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第二話 陽葵の秘密

 外見は大和撫子を彷彿とさせる美少女。和服が似合いそうな黒髪と端正な顔立ちは、見るものを惹きつけ離さない。

 えっ? そんな美少女は知らないって? まあ無理もない。そんな完璧な被写体も、動画にした途端崩壊するのだから。

 ひとたび口を開いたが最後、残念な人に成り下がる。

 体内からプロミネンスでも放っているの? と思うくらいひたすらに熱い。そのバイタリティーはどこからくるのマジで。

 これだけ体力有り余ってるなら部活で発散しろ、何で三年間帰宅部なんだよ、と何度言ったことか。


「何をぶつぶつ言っているのだハル?」

「いえ、特に」


 現在晴がいるのは無名部の部室。

 陽葵に無名部への入部を強要されてから一日が経った放課後。気づいたら晴はここにいた。

 いや、昇降口までは行ったんだ。そしたら突然壁ドンされて、愛の告白とは程遠い鬼の形相で強制連行。

 三年生は二階に教室があるから、そのアドバンテージはずるいと思う。


「もしかして、まだ自分の決断を後悔しているのか?」


 晴の態度を違った形で解釈する陽葵。


「いえそんなことは……」


 ――ないとは言えない。


「嘘をつくな。お前はすぐ顔に出るからわかる」


 見破られぐうの音も出ない。


「私はお前の決断を尊重すると、昨日の帰りにも言っただろう?」

「だって、かっこ悪くないですか? スポーツ推薦で入ったのに中途半端に辞めるのなんて」

「楽しくないのに中途半端にやっている姿の方が、はたから見たらかっこ悪いと思うぞ。気持ちは伝染するからな。やつれたお前を見ていると、こっちも辛くなる。今のお前といる方がよっぽど居心地がいい。それに――」


 続けざまに、衝撃的なことを晴に告げる。


「あんな部活、続ける価値もない。私だって一週間足らずで辞めてやった」

「ひま先輩、バスケ部だったんですか?」

「そうだ。マネージャーとしてな」


 初耳だった。だが意外とは思わなかった。彼女がどうしてバスケットボール部にいないのか不思議なくらいだったから。

 

 時を遡ること三年前。

 中学一年生だった晴はバスケットボール部に所属。

 同じ中学校だった陽葵も、バスケットボール部のマネージャーとして活動していた。

 彼らのいたバスケットボール部は、毎年強かった。特に、二人が所属していた世代は県大会を準優勝するほどに。

 その立役者の一人である陽葵の存在は大きかった。選手たちのサポートだけではなく、顧問不在時の代役として、練習メニューの作成やライバル校の分析まで幅広い役割を担っていた。そのことは他ではあまり知られていない。

 だから高校でも運動部には所属していて当然と考えていた晴は、青蘭高校に進学して驚かされたものだ。


「この青蘭高校は肩書きだけは立派だが、ここ最近は死んでる。見かけ倒しの張りぼてさ」


 陽葵の洞察眼はさすがだと晴は思う。わずか一週間で部活の本質を見抜くなんて。

 でも彼女のことなら、この高校に進学する前の段階――学校見学や説明会――で気づいていそうな気もするが。


「バスケ部にいたことを秘密にしておいたのには何か理由があるんですか?」

「私が辞めたことを言ったら、ハルが理由を尋ねてくるだろう? そしたら私の話を鵜呑みにして、ハルは退部するはずだ」

「……? それのどこに問題が?」

「他人の評価というものは、目の前の景色を歪ませる。良い方にも悪い方にもな。ハル自身の目で真実を見極めて欲しかったんだ」


 そんな理由があったなんて……。晴は胸のつかえが下りたようだった。

 彼女の深遠な心遣いに、改めて尊敬の念を抱くとともに、ひっそりと心中で感謝した。


「ハルは自分の意志でバスケ部をやめた。それはもう過去のこと。これからは未来のこと、すなわち無名部での活動に力を注ごうじゃないか」

「それもそうですね」


 少しくらいの無茶、目を瞑ってやろう。

 このときの晴は、甘く考えていた。しかし次の陽葵の発言に、自分が浅はかだったことを思い知る。


「よーし、話はこれくらいにして、そろそろ活動を始めようか。今日からとある目標を掲げた。それの達成に向け、切磋琢磨していこうと考えている。私たちがこれからやるのは――――二人三脚だ!」

「………………は?」





 

 

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