5 僕の成長
今回はいつもより少し長めな気がします...
いつものように、授業を受けて、何も変わらないいつもと同じ帰路を自転車で走った。それなのに⋯⋯なんでこんなに周りが輝いて見えるんだろぅ。
僕がこうなっている理由は明白だった。事の発端は昼休みのこと⋯⋯。
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「ごめんね、いきなり呼び出しちゃって」
「ううん、大丈夫。で、どうしたの? 用事っていうのは」
「あ、うん!実はね⋯⋯」
そう言うと、彼女は制服の胸ポケットから2枚のチケットを取り出した。それは最近、若者の中で人気を集めている映画のチケットだった。
「これって、もしかして⋯⋯?」
「う、うん⋯⋯明日って休みでしょ? だから……その⋯⋯せっかくの休みだしぃ映画にでも見に行かない? どう⋯⋯かな⋯⋯?」
彼女は照れながら赤面して、上目遣いに僕をじっと見つめた。
しかし、クラスの人に見られたらそこでゲームオーバー。極力避けたいものではあった。でも、恥ずかしそうに下を向き、もじもじしながら目線だけを僕に合わせる彼女は、言うまでもなく可愛くて、そんな彼女からの誘いを断ることなんて出来るはずなかった。
「うん、僕も幸と行きたい」
元々、赤くなっていた彼女の顔がより一層赤くなったことに彼女自身が気付いて急に両手で顔を覆っているように、僕自身も照れ隠しが上手くできず、彼女に背を向けて「えっと、じゃあ待ち合わせどこにする?」と言った。我ながら情けないくらい裏返った声で。
「うん、取り敢えず私達の思い出の公園でもどうかなぁ?」
「お、思い出か⋯⋯うん、そうだね⋯⋯思い出の公園⋯⋯」
「じゃあ、公園に朝の10時でいい?」
「う、うん⋯⋯それじゃあ⋯⋯」
そう言うと、僕は彼女に背を向けたまま教室に向かって振り向かずに歩き始めた。
ところで、彼女には言わなかったし、彼女自身も言わなかったけど⋯⋯。
(これって、つまりデートなんだよな⋯⋯)
表には出さないようにしているけど、内心すごく焦っている。いつも変な所ばっか見せて、良い所なんて見せたことな僕だからこそ、この初デートでビシッと決めないと格好がつかない。
(でも、デートって実際何すればいんだろ⋯⋯)
僕は友達なんていないから、友達と出掛けたこともないし、勿論、相談できる人もいるはずがない。
しかし、こんな時に助けてくれる救世主こそがネットだ。
(スマホがあって本当に良かった)
心の底からそう思った。
ネットで調べていると色んな情報が載っていた。普段ネットなんて使わないから、操作に戸惑ってしまい、時間は掛かったものの大体の使い方は分かった。
デートをする前は、行く前に下見を行うのがいいらしい。でも、見る映画の下見っていうのもな......。と思いもしたが、映画に誘われて映画だけを見てさっさと帰るのはNGらしい。全く、一つ問題が解決したと思ったら、その上にもう一つの問題が降ってくる。しかも、それを次々に解決して最後に残ったものが幸せということか。つまり、デートとは世間と同じくらい重い責任を課せられるんだな。
僕は勝手な想像でデートをまるで魔物の様に例えた。
なんやかんやで、やっと寝れると思った頃には既に日付が変わっていた。
デートっていうのは、行くまでが一番大変なのかもしれないな......。これからのことを考えると気が遠のいていってしまいそうだ。
(取り敢えず、そんなこと言っていても仕方ない。今は今日のデートをしっかり成功させることだけ考えるんだ)
そう思うと、そのままベッドに向かった。睡眠不足もデートに影響してしまうと思うし、本にも載っていたことがあった。人は夜よりも朝の方が閃がいいと。
ようするに、寝たいがための言い訳でもあるのは否定しないけど、もう一度起きたら考えてみようと思った。
しかし結局、彼女とのデートを妄想してしまい、なかなか寝付けなかった。そうなると脳裏に浮かんでくるのは、やっぱりあの公園だった。
あの公園を想像しているうちに、僕はいつの間にか靴を履いて外に飛び出していた。
無心で自転車のスタンドを上げるとそのまま自転車でどこかに向かっていた。体が心を追い越していくような感覚だった。
心が体に追いついた頃には、僕はある場所に立っていた。
彼女との思い出の公園だった⋯⋯。
思い出の公園といっても、ほんとに狭くて、雑草がそこら中に生えていて古くて汚いあの公園。何日経ってもやっぱり汚かった。でも、それ以上に懐かしかった。
この公園は僕の成長をいつも共にしてくれていたらしい。僕は覚えていないけど、ここに1度だけ両親に連れてきてもらったこともあったらしい。小学生の時も祖父母とここでどれだけ遊んだか分からない。
勿論、そのころには、まだ友達もいて歳を重ねると共に公園で遊ぶことよりもゲームをすることが多くなってきた。でも、ゲームをする時でもわざわざここに来て、パンダの乗り物に跨いでやっていたこともあった。
そして、今も彼女と僕のカップルとしての成長を見守ってくれている。
そんなことを思っていると、なにかが吹っ切れた気がした。
(ありがとう)
誰にお礼を言ってるのかは分からないけど、僕の中で満足だったからそれでいい。
(大丈夫、僕には色んな人がついていてくれる。一人なんかじゃない)
そうやって心で呟いてるうちに僕は、トンボ帰りで家に戻っていた。
やっぱり、体が心を追い越していた。でも、今やっと心が追いついたらしい。僕にはこれからやるべきことが分かる。だから見守っていて下さい。
(また、誰に言ってるんだよ)
僕は、はにかみ笑いをすると、また夢の中に入っていった。
6月9日午前3時15分 15歳 カウントダウン2
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