住民闘争
小説って難しいです。
面白い小説がかける人はすごいですね。
次の日、セシリアは朝早くから宿屋の掃除をしていた。
昨日、ケイタの母親を治療してからケイタの家族とはすっかり仲が良くなっていた。
因みにケイタの母親がリーザといい、父親はベントニーという。
流石にリーザはまだ寝ているが、前よりは顔色がいい。
しかし、トールは心配して止まない。
罹患している病気が自然治癒力で治るのであろうかと。
「ベントニーさん、このシーツはどこに置いていたらいいですか?」
セシリアが腕にいっぱいにシーツを持っている。
「ありがとよ、そいつは裏口付近に置くところがあるからそこに置いておいてくれ」
わかりました。
セシリアは裏口に向かう。
「お姉ちゃんこっちも手伝って!」
元気よくセシリアを呼ぶケイタの声が聞こえた。
「はーい!今行くー!」
セシリアはせっせと働く。
セシリアはなんでも一生懸命な子だ。
トールは改めて関心していた。
日本に居たとき、徹も割と働く方だった。
徹の働いていた会社はブラック企業だった。
超のつく長時間残業。
労災認定されてもおかしい時間で皆働いていた。
しかし、同僚のみんながいたから働けたのかもしれない。
「(大変だったけど、楽しかったのかもしれないな)」
ふと徹は昔のことを思い出していた。
「トール様!よかったら手伝っていただけませんか??!」
外から徹を呼ぶ声がする。セシリアだ。徹は、声のする方へ向かった。
声は、裏庭からだ。
徹が外に出ると、ケイタとセシリアで倒れている木を移動しようとしている。
「(ちょっとでかいな)」
最近倒れた木だろう。
木にはまだ葉がついており、切り口がまだみずみずしさがあった。
しかし、木の折れ方が不自然だった。
何があったんだろうか。
徹がその木を見ていると後ろから声をかけられた。
「あれは、アッププレの木でな、いつもおいしい実をつけていたんだ」
そう語ったのはベントニー。
今、ついている葉をよく見たところ、林檎の木に近いものを感じる。恐らく、林檎に近しいものがなるのだろうと徹は思った。
「しかし、先日、アドルフの野郎どもが泊まった際、こんなにしていきやがったんだ!木だけじゃない、あいつらは建物や備品を壊したりするんだ、本当にあいつら、ふざけた真似を!」
ベントニーは悔しそうな顔をしている。
ベントニーの話では、アドルフとは、この領内きっての豪商で主事業は問屋を行っている。それに加えて、塩の販売をこの町でやっている。
塩は、人間に必要不可欠であり、それを牛耳っているのがアドルフなのだ。
「しかし、一人の者が塩を独占するなどあってはならないことじゃないか、国の方へ報告すれば何等か対処してくれるのではないか?」
徹は素直に聞いた。
「それがだな・・・」
ベントニーが塩に関することを話してくれた。
もともと帝国では一地域での塩の独占販売は許可していない。
不当な値段のつり上げが起こる可能性があるからだ。
その為、原則、一地域における塩の販売者を複数の事業主にさせ、また、塩の販売金額は国で定めた金額以下で売らせるように法で定めている。しかし、この制度には、盲点があり、販売者が誰に売るのかについては、定めがない。市場競争を目論んだからであろう。
しかし、ガラハット領では状況が変わっている。まず、販売者がアドルフしかいない。これは、他の販売者がことごとく盗賊の襲撃に合い、ガラハット領へ塩を持ってこれるのがアドルフだけだからだ。この場合は、法の例外が適用され、緊急的対応としてアドルフの独占状態が合法的に続いている。アドルフにとって塩の販売には直接的なうま味はないが、他の取引の時に大きな影響を及ぼす。アドルフの本業は問屋で幅広く商品を仕入れているが、商品の購入の際、塩の販売の出し渋りを盾に、生産者から不当に安く買いたたいているのだという。ベントニーにとっても、商団の宿泊は生命線であり、また、自分たちが生きていくための塩も必要で、その二つ生命線をアドルフに握られているのだ。
徹とセシリアはそれを聞いていた。
「法で裁けない状況ってことなんですね」
「嬢ちゃんの言う通りだよ、まぁいいや、こんな話はさぁ、あの木をちょっと端にどかして、今年の薪でもつくるつもりさ」
ケイタとセシリアとベントニーは木に手を置き、運ぼうとし始めた。
「せーのー」
木は大きくびくともしない。
相当重いのだろう。
徹は自分が入ってやれば簡単に終わると思ったが、あることを思い出した。
クリエイトゴーレム。
徹はゴーレムに動かしてもらおうと思った。
「すまない!試したいことがあるんだ、3人とも少し、建物の端に寄ってもらえるか、ゴーレムを召喚する」
徹が3人に対して話した。
「ゴーレム?ゴーレムってあの土とかでできたゴーレムか?」
ベントニーは少し不安そうだ。
「あぁー、そうだ、ちょっと試したい、ベントニーさんケイタとセシリアを一緒に頼む」
徹の呼びかけに3人は、建物の陰に移動した。
安全を確認してから、トールはゴーレムを召喚することにした。
左手には先ほどインベントリから取り出した魔導書がある。
トールは魔導書を見ながら召喚の手順通りに儀式を行っていき、最後に強力な魔力を込めた。ただし、イメージは周りの迷惑にならないよう控えめの大きさにしている。
「いでよ!ゴーレム!」
ピコーン
徹はゴーレムクリエイト(中)を覚えた。
すると、眩い光が発生し、約2.5メートルぐらいの人型ゴーレムが出来上がった。
風貌はプルプレートを装備している騎士の様だ。
堂々とした佇まい、古の猛将を彷彿とさせる姿だ。
徹も思った通りにできたのだろう。
大分満足している。
徹は鑑定してみることにした。
【 名 前 】 -----
【 種 族 】 ゴーレム
【 H P 】 50000/50000
【 M P 】 0/0
【 魔 攻 】 0
【 物 攻 】 8000
【 魔 防 】 8000
【 物 防 】 9000
【 SPD 】 1000
【 スキル 】 なし
「(えっ!?強くね?、確かになかなか魔力持っていかれた気はするが。。。)」
出現したゴーレムの騎士を見て、先ほどまで建物の陰に隠れていた3人が徹の元へ駆け寄ってきた。
「こりゃすげーなぁ、兄ちゃん、魔導士様だったんかい」
「お兄ちゃんすげー!すげー!」
親子ともキラキラした目で徹を見ている。
「トール様、やっぱりトール様はすごいです、とりあえず、そのゴーレムであの木をささーっと移動させちゃってください」
「そうだな」
徹は、ゴーレムに木を動かすように命じた。
ゴーレムは木に寄っていき、木をつかむと片手で軽く持ち上げ指示した場所に置いた。
「「「おーーー!」」」
3人とも感動している。
徹も満更じゃないようだ。
「(今度は戦闘もさせてみないとな)」
徹は、そう思うと再度、魔導書を開きゴーレムを解体した。
「すごかったな、俺も魔力があったら召喚するのによ!」
「すごいな、お兄ちゃんは!僕もゴーレム召喚できるようになりたい!」
親子の興奮は全然冷めていないようだ。
その興奮は冷めやらぬまま徹たちは宿屋に戻った。
宿屋に戻ってからは、セシリアがそっと徹のところに近寄ってきてささやいた。
「トール様、ありがとうございます、かっこよかったですよ」
それから一時して、徹たちは食事をしていた。
素材は、徹のインベントリに大量に収納されている食材を使った。
この世界の食材において、基本的にはランクが高ければ高いほど高級食材として取り扱われ、そして美味である。その為、高ランクモンスターについては、モンスターを討伐したことを証する討伐部位以外にも肉などを持って帰り売却することも多い。
その中でも、災害級モンスターと言われる、ドラゴンに至っては、最上級のものとされ、貴族はもちろん、王族に至っても食べれる機会は非常に少ない。
そして、本日、みんなの食卓に並んでいるの準災害級モンスター、ワイルドタイガーの肉だ。
ケイタの両親には、その肉がワイルドタイガーのものだということは言っていない。徹が旅の途中に狩ったモンスターだということだけ言っている。
徹がこの食材を提供したのも、ケイタの母親のリーサの滋養強壮のためだ。
回復魔法で治らない以上、自然治癒力で治すしか方法がない。
徹には医学的な知識がないため、その結論に至った。
「こりゃーうまいなー!」
「おいしい!おいしいよお兄ちゃん!」
ベントニーとケイタは、料理の旨さに度肝抜かれていた。
そして、すごい勢いで食べている。
リーサもワイルドタイガーを食べ、非常に喜んでくれた。
セシリアも弾けんばかりの笑顔で食べている。
徹としてもこれだけ喜んでもらって満足そうだ。
こうして徹たちは、至福な時間を過ごした。
「そうしたら、そろそろ俺らもこの町を発つ準備をするか、よかったらこれは先ほどの料理に使用したモンスターの肉なんだが、よかったらリーサさんに食べさせてやってくれ」
そう言って、徹はインベントリから肉を取り出した。
きちっとバックから取り出したように見せている。
「姉ちゃんたち、もう町を出るの?もっとゆっくりしていけばいいのに」
ケイタは徹とセシリアが旅立つことを残念がった。
すると、ベントニーがそっとケイタの頭に手を置きケンタに話しかけた。
「嬢ちゃんたちもいろいろ忙しいんだ、無理を言っちゃいけねぇぞケイタ。そして、兄ちゃんたち、本当に家内をありがとう、病気を治してもらったことは心から感謝している、何か、礼が出来ればいいだが、お前たちが喜びそうなものは何もない、何もないが、もし、この町に寄ることがあれば、またこの宿屋によってくれ、精いっぱいの持て成させてもらうぜ」
「セシリアさん、トールさん、本当にありがとうございました、このご恩は一生忘れません、主人が言う通りいつでもお越しください」
ベントニーもリーサも深々とお辞儀をした。
セシリアを見ると、何か感じるものがあるのだろう、涙が今にも零れ落ちそうな瞳をしている。
人に心から感謝されることの喜びを感じているのだろう。
「いいえ、私にできるようなことがあれば、いつでも言ってください、精いっぱい頑張ります」
セシリアも深々とお辞儀をした。
そのような姿を見た徹は、セシリアを誇らしく感じた。
「それじゃ、荷物をまとめるとするか、しかし、リーサさん、無理だけはしたらだめだよ、一旦、傷は治ったが、その傷が原因で体を毒されることがあったりするから、しっかりと休養して、しっかりと食べるんだ」
「はい、ありがとうございます」
再度、リーサとベントニーは深々と頭を下げた。
その後、徹とセシリアは荷物をまとめるため、2階の部屋へ向かおうとした。
その時、急に宿屋のドアが開いた。
一人の男が、勢いよく宿屋に入るとすぐにベントニーに駆け寄った。
「ベントニー!アドルフのとこのもんが、ルージュの店で暴れている、すぐに来てくれないか!!」
男は息も切れ切れである。
「あいつら!また、やっているのか!くそ―!」
ベントニーは激高した。
すると、ドア付近に立てかけていた、マニアフォークをもち、先ほどの男と外へ飛び出していった。
余りの勢いだったのでセシリアはリーサの問いかけた。
「リーサさん、ベントニーさんはどうされたんですか?あんなに怒って」
リーサは複雑そうな顔をしている。
一瞬、間があったが理由を話し始めた。
「恐らく、アドルフの手下の者がルージュさんの店で暴れているんだと思います」
アドルフには、数十人の手下がおり、時より町の店などに顔を出したりするのだが、その際、粗悪な対応が原因で町の住人たちと衝突することがしばしばあるのだという。しかし、アドルフの手下たちは、素行の悪い連中や元冒険者などが雇われており、力なき町の住人だけで対応するには難しく、また、塩の問題もあり強く出れない状況なのだという。
「トール様、私たちも行きましょう!」
セシリアが徹に話しかけた。
しかし、徹は行くべきか正直、悩んでいた。
セシリアはこの家族、この町に事情にのめりこんでいると感じたからだ。
徹の本来の目的はセシリアを救うことであって、この家族や町の安全は最優先すべき問題ではない。それはリーサの病気も含まれる。徹自身、後ろめたく感じているのだが、自分たちはあくまで部外者だ。それに、ここで徹が戦闘を行い、アドルフを倒したとしても、塩の問題が残る。今後、誰がそれを運んでくるのか。また、アドルフが住民に対し復讐してきたとき、一体誰が住民を守るのか。そして、何より、塩の販売や商品の買い叩きに対して、アドルフには違法性はない。どう考えても部が悪いのだ。
煮え切らない徹。
「トール様!私は行ってきます!ここの二人をお願いできますか?」
セシリアは真剣な眼差しで徹の目を見ている。
止めたところで、止めないであろう。
徹はそう思った。
「わかった、俺も行く、二人は念のため二階に隠れていてくれ」
徹はそう言い残し、セシリアと一緒にベントニーの後を追った。
徹が駆けつけてみると、既にベントニーたちは戦闘した後で、既に住人たちは叩きのめされていた。
慌ててセシリアがベントニーの元へ駆け寄った。
「ベントニーさん!大丈夫ですか!?」
すぐさま、セシリアは、ベントニーに駆け寄り回復魔法をかけ始めた。
「嬢ちゃん、すまねぇ」
ベントニーの声が弱弱しい。
手痛くやられている。
他の住民もそうだ。
セシリアは一人ひとり治療をしていった。
一通りセシリアの治療が終わった後、町の住民たちはルージュの店にいた。ルージュは酒場の亭主であり、今回の問題のきっかけを作った男だ。酒場の中は、アドルフの手下が暴れたのだろう、机や椅子は壊れている。
「くそー!奴らの行いにはもう我慢ならねぇ!」
「あいつらふざけやがって!」
今、酒場には男たちが集まり、意見を交えている。
問題はアドルフの所業だ。
「不当な買い叩き、町での横暴な態度、もう我慢できん!俺たちでアドルフ宅へ乗り込もうぜ!」
ある男の言葉をかわきりに、男たちは口々に怒りの言葉を上げいきり立っている。
「おい!よせ、勝てると思うのか?どこで誰が効いているかわからねぇ、言葉に気をつけろ!」
店の奥で一人の男がそう声を上げた。
徹とセシリアはみんなの会話を黙って聞いている。
徹たちに口を出す権利はない。
「ベントニー、ちなみに、お前の後ろにいる二人は何だ!?そいつらはここにいて大丈夫なのか!?」
先ほど男たちを諫めた男がベントニーに対し強い口調で質問をした。
「あぁ、こいつらは大丈夫だ、俺のところの客だが、いい奴らだ、それにさっきの魔法もすごかっただろう」
ベントニーはセシリアの回復魔法のことを言っている。
「そうか、わかった、じゃあ、これからどうするよ」
男たちの会話は迷走している。
にっちもさっちもいかない状況の様だ。
おとなしく聞いていた徹たちだが、徹が静かにセシリアに話しかけた。
「セシリア、すまないが、これ以上、この町には滞在できない、このままいると俺たちまで、町の闘争に巻き込まれかねない、この話が終わったら早々に町を出るぞ」
徹は、セシリアの目を見て、しっかりと伝えた。
「トール様、ここまで来ておいて、町の人を見捨てていけません、どうにかなりませんでしょうか?」
セシリアは決してわがままを言う子ではない。
今までもこのようなことを言い出すことはなかった。
今、自分の意思でこの問題に介入しようとしている。
しかし、徹が優先したいのはセシリアであって町の住人ではない。
セシリアとていつどんな問題が起こるかわからない。
なるだけ早く帝都に着き、”死の範囲”の問題を解消したい。
徹は、ここは心を鬼にして、セシリアを引きずってまでもこの町を立つべきだと思った。
そして、改めて徹はセシリアを諭そうとした。
「セシリア何度も言うが、、、」
しかし、その時、ある男がセシリアが最も気にする発言をした。
それは、セシリアはもちろん徹も耳にも聞こえた。
セシリアが最も望んで止まないもの。
「そう言えば、最近、アドルフが荒稼ぎをしているらしい、商品はハイエルフの血だとか、数か月前に奴隷としてハイエルフを買ったそうだが、そのハイエルフの血を売りさばいているんだと」
「それは俺も聞いた、万病に効く薬にも匹敵するらしいぜ、よくそんな迷信を信じるよな」
セシリアは驚き、そして右手で頭を抱えたかと思うと倒れこんだ。
徹は急いでセシリアを支えた。
セシリアには衝撃だったのだろう。
初めにセシリアを盗賊から救ったとき、物見櫓の上で生きる目的を聞いた。
それは、仲間に会うこと。
恐らく、セシリアはこの仲間を救う為なら危険を顧みない。
また、救い出さないことにはここを発つことはかなわないであろう。
これは、引くに引けない状況になった。
徹は腹をくくった。




