3 こんな毎日
僕は、学校から下校する時、自転車のリュックの入ったカゴにゴミ袋を被せて、流れ作業のようにカッパを着た。
自転車をこぎはじめると、いくつもの雫が次々と僕にぶつかって弾けていった。
下半身からスルスルと流れこんだ雫が靴下まで染み込んできたことが分かったので、僕は、ペダルのこぐスピードを上げた。
本当は、彼女とこういう帰り道に学校であった他愛ない話をしながら帰りたかった。
それができたとしたら、どれだけこの無駄な時間が楽しく感じられたのだろうか。
彼女と僕の家は学校から真反対の道だからこそ、お互いの家からの距離が遠くて会うにも会えないという辛い現実である。
現実というのは、漫画の世界のように何でも上手くいくはずなんてなかった。
しかしあの日以来、少しずつだけど、彼女と学校で話す機会が増えた気がする。
最初は彼女ばかりに話しかけてもらって、彼女に頼りっぱなしだったけど、そんな自分が情けなくて、最近だと僕自身からも少しずつ彼女に話かけるように心がけている。
僕が話かけた時の彼女の眼差しは、嬉しそうに、そして真剣に僕の話を聞いてくれた。
そんな彼女を見ていると僕も嬉しかった。
こんなこと、普通の友達との間でも普通にあるのかもしれないけど、この特別な気持ちと短くて長い時間は違うことなんだと思った。
これが恋愛というものなんだなって身をもって感じた。
家に着く頃には、案の定靴下の中は手遅れという程に濡れていた。玄関で靴下を脱いで家に入ると、早速、シャワーを浴びて着替えて部屋に戻るとまっすぐにスマホの元へ行ってLINEを確認した。
(やっぱりか)
幸からの通知が2件きてた。
『亘くん今日もお疲れ!』
『早速なんだけど、今日数学の宿題があって.....良ければ教えてくれない?』
『僕、数学苦手なんだけどなぁ⋯⋯』
とうつと僕はLINEを閉じてスマホをベッドに置く、暇もなくすぐに返信がきた。
『大丈夫! 絶対私の方が数学できないから!』
(そういうことじゃないんだけどなぁ.....)
『僕も、上手く教えられるか分からないし、そもそもその問題を解けなかったら恥ずかしいし⋯⋯』
確かに、僕の成績は彼女よりは良いほうだとは思う。しかし、実際僕の成績は、平均値より少し上ってくらいであり、クラスの中で考えるとそこまで賢い訳ではない。人の上には上がいる。そして、その上にはまた上がいる。
定期テストでも、テスト期間に入って、毎日夜中まで勉強しても取れる点数は精々70〜80点位がいい所で、得意な社会で90点前半までしか取ったことがなかった。
それに、この時期になって高校受験に向けての勉強をそこまでしていない時点で、僕は負け組なのかもしれない⋯⋯。
その後は、ほんとにしょうもない話しかしていないので、敢えて割愛させてもらう。
他人がこのトークを見たら、「なにこれ?」って言われそうなくらいしょうもない小学生がうったような会話だった。
特に彼女の文章は酷かった。主語がしっかりと仕事をしていない文章を度々送っては、僕を困らせた。
でも、僕達にとっては特別な話だった。
だから他の人には分からず、二人だけが共有できる話って思うと、どこか嬉しくて、ついはしゃいでしまう。
勉強も確かに大事だけど、こんな毎日も大事で、僕を成長させてくれる経験になる。
こんな毎日がずっと続いてほしい。心からそう思った。
しかし、【こんな毎日】という宝石にヒビがはいることを僕達はまだ知らなかった。
6月7日 午後10時19分 15歳
読んでいただきありがとうございます。
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(更新は大体夜の9時半〜10時頃にしています。)




