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魔王を殺せ!!!

「……仕事なんぞしたくない…」


 頭にツノの生えた、小さな女の子はそう言いました。

 そこは、美しく大きな部屋。


 柔らかくも暖かいーーカシミヤ木の机に、背もたれに龍の装飾が施されているイス。

 それに、光り輝く陶器の花びん…。


 並べられた家具はどれも一級品!

 貝殻のような白壁の部屋!!


 ーー彼女は、魔王だ。

 名を、ゲン=バハームト=キクコ8世という。


「遊びに行きたい〜!!」


 鋭い牙をむき出しにした幼子ーー魔王キクコは吠えた。

 しかし、“休戦だ.いや終戦”だ、と

 てんやわんやの日々は、彼女の目の前に、山の様な書類を押し付けました。


 彼女はそれら全てを床中にばらまいて、ふんずけて、ーーついには大切な書類を口の中に放り込んで何度も咀嚼そしゃくしてまでーー、「仕事なんぞしたくない」と叫び続けます。


『未だ幼い魔王を守らん』と扉の前に控える兵が、慌てて部屋に飛び込んできました。


「キクコ様…全ての書類にお目通しをし、サインをして頂かないと困ります」


 兵は、困った様子でそう言いました。

 彼の、七つもある目が、全てオロロと動いています。

 彼は、若く強い男でした。


「アンタがすればいいじゃない!

 目がいっぱいあるんだから!!」


 幼い魔王は、口から火を吹き出しながら、そう言いました。


「わ、わたしには出来ません、とんでもない!!

 それはキクコ様のお仕事。

 私の任務は王にサインをして頂くことです」


 7つ目の兵は、不遜にも王の前で、得意げに胸を張ってそう言いました。

 しかし魔王は怒ることもなく、むしろしょんぼりと肩を落として、窓の方を見やりました。




 窓の外には見たこともない景色の数々。


 大通りーー。

 大勢の“人間”たちが行き交う様子、美味そうな肉を焼く屋台、腹を空かせた人間の男、車を引く馬という奇妙な動物、終戦を今か今かと待ち望む人々の今にも爆発しそうなほどの熱気、青い空。


「……外に出たいわ」




 七つの目をジッと見つめて、魔王きくこは言いました。

 それは、王の威厳を感じさせる、強い眼差し。


「ワガママはよして下さい」


 しかし、兵はたじろうことなくそう言いました。

 魔王きくこは、唇を尖らせて言いました。


「せっかく来た人の国よ」


「人の国なればこそ」


 兵が言います。

 その身に下げた、竜骨の槍、その柄えを強く握りしめて。


「未だ戦を望む者は少なくないと聞きます。

 いいですか。

 妨害も書類の山などでは済まない恐れは、よくよくあるのです。

 貴方が立派な龍となるまで、私がお守りします。


 しかし……外に出れば何があるか分かりません。

 でも、この部屋の中なら安全。


 ここの堅牢さといえば、龍のブレスにすら耐え、入り口は私が固め……、つまり素晴らしい…」


 兵は、ポッと赤らめました。

 そして「父母にも自慢出来るな、はっはっはー!!」と内心ほくそ笑みまくりました。


 何故か

 口元がニヤケまくりの

 兵を見た魔王は、ワザとらしくため息を聞かせました。

 そして。


「…………遊びに行きたいわ!

 仕事はもういいじゃない!」


 部屋の天井にまで飛び跳ねるような声で、魔王は言いました。

「さあ、お気が済んだらサインの続きを」と、7つ目の兵はイスを引きます。

 むう、と頰を膨らませた魔王キクコは、

 当て付けるようにいくつかの書類を、丸めて、口に含んで、水と一緒に飲み込んでしまいました。


「キクコ様何を!!」


 怒鳴る兵。


「魔族の王が……わたしが。

 確証もない何かに怯えて、書類と向き合ってるだけで訪れる終戦なんて変よ、絶対ーー」


 キクコは、唇の端をグイと拭ってそう言いました。

 そして、不満たらたらにドサリと椅子に腰掛けると、根負けしたように“仕事”に取りかかりました。

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