魔法の練習
徹とセシリアをはじめ、ザノバ大将軍の隊は、休憩をとっていた。盗賊たちを連行していたのだが、一部の盗賊たちの足取りが、遅れはじめた為、やむなく休憩をとった。しかし、ザノバ大将軍とプラントは、皇帝陛下からの火急の呼び出しがああった為、数騎の騎馬隊だけを引き連れ、先に帝都へ向かった。そんな中、徹とセシリアは、荷台から降り、木の下で、本と格闘していた。
徹は、荷台の上で本を読むと車酔いしそうだったので、荷台の上では本を開かなかった。そして、今、その本を開いて、読んでいる真っ最中なのだが、まったく進まない。
徹は、日本に居た頃から余り本を読む習慣がない。本を読むことが苦手なのである。また、セシリアも書かれてことを理解するのに苦労をしているようだ。
「トール様ー⤵」
「なんだー⤵」
「書いていることがわからないですー⤵」
「そうだな⤵ところどころ読めないしなー⤵」
「はいですー⤵」
徹がもらった本は、恐らく上級者向けの本であり、徹たちは、苦労していた。
2人が本と格闘していると荷台で一緒だった兵士たちが声をかけてきた。
「おい、兄ちゃんたち。それ、魔法の本かい?」
「はい、わかります?」
「ああ、何となくな。俺は字が読めないが、兄ちゃんのその難しい顔を見てればわかるよ」
「いや~なかなか読んでいてもわからなくて」
「そうか」
「はい」
「しかし、兄ちゃんはうらやましいな。本を読むということは、魔法ができるんだろう?」
「いえ、まだ、全然ものにしていないので。。。」
「そうか。俺は、学がなく魔法に対する才もない、魔法ができる奴がうらやましいな。俺も参謀のように烈級魔法をぶっぱなし、戦況を一気に巻き返すような、でっけー活躍をしたいなぁ」
「そうですよね。ちなみに、参謀とはどなたですか??」
「プラント参謀だ」
「プラントさんが?そうなんですか?」
「プラント参謀は、非常に頭の切れる人物で、現在、ザノバ大将軍付きの参謀をしているが、しかし、本職は魔法剣士だ」
「そうなんですか!」
「特に、魔法については、帝国でも屈指の使い手だ」
「いろんな偉い人が気安く交流してくれるんですね」
「まぁなぁ、恐らく、帝国ではザノバ大将軍の部隊のものだけだろうけどな」
「そうなんですね」
荷台で一緒だった兵士からそんな新情報やプラントの武勇を教えてもらった。
「そうだ、兄ちゃん」
「はい」
「魔法、習いたいんだろ?」
「できれば。一度、セシリアと二人でプロの魔導士に魔法を教えて頂こうと思っていました」
するとセシリアが。
「トール様!それには大金がかかります!私はそのような貴重な機会はいただけません!」
「いいんだよ!俺がセシリアと一緒に学びたいだけなんだから」
セシリアは真っ赤になっている。
徹が兵士、セシリアと会話をしていると近くにいた魔法師が近づいてきた。徹たちの会話が耳に入ったのだろう。
「おう、少し、話が耳に入ったので、来てみたんだが、俺が魔法のイロハを教えてやろうか?」
と言ってきた。
ザノバ大将軍隊の魔法隊の副長だった。
「いいんですか?ありがとうございます!」
「お前たちのことは、隊列の中から見ていたが、随分と大将軍に気に入られていたな」
「そうでしょうか?」
「そうだとも。大将軍はわかりやすい。ちなみに、そっちの子は、セシリアといったか?お前にも教えよう。「ありがとうございます!!」しかし、そっちの兄ちゃん、旅人のままでは呼びにくいな。お前、名前は何という?」
「トールと申します」
「トールか、覚えておこう。まず、魔法の技には、それぞれ位が設けられていることを知っているか?」
「知りません!」
「そうか。まず、魔法にもそれぞれ位がある。下から、下級、中級、上級、烈級、王級、最後に超級がある。魔法師の大抵は、下級から中級の魔法しか使えない。下級は、基礎的な魔法で、ファイアボールやサンダーなどがこれにあたる。それに比べ、中級は、難易度が急に上がり、メガフレイム、ライトニングなどがある。下級と中級の差は大きく、中級の魔法が使えれば、魔法の上級者と言ってもいい。俺の感覚だが、常人であればこの中級が限界であろう。そして、その上に、上級と烈級、王級と続くのだが、上級魔法を行使できるのは、達人レベルで、烈級魔法を扱える魔法師と言ったら、国でも5本の指に入るぐらいのレベルになる」
「すごいですね!」
「トール様、私には魔法は無理そうです、頭がいっぱいです」
「いや、頑張ろう!」
「おう、その意気だ。王級魔法に至っては、世界で数える程度の魔法師しか使えるものがおらず、英雄の域といっても過言ではない。そして、超級は、神話に出てくる勇者が行使したことがあるという記録があるそうだ」
「そうなんですね!」
「うむ。なのでお前たちの目指すところは、中級になるだろう。高い目標ではあるが頑張れ!」
「「はい!」」(しかし、俺の成長補正は、深淵級じゃなかったっけ?これって超級の上ってことになるんだよな?)」
徹が考え込んでいると、
「おい!トール、先に進むぞ」
「あっ、はい!」
「次は、魔法の行使について教えていこう。お前たち、まず、初めに魔法には何が必要かわかるか?」
2人は、考え込み、その後、セシリアが答えた。
「魔力でございますか?」
「当たりだ。まず、この魔力は、魔法を発生する上で必要不可欠なものだ。この魔力はそれぞれの生き物の中にあり、その保有量は個人差がある。内包する魔力量が多ければ、それだけ、多くの魔法が使え、また、大規模な魔法が使える。また、魔法の中には、自分の魔力だけではなく、自然界にある魔力を使う魔法もあるが、時間がないからそれは省くぞ。しかし、魔力だけでは魔法は成り立たない」
「「そうんだんですか?」」
思わず、徹とセシリアはハモった。
「いい反応だ。時間がないから短めに話すぞ。あと二要素ある。一つは、魔力制御と、もう一つはイメージ力だ。魔力制御はその名の通り、体内や体外の魔力を操作する力だ。イメージ力は、魔法を発動する鍵であり、また、魔法の可能性でもある。可能性の下りは、今は、理解できないかもしれないが、魔法を使用していくうち、イメージ力の大切さを感じ、理解することができるだろう。なので、ここは、慣れろ!ということで説明を省くが、この3要素が協調しあって、初めて魔法が行使されるのだ」
「なるほど!(どおりで俺の魔法は安定しなかったのか!)」
「一度、手本を見せよう」
副隊長は、そう言うと20メートル先の木に向けて、魔法を打った。
「雷雲よ、我らが敵を、討ち果たせ!ライトニング!!」
すると、空から雷がおち、ドーン!という音とともに、木に雷が落ちた。すると、周りにいた兵士達から、「「すげー!」」「やっぱ、副隊長のライトニングはすげーなー!」などの歓声があがり、副隊長も満更でない顔をしている。
「ちょっとやりすぎたかな!」
すると、セシリアがすかさず
「副隊長様、すごいですーかっこいいです!」
と言い、セシリアの目はキラキラしていた。
「(おーなるほどね)」
「こんなものだ。まぁ、イメージは自分で何とかしろ、魔力制御は基本、覚えるまでに時間はかかる。覚える近道は、毎日、瞑想をすることだ。魔法は日々の鍛錬があってやっとできるようになるのだ」
「「はい!」」
「(瞑想で魔力操作が覚えられるのか。イメージは、日本で沢山のアニメを見てきた俺にとっては、あまり重要じゃないな)」
そう考えながら、徹は、一瞬、瞑想をした。
ピコーン!
徹は、魔法制御(下)を覚えた。
「(おお、覚えてしまった)」
「特に質問はないか?そういえば、トール、一発試しにやってみるか?もしかしたら打てるかもしれないぞ。まぁ、3要素が協調しなければ、不発に終わるから、安全しろ。心置きなくやっていい」
「わかりました。できるかどうかわかりませんが、やってみます(これで、あらかた魔法のイロハはわかった。ザンダーならちょっとぐらい力をいれて撃っても大丈夫だろう)」
「おおやる気みたいだな。じゃあ、あの木に向けてサンダーを打ってみろ!」
「はい!(心を落ち着かせて、イメージは雷って感じか)では。。。サンダー!」
徹がそう言うと、何も起こらなかった。
「(不発か?まあいいかー)」
「まぁ最初はそんなもんだ、最初っからできたら天才だな」
副長がそう話していると、空が急に曇り始めた。
その後、急速に積乱雲があらわれ、大量の雷がおちた。
ドーン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドーン!
凄まじく巨大な雷が途切れなく、目標の木や周辺の木に落ち、一面が焼け野原になっていく。
「退避!!!!!!!!!!!!!!!!!!陣形を整え!!!遅滞なく退避せよ!!!!!!!!!!」
徹たちを含めて、休憩するはずのザノバ大将軍隊は、その場から退避した。
「は~は~は~。驚きました。あまりの激しさに心臓が飛び出しちゃいそうになりました」
「今のはやばかったなぁ、想定外だった」
そう会話をしていると、副隊長がこちらに駆け寄ってきて
「お前は何をやったんだ!!」
と凄まじい剣幕で、言葉を浴びせてきた。
「いえ、何も!(うそだよ~ばれるよね~)」
「あれは、プラント参謀のライトニングにも見劣りしないものであったぞ!お前がやったのか!!!?それも無詠唱であっただろう!!!!」
この世界の魔法師は詠唱し魔法を発動させる。詠唱は魔法を発動する為のスイッチであり、また、威力を高めるためのものでもある。ただ、詠唱にはデメリットがあり、上位の魔法になればなるほど詠唱が長くなるのだ。無詠唱は非常に難しく、これも限られた魔法師しか使いこなせないのが現状である。
「いえいえ。そんな、習ったばっかりの者がそんな魔法を打てるはずがないじゃないですか。急な天候の変化ですよ」
徹は苦し紛れに答えた。
副長は複雑なな顔をした。
「ん~。そうなのか。確かに、ただのサンダーが、参謀のライトニングに匹敵する火力なわけがないか。今一つ納得いかんがそのように解釈をしておこう」
「(副隊長の経験が裏目に出てよかったなぁ。気を付けようっと)」
「まぁいい。隊に被害が出なくて良かったとしよう!トールよ疑って悪かったな。あまりの凶悪な魔法、いや天候に驚いたのだ。気にしないでくれ」
「いいえこちらこそ、いろいろありがとうございます「ありがとうございます」これから修練に励みたいと思います」
「そうか!お前たちの成長を楽しみにしているぞ!」
そう言うと、副長は、帰っていった。
帰ったのを確認したセシリアが周りに聞こえないぐらいの大きさの声でこう言った。
「トール様、あれ、トール様の魔法ですよね、私はわかるんです!さすがはトール様です。私は鼻が高いです」
セシリアは、はじけんばかりの笑顔で徹に話しかけてきた。あまりの可愛さに徹は、我を忘れ抱きしめたい気持ちになったが、「(俺はロリコンじゃない)」と自分を戒め、大人の受け答えをした。
「おう。これから、バンバン魔法を使うぞ!そうだ、セシリアにも教えてから」
「それはありがとうございます!」
そういっていると、兵士が、「出発するぞ!所定の位置に戻れ!」と声を上げたので、徹とセシリアは荷台へ向かった。