21 後輩
なにかの合間の時間に執筆していけばなんとか毎日投稿もできそうですが、余程の時はできないかもです
僕はせっかくの休日を使って図書館に引きこもった。
机には何冊もの「記憶喪失」に関する本を重ねて置いた。そして、その重ねた本を1冊1冊丁寧に読んでいった。
どの本にも書いてあることは大体同じだった。記憶喪失とはどういった症状なのか、記憶喪失者はどんなことを思って生活しているのか、記憶が戻ったらどうなるのか......。
また、記憶喪失にも様々な種類があった。彼女の症状からはおそらく解離性障害なんだと思う。
僕は目と手をひたすら動かした。ページを進める度に色んな謎が解けたが、逆に疑問に思うこともあった。
記憶喪失になったことを琴音さん自身は知っている。だからこそ、記憶が戻った時今の自分はどうなってしまうのかと不安になる人も多いらしい。
それともう一つ、何故彼女は記憶喪失になってしまったのか。そして、何故琴音さんの御両親はその原因を隠蔽しようとするのか。
「はぁ......キリがないな」
今日はもう帰ることにしよう。
僕は、立ち上がって本を元の位置に戻すと図書館を後にし、その帰り道にコンビニで生野菜のサラダと米と適当なおかずを買って帰宅した。
──────────────────────
翌日 午後18時〜
「お疲れ様です、済美入ります」
「おぉ、済美君。じゃあ、今日も頼むね」
「はい」
今日はコンビニのバイトが入っている日だった。僕はいつも通り、品出しをしたりレジスターをうったりと、意外と大変なコンビニ店員の作業を続けた。
「若林入ります。お、先輩お疲れ様です」
「あぁうん、お疲れ様」
「若林 昂生」こいつは最近バイトを始めた僕の後輩。短髪で少し目が鋭くて周りから怖がられているようだけど根は本当に優しくて良い奴だ。
ちなみに現役高校生2年生で、大学進学のためにお金を稼いでおくみたいだ。だから、お金の面では親には迷惑をかけないようにしたいっていつもこいつは言っている。
「若林、夕飯はもう食べたか?」
「いえ、まだですが」
「なら、終わったら焼肉でも行くか? 僕の奢りで」
「え、でも先輩!」
「心配すんなって。高校の頃から貯めていた金をそろそろ消化していかないといけないだけだから」
「はぁ、ならお願いします!」
「嬉しそうなやつめ」
「はい! 嬉しいです」
この笑顔には勝てないな。よし、ご飯大盛り頼んでもいいぞ!
「先輩、俺結構食べますから覚悟してくださいよ」
「精々僕の財布を空にしてみせろよ」
21時30分〜
「先輩、カルビ焼けましたよ」
「おぉ、僕は牛タン派だからカルビあげるよ」
「へぇ、なかなか贅沢ですねぇ」
「まぁ、焼肉食ってるだけで十分贅沢だけどな」
仕事のことなんて忘れて二人で食べて飲んで話した。もちろん、僕は仕事終わりの成人者にしか楽しめない、キンキンに冷えたビールジョッキを持つこともせず、炭酸水を喉に流した。酒に弱いと何かと大人として情けなくなる時があるけど、酒に飲まれるくらいなら僕は迷わずこの選択をするだろう。
「んで、最近どう?」
僕はトングで肉を返しながら問いかけた。
「何がですか?」
「高校だよ。楽しい?」
「うーん、まぁなんか居心地悪いですね。最近だとよくヤンキーに絡まれたり、廊下を歩いてたりしてるとなんかよく分からない奴がお供します。とかなんとか言いながらついてきますので、普通に面白くはないです」
兄貴お供しますって、いつの時代だよ......。
「そっかぁ、色々大変だなぁ」
「先輩は高校生活どうだったんですか?」
「僕? 僕はそらぁもうモテモテで大変だったよ」
「はいはい、嘘ですね」
「最近お前は先輩に対しての思いやりが足りんなぁ。そこは分かっていても敢えてのっかるのが普通だぞ」
「なら、僕は普通じゃなくていいので、先輩は嘘をついてます」
「そうか? まぁ、僕の高校生活のことなんか聞いても面白いことなんてないから」
「知ってます」
「知っていて聞いたの? まぁ、悪い子」
「先輩、いい加減話したらどうです?」
「何がだよ、僕の高校生活? やだよ、そんなの」
「俺先輩が嘘ついてるって知ってるんですよ。何が言いたいんですか?」
「はぁ、バレたなら仕方ないな。でも、なんで分かったんだ?」
「先輩、嘘つく時はだいたい右手でズボンを握りしめていますから」
僕は自分の膝に視線を向けると、たしかに右膝には皺が広がった。
これからは気をつけよう......。
「んで、なんなんですか?」
「あ、あぁ。それなんだけどさ」
「はい」
「実はなぁ、知り合いというより同じ大学の友達が記憶喪失でな。お前のお爺さんってたしか医者だろ? だからそういったのに詳しい本とかないのかなぁって思ってさ」
「記憶喪失ですか......。お爺ちゃんの書庫に入ればそんなのもあるかもですね」
「そうか、できればそれを貸して欲しいんだけど」
「あぁ、いいですよ」
「軽いな。その書庫に入ってるやつってお前のお爺さんが大切にしていた本なんだろ? 大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。今はあの書庫は俺に所有権がありますから。それにそういった理由なんだったらお爺ちゃんも許してくれますよ」
「そっか、頼む!」
「頭を上げてください。また、探しておきますのであったらまたバイトの時にでも渡しますね」
「ありがとう、感謝するよ」
「やめてください。それより、その人の記憶早く戻るといいですね」
「あ、あぁ......そうだな」
正直、僕はこのまま琴音さんの記憶を戻すことを躊躇している。琴音さんの記憶が戻るということは今の琴音さんの死を意味する。
だから、今までの琴音さんの思い出や僕達との思い出が消えればその瞬間に僕達は赤の他人に変わる。それでいいのか、少し迷った。でも、それはただの私情であって琴音さんにとっては記憶が戻った方がこれからの彼女のタメでもある。
だけど、今の琴音さんは......。
本当にキリがないけど、一回決心してもすぐにその決意は揺らいでいく。
今の琴音さんは記憶が戻ることを素直に受け入れてくれるのか。自分の知らない自分のために自分の命を差し出すことができるのか。
僕なら絶対にできない。だから迷っている。
本当にいつまで経ってもキリがない。
6月20日 午後22時24分 21歳
これからもよろしくお願いします!!!
あと少しでブクマ100になるので是非ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!




