼ15分の1くらいのサイズだそうですよ。マルル様風に、アレンジを加えたそうですが」


「ということは、さっきの北側の建設中のものは神都の場所だな。教会か」


「はい、神殿教会の神父様は、砂漠のオアシスにいらっしゃるので、距離的に一番近い北西に教会を造ったそうです」


「南側は、山ではなく畑か」


「はい、山は南部にありますからね。人口が増えることを考えて、南側は農業エリアにするようです」


「ではこの川に囲まれている場所は?」


「ここは、住宅地や、遊び場だそうです」


「北側が、都会的に商業エリアか」


「はい、行商人は、北側に招いています」


 そこまで話しながら歩いていて、俺は嫌な予感がした。まさか、この道の先に、魔王城を造るつもりではないだろうな? 中央部の東の端には魔王城があるが。



「この道の先は、どうなっている?」


「旧勇者の街の近くになってしまいますので、まだ造られていませんが、魔王城になる予定です。今は、川の制御をする魔道具の水車小屋になっています」


「なっ!? やはり、そうか……」


「はい。ですが、本物の魔王城があるので、この街の魔王城は、お菓子の城だそうです」


「あぁ、そんな気はしたよ」


 俺がガックリと首を垂れていると、配下はクスクスと笑っていた。




「カール、人がいっぱいいるよん」


 シルルが不安になったのか、立ち止まって俺達が追いつくのを待っていた。


「ここが、今の中心地?」


「はい、この街の中心地となります。既に、この付近の街づくりは完成していますよ」


「僕達が、休める場所はあるかな?」


「はい、中心地には宿屋もあります。そして、街役場もあるので、まずは、長に会いに行きましょう」


「誰が長をしているの?」


「カールさんがご存知の移民ですよ」


 そう言うと、彼はまた嬉しそうな顔をしている。当ててほしいらしいな。誰だ? 移民になりそうな知り合い? 赤い髪の勇者か?




 配下に連れられ、俺達は役場だという小屋に入っていった。平屋建ての粗末な小屋だ。連れて来られなければ、ただの物置小屋にしか見えないな。


「街長さん、いらっしゃいますか」


「はいはい」


(は? コイツか?)


「えっ? あ、あの、えーっと?」


 街長と呼ばれた男は、シルルを見て、少し混乱したようだ。シルルは、彼のことはすっかり忘れているらしく、きょとんとしている。


「街長さん、こちらの方、わかりますか?」


 配下は、彼にも俺を指差して、誰でしょうクイズをしている。変な癖がある奴だ。


「あの、えーっと、あの〜」


 はぁ、面倒くさくなってきた。


「テンプさん、でしたっけ? 革命軍は抜けたんですか?」


「はわわわ、はぁ、俺は総長から不用だと言われてしまって……えーっと」


「宿場町で会いましたよね? あのときは、僕の髪色は今とは違いましたけど」


「えーっと……今は黒っぽいですよね。それにその戦闘力……うん? ハッ!! もしかして、カール様?」


(様呼びだったか?)


 俺は、チラッと配下の顔を見た。嬉しそうにニヤニヤしている。だが、俺の視線の意味がわかったらしい。すぐに表情を引き締めていた。



「街長、今日は大事な話があります。この小屋には、防音の魔道具はついていましたっけ?」


「はい、大丈夫だが」


 配下は、扉を閉め、さらに結界まで張っている。諜報活動をしていると、こういうところはかなり気にするのだな。


「彼は、魔王カルバドス様です」


「ええ〜っ? カール様では……」


「それは、人間の姿のときに使われる名前です」


 テンプは、ゴクリと息をのんだ。


「そして、彼女は、シルルさん。神に仕える白狐の女官長だった方の娘です。父親は悪魔系巨人族で、人間と魔族の共存活動をしていた人です」


 俺はシルルと同時に、配下の顔を見た。そんな情報、知らなかったぞ。いや、マルルが昔、言っていたかもしれんが。


 テンプは、あのときのシルルへの行動を思い出したのだろう。苦笑いを浮かべている。


「この坊やは、クゥちゃん。変異種のドラゴンです。魔王カルバドス様が与えた生命エネルギーを使って、独自進化を遂げた特殊な個体です」


「えっ? ドラゴン族? なぜ子供なのに人化できるのだ?」


「ですから、特殊な個体だと説明しましたよね。貴方よりも、はるかに知能が高いです。ドラゴン族のレベルじゃないですから」


 クゥは、そのように過大な紹介をされたが、無関心のようだ。ふむ、シルルが同じことを言えば、とんでもなく喜ぶはずだがな。



 テンプは、コクリと頷き、神妙な顔をしている。何を言われるのかと、緊張しているようだ。配下は、そんな彼の様子を見て、楽しんでいる。


「あの、俺が長で大丈夫でしょうか」


 ふむ、認めてほしいということか。配下は、その言葉を待っていたかのように、口を開いた。


「ここまでの秘密を聞いて、恐ろしくなりましたか?」


「いや……いまさら、やめると言えば、俺の命はないということだとは理解した」


 配下は満足げに頷いた。いやらしい交渉術だ。だが、それをジッと聞いているクゥ……余計な知恵をつけそうだな。


「今日から、しばらく滞在されます。長には、大切な仕事をしてもらいますよ」


 テンプは、頷いた。覚悟を決めた顔だ。断れば、命はないと、配下は脅したのだからな。



 俺は、テンプの目の前に、手のひらを出した。


「おまえの仕事は、これだよ」



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