アドルフとの対面
やっぱり、ストーリーはテンポよく描いた方がいいのでしょうか。
今日から仕事頑張ります。
セシリアは、同族の話を聞いた瞬間、エルフの発言をした男に駆け寄った。
「すみません!そのハイエルフのことをもっと詳しく聞かせてください!」
セシリアは必死だ。
仲間が生きている事への渇望、また、仲間の詳細、それがわかるかもしれない。
詰め寄られた男ははじめはムッとしたが、セシリアの回復魔法を受けた身のため、質問に答えてくれた。
「俺も詳しくは知らねぇ、風の噂で聞いただけだ、最近、アドルフのところへ買われた奴隷がハイエルフで、それで商売をしているということだけだ」
セシリアが住民たちに情報を聞いて回っていると次のことがわかった。
・最近、アドルフの奴隷になったこと
・アドルフはハイエルフの血を販売して莫大な金儲けをしていること
・町の端にあるアドルフの館に監禁されていること
・性別などは不明であること
住民たちから情報を得たセシリアは徹のそばへ駆け寄ってきた。
「トール様!一生のお願いです。そのハイエルフの救う為にお力を貸していただけませんか!?」
先ほど、住人たちに状況を聞いていたセシリアが徹のそばに来て必死にお願いをしてきた。
「セシリア、再度言うぞ、お前にかけられている奴隷契約はどのようなものかよくわかっていない、その為、俺は、お前のために一刻も早く帝都に行きたいと思っている、お前の気持ちも尊重したいが、ここは引いてくれないか、お前を送り届けた後、俺が責任もって、そのハイエルフを助けよう、それではダメか?」
徹は、セシリアに諭すように言った。
徹がセシリアのことを大切に思い、セシリアのことだけを考えて行動しようとしている思いが伝わるように。
そして、その想いは確実にセシリアに伝わっている。
それは、セシリアの表情を見ればわかる。
徹の言葉に従わない自分、徹の思いに気づいていながら、それに答えようとしない勝手な考え方、それらが罪悪感となってセシリアの表情に出ている。
しかし、捉えられている同族は奴隷という立場、いつ何時、命を落としてもおかしくはない。
この世界で、奴隷という立場は過酷だ。
それは、セシリア自身が一番わかっている。
自分は、たまたま、ましな方だった。
村では衣食住が保証され何とか生活が出来ていた。
最終的には、徹というヒーローに会えた。
自分は幸せだ。
それに比べ、ハイエルフは、奴隷にされ、今も血を抜かれている。
それは、どのような残酷な状況なのか、想像にもしがたい。
エルフやドワーフ、獣人は人間と違い、同族や仲間に対する同族意識が強い。
その意識がセシリアをここに引き留めているのだ。
徹は、再度セシリアに声をかけた。今度は、先ほどまでのやさしさではなく、怒りを込めて低い声で話した。
「セシリア、いい加減に考えを改めろ」
セシリアは、徹の目を見た。
2人の視線は合う。
セシリアは、今にも泣きそうだ。
徹も心苦しい。
二人の思いが交差する。
その時、セシリアが腰にさしてある牙短剣を抜いた。
徹がセシリアのために作ったあの牙短剣だ。
周辺にいた住民たちがその異常な行動に気づいた。
住民たちがざわつく。
セシリアはその牙短剣を自分ののど元に近づけた。
剣先から血が滴る。
喉先に少し触れているだけだ。
少し触れただけでそれだけの切れ味がある、この状態は非常に危険だ。
セシリアは徹から目を離さない。
「トール様、今までありがとうございます、私は、トール様と旅が出来てとても楽しかったです。トール様と過ごしたこの数週間は、すべてが新鮮で、すべてが嘘のように幸せでした、、、トール様のお陰で、帝都に行き、私も生きてみたいという気持ちも出てきました、すべてトール様のお陰です」
セシリアの瞳には、涙が溢れる。
徹はふと、今までを思い返す。
何度のこのような場面を見たのだろう。
徹はセシリアの涙を見るのがつらい。
日本に居た徹は知っている。涙には悲しい涙以外にもあることを。
果たして、この子は人生の中で、どれほど、悲しみの涙以外の涙を流したのだろう。
その危機迫る状況に、周りの住人達も徹たちを見入っている。
「私は、トール様へご恩をお返ししたいと思っております、しかし、ここで同族を見捨てることはできません、もし、トール様が私を無理にでも帝都へ連れて行こうというのであれば、私はここで自害します、しかし、もし、ここでお見捨て頂けれるのであれば、仲間を助けた後、帝都へ行き、生き残り、奴隷のお役目を果たした後、トール様を必ず見つけ出し、ご恩返しをさせて頂きます、いつになるかわかりませんが、、、必ず」
セシリアの思いは、強く伝わってくる。
同族意識は人間にもある。しかし、他の種族よりも低い。
人は自分にないものを見たときそれが美しく、貴く見えたりするものである。
住民たちも、助けてやってはどうかという雰囲気が流れてくる。
しかし、アドルフは、権力と武力を兼ね備えている。
だれも助けてやれとは言わない。
「わかった、セシリア、そのハイエルフを助け出そう」
徹は、セシリアに根負けしてハイエルフを救うことを承諾した。
セシリアの顔がみるみる喜びの表情に変わっていく。
「俺の全力を尽くす、それで救えなかったときはそれでもいいな?」
「トール様、ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」
セシリアの万遍な笑顔がとても可愛らしい。
周りもセシリアの笑顔を見て安心したようだ。
部屋の中の雰囲気も良くなってきている。
その時、部屋の奥の方から声が聞こえた。
先ほど、アドルフのところへ殴り込もうとする男たちを諫めていた男である。
名前はゼニゴと言い、アドルフ同様、この町の商人をしていた。
しかし、あるとき盗賊の襲撃に合い、命からがら逃げだした。
その後は、盗賊の襲撃による損失やアドルフの圧力もあり、事業縮小の一途をたどっていた。
そして、アドルフの傍若無人な行いに異を唱える人物でもある。
「そこの兄ちゃん、今、ハイエルフのことを助けるといったが、何か方法はあるのか、約束するのはいいが、アドルフからハイエルフを奪うのは難しいぞ」
ゼニゴの言うとおりである。
確かに、徹とセシリアのことを知らない住民からしてみれば、若い二人で何ができるだろうか。
そう思うのも当然である。
「一様、腕にも覚えがあるし、金にも余裕がある、とりあえず、アドルフのところに行ってこようと思っている」
徹がゼニゴに答えると周りがざわついた。
「確かに、あいつ、そう言えば疾風の剣と一緒にいたやつじゃないか?」
「そうなのか」
次第にざわつきは大きくなる。
やはり、疾風の剣の知名度はそこそこ高いようだ。
因みに、ハイエルフの救出については、徹にも算段はある。
今、手元には、大量の金がある。
以前、ギルドでオーガジェネラルの素材を売って手にした金だ。
大金貨が100枚弱。
日本円に換算したら、1億弱になる。
これで片を付けたい。
「兄ちゃんも知っていると思うが、力ずくで奴隷を奪ってきたとしても契約がある限り、主人から離れれば奴隷はいつか死ぬぞ、それはわかっているよな、まぁ、買い取るしかないというところか、そんなに大量に金を持っているようには見えんが、まぁ、困ったときは話ぐらいは聞いてやろう」
ゼニゴは、思ったより、いい奴だった。
「あぁ、わかっている、少し、俺たちは失礼させていただく」
「皆さん、申し訳ございません、お騒がせしました」
そう言うと、徹とセシリアは、その場を後にした。
住人たちは、再び、アドルフ達の問題をどうするかの話し合いを始めた。
徹とセシリアは、町の外れにアドルフ邸に向かっていた。
直接、アドルフと交渉し、ハイエルフを譲り受けるためだ。
「トール様、ここがアドルフの邸宅の様です」
徹とセシリアはアドルフの邸宅の玄関に着いた。
アドルフの邸宅は、白を基調とした建物で、三階建ての建物だ。
敷地は広く、家の周りには柵が張り巡らされている。
しっかりとした作りだ。
入り口には門番がおり、門番もがっしりとした体つきで精強に見える。
徹が、門番へ話しかけた。
「冒険者の徹という。用がアドルフさんにあり合いたいのだが確認してもらえぬか」
門番は、徹を少し上から見下ろしながら言った。
「どこの馬の骨かわからんやからにアドルフさんを合わせれん!痛い目に合う前に帰れ!」
門番はそう簡単には通してくれなさそうだ。
徹は、どうしたものかと思ったが、インベントリからあるものを取り出した。
剣である。
「貴様!!なんのつもりだ!!」
剣:短剣+3(★★)
希少級短剣。丈夫で質のいい短剣。徹によって作られた一振り。
徹は、インベントリから二振りの短剣を出した。
ここまで来るまでに徹が作った剣で、練習のために作ったものだ。
その中でも見た目がいい。
この世界では、徹が作った練習台レベルが評価されるため、残しておいたのだ。
すると、徹は、その二振り門番に渡した。
「これをアドルフさんへ渡してもらいたい、すまんが、これは駄賃だ」
徹は、そう言って銀貨三枚を門番へ渡した。
「ふふ、わかった、聞いてこよう」
門番を機嫌をよくしたのか、はたまた、短剣がいいものであり商売になりえると思ったのか、近くにいた部下に門番を変わらせ、館内に入っていった。
待つこと15分。門番は館から出てこない。
「トール様、まだですかね、あの門番さん遅いですね」
「そうだな、もうしばらく待とう」
徹とセシリアがそう話していると、中から初老の男が出てきた。
品のいい服装と佇まいをしており、恐らく、アドルフ邸の執事だ。
「トール様、大変お待たせしまして申し訳ございません、アドルフ様がトール様にお会いしたいとのこと、どうぞ、中へお入りください」
執事は、徹たちに丁寧にあいさつをしアドルフの邸宅の中へ案内をした。
アドルフの邸宅内はかなり広い。
ところどころ、強そうな男たちが見張りをしていた。
その中を通り抜け、徹とセシリアは応接室に通された。
2人は驚いた。
応接室の煌びやかさに。
部屋が黄金に輝いている。
加えて調度品も素晴らしく、贅が尽くされている。
貴族の屋敷の様だ。
壁にかかっている絵はアドルフの自画像なのだろうか。
「トール様、こちらのソファーに座り、お待ちくださいませ」
執事は徹へ座るよう丁寧に促した。
「わかった、ありがとう」
徹は、ソファーに座った。
そして、セシリアはソファーに座らず、ソファーの後ろで立っている。
待つこと5分。
応接室へ男が2人入ってきた。
「待たせたな、そなたが冒険者のトールだな」
最初に応接室に入ってきたのは、初老の男だ。
髪は白髪、体格は少し大きめので恰幅もいい。
目付きは鋭く、声も低い。
隙を見せられないような感じがする。
洋服は、ジュストコート、ジレ、キュロットで中世ヨーロッパにでてくる貴族のような着こなしをしている。
この男がこの地域を牛耳っている豪商であり、ハイエルフを奴隷としている男だ。
男はゆっくりと徹の正面のソファーに座った。
「私がアドルフだ」
一瞬、徹はアドルフの後ろに目をやる。
もう一人の男が部屋の奥の壁に背から寄りかかった。
そちらの男は、全身黒装束で、顔は目が細く狐顔で印象に残る顔だ。
そして、右手には短槍を持っている。
この男、見るだけでわかる。
相当の腕前だ。
気が抜けない。
徹は、後ろの男を警戒しながらもアドルフへ言葉を返した。
「ああ、忙しいところ急にすまない、少し話があってきた」
徹の話す言葉にアドルフの表情が険しくなった。
アドルフは徹の話し方が気にくわなかったようだ。
「おい!冒険者風情が口のきき方には気を付けろ!」
アドルフが激怒した。
「すまないが、これ以外の話し方は知らない」
日本から来た徹は本来、敬語を知っている。
しかし、ここは商談の席。
徹も引けないと思った。
セシリアは徹の後ろで立って見守っている。
二人の間で続く沈黙。
「まあいい、不遜な物言いは気に入らんが、お主からは覇気を感じる。そんなやつは嫌いではない。黙っていても時間がもったいないから、商談の話をするとしよう」
先に話を切り出したのはアドルフであった。
アドルフがそう言うと、先程、応接室まで案内をしてくれた執事が短剣をもってきた。貴重品を扱うかのように。
先ほど、徹が門番に渡した二振りの短剣だ。
そして、アドルフと徹の前にあるテーブルに静かにおいた。
二振りの剣は、紅色のテーブルクロスの色と相まって、名剣の風格を漂わせている。
すると、アドルフは目の前に置いてある短剣の一振りを手に取り剣を眺めながら徹に話した。
「こちらで鑑定さえてもらった、希少級短剣だな、質もいい」
「ほう、鑑定が使えるものがいるのか、そこまで褒めてもらえて、俺もうれしい」
作り手の徹としても正直うれしい。
そして、アドルフは、手にもった剣をゆっくりとテーブルに置いた。
「トールよ、お前はこれを売りに来たのだろ?二振りで大金貨10枚払おう、それでどうだ?合わせて、この剣を作った職人とも会いたい、その情報に大金貨3枚を払おう」
アドルフは剣二振りを大金貨10枚で買い取るといってきた。
日本円に換算したら、1000万円である。また、職人に会うだけで300万もはらうとのこと。
徹は内心、自分の練習台で作ったものにそれだけの価値があるのかと少し、ソワソワしたが、表情には出さずに話を進めた。
「その剣は、俺が作ったものだ、正直、価値のわかるものに見てもらいたいと思っていたところだった」
アドルフは剣を作ったのが徹として少し驚いた。
「ほう、お前が作ったのか、腕がいい、お前のような匠は帝都でもそうそうみない、これはいい買い物をしたな」
アドルフも満足そうだ。
アドルフは再度、剣を手に持ち眺め始めた。
徹は剣を眺めるアドルフに話しかけた。
「見ている最中申し訳ないが、今日は、剣を売りに来たんではない、実は、買い取りたい商品があるので来たんだ」
すると、先ほどまで剣を眺めていたアドルフがテーブルへゆっくりと剣を置き、トールに話しかけた。
「剣の売却ではなく、買取だと?それならなぜ、この剣を門番に預けた?そして、何を買いたい?」
アドルフの眉間に皺が寄る。
徹を見つめている。
アドルフは徹から目を離さない。
「剣は、会うために渡したまで、こうでもしない限り会おうとはしなかっただろう?」
徹は、ソファーの背にゆっくりともたれ掛かった。
「確かに、この剣を見たから、お前と合うつもりになった、その考えは悪くなかったな、しかし、俺にとっては非常に不愉快だ、この後のお前の話次第ではお前は生きて帰れないかもしれないぞ」
アドルフは少し体を乗り出し、さらに低い声で徹に話した。
これは脅しではない。
アドルフは本気だ。
「私の後ろに控えるのは、ただの護衛ではないぞ、元、金級冒険者の奴だ、それなりに名が通っている、冒険者のお前ならわかるだろう、常闇のリューフォンの名を」
常闇のリューフォン。
裏の社会では、この常闇のリューフォンの名は有名だ。
リューフォンは、もともと冒険者をしていて、金級冒険者であった、しかし、とある理由で、裏家業に手を出し、一時は闇ギルドで活動していた。
その時についた異名が常闇のリューフォンだ。
主に、暗殺を得意としていた。
そして、今はアドルフの元へ身を寄せている。
「まあ、落ち着け、悪い話ではない」
徹は、小さなバックから複数の袋を取り出し、机に置いて行った。
アドルフが中を覗くと、そこには、大金貨が入ってある。
「ほう、マジックバックか?それに、そっちは大金貨か?ただの冒険者風情でなかなか持っているではないか」
アドルフは少し驚きながらも、皮肉を込めて徹に話した。
「恐らく、全部で、100枚弱ある、それとその短剣もつけよう」
徹も負けじとアドルフを見つめ返す。
「何が望みだ?」
アドルフがさらに身を乗り出して聞いた。
その眼は見開かれている。
一般人が見たら恐怖するような形相だ。
徹も少し身を乗り出し、アドルフのその言葉に静かに答えた。
「お前が持っている、奴隷のハイエルフを買い取りたい、金に糸目は付けない」
アドルフは、徹の言葉に驚き、目が点になった。
思ってもいない回答だったのだろう。
アドルフは一瞬驚いたが、大声で笑いながら再度ソファーにもたれ掛かった。
「は、は、は、は、は!ハイエルフを買いたい!!?お前がか??」
アドルフにとっては徹の依頼は冗談の様なのだろう。
「あれは、金の成る木だぞ、いくら金を積まれても売る気にならんよ!」
アドルフはハイエルフを売らない旨を徹に言った。
人間から見たら、ハイエルフは生命の神秘である。
遅老長寿。
人間をはるかに超える寿命と老いない姿。
人間は、その遅老長寿に憧れ、そして嫉妬した。
そのような人間たちは、争って、ハイエルフの血を求めた。
ハイエルフの血に遅老長寿の秘訣があると。
それは、巷では迷信と言われている。
ただ、時々、ハイエルフの血を飲んだことで命を長らえたなどの話が聞こえてくるのことも少なからずある。
それを聞き、信じる者たちがいる。
・病気などにかかり、命を長らえることを望むもの
・永遠の美貌を望むもの
・遅老長寿を望むもの
特に、不死の病にかかったものの生への執着は他の比ではない。
アドルフが行うハイエルフの血の販売はそのようなものたちの心の隙間を狙ったものであった。
「あれば、いくらでも金になるんだよ!次から次へと求める者が出てくる、それも我さきにと、あいつらは金はいくらでも積んでくるからな、お前のそんなはした金では売れん!話は終わりだ!帰れ!」
アドルフは、立ち上がり、部屋を出ようとした。
徹が、”待て”と言ったが、聞く気がない。
そのまま、ドアへ進んでいく。
すると、後ろからセシリアが飛び出しアドルフに駆け寄ろうとした。
再度、アドルフに席についてもらい商談を再開するためだ。
徹が、”待て”というのだ、何か商機はあるはず。
そう思い、セシリアの体が動いた。
その時、先ほどまで壁にもたれかかっていたリューフォンが一瞬のうちに移動し、持っていた短槍でセシリアを刺そうとした。
セシリアはその動きに気づいたが、あまりの速さに動けない。
セシリアは、ぐっと瞳を閉じ、体を縮めた。
このままではセシリアは、短槍にくし刺しにされ命はないだろう。
セシリアも死を覚悟した。
カキーン!
甲高い音が部屋の中で響き渡る。
かなり大きい音だ。
セシリアは、恐る恐る瞳を開けた。
するとそこには、徹の刀が短槍を止めていた。
「貴様、ただものではないな」
リューフォンは徹に話しかけた。
一瞬の攻防。
徹とリューフォン以外にその攻防を見れたものはいない。
徹が、刀でリューフォンの槍を止めセシリアを守ったのだ。
正直、奴隷であるセシリアがアドルフに危害を加えようとしたら殺されてもしょうがない。
リューフォンの行動は悪ではなく、正当防衛もしくは、多少の過剰防衛としてとらえられる。
もし、セシリアが悪くなくとも、アドルフが少々の賠償をすればいいだけなのだ。
この国では奴隷とはその程度の取り扱いが普通なのだ。
リューフォンは短槍を引かず、さらに力を加えセシリアを刺し殺そうとしている。
すると、先ほどリューフォンの槍を止めた徹が、少しずつ顔を上げていく。
徹がリューフォンを見る。
リューフォンを見る徹の表情は、まるで般若のごとく怒った表情をしている。
「お前、死にたいのか?」
徹は、怒りの形相でリューフォンに言った。
その声は、抑えきれぬ怒りが伝わる。
リューフォンはすっと槍を引いて、アドルフの少し前へ瞬時に移動した。
するとアドルフがセシリアに叫んだ。
「奴隷ごときが!!」
アドルフが近くにあった、小さな置物をセシリアに投げつけた。
徹は直ぐにそれを刀で切り伏せる。
徹は怒り浸透している。
そんな状況でもセシリアはアドルフに声をかける。
必死に。
「お願いします!我が同族をお救い下さい!お願いします!同族に成り代わり私が何でもします!血が必要であれば私の血を使ってください!お金が必要というのならば、私が一生働いておかえします、私もエルフです、人間よりも長く生き、長く働けます、ですからお願いします!!」
セシリアは必死にアドルフへお願いをする。
徹は、今にでも駆け寄ろうとするセシリアを力づくで止めている。
「一目だけでも!」
それほどにセシリアの思いは強い。
「ふざけるな!私は忙しい!帰れ!」
アドルフはそう言うと、応接室を退室していった。
そしてリューフォンもアドルフに続き応接室を退出していく。
その際、徹を見て、薄ら笑みを浮かべ部屋を退出していった。
応接室には二人だけが取り残された。
「今日は、お時間を頂きありがとうございました、アドルフ様に代わりお礼を申し上げます」
徹とセシリアは今、アドルフ邸の門の前に来ている。
そして、執事は徹に対し、丁寧にお辞儀をした。
「こちらこそ申し訳ない」
徹も執事に対し腹を立てるのは筋違いかと思い執事に謝罪した。
「もし、武器の売却がご希望でしたらまたお越しください」
執事はそう言うと再度ゆっくりと頭を下げた。
徹も執事の礼に返すように礼をした。
徹とセシリアはアドルフ邸を出て宿屋に帰っている。
セシリアは静かだが、ぐっと自分の感情を押し殺している。
今にでも泣いてしまいそうだ。
「トール様、、、先ほどは、、、、申し訳ございませんでした」
セシリアは小さな声で震えながら徹に謝罪をした。
徹は黙っている。
徹はセシリアの少し前を歩いている。
2人の会話に沈黙が続く。
「トール様、、、私が、、、あのようなことをしてしまったばかりに、、、徹様の邪魔をして、、、、」
セシリアがそう言うと、徹はセシリアに振り向いた。
セシリアはハッとした。
なぜならば、徹の表情があの時見た般若ような形相だったからだ。
「トール様、申し訳ございません」
セシリアは深くお辞儀し、再度、徹の目を見た。
徹の表情は先ほどと変わっていない。
怒りの形相だ。
しかし、先ほどの戦闘の時と違うものがある。
それは徹の瞳から流れ出るもの。
涙だ。
徹は怒りながら悲しんでいるのだ。
セシリアもこらえ切れず涙が溢れだした。
「トール様、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
セシリアは何度も徹に謝った。
同族を助けられなかったこと、徹を怒らせ、そして悲しませてしまったこと、自分には何もできないこと、すべての思いがぐちゃぐちゃになって込み上げてくる。
抑えきれない。
セシリアは嗚咽が止まらない。
幼い子供の様に泣いている自分が情けない、セシリアはそう思いながらも泣くことを止められない。
そして、徹も涙が止まらない。
人一人助けられない自分。
愛する者の願いをかなえられない自分。
周りからのセシリアに対する冷酷な対応。
今すぐに暴れて、そのハイエルフを救出できればどれだけ簡単だろう。
悪党、魔王、なんとでも言われてもいい。
目の前のこの子の願いをかなえてあげたい。
しかし、奴隷契約が邪魔をする。
何かできそうで、実は何もできていない自分に腹が立つ。
そして、愛おしい目の前の子が、自分の命を投げうって他者を救おうとしている現実。
奴隷が存在する世界への嫌悪感、怒り。
徹の中でも複数の感情が入り乱れている。
そして涙と変わる。
しかし、このまま止まっていても仕方がない。
どうすべきだろうか。
まず、会おう。
そのハイエルフに。
何かつかめるかもしれない。
相手だって同族だから。
セシリアのことを大切に想い、何かしらセシリアがあきらめてくれる言葉をかけてくれるのではないか。
徹はそう思った。
そして、セシリアに話しかけた。
「セシリア、今夜、ハイエルフに会いに行く、覚悟をしていてくれ」




