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魔王を殺せ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ◆◆BAR◆◆


 たらららん♪

  ♪ たらららん

  たららららららん♪♪


 弥助とアデルバーンの一騎打ちのことなど露知らず、飲み屋に集まった大人たちは、飲めや歌えやの大騒ぎ。


 髪の長い若い男が!!

 自称住所不定無職のハゲ親父が…!!

 どっかの社長さんも……!!

 果てはお祭り好きの若い娘たちまでもが、財布の分厚さも置かれた立場も関係なく、皆でハシャギ倒しています!!!


「酒だ、酒だ!!

 マスター酒持ってこーい!!」

  「皆んな聞いて!!

  もうすぐお兄ちゃんが帰ってくるわ!!!

  戦争から…!!」


 赤ら顔で、ビールジョッキ片手に踊る客たち。

 丸いテーブルの上で、行われる大コサックダンス大会の何と下品なこと。


 店のオーナーは当然顔をしかめますが、こんなめでたい日には仕方もないかと、ため息を吐いては空のグラス磨きを再開します。それは、客たちの輪の中から外れ、カウンターで一人酒を煽る赤い紅をした随分綺麗なギャルの使ったグラスだから、オーナーは最後にこそっとキスをしました。


  「戦争が終わるんだ!!

  今はしゃがねえでいつはしゃぐ!??」

「…………い、今でしょ!!」

  「今日は俺の奢りだーい!!!

  昼から飲む酒の美味えこと…!!」

 

 はしゃぐ客たち。

 赤い紅の女だけが、一人物憂げにグラスの中のブドウのワインを覗き込んでいます。

 はしゃぐ客たち。

 

「やべえ、ションベン行きてえ…!!

  でも楽しすぎて離れたく、ねえ……。おい、俺は、いつオシッコ行けばいいんだよ!?」

  「……い、今でしょ!!」


 赤い紅のギャルは、何かおかしいことがあったみたいでクスリと笑います。

 彼女は、意識こそしっかりしているようですが、もう数百というグラスを空にしていました。


「ふふ…もうすぐ戦争が終わるだなんて……。

 …………ヒック…人の一生ほど簡単に終わらないのが戦争……。

 わたしがスカウトした大勢の殺し屋が、都中にいるんですもの……。


 ……例え彼らが魔王を殺し損ねても、アデルバーンほどの剣士が、任務を失敗しくじるはずがないわ……ヒック。

 彼に勝てる人間なんて、居るはずがない……でも…」


 彼女は、プルプルとした赤い唇にグラスを押し当て、本日152杯目を胃袋へと流し込みました。気持ちのいい酩酊感がこみ上げてきます。



「酒だ、酒だー!!」

「私のお兄ちゃんは勇敢で、自分から兵に志願して、あの……でもとっても優しい人なのよ!!

 帰って来たら、3年分の誕生日を開いてあげるの!!!」


 はしゃぐ客たちの声。

 ギャルは、とろんとした濡れた瞳で、小馬鹿にしたように、兄思いの女を見つめました。


「………………可愛い子。

 でも残念。

 例えアデルバーンが誰かにやられたとしても、私がいるわ」


 誕生日じゃなくて、葬式の準備をしてあげるべきね。

 そんな考えが思い浮かび、ギャルはその真っ赤な唇を、悪女のように持ち上げました。




 たらららん♪

  ♪たらららん♪

  たらららららん♪♪


 平和の訪れを祝う客たちの、喜びの音頭から遠く離れたこの場所で。

 弥助と、アデルバーンが向かい合います。


 共に手にするは、刀一本。

 狭い路地、探り合う2人、舞う土煙。

 同じ獲物の使い手同士、訪れる静寂は、遠く離れたbarの喧騒すら微かに聞こえるほどーー。


 たらららん♪

 たらららん♪


 弥助が、ほんの小さくのどを鳴らします。

 さっき斬られた脇腹が、今になって痛むのです。

 額に流れる冷たい汗、アデルバーンが勝ち誇るみたいに眉をピクリと動かしました。


 たらららん♪

  ♪たららららん♪

 

 弥助の鼓膜を雑音が揺らします。

 ーー向かい合うは伝説の剣客ーー。

 痛み、邪念、額を流れる嫌な汗。


 たらららん たらららん たらららん


 己を向く、アデルバーンの鋭い剣先には、微塵の隙もーー。


 弥助の手、噴き出す汗。

 さらさらとした時間が、ベトつきはじめ、

 一瞬が、10秒にも20秒にも思える。


 と、その時アデルバーンが威嚇きせいと共に、一歩を踏み出しました。

 寸分も違わず、弥助も踏み出します。

 勝負は一瞬でした。


 血飛沫が舞い、


  たららららん♪


  斬られた男に、地に伏せる男の身体に、勝者がトドメを刺そうと刀を振りかざします。

  どこか遠くから聞こえる酔っ払いたちの音頭と歩調を合わせるように、何度も何度も。

 

  たらららん♪

  ♪たらららん♪

  たらららんーー


  縮こまって行方を見守る魔王キクコの、

  大きな瞳がーー不安に染まって震え出しました。


 彼女は、息を飲みました。

 ただ通りすがっただけの男が、自分の前に立ち、2度3度と刺されていく。

 弥助は、アデルバーンに負けたのです。


「も、もう止めるのじゃ!!!

 そいつは部外者じゃ!!!

 その男にはナンも関係ないじゃろう!!!!」


 怒り、無力、無念ーー。

 全身を強張らせながら、声を張り上げるキクコ。


 横たわる弥助の身体を刺す、アデルバーンの剣がピタリと止まりましたーー。


 息のない弥助。

 荒い鼻息の、キクコとアデルバーン。

 アデルバーンの眼は、興奮に染まって、瞳孔が野獣のように開いていました。


「おんしが何モンか知らんが……。

 ワ、ワシの命が欲しいのじゃろう!!!

 ……そいつはワシではない……ワ、ワシはここに……いる…」


 キクコは、弥助から注意をそらせるように、ドンと己の胸を強く叩きました。

 アデルバーンの大きく開いた瞳が、水面みたいに揺らいで、やがて静かなに収束していきました


「ーーーー確かにそうだ。

 つい強い剣士と戦えて、本懐を忘れるところだった……。

 感謝しよう、愚かな魔王」


 アデルバーンが言いました。

 アデルバーンが、三日月型に唇を歪め、殺意みなぎらせ、キクコの方へと歩いていきます。


 ーー見上げるほどに大きな大人。

 腰が抜け、上手く立てないキクコ。

 彼女は、ギュッと目をつぶり、不安に袖を握りしめました。


 コツコツ、と迫るアデルバーンの大きな足音。

 血に染まった刀を右手にぶら下げ、大人が両手を広げればすっかり塞がってしまうような狭い路地を、決して彼女を逃がさないよう、歩いてゆきます。アデルバーンの後ろの地面には、剣先から滴り落ちた血の跡。ポツリ、ポツリと。


「万が一逃げられでもしたら堪らん……。

 人の見ぬ間に……。

 衛兵が駆け付けぬ間に、私は貴様を殺さねばならんのだ」


 ゆっくり、決して逃がさぬように。

 しかし無駄のない歩調で、逃げ場のない狭い路地を。


 キクコは、頭がおかしくなりそうでした。

 不安の渦の中で自分がグルグル回っているみたいで、うっすらと目を開けると世界も恐ろしさのせいでグルグル回っているみたいに見えて、いっそ楽に死にたいとすら思えました。


(でもダメだ……。

 だって、戦争を終わらせると母サマと約束した…。

 母サマはもういないからワシがやらねばダメなのじゃ……!!!)


 ーーーーキクコは思い出しました。

 自分が魔王であること。

 戦争を終わらせにきたこと。

 自分は龍で、背中に羽が付いていること。


「しまった…!!

 逃げられてしまう…!!


 アデルバーンの声。

 キクコは空を飛びました。

 力を振り絞って、人間には及ばぬ空へーー。


「…………とでも言うと思ったか。

 万が一貴様が飛んで逃げた場合、それが私の一番得意な間合いだ……!!

 ーーほとばしる斬撃『空殺人剣くさつじんけん』……!」


 アデルバーンが刀を振るいました。

 空へ、空へと逃げるキクコ。


 それは神速を誇る刀から、巻き起こる旋風。

 アデルバーンの刀から放たれる風の一撃。


 それは爆風を伴う一撃。

 アデルバーンの周囲を砂嵐が舞い、

 地面に伏せる弥助の開いた口の中に無数の砂埃が流れ込み、

 気流が乱れ、キクコの飛行が阻害されます。


「な、なんじゃ!?」


 右に左に、吹き荒ぶ突風に身を取られ、動転するキクコ。

 地上から、空気をも切り裂く風の斬撃が、目前に殺到します。

 キクコは、その小さなからだを硬直させ、迫り来る恐ろしい死の気配を避けることが出来ません。


「……ぶ、ブヘッ!!

 ば、馬鹿野郎……!!

 避けろチビ……!!!」


 口から砂利を吐き出した弥助。

 喉が詰まる気配、何とか意識を取り戻した彼は、しかしもう血が足りず、全く起き上がることもも、それ以上言葉を紡ぐ力も湧き上がりませんでした。


(ちくしょう……このままじゃ…死んじまいそうだ…)


 そして、ちょうどその時、路地の入り口に数十人の魔王の衛兵を任された者たち

 が駆け付けました。


「こ、これは一体、何事ですか、アデルバーン様!?」


 凄まじい竜巻の中、衛兵長が声を上げます。

 彼は自分の大切な緑の衛兵帽子が飛んでいくことを気にもしません。


 緑の帽子が、地上数百メトルにも舞い上がったとき。

 ちょうどその時、アデルバーンの放った斬撃がキクコの身体を切り裂いて、赤い血飛沫と共に彼女の小さな身体が地上に向かって落ち始めました。


 だんだんだんだん加速して。

 地面に衝突する寸前、衛兵長が必死に彼女の身体を抱き止めました。

 衛兵長は、血に塗れた幼子の姿を見て、瞳を震わせ、唇を噛み締めました。


「………………誰がこんな酷いことを…。

 こんな小さな子に……お守り出来なかった……まさか……!」


 衛兵長は、いっそゾッとした眼差しで、アデルバーンを見つめました。

 彼の、赤く染まったむき出しの剣が目に留まりました。


「アデルバーン貴様…!!!!!」


 軍隊長が、アデルバーンに向かって突進しました。

 その柄に獅子の飾りの施された剣を抜き去り、正義に準じる己の精神性

 に準じ、この場で何が起こったのかのかも己の中でまとまらぬまま、アデルバーンを殺さんと向かいました。


「…………んっ…いい剣技だ!!

 しかし、全く話を聞かれよ御仁」


 アデルバーンはその一撃を軽々と受け止め、軽く押し返すと。

 剣を鞘に収め、その唇をできる限りはっきり動かして言いました。

 朦朧とした意識で横たわる弥助を、指差してーー。


「魔王キクコ殿は、そこに倒れているロクデナシに襲われた。

 あいにく私は間に合わなかったが、…………。

 ……力が及ばなかったのだ。

 それでせめてもと、その男を斬った。

 それが真実」


 集まった衛兵たちが、静かに話を聞きます。

 アデルバーンは、最も疑り深げな様子で自分を見る衛兵長をジッと見つめて話を続けます。


「仮にも私は魔王の筆頭警備兵。

 立場は同じでしょうーー」


 アデルバーンは、決して目を逸らさず信じ込ませるように語ります。

 衛兵長は、未だ抜き身の剣の切っ先をアデルバーンに向けたまま。

 いざとなれば、この場にいる全ての衛兵に号令を掛け、アデルバーンを討つーー。

 そういう眼で、アデルバーンをジトと睨みつけています。


「ーー心意気も同じ。

 来たるべき平和の為、職務の為、魔王殿をお守りしたい……」


 アデルバーンは、ギュッと熱い思いに眉間を寄せ、そう言い切りました。

 そして、しびれを切らしたようにいつまでも自分の話に聞き入っている全ての衛兵にげきを飛ばしました。


「さあ、何をしている!!

 早く魔王殿の傷の手当てを…!!

 口も聞けぬだろうが、そこの男をひっ捕らえろ。

 証拠もある、なんと償えぬ大罪を……」


 ハッとして。

 衛兵たちが、即座に動き出しました。

 魔王を死なせぬ為、そして未だ動かず疑いの眼差しで自分を見る衛兵長ーー。


 アデルバーンは、空から落ちてきた彼の帽子を拾うと、

 優しく砂を払い、柔和に微笑みながら、衛兵長の目の前で語りかけました。


「さぁ、貴方の帽子です。

 どうか剣をお納めください。

 ーー私は早とちりで私を斬ろうとしたーー貴方の正義感を尊敬致します」


 ーー衛兵長の瞳が泳ぎましたーー。


「…………う、うむ」


 衛兵長は、少し気まずげに頷き返すと。

 受けった帽子をしっかりと頭に収めてから、アデルバーンと深く握手を交わしました。

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