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19 記憶喪失

「なぁ、ここ......どこだ?」


「さぁ......俺ら、どこ向かってたんだったっけ?」


「お前ん家の実家のばあちゃん家だろ」


「あぁ、そうだった。でも、ここにばあちゃん家はないぞ......」


突然だけど、僕達はよく分からない所にいる。ちなみに、いつものメンバー、と言ったら誰か分かるであろう。

そう、いつものメンバーだ。大事なことだから二回も言ったけど、これは結構重要なことだ。


よく分からない所に来てしまって、行く宛もない。むさ苦しい野郎二人だけなら野宿でも上等だ。

しかし、その中に二人も女子が入ったならば野宿なんてできるわけがない。


僕達はただただ、途方に暮れていた。


「まず、状況整理をしようよ!」


琴音が割り込むように二人の会話の中に入った。


「まず、お前が休みにばあちゃん家に来いって言って」


「バスで向かったんだろ」


「その結果がこれか......」


「なぁ、裕也」


「多分、俺も同じこと言おうとしてるから一斉に言うぞ」


「せーのでだぞ」


「「せーの!!」」


「「乗るバスお前間違えただろ!?」」


「「は?」」


「裕也がこのバスって言ったんだろ?」


「お前がこのバスじゃないと死んじゃうとか訳分からないこと言ったんだろ!?」


「そんなこと言う訳ないだろ! それになんでバスが違うだけで死ななきゃいけないんだよ!」


「あのぉ......」


琴音さんが二人の中にもう一度入り込もうと試みたが既に遅く、もう僕達は自分達の世界に入っていた。


「お前がそう言ったんだからそうなんだ!」


「だから理由がないだろ! 僕にはちゃんとした理由があるんだ!」


「じゃあ言ってみろよ」


「さっき言っただろ!」


二人の言い合いは琴音が声をかけている間にも進んでいた。


「もう! いい加減にして!」


琴音さんがそう叫ぶとやっと二人の言い合いは止まった。

隣で少し苦しそうな琴音さんを見て罪悪感を感じた。それくらい叫んだということなんだよな。


「ごめん、琴音さん」


「すみません......」


「なんでもいいけど、あんたら私のこと忘れてるでしょ?」


僕は遥さんがいることをすっかり忘れていた。恐らく反応的に裕也もだろう。


「「あ......」」


「しばくぞお前ら」


──────────────────────


「さて、迷ってしまったのは仕方ないとして、こっからどうするかだよな」


取り敢えず、四人で輪になって考えた。


「ここにいても仕方ないし、一旦町でも探そうぜ」


「町なんかあるのか?」


僕達が着いたバス停の周りには木と山しかなかった。おまけにバス停にある椅子は木製で座れたものでもない程カビが生えていた。

田んぼでもあれば民家が近くにあるのだと分かるけど、残念ながら田んぼすら見当たらない。


「取り敢えず歩こうぜ」


僕達は、不安とこれから行く宛もなく、どこかにたどり着くまでひたすら歩かなければいけないという面倒くささに今にも押しつぶされそうになりながら歩いた。

歩いている時は誰一人として口を開かず、自分立達がどこかに居るのか、どこに向かっているのかすら分からずさまよっていた。

それからどれくらい歩いただろう。時間なんて考えずただひたすら歩いていたからどのくらい歩いたかは分からないけど、太陽が沈みかけていたので恐らく相当な時間は歩いていた。


「おい、あれ見ろよ!」


何時間かぶりに人の声を聞いたと思えば、裕也の声だった。裕也は必死に先を指さし、表情が一気に明るくなった。


「あれ、家じゃねぇか!?」


「え?」


少し暗くなってきて、はっきりとは見えなかったけど、微かな明かりと建物のようなものが見えた。


「絶対にそうだ! 行こうぜ!」


裕也は一人で走っていった。僕達もそれに続いたが、僕は走っている途中に後ろに一瞬だけ振り返ったら、琴音さんが後ろにいなかった。


「琴音さん!」


僕はもう一度振り返って遥さんに先に行っておいてと伝えると、逆方向へ走った。

遅れていたとしても、姿が見えなくなるほど遅れるはずがない。

僕はスマホをポケットから取り出して琴音さんに電話をかけた。


「僕だよ! 今どこにいる?」


『ごめん、先に行ってて。私は大丈夫だなら』


「大丈夫な訳ないだろ! どこにいるんだ!」


『どこにもいないよ。皆が走った道を歩いてるの』


「そっか、でも心配だから今そっちに向かってる」


『え、良いのに!』


「良くない! 女子一人置いていけるかよ」


『ふふ、やっぱり優しいね亘くん』


「そら、どうも」


電話をしながら走っているうちに琴音さんの姿が見えてきた。


「はぁ......はぁ......やっと見つけた」


「ごめんね、亘くん」


「本当だよ、なんで走らなかったんだよ」


「あ、いや............」


琴音さんの顔は瞬時に暗くなり俯いた。


「ごめんね、私......走れないんだ」


「走れないって、速くとか?」


「ううん、走れないというより、走っちゃダメなんだ」


「どうして?」


「分からない」


「え......」


「分からないの......」


僕と琴音さんは歩きながら会話を続けた。


「それって......どうして?」


「両親に聞いたことなんだけど、私は記憶喪失らしいの。だから、高校生になるまでの記憶が何が原因なのか分からないけど、全くないの。だから、私には何も分からないの」


「記憶をなくす前に何かあったの?」


「......分からない」


「御両親からその経緯を聞こうとも思わないの?」


「もう聞いたよ。けど、教えてくれなかった。それを教えることはできないって......あ、このこと皆に言わないでね!」


「うん......」


僕はそれ以上何も言えなかった。普段は何でもないように振る舞う彼女にもそんな悩みを抱えて生きていたなんて、思いもよらなかったから。

彼女の顔はまだ僕を疑っているように思えたが、無理もない。人に秘密を知られたんだから。僕にもその気持ちが痛い程分かる。

だから秘密は秘密で語り合うべきだと僕は思った。


「琴音さん、実は僕もね......」


僕は六年前の閉ざした思い出の箱をもう一度開けた。


6月9日 午後7時38分 21歳

活動報告でも記載したように

そろそろ受験モードに入りますので、ただでさえ遅い更新がまた遅くなってしまう可能性があります。1週間に1本公開できればいい所だと思います。

続きを楽しみにしてくださる方には本当に申し訳ないですが、受験が終わったらばんばん投稿しますので、それまでブクマを解除せずにお待ち頂ければ幸いです。

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