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14 休日

隣には裕也、前には今日知り合った女性2人。イマイチ状況の理解できないまま裕也についていったらいつの間にかカラオケボックスにいた。


「なんで僕こんなところにいるの⋯⋯」


この発端は、昨日の夜。

僕が丁度就寝しようとした時、枕元にあったスマホからLINEの通知音が響いた。

人が折角気持ちよく寝ようとしている時に誰だよ、ということは思わず反射的にスマホの電源ボタンを押した。送信者は言わずとも知れてた裕也だった。


『よう、お前明日空いてる? 空いてるよな。よし決定! 明日の8時に駅集合な』


人を暇人扱いするのはまだしも、要件も書かずに時間まで決められるのは癪に障るので、トーク画面を開くと返信もせずにLINEを閉じた。

まぁ、裕也のことだ。どうせトイレットペーパーが無くなったから晩飯のおかず買いに行くついでにスーパー行こうぜ。的なやつに違いない。僕はそれに最低でも1000円はかけられる。それくらい自信はあった。


「おーい、亘。待ったかぁ?」


「そうだね、だいたい7分くらいは待ってるよ」


「ははは、まぁまぁ細かいことは気にするなって」


ゲラゲラと何がおかしいのか、僕は笑いながら黙々と歩いて行く裕也の後ろ姿にひたすらついていった。


「裕也、これどこに向かってるの? スーパーあっちだよ」


極度の方向音痴の裕也だけど、流石にいつもお世話になる店の道くらいは覚えているはずだ。それにこの道の風景は明らかに初めてだった。

商店街のようなおばさん達の溜まり場というよりは、僕達若い世代が好むような遊技場が並んだ道⋯⋯。ゲームセンターに麻雀にダーツ。もっと直視すれば頭が痛くなるほどの遊技場の数に僕は、これからどこに行かされるのかと内心不安しかなかった。

どう考えてもここにスーパーがあるとは思えない。よし、今のうちに1000円準備しとくか。


「お、ここだな。着いたぞ」


「ここって⋯⋯」


「見ての通り、カラオケだ」


「えっと⋯⋯なんで?」


「なんでって、そりゃあお前が他の人との友好関係を築けるようにするために親友が人肌脱いでやったんじゃないか」


感謝しろよ、とゲラゲラと笑う裕也。本当に余計なことしてくれたよ⋯⋯。

それより、人との友好関係を築くのにカラオケってどういうことなんだ⋯⋯。何故だろう、嫌な予感しかしない。


「あぁ、それとなぁ今日は俺らと同年代の女子大生も2人来るからなぁ」


はい、嫌な予感的中。なんで裕也は僕に何も言わないで先々と進めていくの⋯⋯。


「お、その絶対余計なお世話だって顔めちゃくちゃ面白いぞ」


「誰のせいだと思ってるの? こんなことだと分かっていたら絶対行かなかったのに⋯⋯」


「あぁ、知ってる。だから敢えて言わなかった」


この悪魔め! と言ってやりたかったが、そう言った所で状況は何も変わらないのでやめた。

もう、どうにでもなれ――。


と、いったことがあって今、僕はここにいる。

僕達がカラオケボックスの中に入ってからしばらくしてやっと女子2人組が来た。

1人は清楚でお洒落な人だった。ミディアムより少し長い髪型もその整った顔を引き立たせてるように見えて正直可愛いかった。

もう1人は少しギャル感のある服装で、ロングの綺麗な金髪が似合う人だった。

二人とも文句がでてこないくらい容姿が整った人達だった。


「おはようございます。桂木(かつらぎ) 琴音(ことね)といいます。今日はよろしくお願いします」


「おっざいまーす! 海堂(かいどう) (はるか)です! 今日はめちゃエンジョイしてくんでそこんとこよろしく!」


「山口 裕也っす。今日はじゃんじゃん歌っていくんでよろしくお願いします」


「済美 亘です。隣のクズに騙されて来ました。まぁ、こうなった以上仕方ないんで割り切っていきます。よろしくお願いします」


我ながら最低な自己紹介だ。でも、これでいい。僕が人に興味が無いことを相手側に分からせておけばこっちのもんだ。

悪いな裕也、お前が作ってくれたせっかくの機会だったのに。


案の定、僕の一言で部屋の空気が一気に凍りつき無言の間が続いた。

ここでなにか盛り上がる話題を出せば一躍その人は勇者の称号が与えられるだろう。

その勇者は我らが裕也。僕としてはこの空気のままでは帰れないので裕也がここで何かを言ってくれると分かっていた。

つまり僕は裕也を密かに利用した訳だ。裕也、このお詫びはまたするからどうか今日は僕の操り人形であってくれ⋯⋯。


「えっと⋯⋯そんじゃあ、切り替えて楽しんで行こうぜ!」


「そうだね、えっと何か頼む? ドリンクとか」


「そだね、私お茶でいいわ。琴音は?」


「私は⋯⋯オレンジジュースがいいな」


「じゃあ、俺炭酸水で、亘は?」


「僕もそれでいいよ」


「そんじゃあ、ジャンケン負けた人がドリンクを全員分汲みに行くってことでどうだ?」


「お、それめちゃ名案! いいよぉ、私ジャンケン強いからねぇ」


「えぇ、私ジャンケン弱いよぉ」


「いくぞぉ、ジャンケンポン!」

________________________________________


「なんで僕がこんなこと⋯⋯」


ご存知の通り僕がグーで1人負けで今、全員分の飲み物を()みに行っている。

今頃、裕也はあの二人と歌う歌でも決めているのかと思うとイライラした。女子と同じ空間に男一人でいることが羨ましいとかではなく、ただ座っているだけで自分の目当てのドリンクが運ばれてくるのを待っている人の苦労知らずなやつに少しイライラしたからだ。

そうだ、あいつの炭酸水に砂糖をいっぱい入れてやろう。


全員分汲み終わり、部屋に戻ると既に裕也のカラオケが始まっていた。

裕也は自分の歌に結構な自信を持っているつもりだが、そこそこの音痴だ。だから部屋に入ると最初に目に入ったのが女性陣2人の苦笑いだった。


「なぁ亘、次お前が歌えよ」


「え、僕?」


「なんだよ、お前歌うめぇじゃん。俺の次くらいに」


「ごめん、明らかにお前よりは上手いことは確かだ」


「じゃあ、歌って見せろよぉ」


裕也の顔は微かに笑っていた。おそらく僕を歌わせるためにわざと挑発したに違いない。仕方ない、今日だけ特別にのってやるよその挑発に。


「はぁ、分かったよ⋯⋯マイク貸して」


「曲はお前の十八番でいいだろ?」


「ん? あぁ、それでいいよ」


僕は流れるメロディーに声を入れた。実は歌が上手いというギャップに女性陣も裕也の時とは違い、真剣に僕の歌を聞いてくれている気がした。


「す、すごいよ! 亘くん。私感動した」


「まぁ、すこしは見直したかな⋯⋯」


「な! だから言ったろ。亘は歌が上手いって」


はぁ、自分の行動が裏目にでたか......。これじゃあ、好感度を自分から上げにいったみたいなもんだな。

実際満更でもなかった。歌を聞いたり、歌うのは趣味でもあったから、それを認めてもらえた気がして⋯⋯。


(なんか、この状況に楽しんじゃってるのかもしれないな。でも⋯⋯)


今は素直にこの状況を楽しもう、そう思った。それから一口喉に流しこんだ炭酸水はしゅわしゅわと気持ち良かった。


5月26日 午前8時42分 21歳

今回は少し長めに書きました!

好評だったら毎回このくらいの長さで書いていくと思います

また、読んでいただきありがとうございます!不定期更新ですが何卒、よろしくお願いします!

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