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28 不気味

目が覚めた時、頭にジーンと何かがはしったような感覚がした。


「ここは······」


見慣れない真っ白な天井に、静かな空間を好まないように何度もなり続ける心電図の音に少し興味が沸いた。

しかし、実際に僕はこの心電図という名前や天井なんて単語も分からない。

子供が初めて見るものに感激するように、僕もそんな感覚に浸っていた。


「済美さん入りますよ」


済美······? 何なんだそれ。

そんなことを考えている時に突然ドアが開くのだから僕は思わず「わっ!」と声を出してしまった。少し体がズキっとした。


「え······」


怯える僕を見て女性はまた同じ言葉を繰り返してから突然何かを察したかのようにドアを閉めていった。

そして、しばらくも立たない内にさっきの女性と、新しく見る男性が入ってきた。

その風景に呆然とする僕をみて男性は難しい顔をして言った。


「君は自分の名前が言えるか?」


「名前······」


初めて聞いた単語に興味がありつつも少しだけ戸惑いを隠せなかった。

男性は繰り返す。


「じゃあ、済美 亘は知ってるかい?」


「済美······亘······?」


「決まりだな。この子は記憶喪失だ。後で検査をしよう」


記憶喪失。


何なんだそれ。


「済美さん、後でまた伺いますね」


「······あ、僕ですか? よろしくお願いします」


女性の顔や体の向き、腰を少し下ろして僕に目線を合わせることからどうやら僕に対して言ったのだろう。それより、済美ってなんなんだろう。

というか、僕は何なんだろう。分からない。自分の存在や何故こんな所にいるのか。そういう不安や戸惑いが僕に次々と襲いかかる。


「僕は本当にこんな所に居ていいのか」


寝たままだと外の景色がベランダで遮られたままの窓と揺れることのないカーテンを見つめてそう呟いた。


「本当に何なんだろう」


今まであまり気にしてなかったけど、体中に巻かれたこの白い布はなんだろう。取ろうとしても手を動かすと至る所が痛む。

でも、どこか痛くなかった。痛いはずなのに、自分の何かが訴えているように感じた。


『こんな痛みなんかなにも痛くない。あいつの痛みに比べたら』


と。あいつとは、何だろう。

これ以上考えても無駄と考えた僕は、諦めて目を閉じた。


目が覚めると、景色すら見えない窓からでも分かるくらいに空がオレンジ色に染まっていることが分かった。

誰かが来たのか、ベッドの横には寝る前にはなかったはずの椅子が1脚置いてあった。

だからといって警戒をすることはない。なぜなら今、僕には何も危害が加えられているわけでないから。呑気に思うかもしれないが、実際にこの体で抗おうがどの道行き着く道は同じなのだ。

ならば大人しく完治を待ち、またあいつに会いに行こう。


あいつ。あいつ······。あいつってなんだ。さっきも、そんなやつが居たような。

何かを思い出しそうになって何かが入ってこない。電波を阻害するようにもやもやとしてきた頃に全てを無にする謎の現象かなにかにより、僕が思っている人が思い出せない。


「僕は本当に何なんだ」


自分が不気味に思えてきた。


7月 15日 午後6時55分 21歳

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