10 旧友
野球部など、運動系クラブの声が学校いっぱいに響く放課後。僕は、校内で唯一静かな図書室に身を潜めた。
棚に並ぶ本に目を向けずに、人気の少ない席に腰を掛けた。リュックから3冊程の文庫本を取り出すと1冊を手に取って、ほかの2冊を机に重ねて並べた。
人の声という名の雑音など聞こえず、冷え切った空気のように感じるこの空間が心地よかった。
「あのぉ、すみません⋯⋯」
目を開けると周りには人はおらず、申し訳なさそうに隣で様子を伺う女の人がいた。制服を着ているから恐らく、図書委員の担当生徒に違いないだろう。
「すみません、いつの間にか寝てしまっていたみたいです」
「あ、はい。もう閉室のじかんなので」
寝起きで頭も視界も朦朧としながらも、さっさと文庫本をリュックにしまうと彼女と共に図書室を後にした。僕のせいで遅くなってしまったから僕が鍵を職員室まで届ける、と言ったけど彼女「いいよ、私の仕事だから」と受け入れてはくれなかった。だからといって彼女を待つ必要もないので自分の準備が終わるとさっさと帰路についた。
夜、買い溜めしていたトイレットペーパーが無くなっていたことに気づいた。そのおかげでコンビニまでわざわざ買いに行くことになった。
夏の夜といっても流石に少しは寒かったので、少しだけ厚めの上着を羽織った。夜だというのに人が多いことに驚きが隠せずにもいたが、トイレットペーパーだけを手に取るとまっすぐレジに向かった、訳ではなく炭酸水も1本手に持ってレジに向かった。レジに向かう途中に色々と目に入って興味があった。フルーツだったり、お菓子が並んでいる所を通らないとレジに辿り着かないというコンビニならではの戦略。これもビジネスというものだろうか......。
結局、僕もその戦略にまんまと引っかかり、珈琲ゼリーとチョコレートをカゴに入れていた。
「あ! お前、亘じゃん!」
「えっと⋯⋯誰だっけ?」
「え、忘れたの? 酷いなぁ。クラスメイトだったじゃないか。明坂だよ、明坂!」
コンビニをあとにしようとした僕を雑誌を読んでいた人が止めた。
「あぁ、たしか前の学校のクラスメイトにそんな人もいたなぁ」
「お前いきなり転校したからどうしたんだろなって思ってさぁ。クラスメイト全員で話したんだぞ」
嘘だ。僕のことを気にかけるやつなんているはずがない。いたとしても⋯⋯この際聞いてみることにしよう。
「クラスメイトは元気なの? 例えば幸さんとか 」
「あぁ、幸ねぇ⋯⋯なんでか最近元気はねぇけどまぁ大丈夫だろ」
「そっか⋯⋯ありがと、じゃあまた」
「あ、おい! 待てよ亘!」
彼の言葉は僕の耳に入らず、僕は詠唱魔法のように何度も心の中で唱えた。
(大丈夫、僕は間違っていない。これで良かったんだ)
下唇を軽くかんで流れる涙を押さえ込んだ。
僕は、間違ってなんていない。なのに、彼女をまた悲しませてしまっている気がする。
コンビニに来たこと、彼女のことを聞いてしまったことを後悔した。
僕の頭の中は彼女で侵食されていた。
9月1日 午後10時55分 15歳
不定期更新ですが、何卒よろしくお願いします!




