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24 待ってるね

「ねぇ、亘くん。もしも、もしもだよ?」


懐かしくて聞き覚えのある声と人が僕の前にいた。目元が影のように隠れていて、一見誰か分からない。でも、僕はすぐに分かった。


「もしも、私が一人で悩みを抱えて苦しんでたらどうする?」


彼女は笑ってそう問いかける。いつものように後ろで手を組んで体を前に押し出して。

白くて周りには何もなく、地平線のように広がっているこの空間に違和感すら感じず、彼女と会話しようとする自分を少し敬遠した。

でも、自分は自分を敬遠できない。これが素直な僕なのだろうと受け入れた。


「そんなの......決まってるだろ」


僕は彼女に真剣な眼差しを送りながら返事の続きを言った。


「お前が苦しんでるならお前がどこにいたとしても直ぐに駆けつけて守ってやる! そして、お前を名前の通りに幸せにしてやる!」


彼女はニコッと笑って歩いていった。「じゃあ、待ってるね」の一言を残して。

僕は消えていく彼女をただただ見送るだけしかできなかった。


──────────────────────

「ピピピピピ! ピピピピピ!」


僕は、ベッドから右手を出して目覚まし時計のアラームを止めた。最近、いちいち見なくても目覚ましを止められる技を取得したので楽になった。


「なんだったんだ。あの夢......」


僕は、数秒考えて、考えるのをやめた。いつまでも考えていても何かの手がかりもないし、何よりキリがない。


僕は布団にいつまでもくるまることをせずにさっさと起き上がると、朝食の準備に取り掛かった。


いつもならバイト終わりにコンビニで菓子パンを買って、翌日の朝にそれを食べながら登校するのだけど、昨日は結局裕也の所にずっといたから、適当な理由でバイトを休んだ。だからパンを買えず、こうやって今自分で朝ご飯を作っている。

料理はそんなにしないので、手の凝った物は作れないが、炒めたウィンナーと味噌汁をおかずにして、それを米と一緒に食べた。


そんなことをしていると僕のスマホが音を立てて震えた。


「もしもし、裕也? どうしたんだ」


『あぁ、朝からごめんな。俺今日から学校に行くわ』


「そっか、それはいいんだけどお前自身は大丈夫なのか?」


『まぁな、俺も無理はしないようにする』


「うん、まぁ少しずつ慣れればいいさ」


『あとなぁ、ありがとな亘......』


「急にどうしたんだよ、気持ち悪い」


『いや、だって俺も前にお前に怒鳴ったことあっただろ?』


「あぁ、幸のこと?」


『そう、その時はお前の気持ちも知らずに自分の気持ちだけぶつけてしまった。だから、今になってあの時のお前の気持ちがなんか分かるんだよ......』


「やめてくれよ。あの時お前のおかげで僕は助けられたんだから。それに、そのことに関してはお互い様だろ?」


『......そうだな』


「じゃあ、僕そろそろ準備するからきるぞ」


『お前、苗字済美の「さ」からだからなぁ。俺は山口の「や」だからいつも通り遅く行かせてもらうぜ』


「あぁ、腹立つ。まぁ、いいや。じゃあ、また学校で」


僕はそういって電話をきった。裕也はもう大丈夫だと思う。

遥さんは分からないけど、裕也が何とかしてくれるだろう、と心の底でふと思いながら僕は玄関扉を開けた。


「行ってきます」


学校に着くと、裕也は名前を呼ばれるギリギリまで出席せず、裕也の名前が呼ばれる2人前の所で分かっていたかのように教室に入ってきた。

休み時間も昨日とは一変して、いつものようにニコニコと歯を出して笑っていた。周りの人達に休んでた理由を聞かれたりしても琴音さんの名前は出さず、「風邪気味だったんだよ」と、バツが悪い顔で言っていた。


今日食べたオムライスは、いつもと変わらないはずなのに、凄く美味しかった。


7月1日 午後4時 21歳

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本当にありがとうございます!!

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