9 新たな人生
あれから約2ヶ月程の月日が経過した。
僕は前のアパートと比べて随分と古いアパートを背景に、新しい通学路を歩き始めた。
新しい学校に慣れるとかそんなことはなかった。前と変わらず、人との接点を持たないことで苦労はしなかった。もちろん、転校してからの一週間程はクラスメイトの質問攻めが止まず、大変な毎日だった。ただ一ヶ月程になると、クラスメイトもだいたいその人の性格などが分かってくるものだ。僕のノリが悪いことや友達を作ろうともしていないことに徐々に感づき始め、僕から離れていった。一人を残して⋯⋯。
「なぁ、お前いつも本読んでるよな?」
「それがどしたの?」
「楽しいの? そんなことしてて」
「本の世界は意外と良いもんだよ。君みたいな明らかに本を読まなさそうな人には共感できないだろうけどね」
僕は、いつも通りわざと相手を敬遠させる言い方をした。大抵のクラスメイトはこれを使うことで僕の周りには来なくなったのに、こいつだけは何を言っても聞かなかった。
ただの馬鹿なのか天然なのか、僕には分からなかったけどこんな人は僕が見てきた中で、二人目⋯⋯いや、初めての人だった。
だけど、僕に関わろうとするなら勝手にすればいい。苦しむのは僕じゃない、君なんだから。
「君もいい加減しつこいよ。いつまでついてくるの?」
「そんなんどうだっていいだろ。それより、育ち盛りなんだから菓子パンばっか食べてないで、弁当とか作ってもらったらどうだよ?」
「悪いねぇ、生憎僕には親がいないんだよ。分かったらさっさと僕から離れてくれないかな? 君も友達と話せばいいじゃないか」
彼は「そうか?」と言うと、僕の目の前から足早に姿を消していった。どうせなにかの罰ゲームに違いない。大方、負けたら僕の友達役になってこいっていう感じのやつだろう。
僕は、彼が居ないことをもう一度確認すると、メロンパンにかぶりついた。外はカリッとも中はフワッともしていなかったけど、ある程度味は一緒。美味しいメロンパンを食べている時だけは全てから解放されている気がした。
授業が終わると、すぐに帰宅した。アパートまでは自転車を使わず徒歩で約10分程で着くくらいの距離。
それでも僕はそこに着くまでに通る書店につい立ち寄ってしまう。学校帰りで当然お金は持ってきてはいない。立ち読みをしに来た訳でもない。なら何をしに来たかって? そんなの僕も分からない。ただ、僕は出会いを求めて日々過ごしている。僕を新たな世界に誘ってくれるそんな世界との出会いを――。
そんなことを考えているといつもここに入ってしまう。確かに、本には本の世界がある。それも僕の求めている世界でもある。しかし、それは現実なんかじゃない。
また、違う偽りの世界。いっそその世界に閉じ込めて欲しい。叶うはずのない願いを込め、それを感じるように目を閉じた。
8月22日 午後4時35分 15歳
休載から復活して、投稿しました。
これからも不定期更新ですが、よろしくお願いします!