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第六話 母との対面

 周辺地域の高校の制服と、女子高生の絡んだ事件を調査することにした無名部一同。

 ネットの情報だけでは限界があるということで、聞き込み調査なども視野に入れた。その際、透花の姿を写真に収め現像したところ、案の定白い影のようなものしか映らなかった。

 仕方なく透花の全身像を写生することに。多少絵心のある陽葵が描くことで、ほとんど誤差のない制服姿の透花の絵が出来上がった。


 調査を続けて三日が経過。

 土曜日で休日の今日。無名部のメンバーは市街地まで調査の足を伸ばした。しかし有力な情報は得られず。

 ところが、手がかりは意外な場所に転がっていた。

 本日は解散となり帰宅した晴は、夕食を食べ、すぐにお風呂に入った。

 お風呂から出て、階段で二階に向かおうとしたとき、母――眞子(まこ)から声がかかる。


「あんた、リビングの机に制服の絵が描かれた紙忘れてたわよ」


 そう言って、母から紙を手渡される。


「サンキュー」

「この絵って、私が通ってた制服とそっくりね」

「え? 母さんの出身校って、俺の通ってる高校と同じだよね」

「そうね、でも校舎は一新されたって昔言わなかった?」

「ああ、そういえば」


 なにも、透花が亡くなったのが、最近のこととは限らない。

 母に礼を言うと、自室に戻って【青蘭高校 制服】とパソコンで検索。現在の制服で溢れかえる中、奥深くの場所に、見つけた。

 陽葵が描いた絵と見比べると、かなりの適合率である。 

 すぐに陽葵にSNSでメッセージを送ると、一分も経たずに着信がきた。


『でかしたぞハル! すぐに旧青蘭高校で起きた事件や事故について当たってみよう』


 通話を切った後、晴も個人で検索してみた。

 青蘭高校周辺での事故が出てくる中、十八年前の十月付けの記事を発見。

 その内容は……青蘭高校屋上にて当時十八歳の女子生徒が飛び降り自殺。女子生徒の友人らによるといじめが行われていたと供述。加害者と思われる生徒数人は書類送検となった。 

 別の記事では、自殺で死亡した女子生徒の名前と顔写真を掲載していた。志倉芽衣(しくらめい)という名前で、透花さんの顔とぴったり一緒だった。

 この名前を見た晴は、頭に何か引っかかりを覚える。


「志倉? どっかで聞いた苗字だな。同級生とかじゃない、もっと身近な……」

 

 熟考の末、ようやく思い至る。


「そういえば、母さんの旧姓って志倉だったな」


 偶然であるとは思うが、遠い親戚くらいの可能性はある。下に降りて聞きに行こうと思い立った矢先、スマホが震えた。

 相手はやはり陽葵である。すかさず応答ボタンを押した。


『ハル、お前……記事見たか?』

「ええ、志倉芽衣って人が透花さんで間違いなさそうですね。死因が自殺でいじめが原因というのは、本当に痛ましい事件です」

『他に気づいた点はないか?』

「いえ特には」

『そうか、じゃあ私の方から足らない部分を伝えておく。志倉芽衣は、ハル、お前の叔母に当たる人物だ。つまり、宮田透花はお前の母親の妹だ』

「え……」


 想像を絶する余り、閉口してしまった晴。

 透花が叔母という驚きよりも、自分に叔母がいて、なおかつ十八年前に亡くなっていることを知らなかったことの方が晴はショックだった。


『ハルの家族や親戚は、あまりこのことに触れてこなかったんだろう。思い出す度に胸が張り裂けそうな気分になるだろうからな』

「どうしてひま先輩は知っていたんですか?」

『親から聞かされていたんだよ。私の親は知りたがりの話したがりだからな。まあ深く詮索はしなかったから、顔までは知らなかったが』

「そうだったんですか……」


 自分にだけ知らされてなかったように思えて、少し晴は落ち込んだ。


『これで私の方も合点がいったよ。どうしてハルの母親が私をよく思っていないのかが。私を見ていると妹の面影がよぎるからだったのだな』


 陽葵が家に遊びにくるのと、他の友達がくるのとでは、対応が明らかに異なっていた。

 終始素っ気ない態度で接し、外はまだ明るいのに早く帰るように追い立てる。


『よし、明日は日曜日だが、無名部の活動をする予定だ。今日と同じように私の家にきてくれ。活動の詳細は明日伝える。それと、宮田透花改め、志倉芽衣がお前と話したいんだとさ。今変わるぞ』


 少しの間があって、電話の相手が代わる。


『や、や、夜分遅くにどうも』

「あ、はい、こちらこそどうも」


 初めて電話で話す緊張感と、互いを繋ぐ新事実に、普段通りに話せない。


『えっと、その、同じ高校生なのに、叔母っておかしいですよね。でもちょっと嬉しいかな』

「はい、俺も年の近い親戚とかっていなかったんで、芽衣さんが叔母でよかったです」

『でも今まで通りに接してくださいね。後、芽衣じゃなくて親しみのある透花って呼んでほしいです』

「わかりました透花さん」


 再度陽葵に代わり、一言二言で通話が終了した。


 次の日。

 約束通り陽葵の家を訪ねて、見慣れた陽葵の部屋に迎え入れられた。


「これまでの調査の結果、透花はハルの叔母であることが濃厚のようだ。そのうえ、十八年前、旧青蘭高校の三年生として通っており、いじめが原因で自殺に追いやられたこと。並びに、ハルの家族内でその事実を隠蔽していた。以上のことから、本日の活動内容は、透花の姉に位置するハルの母親に詳しい話を聞こう、だ」


 立ちながらの説明を締めくくるや否や、陽葵は炬燵の中に飛び込むように足を入れた。

 炬燵の三方向をそれぞれが陣取る形で、話は進められる。


「そんな簡単に心開いてくれますかね?」


 という晴の問いに、


「容易ではないだろうな。でも他に当てもないわけであって、この試練を乗り越えなければ、真実にたどり着けない。頑張ろう」


 陽葵は自分に言い聞かせるかのように、励ました。

 陽葵の言葉を晴は継ぐ。


「そうですね。母さんとの対面で、透花さんの記憶を取り戻すとっかかりになるかもしれないですし、母さんも、透花さんの姿が認知できる可能性もあります。ここは気合の入れどころですね」

「みなさん……わたしのためにありがとうございます」


 二人に対し、透花は感謝の言葉を述べた。


 

 住宅街を歩いて、三人は晴の家の前までやってきた。


「今更言うのもなんだが、ハルの母親はご在宅か?」

「ええ、買い物とかに出かけてなければ基本家にいるかと。ちなみに父は会社仲間とゴルフに出かけました」

「それなら都合がいいな。じゃあ、先にハルが入って、私のことを伝えてくれ」

「わかりました」


 晴はリビングのソファーにいた母に話しかける。陽葵が家に遊びにくることを母に伝えると、若干の嫌悪感を示し、あの手この手で逃れようとした。

 だが、執拗に頼み込んだことが功を奏して、渋々許可した。


 玄関の前に戻り、二人を手招きした。

 陽葵がお邪魔します、と言うのに続き、透花も述べる。

 正面の階段には上らず、右手のリビングに足を運んだ。

 リビングに入ったのは晴だけで、陽葵と透花は廊下から中の様子を伺い、待つことに。


「母さんに大事な話があるんだ。その話はそこにいる二人……ひま先輩にも関係してる。聞いてくれないかな」

「え、ええ」


 晴の真剣な眼差しに押されたのか、母は自然と首肯した。


 テーブルを隔て、向かい合うように座った晴、そして母。晴の隣に陽葵が座り、透花はテーブルの横で三人を見守る。

 やはり、透花の姿は見えていないようだ。


「お久しぶりです」

「久しぶりね……陽葵ちゃん」


 双方に笑顔はなく、母にいたっては陽葵の顔を直視していない。

 晴は、前置きはせず単刀直入に尋ねることにした。


「母さんには姉妹がいないって昔は言っていたけど、あの話は嘘だよね。本当は、志倉芽衣という妹がいたはず」

 

 面食らったのか、母は大きく目を見開く。

 瞬時に苦笑いに切り替え、取り繕う。


「な、何言ってるのかしら? そんな名前の人、聞いたことないわ……からかうのはやめて」


 透花の表情が、わずかにしょんぼりした。


「この記事には母さんの名前だって載ってる」


 インターネットの記事をコピーした紙を、晴はテーブルの上へ置いた。その内容とは、当時、志倉家の面々が取材を受けた様子を、事細かに記してある。


「何が目的? 面白がってこういうことをするのは最低だわ」

「違うよ母さん。そんなつもり全然ない。今から言うことは信じてもらえないかもしれないけど、話すね。俺たちの座ってるすぐ横に、志倉芽衣さんが――」

「やめて! 馬鹿にするのも大概にして!」


 晴が言い終える前に、激高した声で遮られる。


「母さん落ち着いて。今から証拠を見せるから」


 隣に座る陽葵が、準備しておいた紙とペンを透花に手渡す。

 母の視点からでは、物が浮いているようにしか見えず、気味悪がる。

 テーブルに置かれた紙には、走り書きで、【こんにちは】と表記された。


「ほ、本当に芽衣なの? だったら、芽衣が一番好きな食べ物は?」


 【こんにちは】のすぐ下に、【ごめんなさい】と追記された。


「彼女は記憶をなくしていて……証明する方法はないんだ」


 晴の言葉を聞き終えた瞬間、母の態度が豹変した。


「侮辱するのもいい加減にしなさい! これ以上あの子のことを蒸し返さないで!」


 母は立ち上がり、テーブルの上を両手で勢いよく叩いた。

 その余波で二つの茶碗がひっくり返り、テーブル一面を濡らす。

 そのままリビングから出ると、玄関扉の開閉音とともに母の気配が消えた。


「母さん待って!」


 晴の静止は意味をなさず、後には張り詰めた空気が蔓延する。

 テーブルから床に滴るお茶と、その匂いは、心の傷を癒してはくれなかった。



 晴の家にいたたまれなくなった三人は、もう一度陽葵の家に向かった。

 三人ともすっかり気圧され、憔悴しきっていた。


「こんなことになってしまってすまない。母さんも悪気はないと思うんだ」

「いや、私もフォローできなくて申し訳ない。不甲斐ないな」

「わたしも記憶を取り戻せていれば……」


 三者三様の反応で反省の弁を述べる。


「このまま落ち込んでても事態は進展しないな」


 パンパン、と手を二回叩いて、陽葵は淀んだ空気を追い払った。


「今後の方針だが、ひとまず今日は解散という形を取る。肝心なのは明日以降をどうするかだ。もう一度話をしてもらうよう頼むのか、別の方法を探すのか、みんなの意見を聞かせてほしい」


 少しの間の後、晴が口を開いた。


「俺が今日の夜、それとなく聞いてみます。何の成果も得られなかったら、祖父母や他の親戚が頼みの綱になりそうです」


 続けて透花も話し始める。


「別の方法を探すにしても、諦めたくはないです。わたしにできることは少ないですけど、精一杯協力します」


 それぞれの意見が出揃ったところで、陽葵がまとめに入った。


「よーし、今夜は晴にリベンジしてもらって、今後の出方を見極めよう。どちらにせよほとぼりが冷めるまで時間を要するから、念入りに作戦会議した上でもう一度トライだ。それでダメなら別の方法でいこう」



 陽葵の家を出て自宅へと戻ってきた晴。

 すでに母は帰ってきており、態度もいつもと変わらないようだ。

 なるべく母のそばにいて、話してくれるのを待つ。 

 リビングでテレビを眺めていると、母がふと口を開いた。


「さっきは取り乱してごめんなさいね。陽葵ちゃんにも謝っておいてね」

「う、うん。こっちこそごめん」


 晴との会話はその一回で途切れる。

 目の前のテレビ番組は、ワイドショーからニュース番組に切り替わって、騒がしさがなくなった。


「私もね、いつまでも隠し通すのは、よくないと思っていたのよ。いくら封をして奥深くに仕舞っても、過去の事実は変えられないから。いい機会だから言うわ」

「母さん……」

「あの子……芽衣が自殺する前日、家族との間で衝突があったのよ。高校卒業後の進路希望を家族全員が反対する対立が。大学に行くには申し分ない実力はあるにもかかわらず、芽衣は就職を強く希望した。たぶん裕福ではない家庭と、結婚していた私に気を使ってたんだと思う」


 母の表情に一層憂いを帯びる。


「そして仲違いした翌日、芽衣は自殺した。そりゃ学校でのいじめと家庭内のいざこざの板挟みじゃあ、自殺したくもなるわよね」


 自嘲するように苦笑した。


「アミュレットは守ってくれなかったみたいだね……」

「え、母さん、アミュレットって何?」


 母の発言が妙に気になりだした。


「昔お母さん――あんたからするとおばあちゃんが私たち姉妹にくれたんだよ。身につけていれば危険や災難から身を守ってくれる護符だってね。私もまだ持ってるわ」


 晴の祖母の実家は、代々神職の家計だった。跡継ぎを兄に任せ、祖母は今の祖父のもとへと嫁入りをした。現在は、祖父母とも遠方に移り住んでいる。

 晴がアミュレットを見せてほしいと頼むと、母は一階の私室に向かった。しばらくして戻ってくる。

 母の手に握られたのは、ネックレスだった。その中心には、神秘的な鮮紅で輝くルビーのような石がある。

 

「芽衣のはこれとは違ってラピスラズリのような青色だったわ。でも事故現場では発見されてなかったみたい」

 

 母との話によって、透花に関する重要な過去を知った。

 透花とアミュレット、何か関係性があるかもしれない。明日学校で伝えよう。

 

 夕食と入浴を済ませた晴は、二階の自室に向かう。

 今日は出された課題もない。夜更かししない程度にゲームをやって、眠気が襲ってきたところで消灯。

 晴はベッドの上へ仰向けに寝転がった。









 






 

 


 


 

 


 


 

 


 







 




 





 




 

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