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魔王を殺せ!!!!!!!!!!!!!!!!!

 その部屋に窓はなく、重い鉄の扉と分厚い壁があるだけだった。

 ベッドの上、男の頭は未だ明快ではないーー血が足りないーー眠い。


「ん……ん?

 随分長く待たされているなぁ……」


 大剣士ーーアデルバーンはそう呟きながらあごを撫でた。

 まぶたをパチクリ、眠気を飛ばして見上げた天井は真っ白だ。

 右足に巻かれた包帯は真っ赤ににじんでいる。


  枕元、短いロウがある。

  赤い炎が揺れーー記憶が蘇る◇◇深い森の奥ーー美しい貴族の館、240余名もの守衛を皆殺しにし、ターゲットの首を撥ね、全ての遺体に油をかけ、それから真っ赤に燃え盛る貴族の館を後にした。


 そうだ、その依頼で傷を負った自分アデルバーンはその後ーー




「ーー勝手に連れて来られたが良いが、

 ここは一体……どこだ?」


 窓のない部屋。

 何となく部屋の四隅を見たアデルバーンは、

 床に置かれたらバケツの水を手ですくってーー飲んだ。


「いや、申し訳ない。

 少し遅くなったーー」


 と、内側からは決して開かない鋼鉄の扉が開いた。

 2人、ゾロと入ってきた。

 怯えた様子の若く肌の黒い男と、紫色の布で顔を隠した怪しい男。


「ーー偉大な剣客殿をお待たせするとは……。

 ワシもなっていませんなぁ、ハっハっハ。

 ……早速、要件を話しましょうか」


 顔を隠した方が、傲慢そうに高慢ちきに、しわがれた声でそう言った。

 そいつはアデルバーンのベッド脇の椅子にどさりと腰掛け、若い男を立たせたまま、切り出した。

 アデルバーンはチラリと若い男を見やったが、その顔は真っ青で、唇が静かに震えていた。


「我々としては、魔王の討伐を依頼したい。

 つまりまぁ。平たく言えば殺しの依頼となりますナ」


「…………」


 目の前に存在しながら、顔も見せぬ男の言葉に、アデルバーンは眉をピクつかせーー沈黙した。

 ただ黒目を右上へと動かし推し黙るアデルバーンに、顔を隠した男はせせら笑った。


「ハッ…ハッハッ…!

 まぁそう難しい話ではない。

 人間界随一の剣豪アデルバーン殿に、ただ1匹魔族を斬って欲しいだけの話……。

 貴殿にはそう難しい話ではないでしょう?」


「……あぁ、そうだな。

 紅蓮の炎にも傷一つつかぬという龍の皮膚だろうと、おれの剣なら切り裂くだろう。

 承知した、その話アデルバーンが引き受けた」


 アデルバーンの二つ返事にーー椅子がひっくり返った。


 立ち上がった覆面男は

 大袈裟にバンザイの仕草で、驚きと感嘆を示してみせた。 「おぉ、有難い!!

 その隣では、 成功の暁には

 肌の黒い坊主姿の若い男が、 いっそ貧しさに焦がれるほどの 変わらず何かに怯えているーー。 支払いを約束致しましょうぞ」


  されど、覆面男はアデルバーンだけを見て、覗き穴から見える2つの瞳で微笑んだ。


 ーー若者こいつ、その内殺されるんだな。

 アデルバーンはそう思った。

 しかし、アデルバーンは笑ってみせた。

 そんなことはどうでも良かった。


「ーー金さえ貰えりゃ文句はねえ。

 金の為に磨いた剣だ…!」


「ーーふむ、それは何より頼りある生き様!!」


 覆面の男とアデルバーン。

 2人は強く握手を交わした。


「あいにく私の顔は見せられぬが、

 我らはいくつかの人間国家の上層や、有力な武器商人、名を出すこともはばかれる地下組織の集まり。

 とうに察しておろうが、それだけ伝えておきましょうぞ、アデルバーン殿ーー」


アデルバーンは、

(……ややこしい依頼者だ…)とでも言いたげにため息を吐いた。


「ーー我らは偽りの平和などではなく、富と誇りある平和を求めている。

 つまりは……。

 そうだ!!蛮族たる魔族が失せない限り、終戦などありはしないのだ……!」


 紫色の覆面が、

 色黒の若い男を(その覆面越しにもはっきりと分かるくらいに)ギロリと睨みつけてから、声高に叫んだ。


「その為の魔王暗殺。

 なに、そう難しい段取りではない。

 我々の政治力とアデルバーン殿の高名で、

  全てなる。


  終戦を求め、ノコノコと人間の領地へ踏み込んでくる愚かな魔王の元へ、アデルバーン殿が出向くのだ。


 人間諸国や資産家からの推薦という名目で、魔王の筆頭警備兵としての任を与えられた……

  ……そう今の私のような仮面ふくめんの暗殺者というわけですな…。


 ーー出来るだけ人目の少ない場所で魔王を暗殺してもらい、誰ぞ側にいる人間に罪をかぶせて頂きたい。

 我々と無関係な何者かに……。


 そうすれば愚かな魔族どもは激昂げきこうし、我らの栄光たる戦乱の世が再び幕を開けるのだ!!!」


男は、覆面に空いた2つの穴の奥、瞳を血走らせてそう言った。

アデルバーンは心底軽蔑した眼差しでふくめんを見つめていたが、男は気付いていないようだった。




 「……ハッハッ…!

 今から、怒れる世がもう待ち遠しいですな」




 喜色に染まった卑しい笑い声と共にーー扉は閉まりーーーー覆面は去った。

 アデルバーンの、肉が裂け血のにじむ右足が、青い光に包まれている。


 黒い肌色の、坊主の男が手をかざしているのだ。


 傷が見る見るうちに塞がっていく。

 それは世に稀に見る、超常の人体治癒能力。


 真に心優しき者だけが持って生まれることがあるというそれを有する男は、僧侶だった。

 彼は戦争を終わらせることに尽力し、そして今は囚われ身だ。

 その超常の力が一体何であるのかを知るための、モルモットーーそんな彼の力がアデルバーンの負傷した右足を完治させた。


 しかして、右足に僅かな傷跡だけを残したアデルバーンは、

 終戦会議迫る都で、城を抜け出した魔王を見つけ出す為、

 何十メトルを地上へ飛び降り、今弥助と魔王の待つ路地裏へと、殺意ににじんだ赤い瞳で激走するのだーー。

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