16 雨の日
スーパーの特売があると聞いて急いで家を出た。足早に階段を降りると自転車のスタンドを思いっきり蹴りあげた。
スピードを出しながらも周りの人の迷惑にならないように気をつけながらスーパーに向かう。
最近、少しずつ野菜が高くなってきている。今のうちに買えるものは買っておかないとな。
「あ、亘さん⋯⋯」
「ん? あぁ」
声の方へ目線を合わせると、そこにはバッグを左肩に掛けて買い物カゴを右手にぶら下げている琴音さんがいたので、僕は条件反射で一礼をした。
「亘さんもお買い物ですか?」
「はい、特売なので⋯⋯」
「そうなんですか、私は少し用事で病院へ行ってその帰りにここに寄ったんですよ」
「病院? 体調悪いんですか?」
「あ、はい⋯⋯えっと、友人が入院しているので⋯⋯」
「そうなんですか、なんかすみません」
「あ、いえ! 全然大丈夫ですよ!」
「そうですか? ならいいですけど⋯⋯」
買い物も終わって外に出ると大粒の雨が僕達を待ってましたというかのように降ってきた。天気予報では昼は晴れのはずだったから自転車で来たのに、この雨の状態では帰れずスーパーの入口近くにあるベンチに二人で腰をかけた。
「琴音さん、家はここから近いの?」
「いえ、電車で来ましたので⋯⋯」
「そっかぁ、この雨止みそうにないし僕の家ここから近いから寄ってく?」
「いいんですか?」
「聞いておいてあれだけど琴音さんこそ大丈夫? 男の家なんかに上がり込んで」
「大丈夫ですよ、だって亘さんですもの」
ん? それは僕がチキンだと言いたいのか、それとも信頼できる人だと思っているのかどっちだ......。
「それに⋯⋯このままだと帰れないですしね」
「まぁ、そうだね。それじゃあ、とばすよ」
「はい!」
「しっかり捕まっててよ」
そう言うと、腰から手を回して僕の体にしがみつく感覚が分かった。
とばすことに集中していたから女の人の匂いや感触も分からなかったことに後で後悔したことは伏せておいて、当然の如く大粒の雨は自転車をとばしていたとしても容赦なく降りかかった。
家に着く頃には二人ともずぶ濡れだった。特に琴音さんは白い服だったので、中まで透けてしまっていた。琴音さんは何も言わなかったけど顔は耳元まで赤くなっていたので何も言わずに僕のまだ使っていない上着を被せてやった。
「琴音さん、シャワー浴びてきなよ」
「え、でも、着替えが⋯⋯」
「あぁ、そっかぁ......でも、濡れたままだといけないから取り敢えず浴びてきなよ。何かないか探しておくから」
「はい⋯⋯すみません」
そう言うとそのまま脱衣所の方へと歩いていった。
(さて、何か探すか)
探している途中何回かシャワーの音が耳に入ってきたけど、僕は紳士だから聞こえないフリを続けた。
下着は当然用意できないので、できるだけ大きな服を探した。1着だけ当てはまるものがあったけど、はたしてこれでいいものなのか⋯⋯。
「あのぉ、亘さん」
「あ、はい」
「着替え⋯⋯ありましたか?」
「大きな服ならあったんだけどそれでもいいかなぁ?」
「あ、全然大丈夫ですよ! 乾くまで貸して貰ってもいいですか?」
「うん、すみません」
僕は脱衣所のドアを少しだけ開けて手だけをつっこみながらそういった。勿論、顔は反対側を向けてだ。
僕はそれを渡すと素直にさっさと退散した。
「あ、これなら十分ですよ」
少しして脱衣所のドアが開くと、反射的にそっちに目線を合わせてしまう。
そこには少し服が小さくて下半身がギリギリ見えないため必死に下に引っ張っている琴音さんの姿があった。
「う⋯⋯すみません。やっぱり足りないかったですね」
「い、いえ⋯⋯そんなこと⋯⋯」
琴音さんは既に泣きそうなくらい声が震えていた。僕はそこから退散するように「僕もシャワー浴びるよ」っと言って脱衣所の方へ向かう。
「あ、ダメー」
時既に遅し、そこに琴音さんの服や下着を干していることをすっかり忘れていた。
僕は急いでドアを閉めると必死に言い訳を考えた。
「あ、いや⋯⋯その⋯⋯すみませんうっかりしてました」
必死に考えても言い訳は思い浮かばず、素直にそう伝えた。
琴音さんは酷く赤面したが、「私も亘さんが次にシャワー浴びること忘れていたので、私も悪いんです」と俯いていた。
その後はお互い何も話すことができず、時間だけが過ぎていった。
「あ、あの⋯⋯そろそろ乾いてきたのでおいとまさせてもらいます」
脱衣所から顔をひょこっと出してそう言うとすぐに顔が引っ込んだ。
「そか、すみませんでした⋯⋯。なんか何にもできないくせに家に招いちゃって挙句の果てに恥までかかせちゃって」
「い、いえ! 助かりました。それともうその事は忘れてください⋯⋯恥ずかしいです」
彼女はまた一気に赤面してしばらく俯いていた。
6月 2日 午後4時30分 21歳
不定期更新ですが今後ともよろしくお願いします!




