魔王を殺せ!!!
◆◆終戦を祝う心地の良い音楽♫が流れる、BAR◆◆
♫タ
ラ ♫
ラ
♫
Lalalalan...d ♫
「あー食った食った!」
満足気な男の声。
ーーすっかりふくれた腹、爪楊枝を加えたその男。
弥助は両手を突き上げて、喜びを体現します。
「いやぁ、悪いなわざわざメシを奢ってもらって。
知らねえ人間や、女に奢ってもらうメシはやっぱり美味えや」
嬉々として、弥助は言います。
空腹ですっかりくたばりそうだった腹がすっかり膨れ上がって、彼はそれは幸せそうにーー口角と頬骨とを押し上げます。
と、彼の隣、カウンターで頬杖をついてはほくそ笑む、それは美しいギャルが真っ赤な口を開きます。
「ふふ、貴方幸せそうに笑うのね」
彼の余りの幸せそうな姿に釣られてか、女もエクボを浮かべて微笑みます。
女は、その柔らかい胸を、意図的に弥助の肘へと押し当てました。
ーー胸騒ぎ
ーー硬く愛刀を握りしめ直した弥助の目が、カッと見開かれます。
「ーーご馳走した甲斐があるわ」
女が言います。
あぁ、そうだろ。
弥助は冷たくそう言い放ち、爪楊枝をプッと吐き捨てました。
「じゃ、おれ行くわ」
「ま、待って!!」
慌てる女。
彼女は、立ち去ろうとする弥助の、刀の先っぽを辛うじて掴みとりました。
必然、大切な尻尾を掴まれた犬のように立ち止まる弥助。
「お…!
何だ何だ、痴話喧嘩か?」
そんな2人の様子に、店内の酔っ払いオヤジどもが野次を飛ばして、指笛を吹き鳴らします。
「若いってのはイイねえ!!!」
「………悪いが刀は渡せない」
弥助は言いました。
自分に食事を奢ってくれた女に背を向けたまま、酷く冷えた声で、ギャルは思わず息を呑むほどでした。
(……この男…)
何かを悟った女は、誰にも気付かれないくらいにひっそり微笑むと、甘いお酒を唇に押し当てました。
弥助が続けて言います。
「金もない。
おれは見ての通りーー能のない男だから何を奪おうとしても無駄だ。
だから悪いけど、お前の奢りってことでよろしく」
弥助は、胸を張ってそう言いました。
成る程、確かに女の目に映る弥助の姿は…。
足の先から頭のてっぺんまで、ツギハギだらけのボロ衣姿です。
(貧しそうな、卑しい男)
全身を一べつして、女は改めてそう思いました。
(ただ、見る者が見ればすぐにそれと分かる…。
腰にぶら下げた、持ち主に不釣り合いな名刀だけがイビツだわ)
「おいおい、痴話喧嘩じゃねえのかよ」
何処からかガッカリとした
野次馬の声が出始めた頃、女は飲み干したグラスをカウンターに叩きつけて確信しました。
それは喜びに満ちた確信でした。
(この男、人を殺したことがある…)
「腹も膨れたし、店を出るわ」と立ち去ろうとする弥助の肩に伸びる、赤いネイルの女の手。。グイと引き寄せられた弥助は、大事な刀に傷一つ付かないようにと胸に抱きながら、バランスを崩します。
「ーーなんだよ危ないだろ!!
一食奢ったくらいで何分拘束するんだ!!!
おれは拘束されるのがーー」
「殺して欲しい相手がいるの」
弥助の耳元で女が囁きます。
決して、店内の他の誰にも聞こえぬように。
「何だ、何だやっぱり痴話喧嘩か!?」、とテーブル席から酔っ払い達の声が飛びます。
「………………はぁ、何か恨みでもあるのか?」
フケでも吹き出しそうなほどに、豪快に頭をかきむしる弥助。
彼は、苦々しい表情を浮かべながら、仕方ないなとばかりに再び美しいギャルの隣に腰掛けました。
「で、相手の名前は?」
「あまり人目のある場所では言えない名なのだけど、小さな女の子よ」
弥助の問い掛けに、女は、甘いアルコールに濡らされた真っ赤な唇を小さく動かしてそう答えました。
「…………」
何も答えず、口をつぐむ弥助。
ふと弥助が横目で店内を見やると、大勢の客達が、心の底から酔っ払ってはギャーギャーと楽しそうに騒いでいました。




