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17 二人の思い出

今回は前々から疑問に思っていたであろう、亘と幸がなぜ両思いだったのかということについてです

ある日、部屋の整理をしていて、幸と初めてプリクラを撮った時の幼い自分の頃の写真が出てきた。


(まだ、置いてあったんだな)


てっきり捨てているのだと思っていた。

思えば、幸との出会いから友好関係を築き上げるまで色んなことがあった⋯⋯。


約6年2ヶ月前、新学期が始まった。

毎年恒例のクラス替え、人の名前が無数に並べてあってそこから自分の名前を探し出すなんて、考えただけでも頭が痛くなってきた。


「えっと、僕の組は⋯⋯」


3年 2組 済美 亘 という文字をやっと見つけ人混みから離れた。あんな暑苦しい所にずっといろという方がおかしい。

僕は、校庭の大樹にもたれかかって木陰に身を潜めながら文庫本を開ける、と同時に小さな風が吹いた。

風に流された桜の花が本の上にのったことを見て春を感じた。


教室に入るとやはり、もう陽キャの集まりのグループが構成され始めていた。

何年もこの風景を見てきたからか、もうこの風景に興味も持てない。そして僕は、再び文庫本を開けた。


新学期が始まってから数日が経ち、だいたいのクラスメイトの名前は把握できるようになってきた。

特にクラスでいつも目立っている奴はすぐに覚えることができた。


例えば男子では、加藤 拓也。文句の付けようのないくらいのイケメンであり、それであって少し天然という1面もあって特に女子からの評判がいいようだ。

女子では、片桐 幸。彼女も言うまでもなく可愛くて、男子も女子も皆彼女のことが好きなようだ。

確かに、いつも笑顔で人の嫌がる仕事や先生の手伝いを自ら積極的に行う姿には僕も関心する。

しかし、本心はどうなのだろうか、行動とその人の心がいつも一致しているとは限らない。それに、自ら積極的にそんなことを行うことになんのメリットがあるのだろうか⋯⋯。

ただ、周りからの好感度を上げるため。ということなら納得はできるが、それでも普通そこまでするのだろうか。彼女なら普通に振る舞うだけでも人の何倍もの人気は得られるはずだ。


僕は、くだらないくらいどうでもいいことが無性に気になった。

だからといって調べたり、本人に直接聞いたりもしない。

それに、僕は彼女と面と向かって話したことはない。ノートの提出時に「お願いします」と言ったくらいだ。


(謎を解くには、そうとうな時間かかりそうだな)


僕は、チャイムの音と共に本を閉じた。


────────────────────────


それからまた何週間かの月日が経っても彼女の様子は変わらない。

相変わらずの笑顔を見せながら、そしてその笑顔を周りに撒き散らすかのように彼女が通ったあとの廊下は笑顔で溢れていた。


正直、もう僕も認めているのかもしれない。彼女がやっていることは全部好感度のためなんかじゃないと⋯⋯。

でも、その中にもまだ疑う心があった。なんでそこまで疑心暗鬼にならなくちゃいけないのか、僕自身も分からない。

それに、本当にこれは疑う気持ちなのかさえ分からない。


でも、僕はいつも自然と彼女を目で追ってしまう。 目が合ったと思うとドキリッと、心臓の鼓動音がしてすぐに目を逸らしてしまう。それにその時はなんとも言えない羞恥心が僕を襲った。


今日は2つ目の謎ができました。


────────────────────────


5月の中盤に入った。


最近彼女に異変が起きた。

彼女の笑顔がなくなったのだ。それでも彼女はいつものように先生の手伝いや人が嫌がる仕事を自ら積極的に行っていた。


どこか苦しそうに⋯⋯。


それから数日経っても彼女の様子は変わらなかった。

抜け殻のように笑顔のなくなった彼女を哀れに思ったのか、先生も彼女の手伝いを断ることが多くなってきた。

単にストレスなのか、それともまた別の理由があるのか。

依然として彼女の謎は解けず、また謎が増えるだけだった。


────────────────────────


5月も終盤に差し掛かる頃、彼女の笑顔は完全に途絶えた。


彼女は今まで継続していたことをとうとうしなくなった。そんな彼女をクラス中が心から心配した、と思いたかった。

僕は確かに見た。女子グループがそんな彼女を見て笑っていたのを⋯⋯。それも見下す様に「ざまぁみろ」とでも言うかのような笑みを浮かべて。


(そういうことか)


昼休み、僕は申し訳なさも感じながら彼女に秘密で着いて行った。

彼女は校舎を出て、体育館裏にある倉庫に入っていった。酷く怯えながら入っていったから僕の予想は的中しているに違いない。

案の定、覗いてみるとそこには彼女を蹴ったり、叩いたりとする奴がいた。

すぐに助けに行っても良かったが、少しだけ様子をみた。

予想はできているけど、まだ何でこんなことをされているかが確定はしていない。


「おい、優等生気取り。なんか言えよ!」


「違うよぉ、元優等生気取りだよ。アハハハハ」


「そうだったぁ、先生のお手伝い偉かったでちゅねぇ。ご褒美だよ」


もう、我慢できない。確定だ! 僕は倉庫の引き戸を思いっきり引いた。

その先には、朝の女子グループと水をかけられて震えながら怯えている彼女がいた。


「おい、お前ら。何やってんだよ」


「別に、あんたに関係ないじゃん」


「そうだし、あんたに関係あるの? これはうちらの問題だからすっこんでろ陰キャ!」


「僕のことはどう言ってもいいし、何されてもいい。だけど彼女にこんなことするのは間違ってるんじゃないか?」


「だからうちらの問題だって言ってんだろ!」


「会話もできないのか、お前ら全員下等生物以下だよ」


「お前調子乗ってんじゃねぇぞ!、後で覚えとけ」


そう言い残すと不満があるのか文句を口々に言いながら彼女達は出ていった。


「大丈夫? 寒いだろ、これを着なよ」


未だに怯えて声も出ない彼女に自分の制服の上着を被せてやった。

彼女が話せるようになるまで僕は、彼女の隣にいた。無言の空間だったけど、自然と嬉しい気持ちと怒りの気持ちが込み上げてきた。


「⋯⋯りがとう」


「ん?」


「あり⋯⋯がとう。助けて⋯⋯くれて。怖かったんだよ」


「そうか、もう大丈夫だよ」


彼女は、赤ん坊のように泣いた。泣いて泣いてずっと泣き止まなかった。でも、それでいい。泣き疲れて眠ってしまうくらい泣けばいい。


もしかしたら、今回は僕が君を不幸にしてしまったのかもしれない。だから僕が君を救って当然なんだ。だから、僕は自分勝手だし何もできないけど、君の気持ちだけは受け止められる。


あぁ、そうか。僕は彼女のことが好きなんだ。だから、こんなにあいつらが憎くて、彼女のことがこんなに気になって仕方がなかったんだな。


その後、彼女達は停学処分を言い渡された。そして、それからの彼女が見せる笑顔は以前よりも輝いていた。


やっと、全ての謎が解けました。


────────────────────────


今じゃあ、ただの思い出だけど、これがあったから僕と幸は付き合えることが出来たんだよな。

確かに、辛いことは沢山あってそれを乗り越えられたのはつい最近のことだけど、それで今、僕は成長してる。それでいいんじゃないかな。


「なぁ、そうだろ⋯⋯幸」


6月3日 午後1時30分 21歳

不定期更新ですが何卒、よろしくお願いします!

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