やるべきこと
セシリアは、物見櫓の上に座って、森を見ていた。
おそらく、見張りを買って出たのだろう。しかし、もう直ぐ、交代の見張りのものが来る時間だ。
当たりは、もう夕焼け空になっており、日が落ちそうになっていた。
徹は、思っていたことがあった。セシリアを救うため、自分が帝都へ急いで行き、その息子を殺害したらいいのではないかと。しかし、日本から来た徹はそれはできないと思いながらも、必要な時はその手段を使わなければならないと思った。
トールは、ジャンプし、物見櫓の上にサッと降り立った。
「泣いているのか?」
「いらっしゃったんですね」
「奴隷の件の話を聞いた。怖いよな」
徹がそう言うと
「いいえ、違うんです。奥様がお亡くなりになられたことが悲しくて。私もおどろきです。」
「いい人だったのか?」
「ここに来た頃は少しちがいました。いい人だったかと言われれば、難しいのですが、基本、奴隷はどこも扱いは厳しいので。ここに来た頃の奥様は、たまに、憎まれ口で表現しながらも私を心配してくれることがあったんです」
「そうだったのか」
「元村長、いえ、旦那様なんですけど、旦那様が亡くなられてから、奥様は人が変わられました。私もですが、奥様も一生懸命だったんだと思います」
「そうだったのか」
「はい」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
2人の沈黙が続く。
徹は何を話していいかわからなかったが、本来、ここに来た理由は、セシリアの今後のこと話すためだ。
「セシリア、さっきも言ったが、奴隷の話をテウさんから聞いた」
「・・・・・・・」
「僕は、セシリアを帝都へ連れていき助けたいと思っている」
「・・・・・・・」
「セシリアを救いたいと思っている」
「・・・・・・・」
「セシリアは生きたいか?」
「・・・・・・・」
「どう思ってる?」
「・・・・・・・私は、もう一度仲間に会いたいです」
「エルフにか?」
「以前、一緒だった仲間は殺されたか、さらわれたのかは分かりません。しかし、その仲間に会いたいと思います」
「そうかじゃ、そのためには生きないといけないな」
「はい」
先ほどまで遠くを見ていたセシリアが徹の方へ向いた。
目にはたくさんの涙が流れている。徹は、いけないと思いながらも、そのブルーの瞳の泣き顔を美しいと思ってしまった。
しかし、我に戻り、また、助けなければと再確認した。
「明日、朝一で旅立つ。セシリアも準備をしておいてくれ」
「わかりました」
徹は、そう言い残すと、再び、テウ宅へ戻った。
「テウさん」
「はいトール様なんでしょう?」
「僕らは、明日この村を立ちます」
「そんなにお早くですか!!」
「申し訳ございません。先ほど、セシリアと話してきたのですが、少しでも早く出たいので。いろいろお気遣いいただいたのに申し訳ございません」
「そんなとんでもございません!」
「いや、テウさんにはいろいろお世話になりました。こんないい刀まで頂いちゃって。正直、すごくうれしいです」
「そうですか。トール様に喜んでいただいて幸いです。」
「大切にします。」
トールはそっと刀に目を落とした。笑みがこぼれる。
テウはトールの表情に気づきトールに話しかけた。
「私には武道の心得がないため、わからないのですが、その刀?と申しましたか、その刀がすごく喜んでいるように見えます」
テウ微笑む。
「そうだったらうれしいです。ははは」
「ははは、では今日は中でお休みください」
「ありがとうございます。お休みさせていただきます」
そうして、そのあと、少しして徹は床に就いた。