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23 覚悟

あれから数日の月日が経った。琴音さんは本当の秘密を知ってしまった僕と会うことを拒絶するように目を覚ますことはなかった。

そして、この数日はまるで抜け殻の様に何もかもが空っぽになってしまった遥さんと裕也が残った。おそらく、二人共突然すぎる出来事に気持ちの整理ができていないんだろう。無理もない。


取り敢えず、今日も病院に向かうことにしたが、相変わらず全員無言の空間が続いた。裕也は学校でも何にも喋らないから、僕の最近会話はコンビニの店員さんに「おにぎり温めてください」と言ったくらいだ。ここまでくると、その会話すら嬉しかった。


病院に着くと医院長に琴音さんの状況を聞いた。

状況は凄く酷いらしい。


どうやら、琴音さんの病気は幼い頃から発症していたため、年が立つ度に彼女の体は病気に侵食されていっていた。

しかも、彼女の病気は最近発見された病気のため、しっかりとした薬が造られていないため余計にだろう。

医院長は、ここまで生きれたのでも奇跡で、もしかしたら何かが彼女を強くしているのかもしれない。と言っていた。

そういうケースも珍しくはないらしい。


誰かのために生きる。自分の体がこんなになるまで彼女は誰のために生きていたのか。

もちろん、僕は死ねと言っている訳じゃない。あくまで彼女をそこまで強くする存在とは誰なのか気になっただけだ。


そんなことを考えていたら、僕達の前で延々と喋り続けていた医院長の口の動きが止まったと思っていたらすぐにまた、喋り始めた。


「残念ですが、彼女の余命はもってあと3ヶ月ですね」


一気にただでさえ冷たかった空気が凍りついた。

全員何となく分かっていたのかもしれない。でも、その現実を受け止められずにいた僕達に医院長は軽々と現実を放った。


「さ、3ヶ月ですか......?」


裕也が震えた声で聞いた。


「はい、ですがこれはあくまでもっての話なので、今日、明日そして今に亡くなってもおかしくはありません」


これ以上誰も喋ることなく、それからはまた、延々と医院長の話を聞き続けていた。いや、聞いているやつなんていたんだろうか......。


結局、病院を出てからも何一つ会話はなく、1日が終わった。


──────────────────────

あれから裕也も遥さんも本格的に現実が受け止められず、学校にも来なくなった。

大事な友達が死ぬかもしれない。そんな時に学校に来ている僕は冷たいのか。いや、そんなことはないはず。

人には人の人生がある。だから僕は僕の人生を生きる。

それに、人はいつ死ぬなんて分からない。

例えば、僕が今食べているオムライスに毒が入っていたら彼女よりも早く亡くなることになる。

あくまで例えばだから例としては少しオーバーな気がするけど、僕が言いたいことはつまりそういうこと。


人はいつ死んでもおかしくない。だからこそ、僕は今を生きる。


夕方、バイトに行く前に裕也のアパートに寄って行った。


「裕也、鍵空いてるぞ。家にいても一人暮らしなんだから鍵くらいかけとけよ」


「亘。すまないな、最近学校行けてなくて」


「まぁ、気持ちも分かるから今は取り敢えず落ち着けよ」


「あぁ、すまん......」


「お前、ご飯食べてんの? げっそりしてるじゃん」


「あぁ、あんまり食欲なくてな」


「そうか、でも食わないとダメだぞ。ほら、パン買ってきてやったぞ」


そう言って僕は裕也に焼きそばパンを下から投げた。


「あぁ、サンキュ」


「はやく食えよ。腹膨らませなくちゃ死ぬぞ」


「うるせぇ、今死ぬとかそういうワードを出すな。いい加減にしろ、お前もう帰れよ」


「いい加減にしろ? それはどっちのセリフだよ!」


僕は初めて裕也に怒鳴った。


「いいか、僕達は今を生きてるんだよ。僕達の人生は琴音さんに振り回されるのか? お前このままだったらそのまま死ぬぞ! そんなんでも良いのかよ!」


「俺だって、俺だって! 俺だって......それくらい分かってるよ。でも、まだそんな現実を受け入れられないんだよ。憎いよ! そんな自分が憎いよ! なぁ、亘俺はどうしたらいいんだよ」


「どうしたらいい? 決まってるだろ。生きろ! 確かに、僕達が人間である以上いつ死ぬかは分からない。琴音さんよりも早く死ぬこともある。でも、僕は琴音さんよりも生きる! 彼女の分まで生きる。だからお前も生きろ! それがまだ意識も戻っていない琴音さんにできるたった一つのことだろ! いい加減覚悟を決めろ!」


僕は自分の気持ちを思いっきり裕也にぶつけた。そして、裕也の口に焼きそばパンを突っ込んだ。


「ほら、食えよ。食って生きろ......」


裕也は泣きながらそのパンを頬張った。地面にいくつかパンくずと麺が落ちたけど、気にせず裕也は無心で食べた。


確かに、さっきの言葉とこの言葉の重みは自分では抱え切れない程の重さだと僕は思っている。

でも、今はこの重さを自分で背負っていくしかない。そして、その時がきたら......。


いや、考えるのをやめよう。もう、本当の覚悟を決める時だ。


これからは中途半端な気持ちを殺す。琴音さんのことを諦めた訳じゃないけど、あそこまで言ってしまったのなら僕はこのまま前に進むしかない。


弱音を吐いてなんていけない。


6月30日 午後5時30分 21歳

ブクマを100件達成することが出来ました!!

これもいつも応援してくださる皆様のおかげです!

今後ともよろしくお願いします!!

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